第二十六話、ギルドとは受付な香りがしますか?
「なんか、ここまで本格的だと僕達異世界にでも来た感じがしない?」
「異世界って……フラグにしても回収仕切れない非現実的な感想だな。否定はしないが……それを言うならOO自体が幻想的だ」
「気持ちはわかる……でも……詰まってる……ペインキラー……早く」
大々的に冒険者ギルドと書かれた看板がかかった建物に俺達は入る。
このギルドが作られた経緯も俺のクエストなんだが……なんか考えると俺、主人公みたいだな。
さて、冒険者ギルド。用途はランダムクエストの受注と、個人プレイヤーの名指し依頼。それに素材の買い取り等を行っている……らしい。
何でもクエストも等級があり、難易度や報酬額が違うとのこと。
それに町の人達から信頼を得れば、個人に対してのクエストもある。
まさによくある冒険者ギルドだな。
その内ダンジョンとかも導入されるのかな?
因みにここに来た一番の理由は……。
「魔王だよ、魔王。どうなるかわからないけども、早く戦いたいよね」
「興奮しすぎ……イベントは……まだ2日……ある」
「そもそも、戦うとも限らないだろう?」
そう、ミリンダとの出来レースの魔王との戦闘訓練(英雄への道行き(3)魔王誕生)に登録しに来た。
「ジェイル君は風情がわかってないねぇ。まだ見ぬ魔王が居て、自分がプレイヤー。戦わずしてどうするの?」
「参加プレイヤー全員で? もし、全員参加したら何人になると思ってるの?」
「うっ。で、でも、前回も500人位だったし、今回も……」
「……ペインキラー……659人……それを込みでも……戦闘の……イメージが……湧かない」
まあ、俺は知ってるけどさ。絶対に勝てないことも。
「待ってたよ! ジェイルさん!」
「美、ミリンダか。どうしたんだ? 今日忙しいって言ってなかったか?」
中に入って、何よりも先に急に視界に飛び込んできたのが、抱きついてきたミリンダだった。
確か、今日は何かの総会とかで天上院として参加するとか言ってた筈……だが。
「終わりました。私達は大体初めしかいないんですよ。後は、皆さんにお任せしてますから」
「そうか。登録は済んでるのか? まだだったら一緒にやるか?」
「まだ! まだです! その為に待ってたんです! 宜しくお願いします!」
なんか、話を聞くと規模が大きすぎて一般人の俺には、天上院が巨大すぎる。
経験則から、抱きついてきた美玲を離すのは不可能と判断。
抱きつく対象を腕に変更させて、二人にミリンダを紹介する。
「とまあ、そんな訳で賢者のミリンダだ」
「どんな訳!? それに、その状態でやる! 普通?」
「私……リィントゥース……アサシン……宜しく」
突飛な状態だと性格でるな。お、驚きすぎてまず突っ込みから入ったペインキラーも、ちゃんと挨拶してる。
その辺はしっかりしてるよな。賢者についても何も言及しなかったし。
「はい、よろしくお願いします。ジェイルさんの婚約者のミリンダです」
「こっ!? 婚約者!?」
「……………………そう」
ん? なんか、自己紹介ちがくなかった?
「別にいいけど、わざわざ伝えなくても良かったんじゃないか? (魔王のお披露目や天上院の事を考えると)」
通常の言葉に加えて、テルも同時に使用して併せて意味を言葉とする。
「必要な事ですよ? ジェイルさん、浮気する予定でもあるんですか!?」
「うんにゃ、別にないが? そもそもそんな簡単に浮気って……まだ、一週間も経ってないのにどれだけふらふらしてるように見えるんだ、俺は」
「ジェイル君、一週間って……?」
まあ、ここまで言ったらある程度情報は開示した方が得策か。
「俺がミリンダの婚約者になったのは、OOを始めてから……と、言うかここ最近なんだ」
「ペインキラー……こっち」
「わ、一寸引っ張らないで、リィントゥース!」
行っちゃった。向こうで秘密討論会か……折角だから入れてくれればいいのに。
「それじゃあ秘密にならないですよ?」
「まあな。しかし、何時になったら登録出来るんだろう?」
「すぐですよ、すぐ。それにしても……純也さん、話に聞いたとおりです。才能が爆発し過ぎです」
「何言ってるんだ? 翔に何か聞いたか? あいつは嘘ばっかり言うから話半分が良いぞ」
ずっと翔の話を聞いて、俺に憧れるくらいだから難しいだろうが。
「純也さんはそう言うだろうって、お兄様は言われてました」
「先手を取られたか。ま、そこまで重要でもなさそうだからいいけど」
「重要です! 私、気が気じゃなかったんですから!」
「ええ、と……よくわからんが、なんか済まん」
意味はわからんがつい謝ってしまった。女性にはとりあえず謝っとけ、そう言ってたのは誰だっただろうか?
「ごめんね、お待たせ」
「ミリンダ……これから……宜しく」
何を話してたのか、大きく変わった様子はない。まあ、やる気は上がってるみたいだが。
「私は何時でも挑戦を受け付けます。ジェイルさんはまだですから!」
「いいの? そんな事いって」
「好都合……こちらこそ……本気で行く」
うんうん。仲良きことは美しきかな。
で、やっと周囲を見渡す余裕が出来た。
屋内は普通にカウンターが三カ所あって、皆女性。
それに本棚や……プレイヤーが山ほどいるスペース……これはクエストが表示されてる場所かな? がある。後は普通の建物だ。
「済まないが登録したいんだが」
「はい、いらっしゃいませ。皆さんご登録でよろしいですか? ではこちらの用紙にご記入をお願いします」
受付で一番空いてた、真ん中のカウンターのポニーテールのウサギ耳の娘に話しかけると、何かの用紙を渡される。
ご丁寧に日本語で名前や種族、レベル、それにパーティー設定等の記入欄もある。
「とりあえず、普通に登録するだけでいいんだよな?」
「ジェイルさん、私達、パーティーを組みませんか?」
「ジェイル君、僕達共組もうよ」
「賛成……この機会は丁度良い……」
いやいや、ペインキラー達は閃光の旅人亭があるだろ?
それにミリンダもアイリーンやロマノフがいるから、自分達だけで登録すると後で困るんじゃいのか?
「ご心配は無用ですよ。パーティーは何時でも組み替える事が出来ます。ただ、後程説明させていただきますギルドポイントがリセットされるデメリットが御座いますが……」
「ん。そう何度もパーティーを組み替えるメリットはないって事だろ?」
頷く受付のお姉さん。後ろの三人にも、無言で促してみる。
「……ガラティーンに……確認……する」
「そうだね、僕達には今はこの時が大切だもんね」
「アイリーン忘れてましたね。確かに皆が集まってからがいいし、駄目でしたね。急ぎすぎましたね」
ん? ペインキラー達は、なんか逆方向に納得してね?
「そっちなの? 閃光の旅人亭は?」
「ガラティーンなら……わかってくれる……」
「そ、僕達一心同体になったから、大丈夫! ジェイル君は何の心配もいらないよ」
心配って言うか……はぁ、もういいや。
「とりあえずパーティー欄は空白でな。皆他は書けたか? じゃあ、お姉さん、次の説明を頼む」
「畏まりました。まずランクに付いてから説明します。皆さんは初めて登録したので、星1ランクです。高ランクになる程、星の数が増えると思って貰えれば良いと思います。クエストも高ランクの方が危険な物が多くなります。
次はギルドポイントについてですね。これはクエストを終了した際に、ゴールドと一緒にギルドカードにポイントされます。個人でクエストを受けた場合は個人に、パーティーでクエストを受けた場合は、参加していたパーティーメンバーに均等に振り分けられます」
長文長いなぁ。もしこのウサギ耳がプレイヤーだったら、暗記して説明してって大変だよな。
NPC様々だな。
「質問……いい?」
「はい、どうぞ」
「パーティーと……個人……メリット……デメリットは?」
ああ、それは俺も気になったな。なんか、パーティーでいくメリットの気がする物。
「はい、まずメリットですが、パーティーだとパーティーでしか受けられないクエストがあったり、クラスが一つ上のクエストも受注出来ます。当然一人よりも安全になりますから、クエストの成功率も高いですね。皆さん既存のパーティーで登録される方々が多いです。
デメリットは、登録しているパーティーを解除した際に、今までのギルドポイントが半分になります。結果、クラスの降格などもありますから、十分にご注意ください。後、報酬額やポイントについては、パーティーで受注する場合は人数分で平均値を自動振り分けされます。これはトラブル防止のためですね」
まあ、妥当な所だよな。野良パーティーについてはどうなってるんだ?
「クエストに人数制限がなければ、登録されたパーティ意外の方とパーティーを組んで参加してもらっても問題ありません。ただその場合はパーティーポイントは入りません。途中で新しいメンバーを加入される場合はギルドでの登録が必要になります」
結構しっかりしてるな。
「じゃあ、早速クエストを受けたいんだけど、特殊クエストの受注って出来る?」
「特殊……ですか? 一件だけありますね。ナイル高原のモンスター調査があります……」
ナイル高原のモンスター調査?
知らない奴だが……これが、今回のイベントのやつなのか?
「お姉さん、詳細を教えてくれない?」
「はい、報酬は1000ゴールド獲得ギルドポイントは10です。依頼主は私達冒険者ギルドとなっています。内容は、ナイル高原に不審なモンスターが現れるようになったとの報告が上がっているので、その調査の依頼です。未確認情報ですが、先の襲撃の際に確認された魔族がいる可能性があります。その為、危険を感じたらすぐに撤回してもらって構いません」
ん、これだな。魔族が関わってるから間違いないな。でも、このクエストを受けないと参加できないなら、もう少し丁寧に説明しないと皆混乱するんじゃないのか?
「ジェイル……私達……とりあえず……別で受ければ?」
「そうだな。で、現場でロマノフ達と合流して、アライアンスを組むからな」
「私は都合があわないのでいけないんですけど、楽しそうです」
そりゃそうだろうよ。美玲が他全てのプレイヤーを叩きのめすイベントなんだから。
「でもこれで、魔族との戦闘は確定だよね? いやぁ、楽しみだな」
(俺も魔王の左手を使って魔族をのしたい……パーティー組むの早まったなぁ)
(後で私と魔王城に行きましょう? そこでどんどんやればいいんじゃないですか?)
いやぁ、それはなんか反則な気するして……。
結局、イベント申し込みだけしてギルドを出た。
「折角時間が出来たんだからでかけませんか?」
と、美玲に言われた為だ。
リアルでデートだって、経験はないが悪くないよな。
爆発? するか? しないさ?




