表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/97

第四十七話、さあ、驚こうとしますか?(1)

 トンネルをぬけたら雪景色。


 そんな情緒あふれる言葉が何処かにあった。


 しかし、今の我が妹の心境は……。


「兄さん……ここ、日本?」

「そうきたか、まあ、驚くのは否定しないがな」


 門から屋敷が見えないような広い庭が、普通街中に存在するとは思えないよな。


 俺はフリーパス状態のため、門の入口に立つと自動で開門される。

 だから柚子はここが天井院の屋敷だと言うことは知らないのだ。

 今言ったら卒倒しかねないな。


「翔さんって……お金持ちだったんだ……」

「あんなにコアな廃人さんなのにな」


 いつも入ってすぐに、迎えの美玲が車で来るのだが、柚子が来るって伝えているので自重しているのだろう。


 歩いているが、これだと何時までたってもつく気がしないわ。

 

「広すぎて困るよな、そろそろ迎えに来てもらうか」

「え? 兄さんにそんな事が出来るの?」


 当たり前。こんな所で時間を食いたくないしな。


 俺は何となく違和感を感じる場所にむけて手を振ってみる。

 一瞬だけ道はずれの茂みが揺れたような気がしたが、こっちがアクションを起こしたんだからすぐに来るだろう。


「あっ!?」

「ん、どうした?」

「兄さんに、お家で美玲さんの写真見せてもらえばよかった!」


 どうせ会うのに今そんな事考えたのか?


「必要か?」

「必要です! 美玲さんもでしょうけど、私だって心構えが必要なんだよ?」


 ふーん。意外に平気なのかと思ったが……違うのか。


「うーん、残念ながら……家にはないぞ?」

「え!? 何で! 何でないの!? 兄さんが甲斐性なしだからですか!?」


 おっと? 今、俺の心が急に崩壊しそうになったぞ?


「いや、ここの屋敷に写真館があるからだが……」

「で、でも、お家で美玲さんの顔が見たくなったりするでしょ?」


 うーん。どうだろ?


 顔が見たくなったら会いに行くし、基本いつもこっちの屋敷にいるし、うーん、でも、これは柚子には言えないしなぁ。


 なんて言ったものか。 


「どう思う?」

「兄さん……何か隠してますね?」

「ギクっ!? い、いや、ソンナコトナイヨ? ワタシ、ショウジキモノダカラ」


 鋭い指摘に思わず身を固くしてしまう。


「……まあいいですけど。でも、兄さんは本当に美玲さんが好きなの?」


 えーここでそんな質問するのか?


 敷地内はどんな小声も、拾われるぞ絶対。


「どう? 本気の質問です」

「うーん。多分……な。よくわからんが、好きなんだろうと思うよ」


 楽しいって思えるしな。こんな中途半端な感じ、美玲には失礼な事この上ないだろうが。


「………………はぁ」

「おい、柚子。何だその返答は? 折角お兄さまが、本気の答えを出したのに」

「いや、本気だなぁ、と思いまして」


 何それ? この子が何を求めて今の質問をしたのか全くわからないんだが?


「いいんですよ、兄さんは気にしないで。後は全て私に任せて下さい」

「ん? 何? どゆこと?」


 意味不明なやりとりをしている俺達。


 会話が尽きるのを待っていたかのように、リムジンが俺達を迎えにやってきていた。

 つか、お前等待ってただろ。














「おー来たか。待ってたぜ、ご馳走用意したんだぜ。柚子ちゃんも楽しんでいってくれよな」

「お早う御座います翔さん。今日は無理を言ってすみません。よろしくお願いします」


 出迎えは翔一人。


 一応美玲は次期当主な訳だから、きちんとして場を設けてるのか?


「おい、翔」


 柚子がやはりでかい屋敷を見回してる間に、小声で翔に問いかける。


「なんだ、義弟よ?」

「吹き飛ばすぞ、貴様。それより美玲はどこだ?」

「桜の間だ。天井院としておめかししてたぞ。お前も見とれちまうぜ、あれは」

「いや、そうじゃなくて……そんな大きくしなくていいんだが……」


 俺の言葉に目を丸めたのは、寧ろ翔だった。


「お前、馬鹿か? 柚子ちゃんが美玲を見定めに来たんだぞ? 義理の家族との初対面で、こっちがそれを損なう訳にはいかんだろ。俺達は天井院だぞ。お前の考えは甘いとしか言えんよ」


 ……流石に言葉がないな。確かに天井院として会うことになるんだから、これが当たり前か。


「ま、気にすんなよ。上手くいくさ。俺は美玲と柚子ちゃん、仲良くなると思うぜ?」

「だといいんだが……」

「後、いい加減、何事もなく隠れてる警備隊にコンタクト取るのやめろよな。何人自信無くしたと思ってるんだ」

「修行が足りないんじゃないのか?」

「無茶言うな。全員一人で集団を制圧できるくらいのスキルをもってるんだぞ。一般人に気づかれて、普通にされる事がどれだけ辛いか」


 それを俺に言われてもな。


 頑張ってくれとしか言えんよ。


 本当にそれを祈るばかりだった。

 

「さ、柚子ちゃん。とりあえず早速良いかい?」

「あ、はい。あまり待たせても悪いですし。翔さん、案内をお願いしてもいいですか?」

「勿論、では、お嬢様、こちらに……って、痛てぇ!?」


 自然な動作を装って、柚子の手に触れようとした不届きものを成敗……は今出来ないので、軽く折檻する。


「柚子にふれるな、馬鹿者が」

「兄さん! ごめんなさい、うちの兄が、いつもいつも」

「いつつ……いいんだよ、柚子ちゃん。もう慣れたから……」


 全く……。


 しっかり案内だけしてくれよ。

 












「ついたよ、ここ、桜の間に美玲はいる。柚子ちゃん、こんな屋敷に来た後だから色々と驚いたと思うけど、ま、そんなに緊張しないで自然体でいてくれると俺達はうれしいな」

「はい、それは大丈夫です。翔さんも美玲さんも兄さんのお知り合いですし……」


 俺基準なんだ?


「じゃあ、開けるぞ。美玲、霞純也、霞柚子の両名の到着だ」


 言いながらその桜の間の扉は開かれた。


「ほぉ……」

「え、うそ……」


 そこはまた別世界だった。


 お城の謁見の間を思わせる広い室内。

 俺達から美玲までの道を取り囲むように並んだメイド達。

 そして、一番奥、中央にある椅子に座っている美玲と、その隣に佇む芽依。


 まったく持って現実感のない光景だった。


「って、王様か!?」

「純也……お前空気読もうぜ」


 無茶言うな。


「純也さん、お帰りなさい! 私、今か今かと「美玲様」……いらっしゃいませ。柚子さんもお初にお目にかかります。まずは自己紹介を。私は天井院が筆頭継承者、天井院美玲です。よしなに」


 柚子の目がどんどん見開かれていく。


「………………へ?」


 固まってしまった。


 あれ? そう言えば当日でいいや、って思って、翔達が天井院だって事黙ってたけど、これってひょっとすると、もしかしてだけど、裏目に出た?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ