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62.アクラ、地球デビュー

読んで頂いてありがとうございます。

 銀河中央世界の高次知性体アクラが、地球人へ呼びかけを行うが、まずその第1弾を日本の国会で行うという知らせは既存メディアにはでなかったが、ライン、チャット等を使ってたちまち広がった。


 政府としては国会議員を中心に、官僚の係累を含めて幅広い人々を国会に集めようと思っていたのだが、主として国会議員が大っぴらにばらしてしまったのだ。その予定時間の1時間前に官房長官の秘書官から慌てて翔に電話があったのだ。


 それは、国会に向けて続々と集まってくる人々を見て慌てて調べてみたら、知らせを受けて自主的にやって来た人々ばかりであったようだ。それを聞いて翔は笑った。


「ハハハ、良いじゃないですか。アクラの念話を出来るだけ幅広く聞くというか、感じてもらいたかったのだからいいですよ。どうせ、時間は30分もかからないから、立ち放しでも辛くはないはずですよ。そもそもアクラの念話を受け取っている人が、その最中に立っているのが辛いとか感じるはずはないですよ。

 それに梶田さんだって、その場でその念話を感じたいと思うでしょう。この話を聞いた人は皆そう思うと思うはずです。いいことじゃないかな」


 電話をしてきた梶田という秘書官に笑って言う翔に、梶田もなるほどそうだと思った。そして改めてその歴史的瞬間に立ち会える幸せを噛みしめた。梶田は念話というものを無論経験はしていないが、翔がそれについて言ったことを良く覚えている。


「念話というと、単に言葉を聞くのを、音声が無くて話しているのを聞こえる程度に思うかも知れませんが、アクラほどの知性の持ち主の念話になると実際は全く違います。例えば、アクラは必ず銀河中央知性体協議会について説明します。

 その際に、普通に〇〇〇〇ですと説明していても、そこには協議会の実際あり方、その包括する範囲などが濃密な情報として入って来るのです。ですから同じ時間の講話を聴くのとは、比べものにならない情報量を受け取ります。

 だから、人々は例えば30分の念話でも、多分3時間位の時間をかけて情報を受け取ったと感じるのではないでしょうかね。いずれにせよ、人々にとっては全く新しい経験のなるはずで、非常に感動する出来事になると思いますよ」


 だから、梶田はこのことを知る自分も含む官僚の係累も呼ぶようにという方針に従って、自分の妻と、中学生1年の娘、小学校4年の息子も国会に呼んでいるが、良かったと思っている。


 その梶田の妻の佐知は娘の真理と息子の涼を連れて、国会に向かっているが、同じ方向に向かう余りの大群衆に聊かひるんでいる。国会に向かうという理由は夫かtら聞いたが誠に奇妙な話であり、生真面目な夫の話でなければ信じられないことであった。

 ここ数日帰れない夫に代わって子供たちにも説明はしたが、自分でも何を言っているのだろうと思ったものだ。


「あのね、急なのだけど、明日午後国会にお母さんと一緒に行って欲しいの」

「ええ?明日は学校だよ。なんでよ?」


「うん、学校はねえ、お母さんが朝先生に欠席と言っておくから心配はないわ。これはお父さんがお勤めしている政府のお願いなので、欠席にはならないはず。そのわけはねえ。銀河の中心から来た凄く頭の良い人が、人々に頭の中に語りかけるらしいの。

 それは最終的には地球全体の人々に対して語りかけるのだけど、色んな人がいるでしょう?例えば車の運転をしている人が驚いて事故を起こしちゃ困るのよね。だから、取りあえず日本の国会で試しにやってみようということになったらしいの」


「ええ!僕、その話は安田君から聞いたよ。銀河中央から来た高次知性体だってさ。スゲエ!そこに立ち会えるなんて最高じゃん!真理姉ちゃんは聞いてない?」


「え、ええ。私はそんなことは聞いてないわ。で、でもなぜ私たちのような子供を呼ぶのよ?国会と言えは議員さんがいるんだから、その人たちを呼べばいいじゃないの?」


「ええ、そこは影響を調べるために、出来るだけ幅広い層を集めるということらしいわ」

「やったね、凄いや。安田君に自慢できるよ。なにせ人類最初の機会だもんね。凄い経験だよね。真理姉ちゃんも勿論行くだろう?」


「う、まあ、父さんのお願いでもあるし、私もそういうことなら行って見たいとは思うよ」

 息子がなんと、その話を知っていたという意外なことがあったが、国会に行くことはすんなり決まった。佐知は翌朝娘と息子の学校の先生に、夫の公務の関係で休ませると話を付けた。


 国会議事堂までは地下鉄を使ったが、佐知は平日の昼間の割に妙に乗客が多いのに気付いた。それに周囲の人の会話を漏れ聞くに、どうも国会議事堂に行くと言っており、『宇宙人』『高次知性体』などという言葉も聞こえてくる。


「ねえ、ねえ、お母さん。一緒に乗っている沢山の人が国会に行くようよ。それに皆話を知っているようよ」

 真理が佐知に話しかけているが、涼はもっと大胆に、隣に立っていた大学生らしい3人連れの若者に話しかけている。


「ねえ、お兄さんたち、国会議事堂にいくのは、高次生命体の話、いや話じゃないな、頭に話しかけるのを聞くために?」


「あ、ああ。俺たちはそうだよ。君もいくのか?ほう、ご家族も一緒か。だけど君は学校だろう?」

「ええ、でもこれは国家公務員の父の頼みだから、良いんだよ。ちゃんと学校に母さんから話してもらったしね。ねえ、お兄さんたちどういう話を聞いて行こうとしているの?」


「ああ、俺たちは友達からこのことを聞いてね。国会で、人間のような体を持たず、エネルギー体のような高次知性体が、銀河に迫る危機について説明するらしい。そして、人類にその危機に立ち向かうように、呼びかけると聞いたな。だから、それは行かなくちゃということで、来たんだ」


「へえ、お兄さんたちの方が詳しいね。父さんは情報を出し渋ったなあ。でも、随分人が集まっているようだけど。皆国会とか周りの広場には入れないだろうねえ」

「ああ、でも。そもそも地球全体に呼び掛ける予行演習らしいから、近くの道路にいてもちゃんとその『念話』は受け取れると思っているぞ」


「なるほど。そうだね。ありがとう、話を聞いて良かったよ。お兄さんたち有難う」

「あ、ああ、君はしっかりしているなあ」


 丁度電車は国会議事堂駅で着いたので。大学生らしき若者達は、涼に感心しながら手を振りながら笑顔で去っていった。

 それに頭を下げながら、母の佐知は『全く涼は誰に似たんだろう』と思ってしまった。その後着いた議事堂の状況は、若者達の言った通りで、まだ予告の時間の午後2時には1時間以上あるのに、すでに国会議事堂前の広場は人で殆ど埋まっていた。


 しかし、人で埋まっているようだけど。見た所まだスペースはあったので、議事堂前の広場に涼が率先して入り込み、母と姉を招く。そこは植木の影で、少々辺りが過密になっても押し倒されることはないだろう。


 母の佐知は、涼の行動に今日は全く息子を見直す思いだった。集まった人々を見た所では男性が7割、女性が残りで、高校生までの子供はごく少なく、先ほどの若者たちのように30歳代以下に見える人が多いようだ。


 ただ年齢層は広く、若者が多いと言ってもそれほど目立つほどではない。また、全体に集まった人は祭り、催しものなど様々な集会に比べるとごく大人しく、特段リーダーシップを取って騒ぐグループもいないようだ。


 だから、予定時間が迫ると恐らく2万人を超えて人が集まっているが、声高に話し叫ぶ者もおらず、全体として唸りのようにがやがやとはしていが、異例なほど穏やかな空間だ。マスコミも当然きており、テレビ局の中継車が5台止まっていて、カメラで撮影をすると共に、集まっている人に取材しているようだ。


 そうした辺りの人々を見ている間に時間は過ぎ、気が付くと広場にある時計台の針が予定の午後2時を示している。その数舜後、佐知は自分の中に異なる存在がいることに気づいた。

 それはアクラと自ら呼んでいる存在であり、数万年の時を生き抜いてきた。そして、その体はあるが、肉と骨で構成されている人類とは全く違うエネルギー体ともいえる存在である。それに性別はなく、個体数は人間の間隔ではごく少ないようだ。


 アクラとその同族は、銀河中央でも非常に古い種族であり、地球人と比べると高次知性体の集まりである、評議会の相談役のような役割を果たしている。その念話の中でアクラは、銀河の広がりと数えきれないほどの多数の知的生物体が銀河には存在することを知らせる。


 それはそうだ、人類が銀河の僅かな隅っこを調べただけで、居住可能な星を多く見出し、いくつもの知的生物に出会っている。そして、それらの知的生物はあい争い、征服し、征服されては来たが、実際に星の間の空間を渡る方法を見いだしたものは少数である。


 このため、地球上のように密度の高い争いは宇宙空間では起きていない。そのように銀河宇宙の様々な知的生物が示され、それらの興亡やそれが現在に収斂していく有様が示される。

 その中でアクラの接触を受けている人々は、地球人という存在が、銀河宇宙の片隅のごく平凡な存在であることを心に刻まれる。


 このように銀河宇宙は、種族間の序列はありながら、それなりに均衡を保っていたのだが、現在数十億の星系を持つマゼラン星雲を制覇した機械知性体ジーラクに安定を脅かされつつある。


 ただ、実のところ銀河の知性体がある程度のまとまりを見せれば、なによりその総量としての知性体、並びに工業力に裏付けられる総合力において、ジーラクなどはそれほどの脅威ではない。ところが、絶対的強者でもある、銀河中央のトップの高次知性体達は、さほどジーラクなどの存在に関心を見せていない。


 しかし、誰かがそれに対抗する必要がある。そして、この状況は今後伸びていく知性体にとって飛躍の大きなチャンスになる。そういうことを考えた種族が集まる中、アクラと同族の天球人たちが中心になって、評議会の大幅な拡大を企図して銀河を動き回っている。


 そこにおいて、地球も評議会参画の最低水準を満たしているというアクラの判断から、指導種族を付けて一気に種族全体を進化させようというものである。要は中央銀河の知的生命体のグループに入らないかという誘いである。


 そこにおける当面の課題は、地球も加わって、ジーラクを滅ぼす役割の一端を担うということになるが、現状において地球は全くの足手まといになる。だから、戦いに貢献できるだけの実力を身に着けるべく指導役を付けて事業を行いましょうということだ。


 そういう内容を、アクラが接触した人々は、はっきり理解して得心することが出来た。しかし、その一連の接触の中で、今後5年で成し遂げようとする地球及び地球人の進化の度合いも示されている。


 従って、アクラの接触を受けている人々の中でも知性的かつ鋭敏な人は、短時間で成し遂げるはずのその困難さに気が付く。そしてその条件の一つが、基本的にあらゆる政府や組織の主権の取り上げである。


 短期に膨大な事業をやっている中で、利害の調整などやってはいられないのだ。接触を受けている人々中で、政府中枢に近い人々、さらに大会社・大組織の経営層の人々は、このことを聞いて、すぐさま反対することを決心した者も多かった。


 そして、その反対が無駄であることも同時に気が付いた。なぜなら、彼らは持つ者であり、アクラの話に乗ることは不利益が大きい場合が多い。一方で大部分の数を占める持たざる者達にとっては、その話に乗ることで得られる大きなメリットは明らかである。しかも、この念話、あるいは心的接触は会話と違って説得力が段違いだ。


 基本的に善意の存在であるアクラから接触を受けて、ある説明をされた場合にはその真偽・。悪意ある意図を疑う余地はないのだ。つまり国民或いは民の大部分が積極的に自分に大きなメリットがあると信じている事柄に、いかなる立場であろうと、逆らうことは不可能である。


 そういうことで、日本の国会におけるこの集会を持ったことでアクラの話の全面受け入れは決まったと同然である。実のところ、首相を始め日本の指導者は、アクラに『接触』することの意味をよく理解していなかった。


 翔から聞かされて、政府の主権を取り上げられることになるとの話は知ってはいた。そして、それは大変な騒ぎになるだろうなと思っており、そこで何らかの妥協が成り立つと思っていた。しかし、自分でアクラとの接触を経験して、彼の説明を疑うか、違う解釈をする余地が全くないことに気が付いている。


 そうであれば、今回は日本の国のごく一部の人々との接触であったが、これを全世界の人々を対象に広げた場合は世界において同じことが起きるであろう。また、アクラは接触の最後に重要なことを述べた。


 それは、こういう内容であった。

『地球は、最近の10年という短い間に、評議会の資格を満たす幾つかの重要な実用化を行って急激な進化を遂げている。それは、周囲の助けがあったにせよ、カケルという存在が中心になって成し遂げたもので、彼の存在なしには成り立たないものであった。

 それに加えて、その翔個人が銀河中央の評議会において、十分に伍していける知性を持っていることを私アクラ自身が見出した。また、今後指導種族たるアルケーナとて上位の知性種族であり、翔以外の交渉相手にならないであろう。


従って私にとっては、地球の対アルケーナ及び評議会への全権を持つ交渉役は、翔以外に考えられない。従って、今後アルケーナが始動する地球人の進化事業の地球としての指導者は翔とすることで調整するつもりだ』

 アクラの言うこの内容も、また実現せざるを得ない事柄の一つになるであろう。


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