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初めての道 1

「わかりました」


 ロザンナの力強い返答に、アルベルトは満足げな顔をし、「行くぞ」と歩き出した。


 初めての申請は、「宰相殿には相談はされましたか?」と事務員から思った以上に渋られ続け、「本当によろしいので?」とアルベルトにも散々確認する。

「妃教育を優先すると約束の上だ」とのアルベルトのひと言でやっと事務員が折れ、試験の手続きをしてくれた。試験に関する書類を手にしたことで、ロザンナのやる気は満ち溢れていく。


 別れ際に「ありがとうございます」とロザンナが心から感謝すると、アルベルトは「さっきの約束違えるなよ」と念を押し、去っていった。

 これまでアカデミーに入学すると同時にアルベルトから距離を置かれていたのに、これはどういうことだろうとそこはかとなく不安になる。


 とは言え、花嫁候補としてここにいるのだから妃教育を優先せよと言われるのは当然。ふたつめの条件も自分が知らなかっただけで、もしかしたら花嫁候補が一般の講義を希望した時に王子がこの条件を出さなくてはいけない決まりでもあるのかもしれない。


 しかし、自室に戻りルイーズとの昼食の席についた後、そうではないと知ることになる。ルイーズの話を聞く限り、事務員から妃教育を疎かにしないようにと言われたらしいが、アルベルトから条件を出された様子はない。

 賑やかな食事の途中で、自分が特別なのかと勘違いしてしまいそうだとロザンナはこっそりため息をつく。マリンに恋をしたらどうせ離れていくくせにと、アルベルトを恨めしくさえ思えた。




 午後の授業は、花嫁候補たちの責任者として君臨する眼鏡の女性講師メロディが、初代国王がいかに素晴らしい人物だったかと鼻息荒く話し出す所から始まる。初代学長とは旧知の中でアカデミー建設にも尽力したことなどを細かに語られた。歴代の国王に続き、そして最後に次期国王となるアルベルトの優秀さに触れ、彼にふさわしい女性になりましょうと決起の言葉でしめた。


 他の花嫁候補たちが表情を引き締める中、ルイーズはロザンナの部屋にあった魔法薬の本を読み耽り、ロザンナはその話飽きたわと気怠く窓の外を眺める。

 ルイーズはロザンナの話を聞いてゴルドンに興味をもったらしく、午後の授業が終わったら彼に会いに行ってみようという話になった。

 もちろんロザンナも、試験を受けられることになったと報告をしたかったため乗り気であるのだがアカデミーは広く、ゴルドンがどこで教鞭をふるっているのか検討つかない。


 一般の学生に聞くしかないかと考えていると、ふわりとあくびが出た。その瞬間、メロディ先生と目が合い、ロザンナはしまったと狼狽える。


「ロザンナ・エストリーナ。授業は退屈ですか? それとも自分には必要ないと?」


 まるで心を見透かされたかのようでドキリとする。


「巷では女神ともてはやされているようですが、ご自分でもそう思っているなら驕りですよ。ここにいる誰もが、もちろんあなたも、まだまだ妃として物足りない。あくびなんていう気の緩んだ姿などもっての外です。次回までに反省文を提出すること」


 ちらちらと周りの視線が突き刺さる中、ロザンナは体を小さくさせて「申し訳ありませんでした」と謝罪した。自分を女神などと思ったことは一度もない。授業に対してやる気が起きないのは飽きた以外にも理由ががある。それは、アルベルトが選ぶのがマリンだと知っているから。しかし思いのまま反省文に書く訳にいかず、何を書けば良いのやらと思いを巡らせていると、前方の席に座していたマリンが肩越しに振り返った。


 目が合ったのはほんの一瞬だったが、ロザンナの心に恐怖を植え付けるのに十分だった。薄々、この人生の自分は彼女によく思われていないのではと感じていたが、突き刺さった鋭い眼差しでそれが確信に変わり、どうしてと焦りが生じる。九回目の最後こそあんな態度を取られてしまったが、基本、彼女はロザンナに優しかった。


 何が違うのかと考え、すぐにアルベルトの顔が思い浮かぶ。彼の様子もだいぶ違う。これまでは自分から行かないと彼と話せなかったというのに、今回はあちらから寄って来るのだ。

 その様子をマリンの耳に、もしくはタイミング悪く目にしていたとしてもおかしくない。彼女からライバル視されているのかもと考え、少しばかり虚しさを覚えた。想像が当たっているとなると、今までは恐れるに足りない存在と見なされていたということになるからだ。


 とにかく、彼女の嫉妬は危険だ。あの睨みようだと、一年も経たずに最期を迎えることになりかねない。

 ロザンナはため息とともに、机に突っ伏した。平和に生き延びるためにも、アルベルトが一日でも早くマリンに恋に落ちるのを願ってやまない。

「ロザンナ・エストリーナ!」と再びメロディ女史から大声で名を呼ばれ、ロザンナは「はい!」と勢いよく身を起こした。



 目を付けられないようしっかりしなくてはと気持ちを新たにしたのだが、……それから試験までの一週間、名前を呼ばれ注意を受ける日々が続く。

 ゴルドンに借りていた教本やら図書館の本など、少しでも知識を増やすべく睡眠時間を削って奮闘していたためだ。女史の目には態度の悪い花嫁候補として映っているだろうけれど、そんなことを気にする余裕もないほど、この壁を乗り越えなければとロザンナは必死だった。


 そして試験日を迎え、ルイーズと共に試験会場として指定された大教室へ緊張の面持ちで向かう。集まったのは、ロザンナとルイーズ、それからエレナ・サンハートの三人。エレナはマリンの取り巻きとしてロザンナの印象に残っている。


 筆記試験を終えると持っている能力に分かれて実技試験が行われ、最後に面談となる。ルイーズは水の魔力を有しているため実技試験から別行動だが、エレナとは同じ部屋でまた顔を合わせることとなる。そこでロザンナは彼女が光の魔力を保有していたのを初めて知った。

 筆記試験は自信がなくても、実技に関しては試験官を唸らせることができ手応えがあった。ゴルドンの元で腕を磨いてきた成果をしっかり発揮できたのだ。


 それから一週間後。メロディ先生を先頭に、ロザンナとルイーズは緊張で顔を強張らせながら長い廊下を進んでいく。試験の結果を伝えるために、筆記試験を受けた大教室に呼び出されたのだ。

 不安でいっぱいになっていると、そっとルイーズがロザンナの手を握りしめてきた。同じ心境だろうことは顔を見ればわかるが、それでも励ますように微笑みかける。ルイーズの優しさをしっかりと受け止め、ロザンナも力強く頷き返した。


 一週間ぶりに戻ってきた大教室に足を踏み入れると、そこにはすでに三人の男性がいた。


「来ましたね。ふたりとも」


 最初に言葉を発したのは真ん中に立っていた学園長。豊かな髭を蓄え、まるで魔法使いのような出で立ちだ。学園長の前で足をとめて優雅にお辞儀をしたメロディ先生の姿に、慌ててロザンナたちも膝を折る。

 視線を戻しながら、ロザンナは小さく笑みを浮かべた。学園長の右隣にいるのがゴルドンで、その姿にほんの少し緊張が解けたのだ。


 もうひとりの男性は誰だろうと、ロザンナは記憶を辿る。妃教育に関わる講師以外には詳しくないが、すらりと長い背丈に銀色の髪を後ろで束ねたその姿は目にしている。確かルイーズが先生と呼んでいたと気がついたところで、学園長がロザンナたちに向かって一歩前に出た。


「おめでとう。君たちふたりとも合格だ」


 朗らかに告げられた結果に、ロザンナとルイーズは嬉しさいっぱいに再び手を握り合う。


「彼らは、これから君たちの補佐をする教師だ。妃教育を優先するため、どうしても他の学生に遅れをとってしまうだろう。その分を彼らと補習で補って欲しい」


 学園長は横目でメロディを見つつ、こそこそとルイーズに話しかけた。


「薬学を学びたいそうだな。ここで大いに学んで、王立の魔法薬研究所の研究員を目指してほしい」


 すかさず「学園長!」とメロディから非難の声が上がるも、しれっとそれを無視して今度はロザンナへと顔を向けた。


「聖魔法を使える者は貴重だ。しかも君の才能にみんなが注目している。ぜひ卒業後は王立の……」

「学園長、そこまでにしてください。二人とも優秀な人材である以前に、アルベルト様の花嫁候補です。なによりも卒業後は王太子妃としての道を進めるようにこの一年精進すべきです」


 鋭い指摘に、「それは分かっているが」と学園長がもごもご呟く。


「大丈夫です。私共はアルベルト様の大切な花嫁候補をお預かりする気持ちでいます。決して無理はさせません」


 ゴルドンの言葉に、メロディは気を良くしたように微笑む。


「その言葉信じましょう。それでは私はこれで。ふたりとも明日の講義で会いましょう」


 優雅にお辞儀をして、メロディは大教室を出ていく。一方学園長は、「期待しているからね」と女史の言葉など忘れてしまったかのようにふたりに熱く喋りかける。苦笑いの四人に見送られながら、のんびりとした足取りで立ち去った。


「あの……合格者は私たちだけですか?」


 おどおどとルイーズに話しかけられ、ゴルドンは苦い顔をする。


「はいそうです。貴重な光の魔力をもっているため話し合いは白熱しましたが、あの程度で両立は難しいだろうと判断が下りました」


 エレナのことを思ってしんみりとしたロザンナとルイーズへ、もう一人の男性教師が笑いかける。


「あなたたちは選ばれのだから、彼女のぶんまでしっかり学べばいいのです。さぁ、明日から頑張りましょう」


 男性教師はルイーズを手招きして、用意してあった教本を説明し始めた。ロザンナはゴルドンと向き合い、茶目っ気たっぷりに笑いかける。


「ゴルドンさん、私、やりました!」

「あぁ、本当に自慢の愛弟子だ」


 やっとロザンナの心が緊張から解き放たれた。感じる不安はほんの少しだけ。これからがとても楽しみで胸が震えた。




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