第81話 俺、異世界でウォッシュを人に使う
リスタとガーランさんにシスティを紹介し終わると、予定通りまずは宿屋に向かった。宿屋に入ると、いつもの明るい声で「おかえり!」と出迎えられた。
「ただいま、リリアーヌ。この後また冒険者ギルドに行かないと行けないんだけど・・・」
寝ているエリンの方を見ながら、俺が言葉に詰まっているとリリアーヌは俺に何をして欲しいのか理解をしたようですぐに快諾してくれた。
「アスティナちゃんが冒険者ギルドに行ってる間、エリンお姉ちゃんを見ておけばいいのね」
「よろしく頼む、リリアーヌ。さてと・・・システィ、エリンの部屋はこっちだ、ついてきてくれ」
俺はエリンを抱きかかえているシスティを先導し、彼女の部屋まで案内をした。そして、いざエリンが泊っている部屋に入ろうとドアノブに触れようとした時、預けた部屋の鍵をカテリーヌさんから返してもらうのをすっかり忘れていた。
階段を降りないといけないのか、ちょっと面倒くさいなと思いながら、頭をかいていると俺の背後から鍵を持った手がスッと飛び出してきた。
その謎の手はそのままロックを解除すると、ついでにドアを開けてくれた。
「リリアーヌ、ありがとうな。鍵を返してもらうのすっかり忘れてたわ」
「どういたしまして。アスティナちゃん、鍵無いのにそのまま2階上がっちゃうんだもん。まぁ仕方ないかぁ、だっていつもエリンお姉ちゃんがやってるもんね!」
悪気のない少女の笑顔がこれほどまでに心にグサッと棘のように刺さるんだなと思い「あぁ、そうだな・・・」と少し上を見ながら答えた。
最初はそのままベッドに寝かせようと思ったのだが・・・ほこりなどを被ったまま汚れた状態でそのまま寝かせるのもどうなのだろう。
そういえばウォッシュって、人にも使えるのだろうか・・・いまのところ食器とかにしか使っていないが、もし人でも発動するのなら町に帰ってこれずに野外で泊まることになった時、かなり重宝するのではないだろうか。
「ふむ・・・やってみるか。システィもしかしたら、ちょっとあわあわになるかもしれないが我慢してくれ」
「はい、お嬢様。私めの事はお気になさらずに・・・」
「・・・・・・リリアーヌもだけどシスティも理解が早くて助かるよ・・・マジで」
俺はウォッシュを引くと「ウォッシュ・・・対象、エリン」と唱えた。カードが無くなることもなかったが発動することもなかった。
やっぱり人は無理なのか残念だなと諦めようとしていた時、システィの方から「お嬢様、もう一枚用意して試してみてはいかがでしょうか」と提案された。
確かに食器を洗う数に応じてカード枚数が増減することがあった、俺は彼女の言葉通りにもう一枚用意すると先ほどと同じようにエリンに向かってウォッシュを唱えた。
すると、手元にあった2枚のカードが消滅すると同時にエリンを覆うように泡が広がっていく。この時、感じたことはウォッシュの泡が彼女を完全に隠すように覆っているが、呼吸って出来るのかなという今更な感想だった。
俺と同じように横で見ているリリアーヌは目を見開き、口はパクパクしながら、何か言いたいのか俺のドレスの裾を引っ張り続け、アピールをしている。
それから30秒ほどが経過すると、一気に泡が消えていった。エリンの顔を見る限り、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。
泡から出てきたエリンは彼女自身もだが彼女が着ている服や装備なども見事に綺麗になっていた。
ただ髪などはシャンプーだけで洗ったかのようにちょっとギチギチしている感じが見て取れた。
「基本的には食器や衣類防具関係で留めておくのが正解かもなぁ、せっかくのエリンの髪が台無しになるな・・・。システィもありがとうな」
「私めも豚の血がついておりましたので、丁度良かったです」
システィは返り血すら浴びることなく一閃したはずだ・・・そうなると負傷した彼女、セルーンを抱きかかえた時にメイド服に血がついたのかもしれない。
リリアーヌは「豚の血・・・?」と首を傾げてはどういう意味なんだろうと気になっているようだ。
あとは綺麗になったエリンをシスティにベッドまで運んでもらって終了だ。
「システィ、それじゃエリンをベッドまで運んでくれ」
とシスティに指示をすると彼女はエリンに負担がかからないように、そっとベッドに降ろしてくれた。その様子を確認すると、俺はリリアーヌにエリンの事を任せるとすぐに踵を返し冒険者ギルドに向かった。
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