第172話 俺、異世界ではじめて空気イスを見る
システィは自分がそれほどまでの惨事を引き起こしていたことに顔が真っ青になっている。
エリンの逆鱗に触れ正座をしたことはかつてあったがそのときに俺と師匠はガッチガチに怒られたのだが、システィを召喚する前の出来事であって彼女は直接そのシーンを見ていないはずなのに彼女はもうその姿勢にはいっている。
システィは召喚される前の記憶が一切ない・・・ただアスティナのことだけは完璧に覚えている。
正座をしているということはアスティナに関連した記憶の中で正座をしないといけないシーンがあったのだろう。
確かにあの夢の中でのアスティナはとても元気で活発な子だったから、アスティナと一緒にシスティも謝ることがあったのかもしれないな。
そういう活発というか、おてんばなところはオリジナルアスティナも俺もそれほど大差ないかもしれない・・・まぁ中身がおっさんと少女ではそのおてんば具合などのベクトルは違っているけど・・・。
そんな彼女だが・・・さらに一度も見たことも経験したこともないはずの姿勢に移行しようとしている。
彼女は見事なそれはもう実に見事なまでのジャパニーズ・ド・ゲ・ザを決めている。
「お嬢様・・・それにみなさま・・・本当に本当に申し訳ございませんでした」
「いや、俺もちょっとやり過ぎたわ・・・自分で言うのもなんだけど、可愛すぎた俺にも原因があるし・・・だから気にしないでくれ、システィ」
システィは土下座をしたまま頭を上げることもなく「ですが・・・」という言葉からさらに謝罪を続けようとしている。
俺がシスティにそのことで言葉をかけようとしたとき、ライユちゃんが両手に抱きかかえていた絵本をシスティに表紙が見えるように向け告げる。
「システィお姉ちゃん!!アスティナお姉ちゃんもライユもいいって言ってるの、それよりもこの絵本読んで!!」
待つのに飽きたライユちゃんはシスティを正気に戻す作戦のことをすっかり忘れているようだ。
両頬を膨らませプリプリしているライユちゃんも実に可愛らしい。
ライユちゃんに絵本を読むように急かされたシスティは顔を上げ、どうすればいいのか俺に目で訴えかけてきている。
「システィ・・・ライユちゃんもだけど、他のみんなも本当に今回のことは気にしていない。だからさ、この話はこれで終了!!」
「ですが・・・」
「ですが・・・も禁止!!次それ言ったら、二度とお姉ちゃんって呼ばないからな!!」
「・・・・・・はい、お嬢様」
「おっし、それじゃ早速そこの淑女に絵本を読んであげてくれ、システィお姉ちゃん」
俺はそう彼女に言葉をかけると立ち上がらせるため彼女の右腕を両手で掴み引っ張り上げる。
まぁアスティナの筋力ではどうしたところで彼女を引っ張り上げることなどできないが、こうやって行動することがいま俺が考えうる免罪符として一番有効だろう。
これは昔俺が塞ぎ込んでいたときにいまはもう顔も思い出せない親友がしてくれたことを彼女にそのままやっているだけだけだ、たったそれだけでもあのときの俺は気が晴れたんだよな・・・まぁその塞ぎ込んだ原因についてはこっちの世界に来て記憶が消失したとかではなくて、普通に忘れていたりする。
彼女は立ち上がるとライユちゃんが持ってきた絵本を手に取る。
システィはライユちゃんの視線に合わせるため中腰になり、絵本を開きライユちゃんに絵と文章が見えるように向ける。
そのまま読もうとするシスティにライユちゃんは小さい両手で彼女の肩に触れると座らせようとピョンピョンジャンプして押している。
「システィお姉ちゃん、座って絵本読むの!!アスティナお姉ちゃんみたいにするの!!」
「・・・・・お嬢様?」
ライユちゃんが何を言っているのか意味が分からないシスティは俺に暗号の解読を求めてきた。
「あー、えっとなライユちゃんはシスティの膝に座って読み聞かせてほしいみたい。俺の場合はあぐらで膝の上に座ってたけど、さすがにシスティにその座り方はなぁ・・・」
「・・・・・・そういうことでしたら、こういたしましょう。ライユ様少し絵本を持っていただけますか?」
システィは絵本を閉じてライユちゃんに手渡すと絵本を持ったライユちゃんを抱きかかえると自分は空中でイスに座っているかのような姿勢で停止するとそこにライユちゃんを座らせる。
ふむ・・・子供のころに一度は誰もが挑戦したことがあるのではないだろうか・・・そうそれは空気イス。
ただでさえ何も無い状態でもあの姿勢はきつい・・・だがうちの姉はその状態でさらにライユちゃんを膝に乗せている。
その姿に当の本人以外の俺たち5人はその偉業にただただ驚愕するしかなかった。
透明なイスに座っていると勘違いしてもおかしくないほどに自然体に見えた。
エリンとアルトジュニアが座っていたイスを借りれば済む話だったのだが、ライユちゃんがキャッキャと喜んでいらっしゃるので、言わないことにしておいた。
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