第6話 旅立ち、そして決意
「坊主、気をつけてな。近くに寄ることがあったら顔を出せよ!」
「そうね。少し遠いから気軽にという訳にはいかないけれど、よかったらまた来て頂戴」
バレン村滞在から8日、今日は街への定期馬車の出る日だ。
俺は村の門の前で、ダグラス夫妻との別れを惜しんでいる。
「はい!お世話になりました。落ち着きましたら絶対連絡します」
「キュ〜(れんらくするよ)」
短い間だが、ダグラスさんとアリシアさんには本当にお世話になった。
またいつかこの村を訪れようと固く決心する。
しばらくして馬車が到着、見た目およそ7、8人程が乗れる大型の馬車だ。
ミウを頭の上に乗せ、馬車へと乗り込む。
料金は前払いで銅貨30枚。
御者に銀貨1枚を払い、銅貨70枚のお釣りを貰う。
ちなみに、支払った銀貨は今までの狩りで稼いだお金だ。
ダグラスさん曰く、「訓練とはいえ、坊主が倒した獲物だ。報酬は報酬として受け取れ。」とのこと。
だが、こちらは教えを受けている身、さすがに全額はもらえないので、交渉の末、売却額の半分をもらうこととなった。
合計で銀貨3枚。ということで、現在の所持金は馬車運賃を差し引き、銀貨2枚と銅貨70枚である。
「じゃあお元気で。いつかまた寄らせてもらいます」
「キュ〜(またね)」
ダグラスさんとアリシアさんが見えなくなるまで、僕は手を振り続けた。
現在、ベラーシの街に向かう定期馬車の中で揺られている。
乗客は俺とミウのみ、いや、ミウは乗客とは言えないから1人かな、タダで乗れたしね。
「お客さん、街へは何しに行かれるんで?」
乗客の退屈を紛らわそうとでも思ったのか、小太りの御者が声をかけてきた。
「冒険者ギルドに登録して、冒険者になろうと思ってます」
「そうですかい、冒険者になるんですかい。大変だと思いやすが、頑張ってくだせい」
言い方にあまり感情がこもっていない。
どうも俺の体格を見て、無理だろうなと思っているのかもしれない。
「ヒヒーン!」
2頭の馬が何やら叫びだした。御者が慌てたように俺に向かって注意を促す。
「お客様、どうやら魔物がこちらに向かって来ているようです。振り切りますんでしっかり捕まってておくんなせい!」
馬2頭に引っ張られ、馬車は全力で駆け出す。
追いかけてくる相手が見えてきた、ワイルドウルフだ。だがどうも数が多い。
「駄目だ! 囲まれちまいやした!! こんなに頭のまわる魔物じゃあねえはずなのに……」
逃げる先にもワイルドウルフが数匹見える。
「ここいら一帯は安全なはずなのに……。何てついてねえんだ! くそったれ!!」
御者は多少パニックになっている。
「おじさん、降ろしてください。俺たちが何とかします」
どうして良いか分からずも、御者は俺の指示どうりに馬車を止める。
ワイルドウルフは狩り慣れているが、ここまで多くの相手をするのは初めてだ。
およそ30匹。だが、やるしかないだろう。
「いくぞ! ミウ!!」
「キュ〜!!」
俺たちを囲むように距離を縮めてくるワイルドウルフ。
これだけの数だが、かなり統制が取れている。
何処かにボスがいるのか? どいつだ?
注意して観察すると、奥の方に多少毛並みの違った1回り大きいウルフがいた。
ウルフリーダー LV10
HP :600
MP :0
力 :150
体力 :300
かしこさ:120 (+60)
運 :50
スキル :指揮の才能(小)
こいつだ!!
「ミウ!!」
「うん、わかったよ!!」
ミウにもその存在が分かったらしい。
目標は決まった!
リーダーを倒してしまえば統制は取れなくなり楽に勝てるだろう。
だが、どうやってあそこまでたどり着く?
下手な考え休むに似たり、やってみるか。
俺は集中し、詠唱を始める。
「土よ集え! アースウォール!!」
馬車を囲い、そこから一直線に俺とウルフリーダーを結ぶように左右に壁が発生した。
これで、ウルフリーダーにたどり着くまでに邪魔なワイルドウルフは、3体のみである。
「キュ〜!」
ミウが水属性魔法、ウォーターレーザーを使う。
以前と違って命中精度は上がっている。目の前の1匹の頭を貫いた。
すかさずその1匹を飛び越え、2匹目を切りつける。
シュパッ!!
ワイルドウルフの首が飛ぶ!
その後ろから飛びかかるワイルドウルフも、返す刀で袈裟斬りにする。
これで目の前にはウルフリーダーのみだ。
「ニンゲンめ、やりおるわ。だがオレをこいつらと同じと思うなよ!」
「何! こいつ話せるのか?」
一瞬気を取られたところにウルフリーダーが飛びかかる。
ザシュッ!!
ウルフリーダーの牙が肩口をかすめる。
「大丈夫!?」
ミウが不安そうに声をかける。
大丈夫、大した傷じゃない!
「言葉が分かるのなら聞いてくれ、ここは退いてくれないか」
俺はウルフリーダーに話しかける。
「おろかなるニンゲンの子よ。元来オレの種族とニンゲンは戦う運命なのだ。それがたとえ負け戦だとしてもな。降伏、和解など無いと思え!!」
そう言うやいなや、再度ウルフリーダーが襲いかかってきた。
意表をつかれてない分、今回は余裕で避ける。
「別に俺は君たちに恨みもない。この場を退いてくれれば手を出さない約束はする」
「はなしをきいてよ!」
ミウと供に再度説得を試みるも、
「くどい!聞く耳持たぬ!!」
ウルフリーダーが吠える。
どうやら説得は難しいようだ。
「わかった。では雌雄を決しよう」
俺はウルフリーダーを倒すことを決心する。
土の壁もそろそろ消える頃だ、感覚でわかる。
「ガアアアッッ!!」
本能の雄叫びを上げ、ウルフリーダーが突進。
俺を噛み砕こうと大口を開ける。
「やあああっ!!」
気合で負けじと、目の前に迫るウルフリーダー目掛けて剣を振り下ろす。
スパァン!!
ウルフリーダーは見事に真っ二つ。
血飛沫が舞う。
それと同時に土の壁も消え、残りのワイルドウルフが視界に現れる。
だが既に統制の取れている状態ではなく、俺とミウの敵ではなかった。
「お客様、ありがとうごぜいやす。もう駄目かと思ってやしたんで、命拾いさせていただきやした」
御者はしきりに俺たちに感謝の言葉を述べる。
「いやぁ、大事無くてなによりです」
「キュ〜♪(よかったね♪)」
「しかしお客様はお強いですな。冒険者としてもきっと大成なさると思いやす」
手のひらを返したように褒めてくれる。
「冒険者か……」
俺は先程ウルフリーダーが残した言葉が気になっていた。
言葉を解する種族がいるというのに、本当に人間と分かり合えないのだろうか。
それとも彼らが特殊なだけだったのだろうか。
俺は仲良く出来るのならば仲良くしたいと思う。
たとえそれが甘いと思われていても……。
現にこうしてミウとは種族は違えど仲良くやっている。
それどころか、かけがえのない相棒だ。
人間だって良い人間、悪い人間がいるように、他種族でも良い種族がいるはずである。
これから冒険者としていろいろな出会いがあるだろうが、その信念だけは持ち続けようと思った。
ご意見・ご感想お待ちしております。




