☆メインストーリー4-2 「倒れた幼なじみ」※挿絵有
~現実世界 住研究 別拠点
部屋の入口に取り付けられた洗面台で顔を洗う。
顔を拭いていると目にクマができた今にも死にそうな青白い顔の少年が映ってる。
俺の名前は那藤 太郎。
真ん中取って淘汰と呼ばれている。
スライド式の扉に手をかざし開くと横一文字に広がる廊下に出た。
この研究所のスミス博士に呼び出しを受けていたのでその部屋まで歩き出す。
ここは地下拠点らしい。
前回までいた研究所は謎のパンダに破壊され逃亡の為小型飛行機で脱出。
国内某所の地下に到着しここに隠れることになった。
その飛行中俺は仮想空間にダイブをしていた。
とある人物により呼び出しを受けたのだ。
そこから色々あって仮想空間からは何とか帰ってくることができたが壮絶な戦いであった。
100億の人類を掌握した宿敵 電脳王彦星。
彼と想定外な事に出くわし戦闘という形となった。
巨大な機械であった彦星。
彼は満を持して【異形化】を行い最終形態である悪魔の姿となり立ち向かってきた。
凄まじい戦力差の中。
学友であった白髪の【厄災軍師】天裁。
彦星と対となる電脳生命体、織姫。
電脳王と兄弟関係にあたる仮面執事Mr.B。
そして現実世界からサポートをしてくれたスミス博士と助手のノア。
仲間達の協力があり信じられない事に奇跡的な勝利を果たした。
だが仮想空間から帰還した俺達にぶつかる問題は山積みであった。
とりあえず話は置いて現在とある報告で急いでいる。
スミスじいさんが要注意人物を確保したそうだ。
その人物がいる部屋の近くまで着くと一人のちび女が話しかけてきた。
織姫だ。
服装や髪型がまた変わった気がする。
「大丈夫?
死んでない?」
そんな彼女の第一声がこれだ。
俺はため息混じりに返答をした。
「挨拶が生存確認というのは皮肉だな」
「顔が真っ白で痩せこけてるから。
いつお迎えが来るか不安なのよ」
「この顔はいつもの事だ」
だる絡みをしながら後を着いてくる。
不機嫌な表情に煽り口調で喧嘩を売ってるようにしか見えないが根は良い奴だ。
目的地に到着しドアを開けると俺は思わず目を見張った。
機械に繋がれベットに横たわる人物。
それは元幼なじみであり人類の脅威と呼ばれた存在。
000(ゼロ)と思われる少女であった。
「そいつは?」
「おお来たか淘汰。
そうじゃよ。
お前さんの幼なじみである神谷だ。
姿は少し変わっておるが間違いない。
地上で巡回していた警備アンドロイドが倒れているこやつを発見した」
横たわる薄桃色髪の少女の近くで端末をいじるじいさん。
スミスは困り顔で状況説明をする。
ベッドの近くで看病をしている助手のノアも表情が少し曇っていた。
俺は事情の確認をする為いくつか質問を投げかけることにした。
~数日後の医療室
「淘汰。
また来てくれたんだね。
000ちゃんはまだ目を覚まさないみたい」
ノアがにこりと出迎える。
博士の助手でありサポートAIアンドロイド。
彼?は飲み物をこちらに持ってきてくれた。
両性という特殊な性別。
その為三人称では彼と呼んでいる。
俺はここ数日中必ず決まった時間に000の部屋に見舞いをしていた。
彼女は目を覚ますことはない。
とある電脳生命体の影響らしい。
織姫と同様生存確認をするかのように顔を覗き込むノアに俺は返事をした。
「フェンリルが意識を封じたらしいな。
全人類精神凍結プログラム。
こいつの影響で電脳王彦星を倒しても人々の意思は閉じ込められたまま。
主を失った執事Mr.Bも突然姿を消した」
彦星戦の直後。
俺はまた意識が飛んでしまった為その後のことはスミス達から聞いた。
話によると後日共に戦った天裁から連絡が入りMr.Bの消息不明が判明した。
スミスじいさん曰く主を持つGMは従う相手を失うと理性を失うらしい。
ただいい知らせも3つある。
一つ目はかつての仲間であるレイブンから天裁宛にメッセージが届いていた事。
彼女は仮想空間の無限回廊と呼ばれる地域で修行を重ねていた。
ただトラブルがあり抜け出せずそれに加え外部から連絡を得る事ができないらしい。
二つ目はそのメッセージに無限回廊最奥にフェンリルが存在し拠点を持っていることが分かった。
これにより俺は現在仮想空間へ行く準備をしている。
三つ目は……
「わん!
くぅーん」
飛び込むように部屋に入り000の足元で座る犬。
圧政者戦で負荷がかかりメンテナンスを受けていた電脳犬ぽちの復活だ。
ノアがぽちの頭を撫でた。
「そういえばぽちって000ちゃんが元々の飼い主だったんだよね。
こんな形で主人とまた再会は悲しいね」
「確か聞いた事がある。
今は織姫が面倒見てるんだろ?」
「そうそう。
織姫ちゃんは残されたぽちを可哀想に思って面倒見てたんだ」
「織姫もいい所あるんだなぁ」
俺は腕を組んで不機嫌そうなあいつの顔を浮かべた。
確かに毎朝ぽちとの散歩が日課。
この地下に存在する研究所内でもシミュレーションプログラムを使って欠かさず散歩をしてると聞いた。
そういえば記憶を失う前の俺が000から渡されたらしいぽちの首輪があった。
それを掴むとぽちの言葉は分かる。
聞いてみようかなと思った時ポケットには何も入っていなかった。
いや、仮想空間で渡されたものだから持っていないのか。
言葉は分からないが俺に対する鳴き声や動きで何を言ってるか何となく伝わってくる。
『000と人類の意識を取り戻す。
何としてでもフェンリルを打倒しようぜ。
ヒョロガキ!』
って感じだな。
部屋の扉が開く音がした。
「何だあんた達も来てたの」
「織姫、お前も見舞いか?」
「000って友達いなそうって思って。
誰も心配しなさそうだから
私が来てやってたの」
織姫はぶっきらぼうに返したがベット近くの花瓶から花を取り替えた。
こいつも何度か来ていたのか?
ノアがニコリと笑いながら彼女に話しかけた。
「ははは。
もっと良い印象の言い方あるのにわざとらしく言うあたり織姫ちゃんぽいね」
「う、うるさいわね」
織姫はぴしゃりと返しながら顔を赤くした。
相変わらず分かりやすいひねくれ屋だ。
突然彼女と目が合い声をかけてきた。
「あんたこそよく来たわね。
記憶を消されたり粘着されたり酷い目にあったんじゃない?」
その言葉に先日スミスと話していた内容が頭をよぎった。
~数日前
何度目かの訪問の時にスミスと顔を合わせることがあった。
「なぁスミスじいさん。
000もとい神谷ってどんな人なんだ?」
「一見大人しい子じゃ。
何でもそつなく出来るが勉強が特に得意じゃな。
テストや模試の点を1点単位で調整出来る。
ただコミュニケーションが苦手。
周囲と馴染めないタイプじゃ」
スミスじいさんは基本人の悪い所はオブラートに多少包む印象だったのだがはきはきと述べた。
もう少し切り込んでみた。
「人の気持ちを理解するのが下手ってことか?
人に冷たいのかな」
「基本興味のない事に淡白じゃな。
じゃが好きなものには異常に執着する。
対人関係に現れとるじゃろ?
000の姿は性格は激化しとるが神谷の本性を示したものだ」
なるほど000の印象しかないが人によって対応の温度差は確かにある。
彦星相手ですらどうでもいいと発言していた。
「俺に手を貸してくれたのは幼なじみだからっていうのがあったのか」
「いやもう一人の幼なじみ速水にはよそよそしい。
交友関係もなく、唯一の家族である父とも上手くいっとらんかったらしい。
常に一人で孤独な印象じゃ」
スミスはタバコを吸いながら目を細めた。
言葉から感じられるのはマイナス面ばかりだがどうも複雑な感情が伝わってくる。
しかし一人って
俺はそんな状態の幼なじみを何故放置していたのか?
「可哀想だな。
過去の俺はあいつにどうしていたんだ?」
「過去のお前さんは色々あって気まずかったらしい」
「それなら今の俺は放っておけない」
「ちょっとそれは……その。
やめとけ。
修羅の道じゃぞ」
スミスは慌てるように首を振った。
確かに俺は000によって記憶を奪われた。
5年間もの時間すら奪われた。
それでも
「少なくとも000には仮想空間のアバターを与えてくれた事。
度々手助けてくれた恩がある。
それに完全に悪いやつとは思えない」
その言葉にスミスはギョロっとした顔をし酷く慌て始めた。
「000の扱いはまだ悩んでおる。
生かすか殺すかじゃ。
人類の脅威と呼ばれておる。
目覚めた時何があるか分からん!」
「じいさんは殺すか悩んだ相手を殺める事はしないと思う。
世界の為に切り捨てるなら既にしてるだろうし」
「その、あのー。
うーんやっぱ親子。
わしもわしで要領が悪いのう。
こりゃもう仕方ない」
スミスは何かと俺を重ねるように見つめていた。
「ん?」
「なんでもないわい!
……頑固親父ならぬ頑固少年」
よく分からないまま会話を進められたうえ怒られてしまったがスミスの表情は何かが吹っ切れたように柔らかだった。
~
「そんなことがあって俺に何かできないかと考えてたんだ。
これからまた仮想空間に行く。
だから時間も限られてる。
でも出来るだけ力になりたい」
俺は000の顔を真剣に見つめた。
その様子に織姫は穏やかに声をかけた。
「記憶を失ってからのあんたは熱血になったわね、顔の血は通ってないけど」
「う、うるさいなぁ。
そういう顔なんだよ」
珍しく織姫が純粋に笑う表情を見せ、思わず固まったが俺も少し頬を弛めた。




