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白雪姫と美女と野獣の王子様  作者: 宵宮祀花
四幕◆暗転のエレジー

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ノイズキャンセル

 正面ホールに出差し掛かったところで、前方からなにやら騒がしい声が聞こえてきた。近付いてみれば、梨々香とその友人たちが正面玄関に群がり、ホールの長椅子に腰掛けて小羽を待つ雪男の姿を、遠巻きに眺めていた。


「うわ……マジでキモい」

「いくら金持ちでもあれはないわ……」

「てかさ、金持ち設定もアイツが言っただけじゃん? 名刺なんていくらでも偽造出来るんだし、実際はただの金持ち妄想してるだけのキモオタかもよ」

「プッ、有り得るー」


 ホールの更に奥の廊下まで聞こえている彼女らの声が、雪男に聞こえていないはずもない。胸が痛むのを堪えながら、小羽は務めて平静を装い雪男に駆け寄った。


「お待たせしました」

「お疲れさまです、小羽さん。相変わらず、良い演技でしたよ」

「ありがとうございます」


 遅れて紗夜も追いつき、小羽の横に立った。玄関口のほうからクスクスと笑う声が聞こえるが、相手にするだけ無意味なので雪男だけを視界に入れて微笑む。


「月見里さんもお疲れさまです」

「ありがとう。特におもてなしも出来ずにごめんなさいね」

「いえ……練習風景を見せて頂けるだけで、私は十分です」


 雪男はホールを見渡し、どこか遠くを見るような仕草で呟く。


「それに、このホールも……」


 雪男の視線は、ある一点に注がれている。小羽が何の気なしに視線を追うと、白雪姫の絵画へと行き当たった。硝子の棺に横たわる白雪姫の元に、白馬に乗った王子様が現れたシーンだ。


「以前に小羽さんが仰っていましたが……物語の世界を形作る、この劇場が好きなんです」


 雪男は小羽に視線を移し、口元に笑みを乗せた。

 相手にされなくて飽きたのか、いつの間にか梨々香たちは劇場を去っていた。


「あなたたち、やっぱりお似合いだわ」


 優しく微笑み、小羽の頭を撫でると、紗夜は一歩玄関側へと足を進めた。


「私は先に帰るわね。小羽、週末の最終公演、悔いのないようにしましょうね」

「うん。一緒にがんばろうね、紗夜ちゃん」


 小羽の真っ直ぐな笑みを受け、紗夜は劇場をあとにした。


「小羽さんのお家は、この裏手でしたね」

「はい。雪男さんのお家は遠いんですか?」

「それほどでもありませんよ。私は普段、車で移動していますから」

「あ……そっか、そうですよね」


 紗夜も運転手付きの車での移動が当たり前で、きっと雪男もそういう感じなのだろうと、小羽は紗夜を参考にしつつ納得した。そうでなくとも雪男は大の大人なのだ。自分で運転することだって出来るだろう。


「それじゃあ、また……」

「ええ、また。公演間近ですから、お体に気をつけてください」

「はい、雪男さんも……」


 小羽が紡ぎかけた気遣いの言葉は、ふわりと重ねられた雪男の唇に吸い込まれて消えた。

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