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第50話 初めての遺跡探索

 地下遺跡は思ったより広く、人が三人くらいは並んで歩ける広さを持っていた。周りには何を表しているか分からない壁画が描かれていた。

 その広めの通路を、俺たちはゆっくりと進んでいく。


 先頭にはブラックソウルの二名、後方にもブラックソウルの二名が隊を守るように歩いている。

 どうやら本当に俺たちを居ないものとして扱うらしい。


「……焼く?」


「いや、焼いちゃ駄目だから」


 ミサキの半分冗談(だと思う)のセリフを却下しつつ、俺たちも進んでいく。

 途中、壁画や怪しい壁を調べるために立ち止まるので、進行速度はかなり遅めだが、出発から約一時間、特に何事もなく今のところ平和である。

 まあ、何事かあったら困るのだが……。

 しかし、そのために俺たちがいる訳なので、気は抜かないように心がける。


 そんな事を思っていた時、周りの歩みが止まった。

 見ると、正面には大きな石の扉が道を塞いでいた。その扉の横には、なにやら怪しい出っ張りがある。


「わかったぜ! これがスイッチになっているんだ!」


 勢いに任せて出っ張りを押そうとするブラックソウルの一員を調査員が慌てて制止する。


「待ってください! 我々が調べますので……」


 その言葉が終わるのを待たずして辺りを調べ出す調査隊の面々。


 しばらくして、皆に扉の正面から離れるように指示を出し、壁の一部のくぼみに手を入れた。



ゴゴゴゴゴゴ……



 二枚の石の扉が見事に左右に開かれる。どうやら成功したようだ。


「じゃあ、あの出っ張りは何だったのだろう?」


 俺の独り言にタリオンさんが答えてくれた。


「トラップですね。床をよく見てみると継ぎ目があるのが分かりますか? おそらくアレを押した途端に床が崩れますよ」


 確かに、よく見ると床の継ぎ目が不自然で、扉の正面を覆うようになっている。


「慣れれば、簡単なものはすぐ分かるようになりますよ。何事も経験ですね。仕事柄、私どもはその経験が長いだけですから……」


 いや、経験といっても死んだら終わりだと思うんですが……。

 何かダンジョンに入るのが怖くなってきた。


「……大丈夫。罠探知の魔法ならある。」


 そうミサキが教えてくれた。

 ただし、探知はできるが、物理的な罠に対しては魔法で解除できないとのこと。


「……罠が分かればそこを避ければ良い。安全」


 君子、危うきに近寄らず、という事のようだ。

 でも、どうしても解除が必要な場面に出くわした時の為、罠解除の知識は持っておいて損はないだろう。

 今回、勉強させられることが多いなぁ……。


 開いた扉から中に入ると、そこは一つのフロアになっており、奥に新たな扉が見える。

 しかし、その扉の前の床に、何やら黒い染みのようなものが広がっている。

 ――何か嫌な予感がする。


「カナタ! 来るよ!」


 ミウが叫ぶと同時に、その黒い染みから人型の何かが這い出てくる。紫色の肌はよく見ると所々が腐食しており、見ていて気分の良いものではない。



グール  LV25


 HP   :200


 MP   :0


 力   :200


 体力  :-


 かしこさ:5


 運   :5


 スキル:強酸

     再生


 


「おら、行くぜ! 野郎ども!」


 リーダーらしき男の掛け声と供に、ブラックソウルの面々がグールに向かっていく。

 それを見た俺たちは、彼らに攻撃を任せて調査隊の守りに入る。


「おらっ!!」


 先頭のグールの頭を飛ばす。残りの三人も次々にグールを斬り飛ばしていく。これなら大丈夫だろう。

 俺は、この時そう思ったのだが、どうやらそれは間違いだったようだ。


「……カナタ、たぶん彼らでは無理」


 ミサキの発言通り、頭や手を斬り飛ばされたグールは、何事もないかのように前進、攻撃を続けていた。中には斬り落とされた頭を拾って、元の場所に再度付けているグールもいる。見るからにグロい光景、どうやらブラックソウルの攻撃は効いていないようだ。


「ミウ、ミサキ! 援護を頼む!」


 俺は剣に聖属性の魔力を込める。

 グールといえばおそらく弱点はこれだろう。



シュッ! 



 ミウから聖なる矢が放たれ、グールに一撃を加える。

 攻撃した部分から白煙が舞い上がる。



シュパッ!!



 属性剣でのスラッシュで、正面のグール三匹を横一線に両断する。

 両断されたグールは白煙とともに消滅する。やはり聖属性が弱点なようだ。


「後ろへ!」


 俺の声を聞き、ブラックソウルの面々が後ろへ下がる。

 何人か怪我をしているようだが、命に別状はなさそうだ。

 俺は続けざま、正面のグールに斬りかかる。


「……カナタ!」


 さらに何匹か倒したところでミサキが俺を呼ぶ。

 俺はミサキの意図するところが分かり、後ろへと下がる。


「……ファイアストーム」



ゴォォォォッ!!



 高温の炎の嵐がグールすべてを巻き込むように発生、その姿が炎により見えなくなる。




 しばらくして、炎が収束し視界が開ける。

 生き残ったグールは三匹のみ、後方にいた為、炎に巻き込まれるのをまぬがれたのだろう。

 俺はダッシュで近寄り、一匹ずつ片付けていく。

 グールの速度は早くないので、後は簡単だった。



 すべてが終わり、俺はミウとミサキの元へと戻る。


「……任務完了」


「カナタ、おつかれさま♪」


 二人に暖かく出迎えられる。

 「ぴょん」とミウが所定の位置|(もちろん俺の頭の上)へと飛び乗った。


「お疲れ様でした。おかげで大した被害もなく先に進む事が出来ます」


 タリオンさんが俺たちにねぎらいの言葉をかけてくれる。

 状況としては、ブラックソウルの人達が多少怪我をした程度で、被害は最小に食い止められたようだ。

 彼らは、怪我をした事よりも、俺達に助けられた事の方がショックみたいだが……。


「たまたまだ! たまたま魔法職に有利な敵が出ただけだ! 次だ! 次を見てろ!」


 目が合うなり、いきなり大声で捲し立てられた。

 これだけ元気なら何も問題ないだろう。


 この時の俺の安堵の表情が、どうも彼らには気に入らなかったらしい。

 どうやら馬鹿にされたように捉えられてしまったようだ。


「笑っていられるのも今のうちだ! 次の戦闘では嫌という程、俺たちの凄さを見せつけてやる!」


 何を言っても悪い方向に捉えられてしまいそうなので、とりあえず彼らとは一旦距離を置くことにする。


 そういえば、グールの出現地点だが、いつの間にか消えていた。

 特に浄化はしなかったのだが、遺跡の罠とはそういうものなのだろうか?

 まあ、何もせずに消えてくれるのであれば、こちらとしても有り難いことなのだが……。




「しばらくここで休憩します。本日はもう少し進みたいのであまり長くは休めませんが……。よろしくお願いします」


 タリオンさんの言葉を聞き、俺たち三人はその場に腰を下ろす。

 まだ遺跡探索は始まったばかり、休める時は休んでおこう。

 今後のことも考え、俺たちは静かに体を休めることにした。





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