第17話 戦闘を終えて
「ごめんなさいね。まさかそんな状況になっているとは…」
ミウを膝の上に乗せながら、アリシアさんが申し訳なさそうに謝罪する。
「いえ、結果無事でしたから気にしないでください。それに良い経験にもなりましたから」
嫌味ではなく、素直な気持ちでそう答える。
実際、大量の経験値によって、レベルも15まで上がった。苦労した分、身入りも多かったようだ。
「う〜ん、でもこのままじゃあ私の気が済まないわ。そうだわ!王都の図書館の閲覧権限なんてどうかしら? 禁書エリアに入れるように紹介状を書いてあげる」
「いや、本当に気にしなくて――」
「若い子が遠慮をするものじゃあないわ。元々こちらに落ち度があった訳だし、遠慮なく受け取っておきなさい」
流石にそこまで言われたら断るのも気が引ける。
俺は厚意を受け取ることにした。
王都か、後で行ってみよう。
「………」
ミサキが先程から、じっとアリシアさんを見つめている。
その視線に気づいたのか、アリシアさんがミサキに話しかけた。
「ミサキちゃん……だったかしら。あなたも討伐の手助けをしてくれたのよね、ありがとう。もちろん報酬はミサキちゃんの分も出すから安心してね」
「……いえ、私とカナタはパーティー。報酬はいらない」
アリシアさんは、微笑ましいものを見たかのように俺に話しかける。
「あら、カナタくん。もう仲間が増えたのね。しかもこんなに可愛い女の子。意外に手が早いのかしら?」
「いや、そんなんじゃあ無いですよ! 確かに信頼の置けるパーティーメンバーが増えたとは思いますけど…」
アリシアさんのからかいに、俺はしどろもどろになる。
そこへミサキがぼそっとつぶやく。
「……アリシア=ローゼリア、ガルド王国の至宝とまで呼ばれた王都の宮廷魔術師長。20歳の若さでその地位まで上り詰めるが、突如結婚・引退宣言をし失踪。まさか会えるとは…」
えっ!? アリシアさんってそんなに凄い人なの?
「あら、若いのによく知ってるわね。あの頃は私も若かったわ」
アリシアさんが微笑む。
「ただ、今の私はただのアリシアよ、バレン村のね」
「あら、じゃあミハルさんの娘さんなのね。そう言われると確かに目もとが似ているわ。ミハルさんは元気かしら?」
「……母は5年前に亡くなった…」
ミサキが少し悲しげに返答をする。
「そう…。ごめんなさいね、嫌なことを思い出させてしまって…」
ミサキが首を横に振る。
「……『アリシアのような最高の魔術師になりなさい。』が魔法を教えてくれるときの母の口癖。……会えて嬉しい」
「まあ、嬉しいわ。じゃあ今日の夕食は、腕によりをかけて作っちゃおうかしら」
「……私も手伝う。料理は得意」
2人は意気投合し、盛り上がっている。
ミウはアリシアさんの膝の上で夢の中だ。
――ユニ助の様子でも見てくるか。
1人取り残された感じの俺は、ぼっち仲間のユニ助でも捕まえようと立ち上がる。
しかし、回り込まれた。
「カナタくん。ミサキちゃんをしっかり守ってあげなきゃダメよ! 男の子なんだから」
「……カナタはいつでも私を守ってくれている。無問題」
何やら雲行きが怪しくなってきた。俺は戦略的撤退を試みる。
しかし、回り込まれた。
「ミサキちゃん、男はしっかり手綱を握っていなきゃダメよ! そうしないとすぐ他の女に目が行くの。そういう時にはしっかりお仕置きが必要よ。この前のダグラスときたら…」
「……大丈夫、カナタはもう私にメロメロ。幸せな家庭を築いていける」
いや、メロメロ、しかも家庭って!?
第一まだ会ったばかりだし、そういう雰囲気は一切無かったぞ!
「……無問題。愛は時間を超越する」
だから、人の心を読むなって…。
今日はもう遅いので、アリシアさん宅で1泊することにする。
疲れた体を癒すため、今日は早めに布団に潜る。
「くぅ〜」
隣にはミウ、すでに眠っている。相変わらずよく寝るなぁ…。
ミサキはアリシアさんの部屋で寝ている。
まだガールズトークをしているのだろうか? あれはもう勘弁して欲しい。
そうこう考えているうちに、俺は深い眠りに落ちていった。
「久しぶりでちゅね。元気そうでなによりでちゅ」
俺の目の前には(ロリ)女神様。
ここはどこだ?
「ここはあなたの夢の中でちゅ。女神でちゅから、こんな事も出来るでちゅよ」
なるほど、理解しました。
「理解が早くて助かるでちゅ。ところでミサキちゃんとは会ったでちゅね」
「ええ、今はパーティを組んでいます」
「出来ればずっとパーティーに居させてあげて欲しいでちゅ。私からのお願いでちゅ」
どういう事だろう?
「詳しいことは言えまちぇんが、あの子には信頼できる仲間が必要でちゅ。幸いあの子はカナタを気に入ってるでちゅ。どうかよろしく頼むでちゅ」
詳しいことは分からなかったが、俺はもちろん引き受けることにした。
特に断る理由もない。
「ありがとうでちゅ。お礼にいいものをあげるでちゅ。別荘拡張機能でちゅ」
「別荘拡張機能?」
「そうでちゅ。カナタちゃんのレベルが上がれば、上がった分だけ別荘が広く便利になっていくでちゅ」
今でもかなり便利なのだが、良いのだろうか。
あまりに便利だと、異世界にいることを忘れそうだ。
「いいのでちゅ。有効に使って欲しいでちゅ」
女神様の声が少しづつ遠くなっていく。
「今日はこれでお別れでちゅ。…そうでちゅ! 言うのを忘れていたでちゅ。 女神の加護は3人にしか与えてないでちゅ。 残りの1人も良い子なのでステータスに関しては心配ないでちゅよ〜〜」
その言葉を最後に俺は目を覚ました。
横ではミウがまだ寝息を立てている。
窓から差し込んでくる日差しが眩しい。
俺はそろそろ起きようと、大きく伸びをした。
「さて、今日はミサキを別荘に連れて行くか」
おそらく拡張されているであろう別荘に、今日ミサキを招待することに決めた。
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