欠けて落ちて
翌日。
舞台上のセットや大道具小道具の位置確認、そして立ち位置を示すテープが全て正しく張られているかなどの最終的なチェックが行われている中、梨々香は退屈そうに隅で欠伸をしていた。
「九条、なにサボってんだよ」
「梨々香にはかんけーないもーん。それにぃ、どうせ潰れるんだしぃ、どーでもよくなぁい?」
馬鹿にしたような笑いを張り付けて言う梨々香に、注意をした団員が更に食い下がろうとする。だが、それを団長が「やめなさい」と止めた。
「団長! でも、コイツ……」
「九条。お前は今月末を以て除名とする。明日の舞台は鏑木に任せることにした」
一瞬ぽかんとした梨々香だったが、すぐに気を取り直して団長を睨み付け、「それがなに?」と嘲笑う。
「こんな貧乏劇団なんか、どーでもいいもん」
そう言うと、勝ち誇ったような笑みでポケットから名刺を取り出してひらひらと掲げた。
「それに梨々香ぁ、来月から一七夜月座に移ることになってるからぁ。こんなところで子供だましお遊戯やってるかわいそーな人たちになに言われたってどーでもいいの、わかるぅ?」
「お前……!」
団員が睨み付けるのも、梨々香は負け犬の遠吠えとばかりに笑い飛ばす。
其処へ、小道具を整えていた紗夜と小羽が舞台に戻ってきた。
「あ、ぶりっこちゃんじゃなーい。お手伝いして点数稼ぎしてえらいえらーい。でもぉ、梨々香がやめちゃってもーすぐ劇団潰れちゃうからぁ、いまさら団長に媚び売っても無駄だからぁ」
ケラケラと笑いながら言う梨々香に、小羽はきょとんとしながら「やめるんですか?」と経緯をわかっていない様子で尋ねる。梨々香は上機嫌に名刺を見せびらかして、先ほど団長たちに向けて言った台詞を繰り返した。
さぞ悔しがるだろうと思っていた梨々香だったが、小羽は手を合わせて輝くような笑みになると「もう次が見つかるなんてすごいですね。おめでとうございます」と言った。
周りの団員も団長も、そして梨々香本人も呆気にとられていたが、梨々香はキッと睨み付けると顔を真っ赤にして叫んだ。
「なによぉ……いい子ぶらないでよ! 悔しいくせに! 本心ではこんな劇団なんか何とも思ってないくせに!!」
「惨めね。小羽はあなたとは違うわ」
突然の剣幕に驚いて固まっている小羽の肩を紗夜が背後から抱き、艶麗な笑みで囁いた。団長も呆れながら梨々香を見据え、毅然とした態度で告げる。
「……来月からなら丁度いい。月末までは所属していることになってるんだから、最終公演まではしっかり来るように」
「ふん、びんぼー劇団がつぶれるところを見に来ればいいんでしょ! あとでやっぱり戻ってきてくださいって土下座したって、絶っ対戻ってなんかやらないんだから! 梨々香のお陰でびんぼー劇団がギリギリ残ってたのに、残念でしたっ!!」
捨て台詞を吐くと、梨々香は舞台袖に置かれていたシンデレラ用の小道具を蹴り飛ばし、劇場を去って行った。




