第22話 金ピカ
あれから数度の戦闘を行い、俺たちは2階層に続く道にたどり着いた。
1階層の敵は、スライムや蝙蝠の魔物など、それほど強い魔物ではなく、ここまでは順調に進んでいる。
いよいよ2階層は、目的であるビーストの生息区域だ。
ギルドで見てきた資料によると、ビーストはパワー型の魔物で鋭い牙が特徴、突進に注意と書いてあった。
それを止める為の作戦は事前に立てた。
実際に成功するかは分からないが、無いよりはましである。
「よし、降りよう」
俺たちは2階層に降りていった。
なんだろう? 2階層に降りて多少雰囲気が変わった。
通路の雰囲気も、洞窟では無く迷宮といった感じに変化した。
「……階層ごとに地形の作りは変わることが多い」
ミサキが教えてくれる。
そうなる理由は解明されていないとのこと。
「すごいね♪ ワクワクするね〜」
初めての景色にミウがはしゃぐ。
斯く言う俺も少しワクワクしている。
いままで物語やゲームでしか体験できなかったダンジョン攻略である。
ワクワクしない方がおかしい。
「魔物も強くなっているだろうから、慎重に進むぞ!」
自分にも言い聞かせるつもりで、2人に注意を促す。
「……大丈夫。私にかかれば無問題」
ミサキは相変わらず自信満々である。
そんなミサキを頼もしく思いつつ奥へと進んだ。
しばらく進むと、何やら気配を感じた。
「何かいる。気をつけろ!」
俺は2人に警告する。
分かっているとばかりに、ミサキも杖を構える。
ミウも臨戦態勢だ。
ザッ!
気配の正体が現れる。
金ピカ鎧で身を包んだ小太りの青年が、1人のメイドを引き連れていた。
拍子抜けをしている俺たちを見て、その青年は口を開く。
「サツキ、何やら貧乏臭い格好をした奴らがいるぞ」
「はい、ミューラー様。でも仕方がありません。ミューラー様から見れば皆みすぼらしいのですから」
「なるほど。それもそうか」
「はい、その通りでございます」
何だこいつら。腹立つ以前に関わりたくないなぁ。
ふと後ろを振り向くと、ミサキが術式を展開しようとしている。
「……殺っちゃっていい?」
いや、殺っちゃダメだから!
慌ててミサキを止める。
「……残念」
半分冗談だったのだろうが、最近のミサキの冗談は心臓に悪い。
ミウが真似する前に、ぜひ自重して欲しいものである。
そんなやり取りをしていると、何やら金ピカが話しかけてきた。
「おい庶民。そのようなチャチな格好でまさか冒険者とは言うまいな。小娘とペットまで連れて遠足か? 死にたくなければ引き返した方が良いぞ」
にやけ顔でイヤミを言ってくる。
「カナタ、あの人は何であんなことを言うの?」
ミウが俺に質問をしてきた。
このまま関わるとミウの教育上よろしくないな。
そう考えた俺は、適当にスルーすることに決めた。
「ご忠告ありがとうございます。では俺たちはこれで…」
そう言い、不満顔のミサキを宥めながらその場を立ち去ろうとするが、そううまくはいかなかった。
「待ちなさい! ミューラー様は貴方達に引き返せと仰せです。今すぐ引き返しなさい!」
……面倒くさいなぁ。もういいか。
そう思った俺は取り繕うのをやめた。
「いえ。貴方達に命令される謂れはないので…」
「なんですって!」
メイドが懐から短剣を抜く。物騒だな、このメイド。
一応ステータスを確認しておくか。
サツキ LV25
HP :900
MP :50
力 :300
体力 :400
かしこさ:450
運 :30
隠密行動
急所狙い(クリティカル率+10%)
地走り (すばやさ +20%)
ミューラー LV7
HP :250
MP :100
力 :70
体力 :70
かしこさ:120
運 :800 (+600)
強運の相(運 +補正)
金ピカ弱っ!
怖いのはメイドの奇襲だが、対面での膠着状態ではその利点は半減する。
油断さえしなければ大丈夫だ。そう思い臨戦態勢に入る。
その時、金ピカがメイドに声をかける。
「サツキ、相手にしなくて良い。野垂れ死ぬのは庶民の自由だ」
「はい、そのとおりでございますね。ミューラー様」
メイドから殺気が消える。
金ピカは「ふんっ!」と俺たちを一瞥しながら、横を通り過ぎ1階層へと向かっていった。
「嫌な感じだね」
ミウがぶすっとしている。
その姿も可愛いかったが、撫でて落ち着かせてあげる。
「ああいう人もいるのさ。仕方がないよ」
俺たちは、気持ちを切り替えて奥へと進んでいった。
「グルルルル…」
金ピカから分かれて半時ほど、俺たちはビーストと対峙している。
思ったより大きい体躯に剥き出しになった鋭い牙、2本足で立つ様はまさに野獣である。
ビースト LV12
HP :800
MP :0
力 :200
体力 :400
かしこさ:60
運 :50
スキル :猛突進
「フリーズ!」
ミウの水属性魔法が発動、敵の足元が凍っていく。
作戦通り、これで少しは足止めになるか。
俺はダッシュで駆け抜け、先頭のビーストの首を飛ばす。
残りの2匹はミサキの魔法により狙い撃ち、頭を飛ばす。
見事一瞬にしての勝利、作戦勝ちである。
ビーストの倒れた場所には毛皮が現れた。どうやらドロップアイテム扱いらしい。
頭を狙ったため、傷一つない状態で手に入った。
俺たちはしばらく2階層で戦闘を行い、毛皮を十数枚手に入れた。
苦戦という苦戦は一切しなかった。
「もう少し深い階層でも大丈夫そうだな…」
次の依頼はもっと深い階層の依頼を受けることにしよう。
「……無問題。私もミウもいる」
よし、決定だ。
ただ、その前に図書館には行きたいな。
異世界では何が起こるかわからない。戦闘力もしっかり強化しないとね。
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