第二十七話、無双なんて目じゃない簡単なお仕事ですか?(1)
さて、イベント開始日当日。開始時は11時00分から予定されている。
現在時刻8時00分。俺は何処で何をしているかというと……。
「本当に美味しい。俺が作るのなんて目じゃないな」
「純也様からのお褒めの言葉、料理人一同、さぞ喜ぶ事でしょう」
天上院の美玲の屋敷で、朝食のご相伴に預かっているんだな、これが。
目の前に展開されているのは、朝とは思えない位の豪勢な食事。
鴨と思われるローストにクラムチャウダー、何やら異様にうまいパンに何故かキラキラしてるスクランフエッグ、他にも明らかに食べきれないと思われるテーブル一杯の食べ物。
多いよ! でも、俺がそれを言うのは間違ってる気がするし……。
「今日は翔はまだ寝てるの?」
「翔様は昨日も随分遅くまでOOに精を出していたご様子で、別宅の方でまだ休まれています」
それがここでわかっちゃうんだ? プライバシーもクソもないなり。
「屋敷で本人不在のまま食事を取ってて、今更な感はあるけど美玲は?」
「お嬢様は今御入浴中です。お嬢様も本日は起床時間が遅めでしたので……いつもであれば、純也様が来られた時に応対できないなんてとても我慢できないと、常日頃から言われて悶えてらしたのに……」
「愛さん! 変なこと言わないでください! 別に悶えてなんかいません!」
そんなに声を張ってたわけじゃないのに、ドアを開けて美玲が飛び込んでくる。
まだ少し髪が濡れてる。むしろ、タオルを首にかけてる……庶民的な感じ。
「おはよう、美玲。今日は一寸早かったかな?」
「い、いえ! 気にしないで下さい! 私が夜更かししちゃったからいけないんです! 純也さんが気にすることはないです!」
「今日がイベント当日ですしね。立ち振る舞いや、戦法等随分考えましたしね」
髪を芽依に優しく拭いてもらってるのを横目でみながら、今日も美玲は平常運転だなぁ、と卵を口に運んだ。
美玲の魔王か。凝ってそうだしなぁ。俺も即座に戦闘不能にならないように気をつけないと。
「なぁ、美玲はもう一人暮らしはやめたのか?」
美玲と一緒に食卓を囲みながら、初めの天上院の決まりについて聞いてみる。
「はい、私にはもう必要ないですから」
「天上院の子が外で生活をするのは、世間を知る事もありますが伴侶を探すのが一番の目的ですから。お嬢様は初めから純也様に狙いを絞って外での生活をしていましたし、目的は達成されましたから」
「そ、そうか……」
何て言うか……狩人なの? この一族は。
「まあ、お二人で愛の巣を育みたいと言われるなら、また外での生活をしていただくことはやぶさかではありませんが」
「愛さん!?」
「いや、それはまだ一寸……」
もし、俺の借りてる家で、なんてなっても流石に狭い。それに、結構愛着あるからあの借家も気に入ってるし。
まあ、どうしても希望されれば嫌ではないが。
「残念です。純也様のお借りのマンションなら、増改築くらい造作もありませんから、もしご希望ならおっしゃってください」
なんなの、この人……エスパー!?
「ま、まあそれはさておき……美玲、俺も最後まで残るように頑張るから、思いっきり楽しんでおいで」
「ふふふ、ですよ。もう、楽しみで楽しみで、テンション上がりっぱなしですよ!」
この調子なら堪能しそうだな。
その後も楽しく朝食を続け、準備のために自分の家に戻った。
別に毎日行ってる訳じゃないぞ。誘われた時だけだ。
まあ、食事以外にもお風呂や美玲とのデートや、翔と遊びに、等も含めるとこっちの家にいる方が少ないが。
さて、ここはナイル高原。場所はその超広域の岩はで出来た平面な丘の上。
そんな所に、約1500人弱のプレイヤーが集まっている。
何でそんな数がわかるって? それは……。
(いつもオンラインオンラインをプレイしていただき、ありがとうございます。今回のクエスト「英雄への道行き(3)魔王誕生」へご参加いただいたプレイヤーは1524名もなっています。
イベント後は100人毎に別れた特殊フィールドでの、特定ユニークとの戦闘になります。フィールド分散に関しましては、パーティー、アライアンス登録されてるプレイヤーを優先的に同フィールドへの誘導となります。今の内にパーティー登録をお願いします。
尚、今クエストは戦闘不能の時点で参加不可能となります。しかし、戦闘不能状態でのイベント鑑賞は可能となっております。デスペナルティは発生しません。
皆様、オンラインオンラインを今後ともよろしくお願いいたします)
と、まあそんな訳だ。
「ジェイル、そちらは君に任せる。俺達は前線にたつからサポートしてくれると助かる」
「ん、了解任せて」
ガラティーンと打ち合わせをしながら、他のメンバーに挨拶をする。
ブリュウナクは両手剣を持ってる。ペインキラーは長剣でリィントゥースは短剣。ガラティーンも巨大な剣に盾、そして、フェイルノートは槍。
もう準備万端だ。
「じゃあ、ジェイル君もよろしく。楽しくなるよ、今日は!」
「ジェイル……宜しく……ゴーレムは?」
「二人共頼んだよ。フィールドを移動するなら、何が起こるかわからないから、行ってから呼び出すよ」
「お、始まったみたいだぞ」
フェイルノートの声で広場を見ると、そこにはローブを来た誰かが無理矢理男性に引かれていた。
「なんだありゃ!」
「魔王復活……じゃあ、あれは儀式の生け贄なのか?」
「まさか、1500人に見られてるなんて思わないよね?」
中央まで男はそのローブの誰かを引きずってくると、そこを中心に超巨大な魔法陣が展開する。
「うわっ!」「こっちまで来たぞ!」とか、足元まで伸びた魔法陣に驚きの声を上げるプレイヤー達。
「うぬ等は……我等が神に徒なすものか……我が呪刻までまだもう少し……邪魔はさせんぞ!」
そして、移るフィールド。
そこは今までいた場所と全く同じ。ただ人数が少なくなっただけだった。
ただ、陽炎のように儀式を進める男が見える。
「ここがそうか……」
「さて、何がくるやら、ま、俺様が全部叩きのめしてやるがな」
「二人とも、それにジェイル達も、準備はいいか? いつ始まってもおかしくない」
「わかってるさ、スキル、召喚、クレイゴーレム!」
「どうやら僕達の組にはそんなに有名なパーティーはいないみたいだね? 僕らが一番レベルも高いかな……楽しみ」
「集中……即断」
呼び出したクレイゴーレムに合わせるように、周囲のパーティーからは「召喚士だ!」「眉唾じゃなかったのか!」とか、色々聞こえてくるがスルー。
美玲に約束したんだから、こんな所で負けられないし。
「来たぞ! サイプロクスの大群だ!」
サイプロクス、一つ目の巨人。結構大物がいきなり出てきた気がする。
「数が多い……これだと押し込まれかねないな……ガラティーン!」
「わかった。プレイヤーの皆! 俺は閃光の旅人亭のガラティーンだ!」
どうなら、皆で協力しようとしてるみたい。しかも、ネームバリューは抜群みたい。
「ガラティーンって、あの鉄壁?」「トップランカーじゃないか!」とか、良反応、
「あれがそのまま来たら、俺達は蹂躙される。協力して当たらないか? 魔法や飛道具が使える奴はまず前で一体でも数を減らして欲しい」
ペインキラーとフェイルノートが武器を持ち替えてクロスボウと銃を手にする。
銃? そんなんあったのか!?
そして、ガラティーンも長弓を手にする。
そして、正に連射と言わんばかりの速度でどんどん攻撃を開始する。
それを見ながら他のプレイヤーも我先にと攻撃を開始。
あっという間に、フィールドは飛道具が飛び交う戦場となった。
飛道具が飛び交うって……なんか変だな。
見た目通りに、HPが高いらしく中々数は減らない。しかし、足止めにはなる。
直近でやってきたサイプロクスに対しては、クレイの強スロウからリィントゥースとブリュウナクのラッシュが入る。
その間に装備を戻したリィントゥースとガラティーン、フェイルノートガも加わり、あっという間に目の前のサイプロクスは無に帰する。
「レベル的には低めに設定されてるようだな。作戦変更しよう。俺達は遊撃に回る、ジェイル、ここが最前線だ。任せられるか?」
「了解、なんとかする」
強スロウとあるし、何とかなるだろ。余り目立ちたくないんだが。
移動したガラティーン、フェイルノート、ブリュウナクの抜けた穴を、ペインキラーとリィントゥース、クレイの三人でカバーしながら対応する。
「スキル、義賊の一撃!」
「甘い……スキル、暗剣殺」
確かにレベルは低いみたいだが、如何せん数が多い。
それに一撃が重たい。
近くで、ちょいちょい戦闘不能になるプレイヤーの声が聞こえている。
「ジェイル君! 来た、本隊!」
「来たか……でも、大分落としてくれたな。流石、ガラティーンの扇動は優秀だ」
「でも……まだ20体は……いる」
まだ、一気に減らす手段はある。
「ペインキラー、あれをクレイにかけてくれ」
「ん、わかった。スキル、生への渇望!」
蘇生効果をクレイにかけて、サイプロクスの集団に突っ込ませる。
大きさからいって、大人と子供みたい。
「スキル、自爆! そして、スキル、自爆!」
一回目の自爆で、サイプロクス達のHP残数を確認して、再度、生への渇望の効果で生き残ったクレイを自爆させる。
「ガラティーン! 頼んだ!」
こっちは召喚士として、一回やられたら再召喚に時間がかかると、言うことにしておく。
「半分以上減った……? 皆、終わりは見えてきたぞ! 踏ん張れ、行くぞーーー!!!」
俺と射撃班を除く全員が呼応して、残ったサイプロクスへ突撃していった。
こうして、第一陣はなんとか凌ぎきった。




