第141話 俺、異世界でソレイユの能力を知る
俺を遊びに誘うため一生懸命に腕を引っ張ったり、背中を押したりするライユちゃんに負けて腰を上げようとしたときだった。
ドアからトントンと二回ノック音が聞こえた。
ゆっくりとドアが開くとそこに俺たちを部屋に案内してくれたテイルが立っていた。
彼は部屋に入ると早々にお辞儀をして、もうそろそろ予定の時間であることを国王に伝えていた。
「失礼いたします・・・国王、あと10分となっております」
「そうか・・・楽しい時間というのは本当にあっという間であるな・・・分かった」
テイルの言葉を聞いたアルトはさっきまでの休日のお父さんとは打って変わり、この国を治める国王アルトとして彼に返事をしていた。
次にテイルは俺たちの方を向いて、次の予定を教えてくれた。
「いまから10分後にアスティナ様とエリン様を謁見の間にご案内いたします・・・では後ほどまた来ます」
「分かったよ、テイルさん。・・・あと10分か・・・なかなか急だな」
謁見の間に行けばもう気軽に聞くことができないかもしれない・・・いまのうちにレクメングル大臣のことを聞いておくべきか。
それに不思議に思っていたこともあるし、それもついでにアルトに聞いておくか。
アルトに質問する前に俺の周りであれやこれやとぬいぐるみが置いてある場所へ連れて行こうと、策略しているライユちゃんには少し離れて置いてもらわないとな、じゃないとこのやり取りだけで10分全て使い果たしてしまう・・・それも案外悪くはないんだが、いまは心を鬼にして拒絶するしかない。
俺はソレイユにまばたきをしてアイコンタクトを送ると彼女はすぐにそのことを察してくれたらしく、ライユちゃんを背後からヒョイっと持ち上げ、そのまま自分の膝の上に座らせ、そこから移動できないように両手で娘を確保している。
ライユちゃんは俺の顔を見ながらジタバタしては「アスティナお姉ちゃんと遊ぶの~!お母さん、は~な~し~て!!」と叫んでいる。
その幼気な少女の姿が俺の心にグサグサと勢いよくナイフが突き刺さる・・・またここに来ることがあれば、今度はこそライユちゃんが遊び疲れて寝てしまうまで一緒に遊んであげよう・・・だが場合によってはこれは一種の毒にもなりかねない、ただでさえライユちゃんの可愛さにやられている俺が長時間一緒にいるとなると・・・・・・いまは深く考えるのはやめておこう。
「アルト、いまのうちに聞いておきたいことがある。謁見の間ではこんな軽口なんて叩けそうにもないしな」
「あっはっは!良いぞ、申してみよ。確かにいまのうちかもしれんからな」
「ありがとうな!まず一つ、レクメングル大臣のことだ。センチネルから注意すべき人物とは聞いているが、近くで見てきたアルトから大臣のことを直接聞きたい。次に馬車で3日はかかる距離なのに俺たちがすぐに王都に来ることが分かったのか・・・まぁこれはセンチネルからある程度情報が入っているからだとは思うが・・・それでもさすがに準備が良すぎるだろ?」
「では・・・まずはレクメングルのことを話すとしよう・・・あやつはセンチネルが言うように身分で人を判断するふしがあるのは確かだ。だが・・・国を良くしようと寝る間も惜しみ働いていることも余は知っている。あやつは良くも悪くも仕事熱心・・・仕事バカだといえる・・・そのせいであまり周りが見えておらんのかもしれん」
レクメングル大臣のことをアルトから聞いた俺はセンチネルから事前に聞いていたことを思い出していた。
両者とも身分で判断すること、国の発展に尽力しているとは言っているが、センチネルの方はマイナス面が多く、逆にアルトはプラス面が多いように感じた。
ギルド側からの情報だけだったら・・・もしかしたら色眼鏡で大臣のことを見ていたかもしれない。
どちらの意見も正しいのだろう・・・なら、俺も直接彼を見て判断するべきか今までだってそうしてきた・・・いまさら俺はなにを気にしていたのだろう。
時間の猶予もあまりないためレクメングル大臣についての話はこれで終わり、次はここまで予定を作り上げることができた理由を説明しようとアルトが口を開いたときだった・・・ソレイユがアルトの言葉を遮るように話し始めた。
「私が説明するわ!!それはね、あなたたちが今日しかも午前中に来ることを私が知っていたからよ!!」
「ふむ・・・それって、あれか未来が視えるってやつか?」
「分かりやすく言うとそんな感じのやつね!私のは視えるとはいっても、今日か明日、明後日ぐらいだけどね。それも束になった写真を見るように一枚見たら次を見て、そしてまた次って感じで覚える間もなくどんどん切り替わっていくから、あまり使い勝手は良くないけどね」
「なるほどな~、来るのが分かってさえいれば、そりゃ対応もすぐにできるってわけか。それで・・・覚える間もなく切り替わるって言ってたけど、どこで当日しかも午前中に来るって判断したんだ?」
「ふっふっふ・・・それはね、アスティナちゃんが貴族街でお店を見て回っているのが視えて、その中に時計と一緒に映っていたシーンがあったのよ!さすがに日にちまでは分からなかったけど、そのあとに視えた花瓶に生けられた花で今日来ると判断したわ!!」
「使い勝手はどうこう言ってたわりには上手いこと使ってるじゃないか・・・説明してくれてありがとうな、ソレイユ。で・・・聞いてからであれなんだけど、自分の能力をあまり言わない方がいいって、前に注意されたことがあったんだが・・・ソレイユはそういうのはあまり気にしないのか?」
「アスティナちゃんとエリンちゃんだから話しただけだし、私の能力を知っているのは夫と子供たちだけよ。だからもし能力のことが外に漏れたら、すぐに犯人が誰か分かるかもしれないわね?」
「ほぉ、なるほど・・・そんなこと言われたら黙っておくしかないかぁ!!」
棒読みで彼女に返事をすると、ソレイユは自身と俺のポンコツな演技に耐えられなかったようで・・・ライユちゃんを抱っこしたまま笑いこけていた。
自分の能力を俺たちに教えることで囲いを作り逃げられないようにするとはソレイユもなかなか策士だといえる、まぁ彼女が王妃だから権力に屈服し、おおやけにしないとかではなく、ただ単に友人としてそして同じ世界を知っているものとして裏切ることなどできるはずもない・・・それにそんなことをすれば、ライユちゃんが悲しむからな。
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