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第四十一話、墓場で運動は向いてませんか?(2)

「どう見る? 意味ありげに墓石にもたれ掛かっている武装したガイコツ。怪しいと思わないか?」

「きっと、あれと戦闘になるんだよね? 胸元光ってるし……僕はあれが銀鉱石だと思う」


 ためらいの墓地の最奥にある墓石。そこには言葉通りに下を向いた、アイアン系と思われる武具で身を包んだガイコツ……いや、スケルトンが座り込んでいた。


 ボロボロのアイアンソードやシールドを見ると、元初~中級の冒険者と言う設定なんだろうか?

 いや、違うか。アイアンは初級じゃ難しいよな。


 墓石は微妙にずれており、そこに片手が中に入っている所を見ると、盗賊なんだろうか?


 今は動いてないが、どう考えても動き出すよな。

 しかも、武器しか買えずに防具はなしの俺達より明らかに良質だし。


「ここまで来たらもはや退けない。とりあえず反応する前に先制しよう」

「そうだね。僕も頑張るよ」


 何気に距離が近づくにつれて、ガイコツがカタカタ震えだしている気がする。

 動き出したら、当然あいつからもスキルをいただく予定だ。


 俺はメリケンサックを強く握り締める。名も無き村の森で戦ったボアには、俺達自体は戦力にならなかった。

 ここも明らかにボス系。今度は少し位マシになってるだろうか。


「マリア、ディフェンスを……って、しまった!」


 準備万端で先制攻撃を仕掛けようと思っていた俺達だが、一つだけ誤算があった。 


 サーチアンドデストロイを信条とする我が召喚獣様々だ。


 クロウ三匹は一斉にスケルトンに飛びかかっていく。


「済まん、ミスった。マリア、先に出る! 俺はいい! 自分にディフェンスをかけたら来てくれ」

「わかった! 僕もすぐに行く」


 彼等は攻撃力1。三匹でも3だ。不意打ちで一気にダメージを与えたかったが、それではダメージが低すぎる。


 やむなく、俺が先に攻撃出来るように駆け出す。


「……腐ってもカラスか……流石に追い付かん! 南無三!」


 MMOとは言えそこは所詮人間。カラスに人間が追い付くわけもなく、滑空体制に入るクロウ達。


 せめて、助走からの跳び蹴りで少しでもダメージを与えようと、両脚に力を入れて僅かにしゃがみこむ。


「はあああああ! 一撃……と、ととと……何だ? どう言うことだ?」


 クロウ達はスケルトンに目も向ける事なく、墓石の中に飛び込んでいった。


「ジェイル、お待たせ……あれ? クロウ達は?」

「あ、ああ。墓石の中だ。どうなってる?」


 急ブレーキをかけたから、足が少し痛い……ダメージになってやがる! リアルすぎだろ!


「あれは敵じゃなくて、ただの飾りって事?」

「でも、動いてなかったか?」


 墓地に静寂が戻る。


 全く意味不明だ。


 あのスケルトンの胸元のキラキラは銀鉱石じゃないのか?


 むしろ、普通に取って帰っていいんだろうか?


 そう言えば、サモンスキルでクロウを呼び出してる時は、頭上にアイコンが表示される。

 今は丸の中にカラスのマークだ。その下に小さく3、と数もでている。


 彼等は中で何をやってるのか?


「取っちゃっていいんだよね? あれ」

「わからんが……まあ、いいんじゃ……」


 霊感系は駄目なんじゃなかったのか? やはり、モンスターとしていれば平気なのか?


 やはり、女性はわからん。 


「いや、まて、マリア! 距離を取れ、何か来るぞ!」

「え、何!?」


 アイコン上に存在していたクロウ達が全て消滅した。

 つまり、あの中に何かがいるって事だ。


 そして、轟音とともに墓石が吹き飛ぶ。


「きゃっ!? 何、何があったの?」

「どうやら、本命はずっとあの中にいたらしい。クロウ達のサーチ能力は完璧だったって事だ」


 そして、ゆらゆらと半透明な存在。苦悶の表情を浮かべた真っ赤なゴーストが墓石を吹き飛ばして現れ、絶望の雄叫びを上げた。


 名前は……ハイゴースト。そのままだが、ゴースト系の上位種だろうか。


「なる程……不用意に近付いたら、今の爆発で一撃って事か」

「……ジェイル、有り難う……だから、もう離して、いいから……」


 現れたハイゴーストの迫力で失念してたが、距離が近かった為、マリアの手を取って抱き上げたんだった。


 良かった、力的な問題で落としたりしないで……。


「スキル、サモンクロウ! マリア、あれに、物理攻撃、効くと思うか?」


 マリアを下ろしてサモンクロウで三匹のクロウを呼び出す。


 先程の話がいきなり現実の物になるとは……。


「ええ!? 効かないの!? だって、さっきは……」

「あれは、嘘だ。今俺達が遭遇したら、勝てる可能性は低い」


 頭が回るのか、クロウは三方向から攻撃を始める。


 物は試し。俺は、左腕を振りかぶってハイゴーストに殴りかかる。


 殴る、ミス、殴る、ミス、殴る、ミス。


 ハイゴーストが俺を見ながら息を吸い込むモーションを取ったので、バックステップでとびずさる。


 俺のいた場所は、ハイゴーストの吐き出した、明らかに不健康な何らかのブレスが襲いかかる。


「草が紫色になってる……毒か? マリア、駄目だ。やはり、物理は効果がない」

「その為に行ったの!? じゃあ、僕達は……」


 さて、どうするか。今の所逃げるしかないな。


「でも、ゲージ減ってない?」

「ん? そうだな。少しだけ減ってるな」


 どう言うことだ? 攻撃してるのはクロウだけだが、クロウは普通に突っついてるだけだぞ?

 サモン系の使い魔は物理攻撃じゃないのか?


「まあいい、ダメージソースはクロウみたいだ。理由はよくわからないが好都合だ。あいつ等をメインにして俺達は見守ろう」

「……いいのかな? 僕、何もしてないけど」


 気にするな。元々打てる手はないんだから。













 ハイゴーストのゲージは減った。微々たる物だが。


 しかし、当然時間はとんでもなくかかっている。しかも、一撃でその方向のクロウが消える為、再サモンの山である。


 MP的な問題で連続召喚が出来ない為、絶賛マラソン中である、


 霊体と言う設定からか、HPが低めだったのが幸運と言うべきか。

 でなければ1しか与えられないクロウじゃ、気が遠くなる位の時間がかかるだろうし。


「ねえ、ジェイル。気がついてる?」

「何をだ?」


 走ってMPの自動回復を待ちながら、会話を続ける俺達。


「ゾンビとかバットとかいないこと」

「ああ、それはな。こう言った可能性も考慮してボスモンスターがポップしたら、消えるんじゃないか? 事実どうかは知らんが」


 自在に逃げ回れる最大の原因はそれ。モンスターがいないのだ。

 どう言ったシステムなのかは不明だが、俺達には全く好都合だ。


 色々と墓地中を走り回って、撹乱しながらゴーストのHPを3/4程度まで減らす。

 どのくらいの時間努力したかは、ご想像にお任せする。


 が、何事も想定通りにはいかないようで……。


「ね、ジェイル、あれ……」

「ここまできたら逃げるなって事か?」


 一周して元の墓石跡まで戻ってきた俺達が見たのは、このタイミングで今まで沈黙を保っていたスケルトンの動き出した姿だった。


 その名称も変わっている。スケルトンナイト。これまたスケルトン系の上位種か。


「位置が悪いな……逃走経路に丁度立ってやがる」

「どうする? このままじゃ、ハイゴーストも……」


 く、最後のクロウもやられたか……このままじゃ挟み撃ちだ。ダメージ覚悟で飛び込むか。

 いや、ダメージ=即戦闘不能だ。


 いやいや、それすらも覚悟してマリアに時間を稼いでいてもらうか?

 だが、それでクエスト失敗や、墓地自体が後から進入出来ない特殊フィールドになっていたらアウトだ。


 どっちに? ハイゴーストか? いや、駄目だ。もし、先程のブレスを受けたら……じゃあ、スケルトンナイトか? 敵の強さは未知数だ。一撃の可能性もある。


 どうする? どうする?


「ジェイル! 来た!」

「なっ!? 衝撃波だと!」


 スケルトンナイトがその場で己の剣を振り込み、かまいたちのような衝撃波を飛ばしてきた。

 飛び道具ありかよ……これは詰んだな、流石に今からそれは回避出来ん。


 善戦はしたがこれ以上の結果は望めないな。せめて、次善の策のマリアを脱出させようと衝撃波の盾になろうと動く。


「ジェイル! 何……待って、止めて!?」

「隙をつくる。キチンと生かせよ」


 駆けた俺、叫ぶマリア……後でまた怒られるな、これは……。


 苦笑いしながら、移動する。


「………ん?」

「ヒュルオオオトオトオト!!!」

「ジェイル! 君はまた……!」


 衝撃波は俺にあたらなかった。当たったのは後方にいたハイゴーストだった。



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