第四十五話、リアルだって存在します(3)
「兄さん、それで後はどうすればいい?」
「ん、終わったら、メニューでプレイヤー検索。で、ジェイルを見つけたら連絡よろしく。ま、俺が先に見つけるだろうが」
家で専用のヘルメットを装着する俺達霞兄妹。
少し長めのソファーに隣り合わせで座っている。
起動ランプが点灯してるのを見て、柚子がダイヴしたのを確認すると、俺も同様にオンラインオンラインの世界に降り立つ。
つまり、柚子の相談が何かと言うと……。
「やっぱり名前はユンか。柚子はいつもゲームはその名前だしな。しかし、よくそんなシンプルな名前が残ってたな」
「やっぱり早い物順で無くなっちゃうんだ? 良かった、残ってて」
俺と同じヒューマンの女性。リアルより背が高い。コンプレックスだったんだろうか?
柚子のキャラクターを見てから、周りの一般プレイヤーを見ていく。
見事に美男美女しかいないな。
これもゲームの弊害か。
「どうしたの?」
「いいや、何でもない。まずはステータスの確認だな。ある程度の説明はわかるか?」
「大丈夫、兄さんと会う前に、ネットで少しは見てきたから」
そう、自分もオンラインオンラインの招待状が当たった、と言うことだった。
俺の時は、即座にまだただの廃人ゲーマーだと思ってた翔に売りつけようとしたが、聖人君子を降臨させたような柚子がそんなことするはずもなく……当たったからやりたい。やり方を教えてほしい、が今回の相談事だった。
くぅぅぅ、可愛すぎる、そして良い子過ぎる。
「じゃあ、まずはステータスだな。出し方はわかるか?」
「うん、その辺は大丈夫。名前は……ユンになってる。兄さんの名前も兄さんの上に出てるね、ジェイル……」
「そうだな。初めに見た方がいいのは、ジョブだ。これは今後の行動の指針になる」
スキルはランダムに拾得するとは言え、ジョブにある程度は沿ったものはある。
これもバージョンアップで変更になったのだ。
だから、魔法不遇時代も終わったのだ。ある程度とは言え、ちゃんと覚えるのだから。
今では賢者は雛形ジョブ筆頭まで祭り上げられている。
なんだかんだで魔法はファンタジーの夢だからな。
「ええ、とね。ジョブはカードサマナーにってなってるよ」
「サマナー、か? だがカード? ……よくわからんがなかなかレアなジョブを……」
俺が、魔王戦でドライアードやゴーレムを使って戦った事で、召喚士の存在が公に明るみに出た。
なんせ、宣伝映像で流してた訳だから。
そして、取得条件も確定した。
(アイテムを集めて、一人で特定のボス(召喚獣)と戦い勝つこと)
かなり厳しい条件なのだが、そんなこんなで意外と召喚士/サマナーの姿はあるらしい。
ただ、召喚士は無く、全て名称はサマナーだった。
何故?
で、結構ジョブの内容は賛否両論あるみたいだが。
俺はこの初心者救済用フィールドに引きこもってるから詳しくは知らないが。
しかし、旧ジェイルのメインだった召喚士を、妹である柚子が一発で手に入れるなんて……しかもなんか微妙に違う奴。
偶然って恐ろしいな。
「MPが凄く少ないよ? 魔法系だと思ったんだけど違うのかな?」
「え? そんな馬鹿な……サマナーはMPがもっとも高いジョブだぞ」
どういう事だ? やはり普通のサマナーとは違うのか?
「でもMP2だよ?」
「じゃあ特殊系なんだな。カードサマナーは特殊ってことか」
そうなると、召喚獣の使い方も違うのか?
サマナーと名がついてるが……むう、そこまで既存のものと違うなら、試してみないと流石にわからんか。
「スキルもあるけど?」
「なぬ? そんなはずは……」
「招待特典って初めに言われたけどそれなのかな?」
……そんなのもあるのか。まあ、言ってみれば選ばれた妹な訳だしな。おかしくはない……のか?
「サモニング、だって。幻獣に己を認めてもらうための力、って書いてあるけど、全く意味がわかんないや」
サモニングか。これはないと始まらないし、仕方ないんじゃないか? 特定なのか?
「サモニングはな、敵モンスターにかけるスキルだ。それをかけたモンスターを倒すと、一定確率でモンスターが自分の召喚獣になるんだ……多分ユンの場合はカードになるんだと思う」
「そつまり? まだよくわからない……」
「サマナー系の基本スキルだと思っておけばいいさ。ただ、同時に召還できる幻獣の数は決まっていて、しかもパーティーの数に含まれる。MMORPGはパーティーがメインだ。だから、今の所熟練者は敬遠気味だな」
クエストをクリアできるのは熟練者なのに、熟練者は敬遠するって……殆どソロ志向やネタ系、身内内でしか今は使われてないとか言ってた気がする。
「ふーん? でも、私は兄さんとしかパーティーは組まないから関係ないよね」
「いや、柚子も他のプレイヤーと遊んで楽しんでみなよ」
まあ、そんなの先の話しだが。
「ああ、今すぐ俺とは組めないぞ」
「ええっ!? 何で!?」
俺はレベル差補正について説明する。
「つまり、差が有りすぎてパーティーを組む意味がないんだ」
「なるほど、じゃあ、兄さんは私が同じレベルになるまで待っててくれる?」
マリアとの約束もあるし、それは別に吝かではないな。
「実は他にも、レベル上げを待ってるプレイヤーがいてな。だから、別に問題ない」
「兄さん、また自分一人で集中してプレイしてたんでしょう?」
……その通りです。
「でも、じゃあ、初めは慣れる意味でパーティーを組んでも問題ない、ってことでしょ?」
「ま、そうだな。じゃあ、とりあえずやってみるか。まず、パーティー申請は……」
ユンは名も無き村は、俺が居られないからイヤだといいすぐに後にした。
その為、すぐにミカールへ移動。
偶然だろうが、ビギナープレイヤーの数が多く俺達は一度も戦闘することなくミカールへたどり着いた。
戦ってるプレイヤーを見ながらモンスターの説明とかは簡単にしたが。
町についたら、まずギルドで登録。そして、昨日俺が受けたのと同じ、ラビット退治の依頼を受ける。
そして町のすぐ外の適当なフィールドにでた。
さて、クエストで取得したサマナーは、撃破した幻獣が初期の仲間になるんだが……特殊なサマナーでしかもいきなり所有していた場合はどうなるんだ?
「ゆず……じゃない、ユン、呼べる召喚獣は何がいる?」
「よぶ? ああ、この呪文の所……ええと……これですか? ラッキーラビットって書いてありますね。ウサギなの?」
ユンが一枚のカードを手渡してきた。
「ラッキーラビット……か。絵は普通にこの辺りにいるラビットだが……召喚時MP1。レベル1、所持スキル、体当たりレベル1、リンクバーストレベル1?」
カードに説明が書いてあるな。
何々……リンクバースト、召喚コストの倍のMPを支払う事で5秒間全ステータスを倍にする。
何これ?
いくら初心者向けでも、強スキル過ぎるだろう?
ラビット……見た感じここにも出てくるあれに名称変えてサマナー用にしてる感じだが? だったらちと弱めだな。
このリンクバースト有りで、特殊ジョブの面目躍如なんだろうか?
カード系は知らないが、幻獣はかなり弱体化されるらしいし、ミミズや同格のウサギも、術者も一緒にやらなきゃ負けるかもしれないな。
「初めは俺もいるし、モンスターが出たらとりあえず喚んで見るといい」
「うん、わかった。でも兄さん。今から呼んでおいちゃ駄目なの?」
そうだよな、普通そう思うよな。
「それは基本的にオススメしない。召喚獣は呼び出すときと、特殊なスキルを使わせる時にMPを使うんじゃないんだ……後、喚びだしている間、決まった時間、MPを消費し続けるんだ。カードサマナーはこの条件は入らないかもしれないが」
なんせMPが俺とどっこいな位だから、維持コストなんて払えないし。
これが、一般的な召喚士とサマナーの最も大きな違いだ。俺のなっていた召喚士は維持コストはないし、スキルを行使させる時はその幻獣のMPを使用していた。
しかし、汎用型とも言うべきサマナーはそれが自身の負担になる。
つまり、MPは高いが、召喚獣の扱いで精一杯になるのだ。
まあ、スカウト出来る召喚獣や成長して進化するモンスターが強いから、不満は出てないがね。
このカードサマナーがイコールになるかはわからないが。
その全てを行うにもMPが少なすぎる。
「なるほど……まあ手伝ってもらってるんだから、当然かな?」
「さて? ま、モンスターを見つけたらやってみな。勿論、そのデメリットを覚悟の上で喚びだし続けるのも、安全面が上がるから有りだとは思うし」
「とりあえず、兄さんに言われたとおりに敵さんを見つけてからやるね」
ん、素直でよろしい。
柚子は可愛いもの好きだから、ラビットなんて見たら送還なんてしない可能性も十分ありだが。
で、まあ適当に進めばいるのさ、初心者御用達のモンスター、ミミズさんが。
「さっきも少しいったが、あれがストーンイーター、初心者の相棒であるミミズさんだ。あれは向こうから攻撃してこないし、移動も遅い、攻撃の起動も読みやすいから倒すのも訳ない。どのジョブでも、どのレベル帯でも倒しやすい素敵な奴だ」
「そこまで言われるなんて……なんか可哀想」
「あのウネウネを拳で殴りつけた日にはそんな感傷即座に消えるぞ、さ、召喚してみるといい。ユンの初戦闘だ」
ユンは、目の前に浮かんでいると思われる、コマンドウインドウをいじっているんだろう。
なにやら手を挙げてなんかをやってる。
俺やマリアはわざわざそんな面倒な手段を取らずに、直接音声入力でスキルを発動させていたから寧ろ新鮮だった。
ユンの手にしたカードが光り、一匹のラビットが現れた。
カードが媒体になるって、サマナーとしてキツい気がする。
今じゃわからないが、もしカードが溜まった時に、カードゲームのように手持ちのカード数が決まってて、手札の中から……とかだったらとんでもないマイナス要素だぞ?
「あのな、ユン」
「もうすぐ終わるから、一寸待って、兄さん」
その必要はない、と説明しようとしたら怒られてしまった。
「これで、いいよね? よし、ウサギさん! か、可愛い、ね、ね、兄さん?」
「何故疑問系なんだ?」
喚び出されたラビット。やはり普通にフィールドにいる通常のラビットだった。
ユンに抱きしめられて心なしか窮屈そうに見える。
「ユン、落ち着いて聞いてほしい……実は……な。魔法やスキルのコマンド入力は、声で言うだけ、いや、もっと慣れると思うだけでも発動するんだ……」
「……? どういうこと」
「つまり……ええ、とな? 今のユンの喚び方は……凄く可笑しかった! 以上!」
まどろっこしくなったので、直接伝えてみた。
「兄さん、もっと早く言って。私、そんなに変だった?」
「多分、やってる奴はいないと思う。俺は初めて見た」
「もう一寸オブラートに包んでよー!!」
世間体を気にするこの妹。ゲームの中でも、予想通り軽めに絶叫するのであった。まる。
確か召喚獣は維持コストが払えなくなると、勝手に送還されると思ったし……やはりカードサマナーは維持コストなしか?
召喚コストはMP1だし……低燃費キャラか?




