第72話 俺、異世界ではじめて夢を見る
俺はこの世界に来てその日はじめて夢を見た。さすがに断片的にしか覚えてはいないが内容としてはデッカい城に住んでいて、システィというメイドさんと姉妹のように楽しく一緒に遊んでいるシーンと真っ暗な部屋で大きな扉がゆっくりと閉じていき、向こう側に大剣を持ったシスティの後ろ姿が徐々に見えなくなっていくシーンだった。
最後、扉が閉じる直前にシスティがこっちを振り向いて「お嬢様・・・ここでお別れです・・・・・・さようなら、アスティ」という言葉がなぜかいま目の前で言われたかのように聞こえた気がした・・・夢のはずなのに。
ピピピピピピッ!!とけたたましい機械音によって、俺は目を覚ました。それにしても妙にリアルな夢だったな・・・夢の中までもアスティナとは俺自身もビックリだわ。夢の中ではアスティナではなくてアスティと呼ばれていた、彼女の愛称だったのかもしれない。
目覚まし時計のアラーム機能なのだがもう少し音どうにかならないものか朝からこの音で心臓止まりそうになるわ、などと思いながらベッドから飛び降り、エリンが俺の部屋に来る前に着替えてしまおう・・・出来る範囲だけど。
いつものドレスに着替え終わり、最後に鏡でアスティナの顔をチェックして完了だな。テーブルに置いてあった手鏡を手に取って、顔を確認すると目は充血しているし、無意識に泣いていたのか涙のあとが顔にクッキリと残っていた。
自分自身では泣いた記憶など一切ないのだが・・・最後の方のは少し悲しい夢だったこともあり、それで寝ているときに涙が出たのだろうか。
ただ・・・そんな状態であっても俺はやっぱ可愛いな・・・マジで。・・・・・・・ヤバい、またずっと見続けてしまうことだった。
手鏡をテーブルに置き、顔を洗うために部屋を出ようとドアノブに触れようとしたときだった、俺が触るよりも早く外側からドアノブが回された。ノックという概念を投げ捨てて来たのか俺の部屋に普通に入ってきたエリンは俺の様子を見て驚いたのか早足に近づくと話しかけてきた。
「アスティナ、どうしたの?怖い夢でも見たの・・・」
「おはよう、エリン。そうかもしれないな、俺もさっき鏡を見て気づいたところだし・・・な」
「おはようってまだ言ってなかったわね。おはよう、アスティナ!・・・まずは顔を洗いに行きましょう、そんな顔じゃわたしのアスティナが台無しだわ」
彼女に先導されるがまま洗面所に向かい、顔を洗うと部屋に戻らずに階段を降りて、朝食をすませた。
それから部屋に戻り、身支度を終えると俺は「さて・・・それじゃオークキングとやらに会いに行きますか!」とエリンにも聞こえるように独り言を言った。
部屋の戸締りをすませ鍵をカテリーヌさんに預けると接客をしているリリアーヌとキッチンにいるゲオリオさんに手を振って「行ってきます!」と言って宿屋を出た。集合地点の樹海ミスト入り口を目指して歩き、町を出る時に門番であるリスタとガーランに軽く挨拶するとそのまま町の外に出た。
俺は移動しながら、この町が樹海と同じ名前のミストと名付けた理由を思い出していた。たしか・・・ただ樹海と近いからという雑な理由だったことを樹海の入り口にたどり着いたときに、なるほどと納得してしまった。歩いて徒歩1分という距離、ヘタをすれば俺が住んでいた場所からコンビニに行くよりも近いかもしれない・・・。
討伐依頼で魔物を倒しに行くために町の外に出ることは何度も・・・というか毎日あったが樹海側に向かうことが一度もなかったのでいままで気にしてはいなかったが最寄りとかいうレベルじゃないだろ・・・これ。
俺たちが樹海に到着した時にもはもうすでにセルーンが例の仮面バージョンで待っていた、あの姿で入り口で待ってるとか怖くね・・・と思いながら彼女の元に向かうと表情に出ていたのか、彼女から「アスティナちゃんが来るまで木の上で隠れていたからね!」と何も言っていないのになにやら言い訳のようなものを聞かされた。
「オークキングの居場所とかは移動しながら教えるわね。あー、その前にアスティナちゃん、準備は万全?」
「大丈夫だセルーンお姉ちゃん、ここに来るまでに準備完了済みだ!」
「さすがね!それじゃ、行きましょうか、アスティナちゃん、エリン」
「案内よろしく頼む、セルーンお姉ちゃん」
一通り会話も終わったところで案内役のセルーンが先行して歩き始めた、俺たちも彼女のあとをついて行くために移動することにした。
俺とセルーンの会話を聞いていたエリンは頭を傾げながら、俺に近寄って来たかと思えば急に耳打ちをしてきた。
「ねぇ、アスティナ・・・あの変な仮面の人って、セルーンなの?」
「あぁ、そうだぜ。あの姿のときはマジで強いんだぜ・・・特訓なんて比じゃないくらいにな」
俺が遠い目をしながらそう言うとエリンは「でも・・・仮面つけてるわよ?」と頑なに仮面について指摘してくるのだった。
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