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59.高次生命体アクラ

読んで頂いてありがとうございます。

 翔はK大学技術開発研究所所有の中型飛翔機ホウライ1-A機を使った。これは乗客乗員合わせて50人の、空間転移機能のある船としては最も小型のものであった。空間転移機能のある船は小型化が難しい。


 それは、空間転移には最低限20万㎾時の電力を5秒で消費するため、10万㎾のNFRGと40万㎾時の特殊大容量バッテリーが必要であり、そのバッテリーの半分の電力を5秒で流す必要がある。このためコンパクト化は難しく、現状のところ長さ80mで胴の径が10mのホウライ1-Aが最小である。

 それでも、特に電気関係の設備に容量を食われているため、図体の割に乗員は10人で乗客は40人と少ない。


 ちなみに、ホウライ分校における技術開発研究所のトップは、翔と一緒にホウライに移って来た名波教授である。笠松理事長は流石に日本を離れられなかったので、現状で副理事長の名波が責任者になるのは当然である。


 ちなみに名波教授はまだ年齢は41歳であるから、教授としてもまだ非常に若い部類である。だが、K大学に8人いるノーベル賞学者の学内トップの受賞を飾ったのであるから、実績としては十分である。さらに技術開発研究所は大学とは直接関係ない組織であり、とりわけ人事は大学に全く左右されない。


 要は、翔と名波の出会いから生まれた組織であり、研究所が巨大な資産とキャッシュフローを持つとしても、翔の存在なくしては語れない組織である。いずれにせよ、翔は翌朝すぐに名波に事態を報告した。


 翔からアクラともたらした情報を聞いた名波は、余りのことに驚いた。しかし、翔と一緒に行動していると、そういう驚く感覚が鈍くなってくる面があり、素直に事態を飲みこんでいる。また、アクラも念話で名波に働きかけたので、信じないという選択肢はなかった。」


 とは言え、アクラにとってみれば、翔は知的な意味で、相手に合わせるということをする必要のないコミュニケーションの相手である。だが、名波は相手が理解したこと確認しながらの念話を進める必要があり、アクラにとってはストレスを覚える相手である。


 それを横でキャッチしながら、翔がすこし悪戯っぽくアクアに言う。

『アクラ、名波先生は人類として最高峰の頭脳の持ち主だよ。つまり最も理解の早い人だ。それでイラつくようだと、地球の人々とは到底コミュニケーションは取れないよ』


 しかし、アクラはやり返してきた。

『じゃあ、カケルは何なんだ。なるほどお前は人類に入らないのか。しかし、人類との間に子供はしっかり作っているようだが……』


『う、うん。まあ僕は人類としては特殊だな。身体的には人類に違いないから、子供も作れる。また、僕の脳については脳学者が詳しく調べていて、その結果を聞いた。

 それによると、脳そのものは体格からすると10%ほど大きいが、普通のものだそうだ。だから脳細胞そのものの数は変わらないようだね。ただ、シナプスでの信号の動きが違うらしい。まあ、動きが多彩というか早いということだな。要するに効率が良いということになる』


『ふむ、そうだろうな。儂もそうだが、銀河系の先進種族について言えば、お前レベルの知能の働きは普通であるな。その脳の働きについて、儂は関心を持って調べたことはないが、確かに脳のあり方も多様である。

 儂に至っては、お前らの云うような有機体としての知性を司る脳はなく、この電磁的な体全体に散らばった部分が脳としての働きをしている。とは言え、お前に似た酸素呼吸生物ではその頭に脳が入っているのが普通であり、足があり腕がある。


 また、体の大きさはその住んでいる惑星の重力によって左右され、重力が大きいほど体は小さい傾向がある。しかし、酸素呼吸生物の住む惑星の大きさと重力はそれほどばらつきがなく、君らの地球の精々2倍から0.5倍である。

 だから、地球人の2倍になるような体のものはいないな。話が逸れたが、先進種族としては翔の程度の理解力が普通であり、要求される。だから、地球の人類が先進種族と交流するということになると、翔、お前が代表することにならざるを得ないぞ』


『ひえ!それは勘弁してもらいたいな。まあ、しかしやむを得ないな』


 その後、翔は名波と相談の上で、ホウライ大学の教員・学生を中心に、ホウライですでに活動しているマスコミ、更に役所、各種団体の代表も呼んでアクラ会わせることにした。地球人類として、ジーラクに立ち向かうには、現実を理解した上で行動を起こす必要がある。


 まず、人々は宇宙には無数と言って良いほどの知的生物が存在すること、そしてその中の先進種族の集まりとして、中央銀河評議会存在することを得心する必要がある。

 その上で、自らの社会を変革して機械人ジーラクの脅威に立ち向かうだけの力を身に着ける必要がある。それは、人類が進化する大きなチャンスであるが、さて最初の関門である中央銀河評議会の存在を受けいれるか?


 その予行演習が、このホウライでの試みである。その集会はホウライ大学の体育館で行われ、会の周知は前日の住民通知システムによって行われた。住民通知システムは中京市の各住民のスマホに重要な通知を送るもので、地球の日本におけるJアラートや地震警報などと同様なもので、より一般的に使えるようにしたものである。


 ホウライではその地がフロンティアであることから、市役所で住民の個々のスマホを把握しており個人あての信号を送ることができる。大学は別の括りで大学の事務員・教官と学生個々を把握している。

 

 従って、全員に対してはその集会があることは通知され、集会の出席者には出席を求めるように通知が行っている。そのテーマが『中央銀河系の高度知性体による、銀河に迫る危機の警告』とある。関心を持つなと言う方が無理であろう。

 ちなみに、テレビが入るので、現場の様子はテレビ放映されることになっている。ホウライにはMHKのような有料放送機関はないので、テレビ放映は当然スマホで見られる。


 ホールのみで幅25m長さ50mの巨大な体育館は、立てば3千人、パイプ椅子を並べても1500人が収容できる。学生が動員されて椅子が並べられ、会場の準備が出来たが、一般の催し物と違って全く飾り気がない。ただ、正面には巨大な幕が下げられてプロジェクターで映写できるようになっているが、念話で動画、画像を出せるアクラの場合は不要だろう。


 予定の午前11時の1時間前には、大学の教職員と院生が集まって、外から来る人々の誘導に当たっている。会場に入れない彼らは、教室のスクリーンでテレビ放映を見ることになっている。大学にいる彼らは、すでに今回説明される内容を聞いており、大いに興奮している。


「カナちゃん。今日の話はカケルから聞いている?」

 カンナの友人のオランダ人のシュエルが聞いてくるが、周りには興味津々の5人の仲間が集まっている。彼らは皆翔とカンナの関係を知っている。


「聞いているというか、アクラが現れた晩は翔は私と寝ていたのよ。最初に翔が会った時は私は寝ていたけど、朝には翔から話は聞いたしアクラにも会ったよ」

 カンナが、あっけらかんと答えると取り巻いていた一人の永田修が叫ぶ。


「ええ!会ったのか、あのアクラに?」


「会ったけど、余り相手にされなかった。アクラってねえ。多分数万年生きているんだ。音を発しての会話はしないからテレパシー、念話によるコミュニケーションだよ。

 それでさ、そもそもその念話も考えるスピードが違うんだ。でも翔は普通に会話をしていたなあ。私には露骨に合わせてくれていたけど、そんな感じで話が弾む訳はないよね」


「へえー。で、その中央銀河評議会とか、ジーラクとかの話は事実なんでしょう?」

 今度はジュエルが聞く。


「ええ、私には翔が説明したくれたけど、アクラがそれに合わせて映像とか彼の心像を私に送ってくれるのよ。真実と思わざるを得なかったわ。なにより、翔は完全に信じているわ。だから、中央銀河評議会に加えて私たちのように遅れた種族も必死に努力しないと、ジーラクに滅ぼされることは事実だと私は考えている」


「だけど、中央銀河評議会とかに加わっている知能の優れた人々は、カンナが付いて行けないレベルだろう?そういう連中が俺たちを仲間に入れてくれるのかな?」

 永田が悲観的に言う。


「うん。それは地球はすでに一定の水準を超えているし、地球人を代表することのできる翔がいるから大丈夫なんだってさ。

 それに、中央銀河評議会と言っても活動的な種族は少ないそうで、本当に古くて知性が高い連中はあまり関心がないそうよ。そうい連中は、自分で守れるのでジーラクなんて脅威ではないそうなのよ。


 だから、ジーラク対策に働く種族は出来るだけ多く集めたいということよ。それに、これは人類にとっては大チャンスよ。現時点では地球は全く戦力にならないそうで、人としての能力及び社会構造の底上げが必要だそう。

 処方の効果を50%ほどアップする方法もあるらしいし、大量の宇宙艦やら各種産業機械を贈与してくれるらしいから、地球全体の生産性が何倍にも上がるわ。例の国連の貧困撲滅キャンぺーンもほぼ達成は無理となっているけど、すぐにでも達成できるはず」


「へえー。でもなんか話が旨すぎるような。その評議会にとって、地球をそれほど手間暇かけて進化させるほどのメリットがあるのかな?」

 再度、悲観男永田が言う。


「まずね、地球最高の知性の翔がそう信じる位だから、中央銀河評議会の存在とジーラクという脅威の存在は確かだと思う。私たちはその脅威に立ち向かうチャンスを与えられようとしているのよ。ジーラクという相手の強大さの事を聞くと、確かに今の人類に立ち向かう力はないわ。

 でも、アクラはそれを承知で、立ち向かうだけの力を育てると言ってくれているのよ。こういう状況が判った今、私たちはその問題を解決すべく全力を尽くすしかないわ。そしてアクラがそのような助力をすると言っているのだから、それは素直に受け取るべきよ」


 そう言う、シュエルの熱弁に、カンナも同調する。

「その通りよ。そういう問題が見つかった以上、私たちに出来ることは、それを解決すべく知恵を振り絞って全力を尽くすことしないよ」


「ああ、そうだね。悪かった。消極的なことを言って……」

 永田は、美人の仲間の咎めるような口調に負けて謝った。


 集会が始まった。体育館の椅子は全て埋まり、立ち見が500人ほどいるので予定より多い入場者である。学生の予定外の者は教室に行かせたが、外部からの予定外ものは中に入れたのだ。

 最初に演壇に立ったのは、名波教授である。ノーベル賞学者の名波はよく知られている。名波は演壇に上がり、照明に照らされながらマイクを取ってしゃべり始める。


「本日は、この場に御出で頂きありがとうございます。我が人類は、始めて銀河中央の知性体協議会の構成員である高次知性体であるアクラ氏を迎えました。そして、その天球族のアクラ氏から重大な知らせを受け取りました。その知らせを受けったのはわが大学のカケル君です。

 その知らせの内容はアクラ氏より直接語って頂きますが、それは銀河の全種族及び人類全体にとって非常に重大な内容であります。ですから、我々はこの後すぐに地球に行って、この会と同じな場で、人々に事態を知らせて必要な対応を取るように促すことになっています。

 ではアクラさん、説明をお願いします」


 名波は自分の傍に浮いているアクラを指した。

直径1mほどのぼんやりした光の球の姿のアクラは、ふわふわと名波について浮かび、彼がしゃべっている間はその傍に浮いていた。人々は名波がしゃべっている間もその光の球に気を取らて、視線はアクラに釘付けであった。


 アクラは、指名されると光を強めた。そして空気を振動させて挨拶した。

「皆さん、お早うございます。これで良かったかな?」


 ちなみにホウライでの言語は日本語であるので、アクラも日本語での挨拶である。半数以上になるホウライ市民の日本人以外の人々は、まだ、日本語が充分でないものも多いが、全員が翻訳機能付きのスマホを持っているので、会話には困らない。


 アクラの言葉はそれだけで、後は念話である。アクラの念話は誠に鮮明であり、言語によらないものであって、動画、情景の絵や図を使ったもので極めて解り易いものであった。まずは、銀河には地球でもすでに知られているように、1千億を超える数の恒星系があり、10万を超える知的 種族が存在することが示される。


 その中には、酸素呼吸生物、塩素・フッ素・アンモニア呼吸生物、さらに天球族のような浮遊する電磁的な生物もいることが画像付きで示される。そして銀河の中央には古い種族が多く、それらが集まって中央銀河評議会を形成していることが述べられる。


 その状況に対して、約100億の星系から成る隣のマゼラン大星雲から、ジーラクという機械人の艦隊が銀河の領域に入り込み、すでに20以上の知的生物を滅ぼしたことが説明された。ジーラクはすでにマゼラン星雲の覇者になっており、出会う生物は片はしから滅ぼすという、生物の存在を許さないことを示す行動を取っている。


 ジーラクの艦隊は評議会の艦隊に撃破され、残りは帰っていったが、被害はむしろ評議会の艦隊が多く、極めて手強い相手である。現状のところはジーラクは更に強力な侵攻手段の構築に取り組んでいると見られている。


 彼等は、何しろ100億の星系を支配して、ほぼ無限と言って良い資源を使え、急速に仲間を再生産できる機械人という特徴がある。一方で創造性、発想と言う意味では劣ると見られるが、現状で高い技術を持ち、すでに協議会の艦隊と互角以上に戦ったという実績がある。


 いずれにせよ、極めて手強い相手であると言わざるを得ない。その意味で、評議会は若い種族で、一定の水準を超えたものを集めて戦うことを決めた。一つの水準が、核融合技術を活用してエネルギーの問題を解決し、かつ空間転移の技術を習得済みであることである。


 もう一つは、天球人が認める知性があることである。後者については、地球人は全体としては後者はクリヤーしていないが、前者は超えているので、資格を満たしていることになる。

 そのようなことが語られ、地球人側として協議会と共に戦うという決意があれば、直ちに地球人と地球の産業社会体系のレベルアップに掛かりたいという意向が伝えられた。


 その集会に結果としては、アクラの云うことを受け入れる意向を明確に示した。しかし、進取の気性と言う意味で、ホウライの人々が必ずしも地球の人々の平均ではないということは明らかである。

 とは言え、こうした前向きの人々の反応を確認して、翔と名波は中型飛翔機ホウライ1-A機に乗って地球に向かった。


誤字訂正ありがとうございます。

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