第29話 俺、異世界でまた師弟になる
あれからそのまま走り続け、やっとハイドを解除した路地裏まで帰ってきた。ここでまたハイドを発動して自分の部屋まで戻ろうとしたとき後ろの方から俺を呼び止める声が聞こえた。
「君、それ意味ないよ。別に使ってもいいけど、普通にエリンや宿屋の夫婦にはバレバレだよ?」
「・・・・・・、いやいや目が合った気はしたけど上級魔法がそんな簡単に見破られるわけ・・・って、どちら様ですか?」
「やぁ、君の元師匠ことイクストリアさんだよ」
「師匠!いや、イクストリアさん・・・。それよりもどうしてここに」
「宿屋とこの路地裏で魔法反応があったから見に来ただけだけど?」
「・・・・・・魔法反応?」
そこには冒険者ギルドから外出禁止のお達しが出ているのにも関わらず普通に出歩いているイクストリアさんがいた。俺が首を傾げながら聞き返すと彼女は少しダルそうにしながらも説明してくれた。
彼女やエリンには魔力の流れを視ることができるとのことだった。詳しく聞いてみると魔法を発動する際に発生する魔力や発動後の残滓を視ることができ、それによって俺が部屋で魔法を使ったことが分かったらしい。それと魔力の感知能力はイクストリアさんよりもエリンの方が高いとも教えてもらった。
つまり、俺の部屋で魔法が発動した時点でなにかをしようとしていたことがバレバレだったというのだ。あと宿屋の夫婦は魔力とかじゃなくてただそういうものだと彼女はいった。
なぜかあの夫婦についてはその説明で十分だと思った。ただ一つだけ気になることが・・・なぜ彼女は視えていたのに俺が宿屋を出ることを見逃したのだろう。
「イクストリアさん、なぜ俺が宿屋から出るのをエリンは見逃したのでしょうか?」
「あ~、それはだね・・・。君がハイドと同じタイミングで使ったデコイが関係しているんじゃないかと思うんだ」
「・・・・・・・・つまり・・・?」
「あれは魔力で作った分身を一定時間その場所に出現させる魔法だろ?移動するのと留まるのとではどっちの方が濃度が濃いかってことさ」
「・・・理解はできたのですが普通バレません?だって、もう一つの魔力は出口に向かって移動してるんですよ?」
「それはだね・・・・・・彼女がエリンだからだよ!!」
「あー、なるほど・・・。エリンだからですね!!」
宿屋に急いで帰っていたはずなのに俺は路地裏で彼女とまたエリンのことで盛り上がってしまった。ただでさえセルーンとの手合わせで時間を取られてしまっているのにまたやってしまったと思い話を切り上げようとしたときイクストリアさんからある提案をされた。
「すいません、俺急いでるんでこれで。バレてるって分かっていても早めに帰ることにこしたことはないので・・・」
「別にそれは構わないけどさ。まずはそのハイドをストレージに収容したらどうだい?」
「それに僕が一緒についてってあげるよ。アリバイとしても役立つと思うけど?」
「・・・師匠、ありがとうございます!!」
「君さ、イクストリアさんっ呼ぶきないだろ?・・・・・・はぁ、もういいよ。君の好きなように呼べばいいさ」
「はい、師匠!・・・・やっぱこっちの方がしっくりきます!」
イクストリアさんと師匠・・・いい方が違うだけで、俺と彼女の立場がこれといって変わるわけではないことは師匠の性格から理解はしていたがあの人から魔法を教えてもらう立場である以上はそうでなければならないと思った。
個人的にイクストリアさんっていうのが言いにくかったわけでは決してない。それになんだかんだ師匠も案外この呼ばれ方は嫌いではないようだ。
ハイドをストレージにしまうと師匠と一緒に宿屋に向かうのであった。ドアを開けるとそこにはご飯を食べている人や風呂に入りに行く人、宿屋に泊まりに来ている人などがたくさんいたがその中にエリンの姿は見当たらなかった。
俺が帰ってきたことに気づいたリリアーヌが不思議そうに駆け寄ってきた。
「あれ~、アスティナちゃん、部屋にいたんじゃなかったの?エリンお姉ちゃんからそう聞いてたんだけど?」
「あ~、ちょっと忘れ物をしてな。師匠のとこに取りに行ってたんだよ・・・」
「やぁリリアーヌこんばんは」
「イクストリアちゃん、こんばんは!えっ、ええぇぇぇアスティナちゃんの先生なの!?」
「まぁそういうことになってるね。それとエリンはまだ部屋にいるのかい?」
「うん!アスティナちゃんの用事が済むまで部屋で待ってるっていってたよ?」
俺たちはリリアーヌと別れるとそのまま階段を上がると俺の部屋へ向かうのだった。ドアを開けようとドアノブに触れたときなぜかセルーンと対峙したときとは別の恐怖を覚えた。
ドアノブをゆっくり回しながら部屋を覗くとそこには俺の分身をただひたすら無心で眺め続けるエリンの後ろ姿が見えた。俺と師匠はその様子を見るとそっとドアを閉めるのであった
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