地龍への違和感
トールス達を含む巨大地龍討伐軍の数百名は困惑していた。
高台の平地にて陣を敷き、足止めの為に魔法を一斉に放つが、地龍の四肢に巻き付く太い樹木を吹き飛ばし、剥き出しになった燻んだ赤色のレンガのような甲殻には一切傷が付かなかったのだ。
そこまでは仕方ない。
何せ相手は体長からして300メートル越えの巨大地龍だ、その巨体を支える為の強化魔法は、並みの冒険者達が使用する強化魔法など到底及ばない強度である。
硬い甲殻を更に硬く、強くする強化魔法。
そんな要塞の様な地龍の足を、トールス達緋色の剣は一つのパーティのみで切り落とした。
しかし。
「おいおい、再生すんのかよ」
「リンネ、爆炎魔法合わせて」
「了解。やるよ」
トールスの雷撃を纏った一撃で、地龍の太い足を断ち斬るが、斬り口から蠢く様に樹木が生え失った箇所を再生していく。
それの再生を阻害する為に、ミリアリスとリンネによる爆炎魔法の合わせ技を繰り出すが、魔法で焼け落ちた足すら変わらず再生していった。
「硬い上に高速再生、動きを止めてからって定石は一旦捨てるか。ミリィ、俺ちょっとコイツの頭ぶった斬ってくるわ」
地龍の足が再生するのを目の当たりにして、トールスは地龍の足元から高台の陣地まで跳び上がると、高台から魔法を使用していた恋人と親友にそう言い放ち駆け出そうとして「まてトールス」とパーティメンバーの一人に鎧の首元を掴まれた。
トールスを止めたのはパーティの盾役を担う獣人の青年ゼジル。
人に獣の猫耳と尻尾が生えているエドラの街の冒険者ギルドのマスター、半獣人のミニアとは違う完全な狼型の獣人で、全身濃い灰色の体毛を纏っている。
その体躯は良く鍛え抜かれているが、筋骨隆々というよりは細身の体にしっかり筋肉が付いている印象だ。
普段口数の少ない彼だったが、一つ気に掛かる事があり、トールスを引き止めたわけだ。
「どうした?」
ゼジルに引き止められ、トールスは肩越しに振り返って聞く。
「トールス、地龍が出血しているのを見たか?」
「……いや、そういや見てねえ」
「やはりか。戦闘が始まってからずっと違和感があってな」
「ああ確かにそれは俺も感じてた。なんか生き物と戦ってる気がしねえんだよなあ」
「トールスも感じていたか。俺も同じ意見だ、どれだけ叩こうが反撃の意志すら感じられない。
トールスに足を斬り落とされて、それでもコイツは悲鳴すら出さなかった。
俺たちはいったい何と戦っている?」
「さてな。そこまでは考えてねえよ。とりあえず頭だ頭。どんな生き物だろうが頭潰すか、首斬り落とすかすれば流石に死ぬだろ。
先生達のとこにコイツがいく前に、俺が仕留めてやる」
「ふむ。確かに一理あるな。俺も付き合う」
大剣を担いで走り出し、高台から飛び降りるトールス。
その後に続き腕を覆うような台形の大型盾を両手に装備し、ゼジルも駆け出した。
その後ろを緋色の剣の5人のうち前衛を務める3人の中では唯一の女性が追う。
彼女はゼジルの幼馴染で恋人だ。
ゼジルと同じく狼型の完全な獣人であるフウリが白い艶やかな毛並みをなびかせ、愛用している打突用ガントレットを手にトールスとゼジルに続いて「私も行くー!」と元気な様子で駆けていった。
止める間もなく行ってしまった3人に肩を落とす緋色の剣の現リーダーであるミリアリスは「ああもう、仕方ない。援護しないわけにはいかないし」とリンネに手招きする。
そして、ミリアリスは召喚魔法で呼び出した鳥の魔物に乗り、飛翔魔法で飛んだリンネと共に先んじた3人を追いかけるのだった。




