第二十七話 ゴーレムホール迷宮掘削法
アルマ達はロックゴーレムが掘り進んだ道を直進し、通路に抜ければそこからまた真っ直ぐに進み、壁に当たれば再びまた突き進んだ。
たまに固い壁にぶち当たれば、アルマが《アダマントのツルハシ》を使って罅を入れたり、《アルケミー》の力で柔らかく変質化させたりして悠々と突破していった。
掘り進んだ道には、道中で集めた鉱石を積み込んだ、収納箱が並べられていた。
「す、凄い効率ですね……」
「いや、思ったより遅いな。ロックゴーレムじゃ、ちょっと無理があったか? そろそろ坑道内に出張錬金工房を造って、鉄製のゴーレムを増やすのはアリだな。ロックゴーレムとアイアンゴーレムじゃ、作業効率が全然違う」
アルマ特製の《ゴーレムコア》を用いているとはいえ、ゴーレムの質を最も左右するのは素材であった。
そこらにある岩を固めただけのロックゴーレムでは限界がある。
「ええ……既に《ゴブリンの坑道》を滅ぼしそうな勢いなのですが……」
……ただ、無論、エリシアから見れば、現時点でとっくにやりすぎなくらいであった。
エリシアは直進通路を振り返り、収納箱の列を見る。
中には鉄鉱石を中心に、様々な鉱石が詰め込まれていた。
既に村内にある鉄の総量を超えていそうなくらいには集まっている。
「あの、どうやって持ち帰るのですか?」
「帰りはいくらでも素材があるからな。俺は錬金術師だ、素材があればどうとでもなる」
「なるほど……?」
そうこうしている内に、ロックゴーレム達の掘り進んでいた道が、また通路へと開通したようであった。
アルマはロックゴーレム達の横を抜け、カンテラで周囲を照らす。
通路というより、大部屋であった。
「お、早めに当たり場所を引いたぞ、運がいい。こういう場所が欲しかったんだ」
天井や壁にも、ちらほらと鉱石が散らばっている。
ダンジョンにはよく、こういう当たり部屋が存在する。
冒険者を誘い込むための餌のようなものである。
レアな鉱石こそ見当たらなかったが、用途の多い鉱石が数多く埋まっていた。
「……しかし、鉄クラスばっかりか。ランク4くらいのがそろそろ出てきても、いいと思ってたんだが」
マジクラにおいて、鉱石には明確な階級差がある。
鉱石によっては帯びている魔力量の桁が違う。
何の鉱石を素材にしたかでできることは全く異なるし、防具の頑丈さや武器の鋭さも変わってくる。
例として、鉄であればランク2、銅であればランク3となっている。
ランク毎の幅は大きく、剣一本打てる程度の体積であれば、鉄で五万ゴールド、銅で二十万ゴールドにもなる。
錬金術師が強い力を持つこの世界では、金属の価値が高い。
この世界では金属の近くには魔物が潜んでいることも多く、それも金属の価値を高める一因となっていた。
因みにアルマが愛用しており、《天空城ヴァルハラ》に敷き詰めていたアダマントはランク10である。
一般人では生涯拝むことさえできない価値があり、欠片を手に入れるだけで人生が変わるとされている。
「おおっ! ダンジョンの中には、こういうところがあるのですね。これだけの鉱石があれば、これ以上無理に掘り進める必要はないのではありませんか?」
エリシアは大部屋を見回し、感嘆の声を漏らす。
「この辺りの鉱石が手に入るのはありがたいんだが、俺が今一番欲しいのは、魔石や月鳴石なんだよなぁ。割合的にはそろそろどっちか出てきていい頃なのに、これが物欲センサーか」
欲しい物ほど、不思議と出てこない。
マジクラプレイヤー達が何度も口にしてきた言葉である。
「ま、大部屋を引いたのは幸運だった。これで次の段階に進める。早速露天堀りに着手するか」
アルマはパチンと指を鳴らす。
「露天掘り……?」
エリシアはアルマの発した聞きなれない言葉に眉を顰める。
何となく、嫌な予感がしていた。
「ああ、直進掘りは、露天掘りのための前準備だ」
アルマはロックゴーレムを指揮し、四体を大部屋の中央に集まらせる。
大部屋の大部分を用いて、床に直径八メートル程度の、大きな渦を描くように掘らせていった。
穴は漏斗状になっており、中心部が大きく窪んでいる。
これはロックゴーレム達が台車を押して登りやすくしているのだ。
マジクラでは、ダンジョンの深部にランクの高い鉱石が眠っていることが多い。
それを求めて数多のプレイヤー達が迷子になり、諦め悪く餓死寸前まで徘徊しては、魔物に嬲り殺されていった。
その内に、プレイヤー達は知恵をつけた。
中堅以上のプレイヤーであれば、馬鹿正直に複雑なダンジョンを攻略するより、奥まで直進して、大部屋に繋がったらゴーレムを用いて、漏斗状に真下へ掘り進んだ方が遥かに効率的であると気が付いたのだ。
一見面倒だが、それくらいマジクラのダンジョン迷路が厄介なのだ。
一進一退しながら魔物の群れと戦うくらいなら、ゴーレムの馬鹿力で掘り進めた方が遥かに効率がいい。
どうせいつかはダンジョンの一部と合流する。
そうして編み出された手法の完成形が、現実にある採掘手法である露天坑井法を元に考案された、ゴーレムホール迷宮掘削法である。
発案者である伝説の掘削錬金術師こと蜜柑饅頭は、アルマも一目置いている有名プレイヤーであった。
ゴーレムホール迷宮掘削法の発案の他に、地表からの深さ別における鉱石の出現分布の一覧表や、それに基づいた、更に細かい効率的な掘り方の手順を公開していた。
最も他プレイヤーから称えられ、同時に最も運営から嫌われているプレイヤーであるとされている。
蜜柑饅頭の功績のお陰で、マジクラ後期において真面目にダンジョンに挑むのは、低レベルプレイヤーか、ネットでの下調べを怠ったプレイヤーくらいであった。
マジクラにおいては、ごく一部の対策のなされた高難易度ダンジョン以外は、真っ直ぐ掘って真下に突き進むのが最適解となっている。
「よーし、いいぞ、ゴーレム達。ダンジョン探索は終わったようなものだな。さて、後は魔物対策でこの大部屋の分岐路を埋めていって、その後はゆっくりさせてもらうか」
アルマはそう口にすると、欠伸を漏らし、大きく背を伸ばした。
エリシアは腑に落ちない表情で、ゴーレム達の掘った穴を見下ろす。
「……私の知っているダンジョン探索じゃない」




