第86話 俺、異世界でオークキングの報告書を読むその2
俺はセンチネルが言ったことをそのまま素直に聞き入れることは出来なかった。
俺じゃなくてもこれに関しては誰もがそう思うはずだ、片方はSSS冒険者からの情報、もう一つはBランク冒険者の情報が同じになることなど有り得ない。
それ以前にただのオークですら、Bランクだとヘタすれば町に帰って来れないことにもなりかねない。
そんな冒険者がセルーンと同じようにオークキングを視認し、正確な位置を地図に書くことなど出来るとはやはりどう考えても有り得ない。
頭をナデナデする手が止まったと思いセルーンの方を見ると、彼女は少し気になったことがあったのか報告書を読んでいる。
「・・・・・・センチネル、こことかわたしが報告した内容と違うわ。今回この報告書をまとめたのって誰だっけ?」
「今回のはヒマリ君にやってもらったよ、セレーンは靴屋でキミの真似しながらアルバイトしていたからね・・・」
いつも完璧に仕事をこなすセレーンさんが姉になりきるために全力を尽くした結果・・・本業がおろそかになるという、姉妹愛は実に業が深い。
彼女もその事で姉のセルーンや俺たちを危ない目に合わせてしまった事に反省をしているのか・・・首を垂れている。
それからセルーンはどの辺りが具体的に違うのかを掻い摘んで話してくれた。
まずそもそも大きさが違うようだ、俺たちが戦ったオークエンペラーの身長は優に5メートルは超えていたはず、しかし報告書に書かれていたのは4メートル。
次に武器がナタではなくこん棒、そして最後が王冠なのだがオークエンペラーの王冠は太陽光に反射する程度の光沢はあるが、この報告書に書かれている王冠は一回り小さくなった上に太陽光に照らされても、一切反射しないほどに汚れが目立つものだった。
実際のオークキングは本当にこんな感じだとセンチネル、セレーンさんのふたりはそう教えてくれた。ただ一緒に戦ったセルーンだけはそもそもオークというものに興味があまり無いらしく、何度も倒しているはずのオークキングと普通のオークですら王冠で判断しているほどだ。
それで斥候部隊としてちゃんと報告出来るのか不思議に思ったが、偵察のみを彼女に任せると問題ないどころか完璧にこなしてくれるらしい。
だけど戦闘を始めてしまうとそっちに集中してしまうため・・・というか狂戦士になってしまうので一気に斥候としての能力が下がる・・・ただあの時、すぐにエリンや俺の様子に気づいて助けてくれた事を考えると、周りはちゃんと見えているのだろう。
セルーンが報告した内容を意図的に改ざんした人がいるということは分かった・・・しかも、わざわざ冒険者からの情報までも改ざんして同じ報告書を作るとか・・・これじゃ、センチネルに気づいてくれといっているようなものじゃないか。
現状、一番怪しいのはそれらの報告をまとめ提出したヒマリさんということになる。
そういやこの報告書の違和感に気づいたのはいつなのだろうか、昨日俺が17時ごろに依頼達成の報告をしに、このギルドに訪れた時に助言してくれたことを考えると、それよりも前だということは確実だろう。
「センチネル、昨日俺が来た時に助言してくれたってことはどこかのタイミングでこの報告書が怪しと思ったんだよな?」
「あぁ、それはね・・・斥候部隊と冒険者の報告書その1が揃った時に読み比べた時からちょっと怪しいなとは思ってたんだ」
彼は何事もなく普通にそう答えると、さらに詳しく身振り手振りを加えながら話してくれた。
そもそもBランクの冒険者には樹海ミストでの討伐依頼や採取依頼などを受けた時にいつもと雰囲気が違う・・・例えばいつもならいるはずの魔物がいなかったり、キノコなどの採取素材が根こそぎ無くなっていたり、などいつもと何かが違うことがあれば報告して欲しいということだけしか伝えていない。
それなのに複数のパーティーで奥地にいるはずのオークキングの目撃情報が大量にあった。
その話を聞いて、この時点で俺でもなんか怪しいなとすぐに感ずくほどだ。
セルーンの斥候部隊とセンチネルから依頼を受けたAランク冒険者たちが調べ、報告してくれた内容とはこの時はまだ多少違ってはいたが、これが徐々に同じようになっていったらしい・・・それがほぼ完ぺきに同じとなるのが俺たちに見せてくれた、その6とその3の報告書とのことだ。
「という訳でアスティナ君にはあの時、念のために召喚しておいた方がいいと言ったんだよ」
「話は分かったんだけどさ・・・それ直接セルーンお姉ちゃんから報告ってされなかったのか?」
「うん・・・・・・されたような・・・されなかったような・・・・・・・」
質問されたセンチネルは急にどもり始めると、それに追従するかのように目が泳ぎ始めた。
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