☆メインストーリー2-8 「亡者vs圧政者」※挿絵有
自分はこんな人間じゃなかった。
強い憤怒に駆られ変わってしまった。
力で制圧、力で支配、力で粛清を。
気付けば圧政者と呼ばれ始めていた。
しかしそんな自分に残っていた心。
素を思い出させてくれた親友の淘汰。
また一緒に仲良く出来ればなと思った。
でも遅かった。
もう踏み止まることは出来ない。
圧政者と呼ばれたなら筋を通さなければ行けない。
屋敷の屋上にギロチン1つ。
今まさに1人の女性の命を絶とうとしていた。
彼女の連れ犬が大きく吠えたてている。
地球上に存在する人間の意思は消えた。
仮想空間に閉じ込められている。
全部こいつら電脳生命体GMのせいだ。
チャラ民「これより処刑を行う!
【猩騎士団】団長の命令だ!
電脳生命体はこの世から排除する!」
その時だ。
あの親友が突然姿を表したのだ。
~仮想空間・猩騎士団団長宅
奇妙な動きをしている少年。
先程から天井にタックルしてすり抜けるを繰り返す。
というめちゃくちゃな行為をしている。
それはステータス0に与えられた力。
【亡者】の力であった。
足元以外でダメージが発生した時すり抜け効果を得る。
その為幽霊のような動き方をしてるのだ。
現実世界でモニタリングをしているじいさんから声がした。
スミス『聞こえるか淘汰。
上の階に織姫がいる。
その周りに猩騎士団団長と幹部がいる。
わしの計算じゃがこのままの勝算は0じゃけ』
確かに勝てる見込みがないのは知っていた。
ここまではっきり言われると不安になる。
スミス『しかし少し安心せい。
お前さんを信頼しこの仮想空間へ送り出した。
"手段がない"
だけはサポーターとして許されん。
もちろん無いことに対する代替案が存在する。
それはお前さんの【亡者】の力が持つもう1つの力。
最終兵器じゃけ』
~仮想空間・天空都市 処刑場
淘汰「待った!」
屋上の床からすり抜けて視界に飛び込んだのはぐるぐる巻きにされた連れ犬のぽち。
そしてギロチンにかけられそうな織姫だった。
あまりに酷い光景に驚いたが相手の猩騎士団幹部達も同じ反応をこちらに見せた。
まるで幽霊のように物理法則を無視して現れたことに対してだと思われる。
俺はすぐに処刑台にいる電脳生命体の女。
織姫を指さした。
淘汰「異議ありってやつだ。
チャラ民、お前と話をしたい」
俺はスミスじいさんに言われた秘密兵器を信じ立ち向かった。
猩騎士団。
4,000万人で構成される仮想空間最大組織。
目の前に立つ親友はその組織のリーダー。
圧倒的な力を持つ圧政者である。
彼は静かに返答をした。
チャラ民「いいけど淘汰今更何をしに来たの?
結局君は電脳生命体の王を倒せなかった。
姿を消して戻ってきたら今度は記憶を無くして。
チャラ民いや団長はね。
家族や沢山の仲間を電脳王彦星に蹂躙されたんだ」
淘汰「だからと言ってお前は同じ事を電脳生命体にするのか?
圧政者という肩書きで。
なら彦星とやってる事は変わらない」
恐ろしい覇気に押され声が震えるのが分かった。
彼の周囲にいる騎士団幹部も武器に手をのばしている。
処刑台の織姫から声がした。
織姫「圧政者さん。
あんたのやってる事は無駄よ。
確かに死体から抜けたデータは初期化される。
でもGMの神が管理する場所に送られる。
GGM直接管理区域【天獄】
あそこに初期設定のバックアップデータがあるの。
記憶を失うけど私達は復活するわ」
チャラ民「知ってるよ。
性格だけ引き継ぎ戻ってくる。
ただ遺ったGMの体は現実世界に戻る為のエネルギーとして利用できる。
だから猩騎士団と天空都市の住民はGMを処断してきた」
初めて聞く話だ。
GMは死ぬといっても戻ってくるのか。
でも殺していい理由にはならない。
記憶を失って戻るなんて尚更だ。
その辛さは身をもって知っている。
周りの猩騎士団幹部が声を張り上げた。
ビショップ「直ちに奴らを討ちましょう。
親友だからって甘やかすつもりですか?」
カイザー「あまり上司に悪口は良くないですよ。
ただじゃもが不手際で淘汰を逃がした事。
それを込みでだんちょーさんに思う事あります。
私も職務怠慢については黙れませんね」
織姫達を追い詰めた長身の2人組だ。
今にも斬りかかりそうな彼らをチャラ民は諌めた。
チャラ民「手を出すな」
ビショップ「この……!」
チャラ民「親友だからこそけじめをつける。
誰も手を出すな」
彼は俺の方に歩み寄ると睨みつけた。
チャラ民「電脳生命体は悪魔だ。
人間の命をデータ化して仮想空間に転送した。
団長もここに閉じ込められた。
でも適応できない人はどうなったか知ってる?」
チャラ民は声を押し殺して地面を踏みつけた。
大きな揺れと共に地割れが起きた。
チャラ民「うちの家族みたいに植物状態になる。
沢山の人が彦星達によって悲しんだ。
だからこれ以上好きにされる訳にはいかない!
電脳生命体を倒し皆を元の生活に戻す。
退いてよ淘汰」
淘汰「退かない」
チャラ民「退けってば!!」
不意に彼がとある挙動を見せた。
杖の先を剣に当てたのだ。
恐ろしいエネルギーが集まるのが見える。
なにか来る。
体が無意識に反応した。
しかしこのまま避けても食らっても織姫に当たってしまう。
ダメージをすり抜ける体だからだ。
その一撃は容赦なく放たれた。
チャラ民「【覇王剣!】」
空振りに振るわれた剣。
その剣先から生じる凄まじい衝撃。
一連の動きは見えたのに何もすることが出来ない。
誰かの代わりに食らうことすら出来ないのか。
突然目の前を何かが飛んできた。
吠える声が鳴り響く。
ぽち「どけ!俺が守る!」
それは犬の電脳生命体ぽちであった。
爆風と共に鼓膜を劈くような轟音が鳴り響いた。
一拍置きバタンという音。
目を開くとぽちは地面に伏していた。
突然の出来事で頭が真っ白になる。
俺はすぐに駆け寄るとその体を抱いた。
チャラ民「まだ分からないのか!
覚悟もない君には何も守れやしないんだ!
だから早く退けよ!」
様々なものを背負った圧制者。
そして俺を親友と呼んだ幼なじみ。
彼は本来優しい性格であったのだろう。
弱かった自分は何も守ることはできなかった。
だからこそ今の俺に対し覚悟を説いている。
彼には悲しみや苦しみを乗り越えた覚悟があった。
背後から強く響く声がした。
織姫「さっさと殺りなさいよ団長さん。
淘汰、あんたも守れるような体じゃない。
私本当は人間とGMが仲良くなれる未来を見たかった。
でも彦星が倒されてじいさんやあんた達人間が助かるなら悪くない。
今のうち降伏して謝るのが適解ね」
振り返ると冷静な顔が視界に入った。
ギロチンを越しから真っ直ぐ見つめる目が心を刺す。
その時じいさんからチャットが届いた。
スミス『もし諦めるなら話は終わりだ。
ただお前さんに覚悟があるのなら。
わしらもそれに賭けたいと思う』
ここまで導いてくれたじいさん達。
俺らを守ってくれたぽち。
人間と電脳生命体の平和を望む織姫。
彼らの期待に背きたくない。
だが過去のチャラ民と同じく俺も弱者だ。
すると動かなくなったぽちから不思議な声がした。
(諦めるなら弱者だろう。
だがお前にも覚悟があるだろう?)
目の前の覇気に押され忘れていた。
俺はじいさん達に言った言葉を思い出した。
【失った記憶を取り戻したい。
そして現状を変えたい】
気付くと言葉が口から溢れていた。
静かに感情を燃やし始める。
淘汰「こんな俺にも心に誓った物がある」
覚悟を決め息を大きく吸う。
そして突然声がぽちと共鳴した。
「『だから退くものか!』」
強い光に包まれる。
ぽちの体に吸い込まれるような不思議な感覚がした。
憑依体「処刑台とやらはぶっ壊した。
──おいカマガキ来るなら来いよ。
俺様が全部受け止めてやらぁ!」
発せられた怒号。
その姿は犬と人が混ざった獣人であった。




