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3.


 


 1977年に終わった第三次世界大戦では参戦国の中では比較的被害の少なかった日本は戦前の高度経済成長に並ぶ好景気に突入する事になった。

 戦前でも十分に好景気だったのだが、その片方を担っていたドイツが戦争で荒廃し、工業生産能力がガタ落ちしてしまったからである。

 結果的に戦争の被害を殆ど受けなかった日本やアメリカなどに大量の発注などが来た。


 ちなみにこの頃には中華民国の沿岸部では外国資本(主にアメリカ)が投入され史実通りの発展を遂げていたが、内陸部では戦争になる可能性もあって史実より多少マシ程度であった。

 この頃の日本のGDPは史実通りの世界2位、だが額は台湾なども含まれたので約4.2兆ドル、これは史実よりも約1兆ドル多かった。

 3位のドイツが2.3兆ドルだった為、大差をつけていた事がよく分かる。

 最もアメリカは6兆ドルなので差は歴然だったが・・・


 経済は順調に伸びていた日本だったが、軍事に関しては戦争が終わり、更に国際的な平和ムードが漂っていた為、世界的に軍縮機運が高まり始めた。

 政府は国防費をGDP比1.5%以内に収める事を閣議決定した。

 この閣議決定は次の次の内閣で廃止されるのだが、暫くの間はこのGDP1.5比%が国防費の大まかな前提となった。

 と言ってもこの閣議決定前の国防費はGDPの1.6%しか無く、国防費を半減した国もある中で0.1%の削減は他の国より軍縮は少なかった。


 この頃1番軍縮したのは講和条約で軍縮が強制的に決定されたソ連だったが、ドイツ連邦軍もかなりの軍縮を実施した。

 1976年のドイツ連邦陸軍戦力は36個の旅団と12個の師団で構成され総兵力は36万人だった。

 しかし、2019年現在のドイツ連邦陸軍戦力は2個装甲師団及び2個装甲擲弾兵師団、1個特殊作戦師団と1個空中作戦師団の6個師団のみで総兵力は軍縮前の4分の1程度しか無い経った12万人である。

東西ドイツが統合されて防衛すべき範囲が広がったにも関わらずだ。

 これは極端な例だが、欧州ではイギリスもフランスも大なり小なりかなりの軍縮実施した。

 と言ってもこの頃の各国のGDPにおける軍事費の割合は約2%、日本の約1.25倍で国力に対する軍事費の支出は多かった。


 ちなみに沖縄は史実通りに1972年に日本側に返還されておりそれなりの戦力を沖縄に移駐しているので結果的にかなり減らしていると言われれば減らしてはいる。

 この世界の日本では国土安全保障法により他国軍の恒久的な駐留は認められていないので沖縄に駐留していたアメリカ軍は完全撤退し、アメリカ軍の基地だった場所には日本国軍が入った。

 主には陸軍普天間駐屯地や嘉手納空軍基地、勝連海軍基地などである。

 ちなみに普天間では史実のような事故は起きていない。


 1980年にソ連と中華人民共和国は同盟を結び軍事協力を強めていった。

 ソ連は講和条約で30年間軍備を制限されていたが、その削減分を核戦力に注ぎ込み、核弾道弾の保有数はアメリカを上回っていた。

 そしてその弾道弾の標準を合わせられている日本を含めた各国にとっては脅威であり、1982年には中華人民共和国と対立している中華民国とアメリカ、そして日本の3ヵ国主導で環太平洋条約機構、通称RPTOが設立された。

 設立と同時にオーストラリアやニュージーランド、カナダ、フィリピン、満洲などのアメリカと同盟関係にある国々が参加を表明。

 その後マレーシアやシンガポール、ブルネイ、タイ、ベトナムが参加を表明し、『大西洋のNATO、太平洋のRPTO』と呼ばれた。


 一応、RPTOの盟主はアメリカで、日本と中華民国はサブだったのだが・・・

 RPTOはNATOとは違い環太平洋という海洋の同盟であるので重要なのは陸軍ではなく海軍だった。

 ただ、この頃の中華民国は北中国との対立によりリソースの殆どを陸軍に振っており、次に空軍、海軍は最後だった。

 そしてアメリカはNATOの盟主でもあるので実質的には日本が盟主のようなものだった。

 そして時は経ち2019年、舞台はプロローグに戻る。






 西暦2019年8月24日、南シナ海 日本国海軍第5艦隊 ミサイル巡洋艦【高雄】


 史実では東南アジア諸国と中国の領有権主張の場と化し、緊張感が漂っている南シナ海だが、この世界ではTheリゾート地である。

 中国のハワイと呼ばれている海南島を始め南シナ海沿岸には世界有数のリゾート地が点在しており、世界各国から観光客がやってくる。

 しかしそんな南シナ海は別の一面を持つ。

 それは世界有数の海軍の演習海域だという事である。

 史実現代で問題となっている南沙諸島や西沙諸島は南シナ海沿岸国での話し合いにより南極と同等の扱いをする事で決定した。

 簡単に言えばどの国も領有権を主張する事を禁止したのである。

 それに伴い付近海域は公海としたのだが、既に一部の島々は基地化されており、滑走路が建設されていた。

 と言っても先程の条約、シンガポール条約により領有権の主張が出来ないのでRPTO所有の基地という事になった。


 そんな島が視界に入る沖合で多数の艦艇が航行していた。

 どの艦艇も灰色一色に塗られた軍艦であり、各艦が海軍旗を見れば何処の国の所属か分かるだろう。

 そんな多数の艦艇が居る中で一際目を引く艦艇が3隻居た。

 それぞれ中華民国海軍旗、日本国海軍旗、アメリカ海軍旗を掲げている。


 【055型】巡洋艦【南昌】、【高雄型】ミサイル巡洋艦【高雄】、【ズムウォルト級】ミサイル巡洋艦【ズムウォルト】の3隻である。

 3隻とも満載排水量は1.5万tを超えており、他の艦艇より一回り大きい。

 その為、搭載している艦砲も一際大きく、アメリカ製の155mm砲やそれを自国生産した同等規模の砲を搭載している。


 そんな艦艇のうちの1隻である日本国海軍ミサイル巡洋艦【高雄】の艦橋では航海長が周りの艦艇との距離を気にしながら乗員に指示を出していた。


「15:00に進路を2-2-1に変更する、見張りの人員を増やすんだ。」

「了解しました。」


 現在【高雄】は十数隻の艦隊のほぼど真ん中に位置している。

 戦闘状態では無いので各艦艇との距離は対して開いておらず、少しのミスや見落としが大事故に繋がる可能性もある。

 現に軍艦と民間船舶の衝突事故は毎年、世界各地で起きており、日本でも多々ある。


「しかしこう見ると東南アジア諸国の艦艇は国際色豊かだなぁ。」


 航海長が指揮している場所から一段上がった場所で双眼鏡を手にしながらそう言うのは【高雄】の代々木一等海佐である。

 民間航空機と違いオートパイロットのような自動操縦装置などの無い船では常に艦橋に数人が張り付いていなければならず、軍艦であってもこう言った私語はそれなりにする。

 言い換えれば非常に暇なのだ。


「そうですね、タイやブルネイは我が国、ベトナムは中華民国、フィリピンやマレーシアなどはアメリカ、シンガポールやオーストラリアなどは欧州系ですね。」


 航海長はそう言いながら周りの船を見渡す。

 軍艦を含め兵器という物は他の国がその国にどれだけの影響力を持つ指標でもある。

 タイやブルネイは親日国で日本企業も多数進出しており、少し昔までは様々な援助を行なっていた。

 フィリピンは元々アメリカの植民地だった為、影響力が強いのは当たり前、同じ理由でシンガポールも欧州系の艦艇を購入している。

 ベトナムに関しては少し前に中越戦争と呼ばれる中華民国とベトナムでの戦争があったが地理的な結び付きだろう。

 だが、空軍機はアメリカ製で防空レーダーは日本製なので中国一辺倒でも無い。


 ちなみに日本の影響力が強いタイやブルネイなどには日本国海軍を早期退役した二戦級の艦艇が売却されているので史実よりも海軍力は高い。

 現に東南アジアで唯一空母を保有しているタイの空母は日本国海軍の軽空母をタイが購入して日本で改装した物である。

 まぁ、流石に艦載機を揃える予算は無いので今はヘリ空母と化しているが、タイ周辺の安全保障を考えるとそれでも十分である。


「懸念は中華民国だが・・・」


 そう言って艦長は隣を航行する【南昌】の方を向く。

 近年の中華民国は史実中国と同様に海軍力の近代化に勤しんでおり、特に日本と中華民国は台湾問題と言われる領土問題を抱えているので余計に警戒してしまう。


「それでも南中国の海軍増強のレベルはたかが知れてますし、脅威になる程では無いのでは?それに南中国が台湾に攻め込むのはアメリカが許しませんよ。」


 航海長の言う通り、現在の中華民国は史実現代の韓国のような状態になっており、海軍力を増強してもたかが知れている。

 中華人民共和国との戦争は停戦中でありまだ終わっていないのだ。

 その為、何回も言うように中華民国としても第1優先は陸軍であり、その次に空軍、海軍は最後である。

 更に中華民国はアメリカと安全保障条約を結んでおり、尚且つアメリカ海軍第7艦隊の母港が近年になって福州に移されたのでアメリカは日中間の関係に敏感なのだ。

 何故なら第7艦隊の空母を整備するドックが中華民国に無いからである。

 その為、日本の呉か横須賀にある旧海軍工廠(現三菱重工及びJMU)のドックを新日米安全保障条約に基づき整備ドックとして使用している。

 その為アメリカとしては日中間の関係が緊迫するのは非常に困るのだ。

 更に言えば大元の台湾問題で、アメリカは自国の管理下で住民投票をさせ、日本に帰属させた。

 よって曲がりなりにも民主主義・民族自決を唱えているアメリカは戦争で国境を変える事はアメリカ的にも非常に宜しくない。


「母港と整備拠点を別々の国に設置するのは笑うけど国安保法があるから仕方が無いよなぁ。」


 そう言いながら艦長はケラケラ笑う。

 国家安全保障法は戦後のドサクサに紛れたアメリカ軍が国内へ駐留させない為の法律なのだが、この法律のせいでアメリカは日本に駐留出来ないのだ。


 ならば「中華民国で整備させればいいじゃん!」と言う人が居るかもしれないが、この世界の中国は史実より海軍力が全然無いので造船会社も史実程の規模は無く、造船技術も無い。

 一方のは日本は海軍が空母を運用しているので大きさは違えど整備ノウハウはそれなりに有る。

 流石に燃料棒の交換などは無理だが定期整備や小修理や中修理などは普通に行える。

 ちなみにこの事に関しては日本国内で問題になったのだが、空母がドックに入ってる時には少なくない金がアメリカ政府から渡っており、企業にとってもプラスになる事なので政府が押し切った。

 と言うよりもコレがアウトならば他国海軍の艦艇を日本で建造する事もアウトになるので駄目という訳にはいかなかった。

 更に言えば修理したり点検したりするだけでサッサと出て行くので地元自治体の反発が少なかった事も影響している。


 そんな訳で少し苦労しているアメリカ海軍第7艦隊だったが、今回の演習に第7艦隊の空母は参加していない。

 丁度横須賀で定期整備中である。


「まぁ、今回は艦隊行動演習だけだし何も起きないよ。」

「はぁ、そうですね。」


 それってフラグじゃね?と思った艦長と航海長以外の艦橋乗員達だったが、幸いな事にフラグが回収される事は無く、2日後に【高雄】は無事に高雄海軍基地に帰港出来た。



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