第171話 俺、異世界で姉を正気に戻す作戦を実行する
システィに絵本を読んでもらおう大作戦。
作戦の流れはこうだ、絵本を持ったライユちゃんに先行でシスティに近づいてもらい話せる程度に正気が戻ったと感じたら、次にソレイユ、そして最後に俺が突入してこの短時間に起こった惨劇を彼女に伝える。
落ち着きを取り戻したところで、今後の予定をアルトの家族に話していこう。
あの暴走っぷりはライユちゃんとアスティナそれぞれの天使が共演したことによって、ブレーキが効かなくなったことが原因だ。
まぁ最後の一押しをしてしまったのは俺なので・・・システィにだけ負担がかかるような言い方はしないようにしないとな。
それにしても師匠はこうなることが分かっていたのだろうか、今回テレポートが無ければ本当に詰んでいた。
師匠にもあとで会いに行かないと行けないが・・・俺もエリンはふと気が緩んだときについ今日起こったことをしゃべってしまうかもしれない。
さてさて・・・どうしたものか・・・実に悩ましい・・・。
おっと・・・まずは目の前で起こっていることを解決しないとな。
「ライユちゃん、それじゃ頼んだ!!」
「うん、ライユに任せておいて!!」
停止しているシスティにトコトコと絵本を持って自信満々に近づいていくライユちゃん。
ライユちゃんにはやり過ぎないようにある約束をしている。
内容をザックリいうとあの満面の笑みと甘え声のダブル攻撃を封印する、できるだけスキンシップを減らす。
そんな小さき斥候の勇姿を俺は敬礼して見送る。
横を見るとソレイユも同じように愛娘を敬礼して見送っていた。
他三名はその意味が分からず、みんなで顔を見合わせている。
あー、それとエリン、アルトジュニアはというと俺のげんこつによって元に戻っていた。
なぜあーなったのかについてはまたあとで追及してみよう。
ライユちゃんはいつもより低い声で圧をかけるようにシスティに話しかける。
「システィお姉ちゃん、これ読んでほしいんだけど」
あれからずっと停止していたシスティだったが、ライユちゃんの声が耳に届いたようで「アスティ」と連呼する声がピタリと止まり、ギギギギと声が聞こえた方に首を動かし、瞳孔が開いた目を向け片言でしゃべる。
「・・・・・・ラ、イ、ユ、サマ?」
「そうだよ、ライユだよ。システィお姉ちゃん、この絵本読んで!!」
天真爛漫なライユちゃんから出たとは思えないトーンの声を聞いた驚きによって、システィは完全ではないにしろ正気に戻りつつある・・・その証拠にあのヤバい目が生気を取り戻し通常の目に戻っていた。
「・・・はい、かしこまりました。ライユ様その前に少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
システィはライユちゃんに返答しつつ、周りを見て自分の状況を確認している様子。
システィからの返答を聞いたライユちゃんは「うん、いいよ」と表情を変えずに頷いている。
俺との約束を頑張って守っているライユちゃんのことでソレイユに小声で語りかける。
「なぁソレイユ・・・本当にライユちゃんっていい子だよな。あんな必死に作戦を実行してくれてるし、健気な感じがとても良い」
「そうねぇ、母親の私が言うのもあれだけど本当に利口で可愛くていい子よねぇ、本当に私の子かしらって思うときがあるわよ。私、あの子にすぐ抜かれると思うの・・・もうそろそろ勉強とか教えるの厳しくなってきてたりするのよねぇ・・・」
「・・・・・・あ~、そうなのかぁ、ソレイユも色々と大変なんだな。まだ会って2時間も経っていないけどさ、それでも見た目も雰囲気もソレイユによく似てると思うぞ。特にあの周りを明るくする天性の才能とかはソレイユの血を色濃く受け継いでると思うけど?」
「そこまで観察してるなんてやるわね、アスティナちゃん。それでいつうちの子になる?私はいつでも構わないわよ、なんならいま婚約しとく?」
「ちょいちょいそれを会話の間に入れて来るよな・・・お前。ライユちゃんとは姉妹になってもいいなとは頭を過る瞬間は確かにあるが・・・婚約はないな・・・勘違いしないでほしいんだけど、アルトジュニアが嫌だからとかじゃなくてさ。俺にはやっぱ無理だわ」
ソレイユは自分の頬を人差し指でトントンしながら「そっか~、残念♪」と言っているが、あの言い方態度を見る限り・・・絶対にまだ諦めてないだろ。
会話が終わるとすぐにシスティがソレイユと交代するように話しかけてきた。
考えた作戦ではライユちゃん、ソレイユ、最後に俺と段階を踏んで行く予定だったが、思っていたよりもかなり早く正気に戻ったようだ。
「お嬢様・・・私め、ライユ様に自己紹介したあたりで記憶が曖昧なのですが・・・皆さまにご迷惑をおかけしませんでしたか?」
「あ~、うん・・・落ち着いて聞いてくれ」
俺は記憶が飛んでいた間の出来事をシスティに言葉を濁しながら伝えるのであった。
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