☆導入部分3 ※挿絵有
「それで彦星っていうやつが世界を侵略したの」
黒髪の少女は後ろからずっと追いかけてくる。
俺は制服を着て普段通り学校へ登校していた。
しつこいなこの女。
自身の事を織姫と名乗り支離滅裂な発言を繰り返している。
意味不明だ。
俺は殆ど興味はないが話に付き合う。
「するとなんだ?
その仮想空間っていう所に、世界中の人間が閉じ込められてるのか?」
「そうよ、物分かり良いじゃない」
「いや一切も理解してない。
何だその仮想空間って?
織姫、彦星?
今日が七夕だからジョークを言ってるのか?」
「まさか、仮想空間の事も忘れたの!?
もう耄碌老人じゃない!」
「うっせえ」
ところどころ煽るのが苛つく。
こいつの言い分は俺の記憶にない出来事ばかりだ。
仮想空間という現実と違う場所。
俺が電脳生命体とやらと戦ったこと。
しかも俺は淘汰とかいう名前で"パンダの姿"だったというのだ。
大丈夫なのかこの女?
「あんたは淘汰!
現実世界の名、那藤 太郎でしょ!
忘れたの?自分の名前さえ!」
「何言ってるんだ?
人間に数字以外の名前なんて割り振られるのか?
俺はNo2034 0101 100 110
よく下三桁で110と呼ばれてる」
番号は生年月日+誕生順に割り振られる。
これによって管理されている。
織姫と名乗った女は青ざめた顔をした。
「じゃあスミスが言ってたことは本当だったの……?
でも番号なんかで管理されて嫌じゃないの、だっておかしいわよあんた名前110番よ?
笑えるじゃない。
ああそういえば覚えてる?
私が勝手に携帯を使って110番した時、すごい怒った事」
「知らねえってば。
まあ、確かに勝手に110番されたら怒るけどよ。
でもこの名前は覚えられやすくて気に入ってるんだ。
お、そこにいるのは883じゃん元気してたか?」
俺は幼馴染の男子生徒を見つけ声をかけた。
茶髪で高身長、目立つ印象を受ける見た目だ。
彼は虚ろな目で無機質に受け応えをした。
「110バンサン、コンニチハ、ゲンキ、シテマシタカ?」
返事をしようとすると、恐怖感を露わにした織姫が会話を遮った。
「ちょっと待って!
あんたは淘汰の幼馴染の速水でしょ!?
まさか本当に他の連中と同じくGMと脳みそ交換されたの?」
「何を言ってんだお前?
883は昔からこんな感じだぞ?」
校門が目の前に見えてきた。
入口に担任の先生が見える。
声をかけてきた。
「110バンサン、883バンサン、オハヨウゴザイマス」
「オハヨウゴザイマス」
883、速水と呼ばれた男子生徒が返事をする。
俺も挨拶をしようとすると、織姫が大声で突っかかった。
「烏丸先生!
あんたまでロボットみたいな話し方になって!
これじゃあ本当にこの世に、人間が消えたみたいじゃない!」
織姫はパニックを起こしたのか、烏丸先生の服を掴んだ。
そこにがたいのいい学生が織姫を抑えた。
学級委員長の腕章が付いている眼鏡の男子生徒だ。
「ボウリョクハ、ヤメテクダサイ。
コノ103ガ、ユルシマセン」
「あんたは天歳 才人!
でも喋ってる内容は本人に似ているわね。
じゃなくて、皆本当に脳みそおかしくなったの!?」
「コノオンナハ、イレギュラーデス。
ショチシツニ、ツレテイキマスカ?」
「何よ!
アバター、チャラ民の中身の速水!
レイブンの中身の烏丸先生!
天裁の中身の天歳!
皆!みんなおかしいわよ!」
「シジヲ、クダサイ、ボウソウ、シテマス」
暴れる織姫。
天歳とか呼ばれた学級委員は、取り押さえ先生に指示を仰ぐ。
すると一人の女子学生が校舎から出てきた。
「そうしましょう。
私と愛しき人の世界に、ゴミはいらないもの」
黒髪で華奢、儚げな表情に、光のない瞳が印象的な少女。
こいつも幼馴染の000(ゼロ)、最も仲の良い親友だ。
織姫が彼女に指をさした。
「神谷、生きていたの!?
良かったわ、他の奴らと違って普通に喋れるじゃない!
助けてよ、みんなおかしいの!」
神谷と呼ばれた000はせせら笑った。
「あはは、おかしいのは君だよ。
だって君の事を知る人はここには誰もいないもの。
敵の本拠地にわざわざ特攻してご苦労様。
早く処置室に連れて行きなさい。
私は愛しき人との時間を大切にしたいの。
ねえ?110」
処置室はおかしな行為をする生徒を連れ出す場だ。
しばらくすると大人しい状態で戻ってくる。
当然の処置だ。
この織姫とか言う女は、明らかに頭がおかしい。
2034年生まれの俺を呆けた扱いするし……。
織姫と目が合う。
でもこいつは本当におかしいのか?
矛盾がある。
俺の個体名は2034から始まる。
今年が2055年で俺が17才なのはおかしい。
2039年に生まれていないとおかしいんだ。
しかし俺の認識は2034年だった。
俺がおかしいのか?
ずれが生じている。
でも000とは幼い頃からの仲だ。
嘘をついているとは思えない。
「どうしたの?
110、行きましょ?
今日もあなたと一緒にいっぱいお話したいの」
おかしい。
違和感に気付くと今起きている現象が日常であると思えなくなる。
883は明るく表情豊かな友人であった気がする。
先生ももっと穏やかでドジな印象があった気がする。
学級委員長はもっと熱いイメージがあった気がする。
そして
「000。
いや神谷。
お前との仲は、何か違和感を感じる」
その言葉を言った途端、周囲が静かになった。
神谷は静かに問いを俺にかける。
「110、あなたは不幸になりたいの?
現実を見るなんてつまらないよ?」
俺はそれでやっと理解した。
「織姫を処置室に連れていくならお前らが行け。
お前らこそがイレギュラーだ!」
おかしいのはこの織姫とか言う女じゃない。
この状況だ!
突然周りにいた人々の動きが固まる。
まるで時が止まったみたいだ。
すると突然神谷の姿が変わり、気が動転したように笑い始めた。
「あは、ははははは!」




