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1.プロローグ



西暦2019年8月24日、日本国 台湾州高雄市 高雄海軍基地


 現在は立派な海軍基地が広がる高雄市北東部沿岸にあるこの基地は元々は大日本帝国が1895年の日清戦争により割譲した台湾に建設した海軍基地である。

 と言っても当初は哨戒艇などの小型艦を配備するだけの小規模な基地であり、どちらかと言うと主力は同じく高雄市郊外に建設された高雄海軍航空基地だった。

 そんな航空基地のオマケとして建設された高雄海軍基地だったが、その後の対米戦を見据え拡張が進み、現在の規模までになった。

 そんな高雄海軍基地だが現在、高雄基地を保有している日本国海軍だけでは無くその他多数の海軍艦艇が高雄基地に入港しており、各埠頭ではその艦艇の乗員とみられる軍人が他国の軍人と仲良く談笑していた。


「どうやら主催国としての面目は今回も保たそうだな。」

「世界情勢は50年前と同じですからね・・・」


 そんな光景を少し離れた場所から見詰めるのは高雄基地を母港に置く日本国海軍第5艦隊司令の沖田海将と高雄基地司令の義仲海将補である。

 ちなみに彼等は先程まで今回の合同海軍演習に招待されたRPTO(環太平洋条約機構)のアメリカ海軍を主とした儀礼的な堅苦しい挨拶を受けており、先程ようやく解放されたばかりである。


 そしてそんな彼等はアメリカ海軍の将校と仲良く談笑しているある一団に目を付けた。

 肩のエンブレムには赤色の下地に左上に青色とその上に太陽が描かれている。

 そう、中華民国海軍の将校達である。

 現在、中国大陸の華南などの地域を支配している彼等の敵は華北などの地域を支配している中華人民共和国であり、一応はアメリカ主導の自由主義陣営に所属している為、特に大きな動きは無いが、内心はこの台湾を自国領土だと思っている日本の準仮想敵国である。


「中華民国海軍、近年海軍力の増強が著しいですね。」

「あぁ、今回もまた立派な艦艇を連れて来てるしな。」


 そう言って沖田海将は少し離れた場所に停泊している1隻の艦艇を見た。

【055型】ミサイル巡洋艦、満載排水量は1万2000tを誇り、5年前の2020年から就役している中華民国海軍の最新鋭ミサイル巡洋艦である。


「・・・あれが敵になるかも知れないと思うと薄寒いな。」


 現在、中華民国と台湾での領土問題を抱えている日本としては中華民国軍と衝突する可能性は十分にあり得た。

 その事を想像してそう呟く沖田海将補だったが、隣の義仲海将補は違う考えだった。


「中華民国は我が国と同じRPTOに加盟してますし、我が国と同様にアメリカ盟主の西側諸国です。北中国との戦争はまだ終わっていませんし、有事の際にはアメリカと我が国の支援が不可欠ですので、心の中ではどう思ってるか分かりませんが、敢えて敵対はしないのでは?」


 義仲海将補の指摘は的確だった。

 構図としては史実現代の韓国と日本の関係に近い。

 と言ってもそこまで仲は拗れてないのだが・・・


 現在の中国大陸は山東省以下南の華南を中華民国、山東省以上北の華北を中華人民共和国、旧満洲国は満洲国連邦として主に3つの国に分かれている。

 これに朝鮮半島の大韓民国などもあるが、今は除いておく。

 旧大日本帝国の傀儡国だった満洲国は現在自主独立しアメリカ影響下の満洲国連邦として成立し、対ソ連の重要な拠点として発展している。

 そしてそんな満洲国連邦と中華民国はアメリカ主導の自由主義陣営に属しており、両国にはアメリカとの安全保障条約に基づき在満・在中米軍が駐留している。

 そして日本とも有事の際には物資などの間接的支援を行う旨の協定が結ばれており、その関係を崩してまで台湾を取りにくる事は無いだろう。

 それが世界の軍事専門家の共通の認識だった。


「まぁ、そうだといいんだがな。」


 そう言って沖田海将は各国海軍将校が談笑している場へと足を運んでいく。


 実際に中華民国海軍の増強が目立っていると言ってもその戦力は史実中華人民共和国どころか史実海上自衛隊にも満たない程度であり、【055型】も4隻の建造で終わり、2個ある艦隊に配備されたのみである。

 更に空母も保有しておらず、対潜能力を重視した史実の海上自衛隊に配備されている【ひゅうが型】のようなヘリコプター空母を2隻保有しているだけである。

 現実的に中華民国海軍には部隊を台湾はおろか沖縄へ輸送する輸送能力すら保有しておらず、第2次日中戦争が空机の議論と言われる所以だ。


「まぁ、なるようになるか・・・」


 1人残された義仲海将補はそう楽観的に呟き、自分も同じく他の各国将校が集まっている場所に足を向かわせた。






 1945年8月14日に連合国に対しポツダム宣言を受諾し、無条件降伏した大日本帝国は10月2日に連合国によって設置されたGHQ(連合国総司令部)により国としての主催を一時的に失った。

 この時、日本に進駐したのはアメリカ軍・イギリス軍・オーストラリア軍・カナダ軍・ニュージーランド軍の五軍のみであり、史実では樺太や千島列島に進駐したソ連軍や中華民国軍は進駐しなかった。

 これはアメリカの対ソ戦略が史実よりも早く行われており、日本統治のGHQの中にソ連を入れなかったからである。


 更には、降伏の際に南樺太や千島列島、北海道などの北方地域をソ連軍に取られる事を心配していた大日本帝国はすぐさまアメリカ軍を千島列島や南樺太、北海道に招き入れた事もソ連が進出しなかった要因の1つである。

 当然の事ながらアメリカ政府も日本の狙いは分かってはいたが、大戦後ソ連と対立関係になる事は明白であり、アメリカ軍5万人が北方地域に進駐し、史実のソ連軍の侵攻は行われなかった。

 そしてこの史実より素早いアメリカの対ソ戦略が日本のその後の領土や安全保障にも深い影響を及ぼす事になる。


 戦後直ぐ、アメリカ政府は戦後の日本の在り方においての会議で日本の安全保障に関して中立と徹底的な非武装化を目標に行われる事が前提として話が進んでいたが、ここに異を唱える者も居た。

 これは史実でも起きた事であり、本来ならばその提案は拒否され後の憲法9条に繋がるのだが、この世界ではそうはならなかった。


 その一因とされたのが日本よりも先に降伏していたドイツだった。

 ドイツ第三帝国は西からはアメリカを中心とした欧米諸国、東からはソ連が挟み込むような形でベルリンで合流し、降伏した。

 しかしその後の戦後統治でドイツの東半分はソ連が統治し、東西ドイツは分断されてしまったのである。

 この事がアメリカ政府内でのソ連に対する警戒を何段階も引き上げ、日本の中立・非武装化の指針は一転、対ソ連に備えるだけの軍事力を有する事が求められた。

 しかし、現在の大日本帝国軍を存続させるのは治安などで今後のGHQ統治に影響が出る事は必須であり、取り敢えず今回の戦争の原因である大日本帝国軍は徹底的に解体する事となった。


 そして軍事に並ぶもう一つの違いは国土である。

 史実では北海道・本州・四国・九州以外の植民地は放棄、小笠原などの島嶼部は連合国の管轄下とされた。

 その条項に関しては史実通りだった。

 だが、付け加えるならばその連合国の管轄下の島々に千島列島と澎湖諸島とは別にある島が含まれていた事である。

 そう、台湾である。


 これに関してはアメリカ政府は当初は中華民国に時を見て返還しようと考えていたのだが、日中戦争が終わった途端に始まった中国共産党と中国国民党での内戦が激しさを増してきたのである。

 アメリカ政府はこのまま台湾や澎湖諸島を中華民国に返還すればその後に中国共産党の手に渡るのでは?と考えた。

 更にはアメリカ政府内で「台湾と澎湖諸島は日清戦争での下関条約で割譲された領土なので本戦争(太平洋戦争を含む第二次世界大戦)で関与する領土では無い。」との声が出た。

 しかし、ここでそのまま日本に返還するのは中華民国からの不満が出ると考えたアメリカ政府は民主的な手段で決める事にした。

 それは住民投票、台湾及び澎湖諸島に住む住民で住民投票を行わせたのである。

 選択肢は3つ、『日本国への帰属』『中華民国への帰属』『独立』であった。

 ちなみに独立を選ぶと、もれなくアメリカの実質的な属国となる。


 投票は戦後直ぐの1946年4月の事であったが、戦争による被害は日本本土と比べ少なかった台湾だから出来た事である。

 そしてGHQ管轄下での住民投票で選ばれたのは『日本への帰属』、こうして台湾及び澎湖諸島は日本に帰属する事が正式に決定された。

 ちなみに投票の割合としては『日本への帰属』が5割で1番多く、『独立』が2番目で4割、『中華民国への帰属』はたった1割程度しか居なかった。

 投票の結果は直ぐに日本臨時政府に伝えられ1946年7月から日本臨時政府の統治下となった。

 ちなみに澎湖諸島に関しては沖縄やその他の島々と同様に一時的にGHQアメリカの統治下とされた。


 このように台湾は日本領として日本に帰属する事が決まったが、当の中国国共内戦は一進一退の攻防が続き、中国共産党軍の進撃は北京などの華北を占領した時点で停止していた。

 その頃アメリカ軍は親米の国民党軍に物資を送っており、大日本帝国軍の解体で余剰になった武器なども日本からの戦後賠償の一環として全て送っていた。

 そして当のアメリカ軍はソ連などの共産主義勢力の封じ込めに躍起になっており、朝鮮半島の統治を駐留していた現地大日本帝国軍部隊から引き継いだ後はその足で満洲国へと向かい満洲国全土を支配下に置いた。

 これはソ連軍が東欧の確保に躍起になっており極東方面に目を向けていなかった事が大きい。

 ともあれ朝鮮半島全てと満洲を確保したアメリカ軍だったが、時が進みソ連が極東に目を向け始めると事態は変わった。


 当時ソ連国内に亡命していた金日成がソ連の義勇軍と朝鮮半島の日本統治から逃げ出した朝鮮人兵を引き連れ1949年6月、韓ソ国境から大韓民国へと侵入、南進を開始したのである。

 史実の朝鮮戦争より1年早い開戦だった。

 ちなみにこの世界では朝鮮半島はアメリカの影響下にある大韓民国の1国支配であり、史実のような分割統治では無かった。


 その後の流れは細かい違いはあるものの、史実の朝鮮戦争と大方同じである。

 突然の奇襲に対応出来無い大韓民国軍及びアメリカ軍は各地で敗退し、釜山周辺まで追い詰められた。

 この1番の原因はアメリカ軍の兵力不足だが、当時のアメリカ軍はその大部分が満洲に駐留しており、朝鮮半島には5個師団約6万人程度しか居なかったのである。

 しかし、その後に行われた仁川上陸作戦と満洲に居た米軍がソ連との国境を封じると北朝鮮軍は挟み撃ちを受け、満洲をアメリカに取られていた為に中国共産党は義勇軍も派遣出来ずに(国共内戦により派遣の余裕も無い)、1951年7月に北朝鮮の降伏で終戦を迎えている。


 ちなみに、この朝鮮戦争の際に日本の防衛と治安維持を担っていた日本駐留部隊を朝鮮半島に移動させた事により当初予定されていた日本の再軍備要求が早まり、1949年7月8日にGHQは日本臨時政府(この時点で日本はまだ連合国の統治下にあった)に対し『国内の治安維持及び防衛組織』として12万5000名(史実は7万5000名)の保安隊の創設を命じた。

 この時点で史実とは違う自国の防衛戦力の保有を明記した憲法9条は史実通りに施行されており、特に問題は無かった。

 ちなみに史実よりも5万人多かったのは台湾の治安維持及び防衛の為である。


 ちなみにこの時は史実の警察予備隊と同様に警察の一部組織という扱いであったが、1950年11月25日には公職追放の一部解除と保安隊の重武装化がGHQより要請(実質的な命令)された事により1951年7月に日本臨時政府は保安庁法を施行させ、それにより保安庁という新たな省庁が設置され、保安隊は警察の下部組織から独立した国防組織となった。


 史実より1年早い1950年9月8日にはサンフランシスコ平和条約が結ばれ日本は主権を回復、日本臨時政府は日本政府へと名称変更された。

 そして1953年3月には日米相互防衛援助協定が結ばれ日本は国防力の強化という義務を負う事になった。

 1953年6月には国軍法と防衛総省設置法という法律が成立したが、7月には史実には無い国家安全保障法が成立してしまった。


 この国家安全保障法は簡単に言うとアメリカ軍などの他国軍に頼らずに自国軍での国防を行う旨の法律であり、この法律によりサンフランシスコ平和条約の際にアメリカと結ばれた日米安全保障条約の内容を変更する事になってしまった。

 だが、当のアメリカはサッサと日本国内のアメリカ軍を満洲や朝鮮、中華民国に移駐し、日米安全保障条約での防衛義務などの国家安全保障法に抵触する部分を除いた新日米安全保障条約に修正した。

 アメリカとしては日本以外に自国軍が駐留できる防波堤がいる為、変に粘って日本との関係を悪化してまで駐留する意義が無くなっていたのだ。

 他には新生日本国軍がそれなりの規模になったのでわざわざ常駐させる必要は無いと判断したのもある。


 ちなみに国軍法の施行により保安隊は日本国軍へと正式に名称を変更し、その後アメリカの支援を受けつつ西側諸国の一角として拡大していく事となる。



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