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第二十四話、過ぎ去りし日常への帰還ですか?(2)

「待ちくだびれちゃいましたよ。いつ会いに来てくれるのかとそれはもう心待ちにしてたのに、全然会いに来てくれないんですもん」

「いや、昨日の今日でそれはおかしいだろ? それに何でここにいるんだ? 違うだろ、俺がここに来た理由は……いや、それにしても会いに来たはおかしいだろ?」


 クエスト専用の荒野のエリア。


 コボルトの英雄である、キャリーストレイシスとの戦闘になる筈だった。

 少なくとも俺はそう思っていた。


 だから、俺は話しかける。そこにいるOOを始めたときからの貴重な友人に。


「おとぎ話や漫画の話ならもっと俺達の出会いは後だったんじゃないのか? なぁ、ミリンダ?」

「流れ的に、と、いうなら仕方ないんですよ? だって、こうでもしないとジェイルさんに会えないんですし、私が我慢出来ないんですから」


 ヤンデレ? いや、そんな生温い問題じゃない…………そもそも会話が成立してない気がする…………なんか空恐ろしい物を感じるぜ。


「でも、確かにお姫様を助けにくる王子様も素敵……」

「……アイリーンは……もういないか。目の前にお嬢様がいるんだがな。それに誘拐されたんじゃなかったのか?」

「誘拐? ……そんな話になってるんですか……違いますよ? 私はここで楽しくやってるだけです」


 突如巻き起こる突風。


 あまりの強さに、反射的に膝をついてしまう。


「ほら? 私こんな事も出来るようになったんですよ?」

「ミリンダ……一体どうしたんだ……君に何が……」

「何? 簡単な話ですよ……」


 笑っている……このタイミングでなぜ笑う?


「私、魔王になったんですから……さあ、勇者よ。存分に死合おうぞ!!」


 漆黒のトゲトゲした鎧を身にまとっているミリンダ。自らの背丈はありそうな巨大な大剣を手に、俺に飛びかかってきた。


「やはりか……やるしかないんだな……行くぞ! 世界の……いや、ミリンダ、君のために俺は負けない! 一閃、零式、白夜!!」


 手にした聖剣を逆手に持って、俺も持てる力を魔王となったミリンダに応えた。


 そして、世界は光と闇を二極する戦いを開戦した。










「と、言う夢を見たんだ」

「夢かよ!? あったのか!? その夢話す必要は!?」


 あったろ? 寝ても覚めてもOOの事考えてるんだぜ? 凄いだろ?


「いや、順調に廃人さんだが……急に呼び出して話す事じゃないよね!?」

「この感動を伝えたくて。それに全部が嘘じゃないし」

「うわっ! さらっと嘘だって認めやがった……で、どこまで嘘なんだよ?」


 どこまで? 何でそんな事なんか気にするんだ? 


「いや、おまえには関係ないだろ?」

「あるって! オレ、シンユウ! ナカマ!」


 興奮しちゃって気持ち悪い奴だな。


「夢では俺は凄く運が良くって、懸賞とかに沢山当たっていた。で、ある日MMOの専用ゲーム機が当たったんだ。それが……「夢落ちなんてやらせねぇよ!!」……何言ってんだお前?」


 まあ、実際には……。


「アイリーンに会いに行って、ミリンダがあの天上院家の人間だってわかった所と、キャリーストレイシスと戦闘になる所までかな」

「……微妙に否定しにくい所までは事実だったんだな……で、結果は…………聞くまでもないか」


 まあな。実際勝負にならなかったしな。ステータスもスキルの影響も高すぎるから、敵が敵じゃないし。


「報酬だってスキルの…………あれ? 俺何もらったんだっけ?」

「…………おいおい、忘れちまったのか? 固有スキルだろ? しっかりしてくれよ」


 む、なんかこいつ生意気になったな。


 それにしても何だっけ? 全く思い出せん。ログインすればわかった筈なんだが、それも負けた感じになるしな。


「…………………………」

「お前、なんか知ってるか?」

「何で俺が……そもそも呼び出したのがお前だろ?」


 そうなんだが……なんか気持ち悪いな、この感覚。

 ミリンダとの夢の話なら完全に覚えてるのに…………。


「ええと……確か俺の破邪顕正天上天下天地創造極楽風塵掌が、ミリンダの黒く輝く魔王の大剣にぶつかり合って……」

「……だからそれは夢の話だろ? そんなの見たから忘れちまうんだよ。もうログインして確かめようぜ。今日も行くんだろ? 今日は俺も付き合うぜ」


 だから、そんな負け犬のような方法は取れん!


 ここはなんとしても気合いで!!


「そんなにこだわる事か? インすれば5秒でわかるのに……」

「は~ん? 聞こえんなぁ……事実とは常に真実だ。この俺の夢の中に何か隠されてる! 俺はそう考えている! だから止めるわけにはいかん!」

「…………そうか。まあ、そう言うなら……止めといた方がいいと思うが……」


 何か言ってるが気にせず記憶を探る。その夢の映像は鮮明に思い出せる。


 魔王ミリンダとの勝負は熾烈を極めた。いや、手加減した魔王との勝負がだ。

 俺はいちプレイヤー、向こうは魔王。端から勝負になんかならない。


 全範囲に展開された防御無効のレーザーを受けて、瀕死状態になったんだ。

 そして、ミリンダは言った……ん? 何をだ?


 これも思い出せないな。忘れすぎだろ、健忘症か?


「魔王ミリンダとの最後の会話も思い出せない。何か話して俺は負けた筈だ」

「…………夢なのに負けたのか……随分リアリティがあるな」


 何だったか? 倒れ伏して……ミリンダが俺の前に立つ。そして……そして……ん? 会話の前に何かあったな。


 何だったか? それに俺は随分衝撃を受けたような気が……。


「負けたんだから結果PK扱いなんだが……衝撃を受ける位の事……細微塵にでもされたか?」

「……そんなつらい過去は思い出さなくていいだろ? もしそうだったら、お前トラウマもんだぞ。な、もう忘れて俺と飯でも食いに行こうぜ」


 飯か、それいいな。


「奢りか? それとも貢ぐ君か?」

「何言ってんだ? 奢る位いいが……そうと決まれば早速行こうぜ」


 こいつは俺が思考の渦に沈もうとすると、すぐに飯で釣ってくる。

 全く失礼な奴だ。


「バイキングは無しだぞ。遠慮はせんからな」

「どんだけ食う気だよ!? 俺のHPが1になっちゃうから!?」


 HPが1? それ何処かで言われたな……?


「HPが1になる……確かミリンダ、そんな攻撃を……」

「……!? ほ、ほら、行くぞ! 何のんびりしてんだ! 俺も腹減ってんだから! ほらほら! 早くしろって!!」


 いや、急かしすぎだろ? 折角今の言葉で思い出しそうなのに。


(今回は違うんですけど、本来はHPを1にする技なんです)


 そうだ、ミリンダはそう言ってたんだ。そして、俺にそれを……。

 

「……純也?」

「思い出した……あれは夢じゃない……現実にあった事だ」


 ミリンダとの戦闘は事実合った。間違ってるのは俺サイドの不可思議な技名だけだ。


「……バカ言うなよ……そんな突飛な事あるわけないだろ?」

「いや、事実だ。ミリンダはあの後動けなくなった俺に、OOのシステムから魔王のイベント化について、誘拐や家出なんかじゃなく全て俺を捕らえる為の天上院家の働きかけである事を告げたんだ」


 そう、勝てるわけは無かったんだ。


 ミリンダはシステム上は魔王だが、OOのシステムサポートを万全に受けている。

 つまり、倒せないのだ。


「そんな訳ないだろ? ……何で天下の天上院が、お前一人にそんな無駄なことをするんだ?」

「それは俺もわからん。だが、ミリンダ……天上院美玲は言っていた。俺は特別なんだと……どうやら俺は随分好かれてるんだと思うよ、なんせゲームの中とはいえキスされたからな」


 だが、あそこまでされて、それなら何で俺はこれを夢だと思ったんだ?


「そうか……じゃあ、もう遊びは終わりだな」

「ん? なんだって? 思い出した所で飯に行こうぜ?」


 何なら翔が神妙な顔でこっちを見ている。急に空気が重くなったんだが。

 意味がわからないのでそのままスルーして玄関へスキップしながら移動。


「お前……このタイミングで飯は無いだろ?」

「何でだ? すっきりしたし、丁度いいだろ?」

「はぁ……全部済んだら何でも食わせてやるからな……そんな必要もなくなるか……俺を恨めよ」


 靴をはいてたが、本格的におかしくなってる翔を振り返る、いや、振り返ろうとした。


「ーーガ!? し、翔……」


 急に体を襲った衝撃にそれは叶わなかった。


「お前は悪くない、ただ世界が悪かった。だから、俺を恨め、それだけだ」


 意識がなくなる瞬間、俺の腕にはスタンガンと思われる黒い物体が突き刺さっていた。

 

 男の泣きそうな声だけが、何時までも俺の記憶に残っていた。

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