攻勢
――鳴り響く警告音で目がさめた。
舞奈は拳銃を手にしながらベッドから飛び起きる。
「警報よ!」
隣でスレンダーな胸元をシーツで隠したレナが叫ぶ。
「基地が襲撃を受けてる……きゃ!?」
レナの背中を抱き寄せて床に転がる。
次いで野良猫が悲鳴をあげて逃げ出した直後、枕元の壁が轟音と共に吹き飛んだ。
開いた大穴から、暗い緑色をしたソードマンの上半身が姿をあらわす。
「女の子の、寝室の壁ぶちぬいて出歯亀か? いい趣味してるな!」
すばやく拳銃を構え、巨兵の上半身と下半身の隙間に狙いをさだめる。
自身の女の子らしさとは程遠い引き締まった身体が丸見えではある。
だが構っている場合ではない。
拳銃が火を吹く。
大口径弾が装甲の隙間を穿ち、巨人の動きが鈍る。
「効くのかよ!?」
大口径とはいえ、拳銃弾で装脚艇のエンジンが打撃を受けたことに驚く。
宇宙の技術で魔力を生み出すPKドライブの耐久性は、舞奈が知るエンジンよりむしろ精密機械のそれだ。
だが、それでも停止させるには至らなかったらしい。
鋼鉄の悪鬼は2人の少女めがけてゆっくりと手をのばす。
「どいてなさい!」
レナが巨人の前に立ちふさがり、舞奈に白絹のような背中をさらす。
なだらかなカーブを描く肩からのびる細い腕で、鋼鉄の掌めがけて石を投げる。
少女の無駄な抵抗をあざ笑うように、敵機の砲塔の上のカメラが光る。だが、
「野牛!」
叫びとともに、石に彫られたルーンが輝く。
石はそのまま輝く砲弾と化し、光の軌跡を描きながら巨人めがけて突き進む。
粒子ビームは突き出された巨人の掌を砕き、勢いのまま胴を穿つ。
スクワールとの戦闘で多用した【雷弾】の魔術。
彼女もプロの魔術師だ。舞奈が気づかぬうちにルーン石を握りしめていたのだ。
「ヒューッ!! ハートをぶち抜きだ!」
「あんなの初歩の魔術よ。それより、はやく機体のところに行ったほうがいいわ!」
腰を浮かせるレナに、
「ああ、服を着てからな」
舞奈は口元に笑みを浮かべて言った。
そして細く白い背中を見やりつつ、手を回してスリットをなぞった。
そして数分後。
「ボーマン! 爺さん! 無事か!?」
舞奈とレナはハンガーに転がりこんだ。
レナは黒い制服を身にまとっている。
頬に平手の跡を刻んだ舞奈もいつものコートを着こんでいる。
『おう! 嬢ちゃんたちも無事か! ……どうしたんじゃその顔は?』
『こっちは準備できてるよ! あんたたちも機体に早く!!』
拡声器がサコミズとボーマンの声で叫ぶ。
一足先に起動した味方機のカメラが2人を見やる。
重機関銃を構えた3機の鹵獲機、そして鋼鉄の翼を背負ったカリバーン。
遠くで戦闘を思わせる砲声と爆音が聞こえる。
他の鹵獲機は既に交戦中なのだろう。
舞奈ははすばやく乗降用のリフトに跳び乗る。
リフトが上昇するのももどかしく、スクワールの背面に位置するコックピットハッチに転がりこむ。
レナも負けじとランドオッタに乗りこみ、起動させる。
そして4機と2機の目前で、巨大な倉庫の、航空機用と思しき巨大なハッチが開く。
外には数機のソードマンが待ち受けていた。
それをⅣ号戦車の車体に無理やり搭載した魚の骨が焼き払う。
飛行の魔術で重いレーザー砲を背負って飛ぶことはできないので、レジスタンスの自走砲として活用することになったのだ。
整備された基地内であれば戦車も活用できる。
『ここはワシらが引き受ける! 嬢ちゃんたちは行くんじゃ!!』
「了解よ! わたしは魔帝を倒す。あなたたちの為じゃなくて、わたしの為にね!」
宣言し、レナは「車輪」と唱える。
ランドオッタの脚部と安定化装置に彫りこまれたルーン文字が輝く。
飛行の魔術【浮遊】で生成された斥力場が、猫型の復刻機を空へと押し上げる。
そして猫は脚部の推進装置を吹かして飛んだ。
次いでカリバーン5号機の背に光の翼が生え、機体を宙に浮かばせる。
こちらは異能力【鷲翼気功】。
それに加えて元からあった鋼鉄の翼に内蔵された4機の融合エンジンが火を吹き、4号機は復刻機を追って空を駆ける。
その直後、鹵獲機の1機が斬撃をくらって爆発した。
「野郎! 好き勝手しやがって!」
剣を構え直す敵機を機銃で蜂の巣にしながら、スクワールは屋外に走り出す。
コンソールパネルに増設された計器が、大型ヴリル・ブースターの出力が順調に上昇していく様を映し出す。
スクワールが飛べるようになるまで、少しばかり時間がかかる。
そうするうちにも鹵獲機が止めきれなかった敵機が殺到する。
サコミズ機の重機関銃が応戦する。
だが敵の数が多すぎる。
思わず舌打ちする。
今の舞奈に、この切迫した状況を打破して友軍を救うことはできない。
『――なあ、嬢ちゃん。ずっと昔にな、ワシにも思い人がおったのじゃよ』
「なんだよ爺さん、やぶからぼうに思い出話か?」
モニターに不意に映ったサコミズに、焦りを押し殺していつもの軽口を返す。
だが老人は寂しげな瞳で舞奈を見やり、
『その頃アルバイトをしていたワシの、雇い主の娘じゃった』
懐かしむように言葉を続ける。
『可憐な花のように笑う、可愛らしい娘じゃった。彼女はワシの天使じゃった。身分も年齢も違うその娘に、ワシは想いを伝えなんだ。彼女を遠くから見守って、仕事のことで怒られて、そしてたまに笑ってくれたら、それで十分じゃった。じゃがな――』
口ひげに隠された老人の口元が、苦痛に歪む。
『――あの時、ワシはあの子を救えなんだ』
老人は押し黙る。
「後悔してるのか?」
舞奈は問う。
『当然じゃ』
老人は答える。
『今でも、あの子の笑顔を夢に見るよ。もしワシが21年前に戻れるなら、身を挺してでも彼女を助けたい。彼女に想いを伝えたい。身分や年齢なんて、関係なくな』
老人の告白が終わると同時に、ブースターが使用可能になったと計器が告げる。
スクワールは脚部の推進装置を吹かせて宙に浮く。
モニターの中で、老人は寂しそうに笑う。
『嬢ちゃんは、後悔しない道を選ぶんじゃ』
「わかってるよ。ちゃっちゃと魔砦をぶっ壊して、皆で戻って来る。そうしたら……そうだな、みんなで打ち上げでもしようか。パーッとさ」
言いつつサコミズに不敵な笑みを返す。
スロットルを引きしぼり、大型ヴリル・ブースターを最大出力で吹かす。
栗鼠の車体からのびる巨大な尻尾が嵐の如く光を散らす。
そして爆音とともに栗鼠は大空へ飛んだ。
足元に残した基地のいたるところがまたたき、激戦の音色が響く。
「……後はまかせたぞ、嬢ちゃんたち」
サコミズ機のカメラが暗い空を仰ぎ見る。
老人はひとりごちながら、たった3機の攻撃部隊が豆粒のように小さくなって鉛色の空にまぎれていく様を見送る。
そしてレーダーを見やる。
これまでの散発的な攻撃とは明らかに違う、総攻撃だ。
雲霞のような敵の反応に比べ、味方の数はわずか。
それすら徐々に数を減らしている。
「そろそろ潮時のようじゃな」
サコミズは夜闇に覆われた空の向うに舞奈たちが飛び去ったのを確認する。
雑に増設されたコンソールパネルを操作する。
モニターの中で殺到するソードマンの群を見やる。
そして壮絶な笑みを浮かべ……
……同じ頃、鉛色の空の下。
スクワールは尻尾のような大型ヴリル・ブースターから光の粉を吹いて飛んでいた。
腰には2丁の拳銃、脚の横には胡桃のような球体がマウントされている。
側にはランドオッタ。
脚と尻尾のルーン文字をまばゆく輝かせ、推進装置を吹かして飛ぶ。
さらに隣にはカリバーン5号機。
4機の融合エンジンと【鷲翼気功】を併用して無理やりに空を飛んでいる。
そんな3機の後方で、地上の一角がまばゆく光った。
『後方で高エネルギー反応!?』
「トゥーレ基地の方向だ! 畜生!!」
『おそらく、PKプラント暴走させたんだろう』
驚くレナと、察する舞奈。
ボーマンだけは先ほどまで舞奈たちがいた基地で起きたことを正しく把握した。
かつて釈尊とランドオッタに追い詰められた舞奈は、カリバーン3号機のPKドライブ暴走、爆発させて難を逃れた。
おそらくサコミズは、それと同じことをしたのだ。
トゥーレ基地全体にエネルギーを供給していたPKプラント爆発すれば、基地に進行していた敵部隊は塵も残さず消滅する。
そして応戦していた味方機も。
「ったく、秘密兵器ってのはそれかよ」
だから彼は、出撃を控えた舞奈に柄にもない思い出話など聞かせたのだろう。
「――もし生まれ変わったら、その娘さんとやらとよろしくやれるように祈ってるよ」
ひとりごちつつ、口元を歪める。
動揺を覆い隠すように無理やりに軽薄な笑みの形に歪める。
そして、何食わぬ表情でモニターにレナを呼びだす。
「なあ、レナ。聞いて良いか?」
『何よ?』
「魔帝って、どんな奴なんだ?」
『あきれた。そういうの、最初に聞くものじゃないの?』
「それどころじゃなかっただろ?」
軽口にレナは肩をすくめる。
それでも記憶の糸をたどるように語り始める。
『わたしが幼い頃にママが死んで、パパは最低の人間で、そんなときに魔帝が迎えに来てくれたの。「一緒に世界を滅ぼさないか?」ってね。綺麗な女の人だったわよ』
「へえ、そりゃ会うのが楽しみだ」
だらしなく舞奈は笑う。
モニターに映ったボーマンが『やれやれ』と肩をすくめる。
『魔術書を読みかじっただけの子供だったわたしに、魔帝は魔術の真髄を教えてくれたわ。それに戦闘訓練もね。親切だったし、話が理路整然としてて話しやすかったわ』
「……そんな恩人に手のひら返すようなまねして、本当に良かったのか?」
『あんたは、わたしにどうしろっていうのよ!』
モニターにドアップになったレナは威圧感のないつり目で舞奈を睨みつける。
だがすぐに物憂げな表情を浮かべて座りなおす。
『最近、魔帝の姿を見てなかったのよ。通信で指示だけは来てたんだけど。何て言うか……魔帝に従ってるっていうより、魔帝に心酔してるゴーントマンとつるんでるだけみたいになっちゃって、どうも釈然としなかったの』
「あのヤギ野郎か、それは嫌だな……」
『だから魔帝が本当はどうしてるのか知りたいの。成り行きってだけじゃなくてね』
「なるほどな」
何食わぬ口調で相槌を打ちつつ舞奈はコンソールの片隅に設置された蓋を見やる。
口元に乾いた笑みが浮かぶ。
話の間、魔帝とともにあるはずの知の宝珠は何も言わなかった。
舞奈もそれについて何も言わなかった。
突然に舞奈と接触してきた知の宝珠は、舞奈に多くの情報をもたらした。
知の宝珠からの情報によってピンチを切り抜けたことも何度かあった。
だが知の宝珠が誠実であると保証するものは何もない。
その時、
「畜生、破壊の雨だ!」
舞奈は舌打ちした。
モニターに映った空の片隅に、恐ろしい光が幾つも瞬いてたからだ。
上空から無数の光弾を降らせる破壊の雨を前にして、できることは少ない。
装脚艇など紙のように貫き、避けることなど不可能な範囲に降りそそぐ。
だから強固な建造物の陰に隠れてやり過ごすか、それが不可能ならば灰も残さず焼かれるしかない。そして舞奈たちが飛ぶ空の上には建造物などない。だが、
『こっちは準備オーケーよ! 太陽! 遺産!』
レナの魔術語に答えるように、世界が変容した。
鉛色の雲に覆われていた空が、一瞬だけ曇りのないぐんじょう色に変わる。
舞奈の口元が笑みの形に歪む。
そして再び世界が元の灰色に戻ったとき、空に光は瞬いていなかった。
代りに、眼下の廃墟が稲妻の雨に耕されて更地になっていた。
レナの魔術によって結界を張り、破壊の雨を凌いだのだ。
「便利だな。どういう仕組みになってるんだ? それ」
舞奈は思わず問いかける。
結界とは範囲内の空間を周囲から『切り離す』ことによって隔離する技術だ。
舞奈はそう聞いている。
だがそれが具体的にどんな現象なのか、きちんと理解しているわけではない。
『流派によっても違うけど』
レナはそう前置きし、
『わたしの【戦場召喚】の場合は周囲の空間を捻じ曲げて別の次元に変えるの。ええっと、別の世界を作って転移するみたいな?』
「だから結界に引きこもってる間に破壊の雨が通り過ぎていったってわけか」
『そういうこと』
「ならさ、捻じ曲げた空間とやらの中と外で時間の流れが違うことも有り得るのか?」
『うーん。魔術による時空の操作が可能な流派はケルト魔術だけのはずだけど……』
レナは自信なさげに答える。
それはつまり、時間の流れを変えることのできる魔術が存在するということだ。
そして知の宝珠は数多くの魔術の知識を有している。
力の宝珠にはそれを実現させるだけの魔力がある(今は枯渇しているが)。
「前にも聞いたけど、おまえがスクワールに氷の雨の魔術を撃ったとき、涙石が機体を守っただろう? 今のは、あれと同じ現象ってことか?」
そうだとしたら力の宝珠も時間の流れを変えられるかもしれない。
21年前にトラックに引かれそうになった舞奈が、この時代に移転した時のように。
「なあ、レナ。この石を使って――魔術を使って、時間を操れるのか?」
モニターにのしかかるように問う。
それが、きっと、ずっと探していた真実へ辿り着く手がかりだから。
そんな舞奈の迫力に圧されつつ、レナは口を開きかける。その時、
『魔力王、緊急事態です!』
「何だよ!! 今いいところなのに!」
『前方から敵機の集団が接近中。小型機多数。超大型機1機』
「……糞ったれ。絶妙なタイミングであらわれやがって」
声の警告と同時に、レーダーが無数の機影を映す。
外部モニターに映し出されたのは見慣れぬ機体だ。
角張った戦車そのもののような、鼠に似た機体。
集団の奥には似たような姿形をした超巨大な何か――サイズ的には空中戦艦?
『手前のはドゥームラット。増設された2基のPKドライブで空を飛ぶ機甲艇だ』
『モノリスのデータで見たことがあるわ』
「エンジンを3基積んでるってことか。まさか異能力を4つ使うのか?」
『その心配は無用よ、増設された2基は純粋に推進用だから。でも単純なスピードとパワーは装脚艇の非じゃないわ。気をつけて!』
「りょーかい」
ボーマンとレナの解説に口元を歪め、
『奥のデカブツはワイルドボアー。PKドライブをダースで積んだ機甲艦だ』
『こんなものまで実用化していたなんてね』
「あのハリネズミみたいな出っ張りは大砲か?」
『……ご名答。ぜんぶ加粒子砲よ』
「そりゃ撃ちがいがありそうで結構だ」
続く言葉にひとりごち、口元を笑みの形に歪める。
ちょっとしたアクシデントだ。
小うるさいネズミの群を片づけた後で、ゆっくりとレナの話を聞けばいい。
モニターの中で、突出したドゥームラット数機が猛スピードで飛来する。
異能力【狼牙気功】の所有者であろう。
舞奈は照準をあわせる。
スクワールは両手の拳銃を操って次々に敵機を撃ち抜く。
スクワールの側で、ランドオッタが粒子ビームの魔術で2機を墜とす。だが、
「畜生、数が多すぎる! このままじゃ押し負けるぞ!」
レーダーを見やり、思わず叫ぶ。
振り切るには相手が多すぎる。
それどころか、敵は数にまかせて3機を包囲しつつある。
舞奈は活路を求めて周囲を見回す。その時、
『――あんたたち2人は先に行きな』
ボーマンの5号機が、2機の復刻機を守るように前に飛び出した。
「あんたひとりじゃ無理だ!」
『時間稼ぎくらいはできるさ』
5号機の鋼鉄の翼には航空自衛隊の空対空ミサイルがいくつも吊り下げられている。
そのうちひとつが放たれ、襲い来るドゥームラットを爆散させる。
別の1機を、同じく空自の装備を無理やり手持ちにしたガトリング砲が砕く。
『それに……』
砲撃をかいくぐって肉薄した2機が【火霊武器】の燃える牙で襲いかかる。
だが撃墜されたのはドゥームラットの側だった。
パイロットであるボーマンの大能力、近接攻撃を反転させる【戦士殺し】だ。
『【戦士殺し】をいちばん有効に使えるのは、一対多数の闘いだ』
「けど、ボーマン……!!」
言い募る。
ボーマンの【戦士殺し】は近接攻撃にしか通用しない。
弓矢には有効と聞いたが、砲撃へ対処する手段はない。
それ以前にPKドライブにこれだけの量を相手に戦い続けられるほどの持久力はないし、融合エンジンの燃料にも弾薬にも限りがある。
何より奥に控えるワイルドボアーに単騎で対抗できるわけがない。だが、
『あんたには、やるべきことがあるだろ?』
ボーマンは口元に笑みを浮かべ、サングラスをはずす。
その下からあらわれたのは、意外にも目じりが気弱げに下がった少女の瞳だった。
その瞳を見やり、舞奈は驚愕に目を見開く。
21年前のあの日、仕事人だった舞奈と共闘した執行人の少女。
仲間を失った気弱げな少女を思い出す。
思いおこせば彼女の髪も、ボーマンと同じ金髪だった。
『……あの時だってそうだった! 仲間がみんなやられて、わたしが物影で震えてる間に、あんたとあの子がすべてを終わらせた!』
ボーマンは叫ぶ。
堪えていた何かを吐き出すように。
『あれからずっと後悔してたのさ! あたしがもっとうまくやっていたら、もうちょっと別の結末になったんじゃないかってね!』
叫びに答えるように、5号機の背から生えた翼が数倍に広がる。
巨大な光の翼をはばたかせ、増大した異能力の余波なのか光の羽根をふりまきながら5号機は群なす敵めがけて突き進む。
『けどね、今度は違う。わたしは……わたしたちは、あんたを魔砦まで送り届けるって約束したのさ! ちっぽけなあたしと翼だって、そのくらいはできるつもりだよ!』
憤怒と激情の化身と化した5号機。
巨大な翼を広げた量産機に、4機のドゥームラットが襲いかかる。
だがガトリング砲と【戦士殺し】、そして覚悟の前に、攻撃者たちは空に散る。
『行くんだよ舞奈! あの塔に! そこで望みを叶えるんだ!!』
獅子奮迅の勢いで敵機を蹴散らす5号機に、さらに多数のドゥームラットが迫る。
その背後には、無数の敵が控える。だが、
『【グングニル】を、なめるなぁぁぁ!!』
もはやボーマンは止まらない。
かつて気弱な少女だった、今やレジスタンスを引きいるリーダーとなった女性を、固い決意だけが突き動かしていた。
『博士!』
思わず追おうと動き出すランドオッタの肩をスクワールがつかむ。
「来るんだレナ。ボーマンが敵を引きつけている間に、トップスピードで突っ切る」
『けど、仲間だった人でしょ!?』
「……だからだよ」
舞奈は口元を乾いた笑みの形に歪める。
「ボーマンの願いは、爺さんの願いは、レジスタンスの願いだ。あたしたちは魔帝の支配から世界を解放しなくちゃいけない」
間近に迫ってなお天高くそびえる魔砦を睨みつける。
側にいる誰かを守りたくて、守れなかった。
だから逝った仲間の意思を継ぐことで、失った痛みを誤魔化してきた。
今までずっと、21年前からずっと、そうしてきた。だから、
『……わかったわ』
通信モニターの中で、レナは小さくうなずいた。
予告
舞奈は遂に、天地を貫く魔砦へと辿り着く。
側には新たに絆を結んだパートナー。
人類の未来を背負って進む先に、待ち構えるは失くしたはずの過去の残滓。
次回『突入』
全ては前へと進むために。




