第四十一話、墓場で運動は向いてませんか?(1)
さて、今日はクエストをしっかりと進めるために、ためらいの墓地で俺とマリアは落ち合う。
入り口で現地集合をメールで送っておいたら、時間通りに待ち合わせ場所にいた。
「昨日はごめんね、僕、お母さんにまた怒られちゃって、イン出来なかったんだ」
「別に構わないが、よく怒られるな。俺は見てわかるだろうが、昨日やっとMP+1を手に入れたぞ」
優雅にクロウを三匹呼び出す。
「おおー凄いね。僕は一昨日は途中で帰っちゃったけど、結局どの位やってたの?」
「さあ? 覚えてないが、ベルトコンベアーの仕事も悪くないな、と思える位事務的にバットを狩り続けた」
「それは……ジェイルの集中力には流石の僕も脱帽だよ」
何が流石かはわからないが、褒められてるなら特に何も言わないでおこう。
これで俺のスキルで発動可能になったのは、MP消費3の突撃、クロウの三匹同時召喚。
まだなのは、各種召喚獣と超音波か。まだ先は長いし、戦闘で連続使用しようとすれば全然足りない。
これからもどんどんコピーしていかないとな。
二人と三匹になった俺達は、既にバットを狙う意味はもう無いため、ポップポイントを避けながら移動する。
数え切れない位バットの間を移動したので、その周囲には何もないのは確認済みだ。
これなら他の場所をゆっくりと捜索出来そうだ。
「で、どうやって探すんだ?」
「銀鉱石だよね? さあ? クエストなんだし銀鉱石はこのためらいの墓地にあると思う。クエスト専用だろうけど。だから、見て回ればさり気なくわかる場所に置いてあったりしないかな?」
クエストだから、を逆手に取るのか。成る程、確かにその可能性もあるな。
頭上を飛んでる三匹のカラスと一緒に、何だか少し申し訳無い気持ちになりながら、誰かの名前がかかれた墓石やその周囲を念入りに調べて回る。
もし、墓石をどけて中を調べろ、だったら流石に嫌だな。
誰も眠ってはいないだろうが、罰当たりな気がしてくる。
それに力も最低値だから、もしその墓石の移動に必要ステータスが必要だったら出来ないし。
「ジェイル、クロウが増えて大変って、一昨日は言ってたけどさ……」
「ん? 言ったな……」
どちらも手は止めない。しかし、お墓にいる、と言う事実にマリアが普段より饒舌に口を動かしている。ような気がする。
「でも、こんなに沢山のカラスさんがいたらね、寂しくないよね」
「騒がしくはあるな。常時出し続けるには、一寸戦闘でも、エリアでも問題があるだろうがな」
何をそんなに気にしてるんだ? まさか……怖いのか? この墓地探索が。
虚勢とかじゃなく、俺は全然平気なんだが……。
「怖いか?」
「……うん。だって、罰当たりな事したらお化けが出るかもしれないじゃない?」
うーん、俺も気持ちは分からなくはないが、どっちの話だ?
「リアルか? OOか?」
「うう……どっちもだよ。今だって、もしログアウトして目の前に何かいたらと思うと……」
それは確かに怖いな。だが、ログアウトして目の前に誰かいたら、それがお化けじゃなくても怖いだろ?
OO内はゾンビもいたし、モンスターとしてゴーストも多分いるだろう?
そっちはそんなに気にすることか?
「そんなものか? 確かにリアルでの墓地探索なんて俺も遠慮したいがね」
「当たり前だよ! そんな怖いこと!」
怖いかどうかは置いて、実際問題、警備体制の手薄な墓地は、単騎で行ったらどんな危険に巻き込まれるかわからない。君子危うきに近寄らず、と言うしな。
肝試しとかで人様のお墓に行く事の意味がわからない。
これも価値観の違い……いや、俺の反応が多分一般的だと思うんだがな。
しかし、ゲーム内だし、ゾンビは平気なのに何でゴーストは駄目なんだ?
「ここのゾンビはリアルだったけど、ゲームってわかってるし……ジェイル、忘れてない? 僕、女の子なんだよ?」
「そうだな。確かに怖いな。ま、OOなら、まず確実に存在するし、モンスターとして戦闘になるだろう? その点だけなら安心じゃないか?」
話しながらも手は動かしてる俺達。当然マリアも。
なんかその事実に釈然としないものを感じながらも探してまわり、残りの未確認の墓石は三つ。
最後の一番奥に何かあるな。
やっぱりよくある全部調べると、そのラストが当たり的なやつかな?
「何が安心なの、全然安心じゃないって!」
「いるかいないかわからないような不確定な事象がないだろ? しかし、自身の手で確実に対処可能ならまだマシだろ」
ああは言ったが、物理無効の可能性があるから、今でたら物理攻撃しかない俺達じゃ逃げるしかないがな。
しかし、わざわざそんなこと言って無駄に怖がらせる事もないし。
これでも、俺は配慮も出来るのだ。
そして、ためらいの墓地の最奥である墓石まで辿り着いた。




