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宣戦布告

この話からしばらく三人称視点でいこうと思います。

 待ちに待った即位式の前日にあるにも関わらず、勇者にして第一王子のシオンの心の中は穏やかではなかった。


 原因は、取るに足らないはずの、地方貴族達の不満がピークに達していることにあった。


 地方貴族達の不満の原因、それは彼の父親であり、現国王であるアーサー八世が十数年前に施行した税制改革にある。


 アーサー八世は、魔王軍に対処するためには、王国が一致団結する必要があるとし、地方貴族達が自分達の領内の経済状況を見て、領民からの徴税分を決め、領主の部下達が税を回収し、その後、集めた税の半分を王都に納めるという従来のシステムを大きく変更した。


 変更したと言うよりは、破壊したと言った方が良い。


 王国は、徴税に関するあらゆる権利を地方貴族から奪い、税に関する利権の全てを王国が独占したのだ。この改革により、王都には、下民から王国政府が直々に税を回収するという新たな役所ができ、新たな雇用が生まれると同時に、王国は地方貴族を介さずに国民から自由に徴税できるようになったことで、王都内はより一層潤うことなり、多数の娯楽施設が建設されるに至った。


 反対に、地方貴族達は徴税と言う自分達の最大の稼ぎを失い、主な仕事は領内の治安維持くらいになり、日々の暮らしのために、長年貯めていた自らの貯蓄を切り崩すことになる。


 そして、各領内の状況など一切考えずに、戦争中と言う名目で、一方的に下民達は年収の九割近くを税として持っていかれ、豊潤な土地に住んでいるのにも関わらず、王都以外の王国全体が徐々に貧しくなっていった。


 勿論、地方貴族達もこの改革を聞かされた時には、最初は強く反対した。だが、王国を脅かす脅威である魔王軍を出されては彼らも引き下がるしかない。


 戦争そのものにも金がかかるし、魔王軍との戦争で荒れ果てることになる王国北部の復興にも多額の資金が必要なのは、地方貴族や下民達のほとんどが理解できていたので、税制の変更は魔王討伐までと言う条件で、王都外に住む全ての者達が納得したのである。


 だが、魔王討伐から四年以上が経つが、王国は変更した政策を元に戻さなかった。


 魔王軍との戦いで傷ついた地域の復興もせずに、自分達の生活のためだけに税金を使ってきた王国は、徴税の利権を手放すことで、今の自分達の生活レベルが下がることを恐れたのだ。


 今の状況は自分の手足を食べているに等しいのにも関わらず、王都の住む者達は、どうせ、また生えてくるだろうと下民達が国即ち自分のために命を捧げるのは当然と考え、彼らの苦しみには、気にも留めずに四年近くに渡り搾取を続けた。


 そして、その不満が、ついに限界を迎えたのだ。


 王国の政治中枢である王城の一室に、国内の各地で地方貴族達の反乱の兆しありと言う報告が上がる。


 地方貴族は、王都に住めない下級貴族ではあるが、一応は貴族である。それが反乱を起こすと言う事態にまでなり、流石の王国も慌てて、新国王の即位式にも関わらず、多くの大臣や役人が、事態の沈静化に向けての対策会議に追われていたのだが、その光景がこれから国王となるシオンには我慢ならない。


「何故、この私の即位式を明日に控えても、下々共に煩わされればならん」


 王宮内のバルコニーから、今も慌ただしく歩き回る部下達を見ながら苛立ちを募らせるシオン。そんな彼の言葉に近くいる彼の三人の妻達が同意する。


 三人とも華奢なドレスを身に纏っている。一着で、千人単位の国民が飢えから救われるドレスをこの妻達は何十着も持っているが、それは自分達の当然の権利だと心の底から信じ切っていた。


「全くです。シオン様の晴れの日を邪魔するとは、下民は本当に低劣な存在です」


 最初に声を荒げたのは、自分もかつてはその下民の一人であったと言う事実をとうの昔に頭の中から忘れ去った、第二王妃予定のキャリア。彼女はこの四年間にシオンとの間に二人の女の子を出産した。


「キャリアの言う通りですわ。大体、地方貴族だって王都に住めない、下民の一種ではないですか」


 次に声を荒げるのは、同じく元下民の、第三王妃予定のゼラ、彼女も三人の男子を産んだ。


「皆様、そう声を荒げないでください。うちのアルフレッドが怯えてしまうでしょう?」


 そして、最後に他の妻達をなだめるのは第一王妃予定のマリアリア。三人の中で唯一貴族の血を引く彼女の嫡子のアルフレッドこそが、シオンの次の王である。そのアルフレッドは子供達の中で唯一この場に同席している。


「そんなことはありません。勇者である父上であれば、下民共などあっという間に皆殺しにできます。だから、ボクは、愚かな下民など怖くなどありません」


 子供達の中で、最もシオンの面影を残すアルフレッドは、四歳とは思えないくらいに、王国とそれ以外の力関係を理解している。なので、自分達の今の暮らしも永遠に続くものだと信じていた。


「偉いぞ、アルフレッド。そうだ。この父にかかれば、下民などいくらかかってきても怖くないからな。お前達は安心して、今まで通りの暮らしを送るのだ」


 シオンは、アルフレッドの頭を撫でながら、美しい妻達を見る。四年前には三人ともまだ子供の面影が残っていたが、四年経ち、自分を含めて全員が二十歳を越えて彼好みの女性へと成長した。 


(ふふ、即位式が終わったら、また夜が楽しみになるな。本当に明日が待ち遠しい)


 そう、シオンにとって下民達の反乱の予兆など、大した問題ではない。反乱が起きていれば問題だが、実際には、地方貴族達が兵士を集め、いつでも反乱を起こせると脅して彼らの出す案をこちらに呑ませようとしているに過ぎない。


 勇者である自分がいる王都軍が強大過ぎて、勝てないと下民達も理解しているのだ。だからこそ、事を起こさずに、脅すことしか彼らにはできない。


 シオンもそれが分かっているから、彼らを脅威と認識しておらず、仮に反乱が起きても、女神の加護を持つ自分達や屈強な王都軍の敵ではないと考えている。


 それゆえに、そんな連中のために、大事な即位式の前日まで邪魔されると言う事実に、シオンは腹立たしいのだ。


(見ていろ。即位式が終わったら、街を一つを焼いて、住民皆殺しにしてやる。四年前に、キャリア達の故郷の村を焼いた時のようにな。あの時は騎士団に任せたが、今度は、妻たちと共に自分の手でやるのも一興だろう。アルフレッドにも王者としての在り方を教えなければならないし、騎士団の護衛の元、家族総出で行くのも悪くないかもな)

 

 シオンは、そんな、家族と過ごす楽しいピクニックを頭の中で思い描く。


 そして、即位式の朝を迎えた。





 即位式当日。


 王都の外の事に興味がなく、日々新たな娯楽に飢える王都民も、いつ噴火するか分からない地方貴族の反乱に日々忙殺している王国の役人達も等しく、このめでたい日だけは、全てを忘れて忘れて新たな王の誕生を祝う。


 朝早くから王都中の至るところで催しものが開かれたが、やはり一番盛り上がっているのは、闘技場行われている国王主催の闘技大会だろう。


 四年前に、当時一番の見世物だった荷運びの従者と魔物の奴隷戦士が全て忽然と姿を消した事件は王都中に衝撃を与えたが、すぐに収束した。誰の目を見ても、失意の内にあった荷運びの従者が人間的にもう終わりであることは目に見えていたので、それほど関心がなかったのだ。恐らく、最後の力で抜け出し、魔物辺りに殺されたのだろう。


 彼の死に目を見れなかったのは、シオンやキャリア達を含めて皆残念に思ったが、まあそれだけである。従者とは言え、下民が一人、消えたところで、彼らにとってはどうでも良いことだったのだ。


 消えた魔物についても謎が残るが、彼らの代わりはそれこそ、腐るほどいる。闘技場の運営は、北の国境で捕らえた魔物を新たな奴隷戦士として闘技場に立たせて、再び盛り上げた。 




 楽しい。何て楽しい日なのだろうか。


 当然、今日、王都でシオンの即位式が行われているのは全王国民が知っている。だが、貧困にあえぐ彼らのことなど一切考えずに、ふんだんに予算を使って祭りは開かれる。


 どの商店も普段は出さない名品を店頭に並べ、劇団はこの日のために用意した最高の劇を披露する。食事に関しては、王国が全ての費用を出すため、どの飲食店でも無料で食事が楽しめた。


 最高の一日、この日王都に在住する全ての者が等しく、そう思っただろう。だが、その楽しい日が続いたのは、戴冠の瞬間までであった。



 午後、祭りもいよいよ佳境。


 かつて、荷運びの従者に冤罪を着せた王城前の広場には、四年前以上に民が、それこそ、警護役以外の王都に住むほとんど全て民が集まっていた。


 王都の人口は約十四万人。王侯貴族が三千人、その召使いや使用人、政治を支える役人が約七万人。王国の武力の要である王国騎士団や宮廷魔法師団が合わせて一万人。残りが役人や召使いの親族で王都内で商売をすることが許された者達だ。


 王城前の広場は確かに広いが、流石に十万人以上もの人間を、お互いに触れずに収容できるほど広くはない。シオンは、プライドが高い王都民が知らない相手と体を密着させてまで自分を讃えてくれていることに気分を良くしながら、広場全体を見渡せる位置に設置された仮の玉座に座る父親の元へと向かう。


 玉座には、現国王である父が座し、その右側には大臣達、左側には妻や子供達が並んでいる。


 万雷の拍手の中、年老いた父親の前で頭を垂れ、儀礼的な言葉を聞きながら、シオンは、ほくそ笑む。


(いよいよ、この日が来た。父自身には力がなかったからこちらから派手な粛清ができなかったが、私には女神から貰った無敵の加護がある。父のように生ぬるいことなどしない。安全で快適なより良い王都のために、私の力を見せつけてやろう)


 魔王は死んだ。魔王軍も壊滅状態で、北の魔物共も最近はめっきり国境沿いによりつかなかくなった。同じく女神の加護を持って、自分に歯向かいそうな、あの下民も死んだ。


(もう自分の邪魔になる奴は一人としていない。この世界の全ては私一人のものだ!)


「では、いよいよ。戴冠の時です!!」


 長い儀礼の言葉が終わり、進行役を務める宰相が叫ぶと、辺り一面が急に静寂に包まれた。


 ついにこの世界の支配者の証である至高の王冠がシオンの頭上に抱かれるのだ。王冠を被り、大きく手を振る。すると、大地を震わすほどの歓声が王都中に響き渡る。


 シオンは頭の中でこれから起こることを予測する。


 さあ来い、早く来いと。だが、いくら待っても、王冠が頭の上の乗った気配がない。流石に不思議思ったシオンは目を開けようとした時、シオンの耳に懐かしい声が聞こえてきた。


「へ~これが、世界の支配者の証たる。王冠か、金銀宝石で出来ている割には、思ったよりも軽いな」


 目を開けたシオンの前には王冠ごと両腕を失い、パニックの余り体が硬直している父が、左側には、驚きの余り手で口を塞ぐ妻と、状況を理解できていない子供達が、右側には血を流しながら、地に伏す大臣達と宰相の姿が。


 そして、明らかにそれを見せつけるように、彼らの体を踏みつける黒いフードと仮面を被り姿を隠す体格の大きい正体不明の六人。


 そして、


「よお、久しぶりだな。猿山の王サマ」


 黒フードの六人の前に立つのは、至高の王冠を無造作に片手で持つ。四年前に死んだと思った荷運びの従者、ロイ・ギバルデスであった。







 王冠を持つ者が、あの荷運びの従者であると理解できた者は広場には数多くにいた。しかし、誰もが、そんなはずはないと心の中で否定していたため、広場中が静寂に包まれる。そんな中、最初に口を開いたのはシオンである。


「き、貴様、まさか。あの荷運びの従者か……」


 彼の旧友であったキャリア達は、死んだと思っていた人物が現れたことに驚いて声も出ないようであったのと同じように、シオンもまた、目の前の出来事が信じられなかった。


 シオンが抱くロイの印象は、周囲を気を配るかのように、常にビクビクしたような気弱そうな少年であったが、目の前に立つ男は顔こそあの時の少年が成長した顔であるが、冷酷な、この目なら、どんなことでもやるだろうと、シオンにそう思わせるほどに冷たい瞳をしていた。


「そうだ。俺の名はロイ。かつてお前達に捨てられた荷運びの従者だ」


 ロイは、己の手にある女神の加護の証を見せる。


「そ、そうか、実は四年前にお前が突然消えて、心配していたんだ。良かった無事で、なんだ。また闘技場で働きたいのか?なら王である俺が特別に支配人に口利きをしてやろう。だから今はその王冠を返せ。それは貴様如きが触れて良いものではない!!」


 今のロイは少し怖い。だが、それ以上にシオンの心を占めたのは、両手を失った哀れな父親でも、あっけなく殺された大臣達でもない。至高の王冠を下民が触れているという事実であった。


 しかし、王である自分が命令しても、目の前の男は笑うだけであった。その姿に怒り、正気を取り戻したゼラが叫ぶ。


 「返しなさい。それはシオン様のモノです!! 〈アース・ランス〉」


 賢者の従者であるゼラは、ロイを殺すために、その心臓に向けて土属性中級魔法の土の槍を放つ。


 お荷物であるロイなら、これで殺せると、シオンとゼラは確信する中、ロイが取った行動は己の右手の矢に向けてかざしただけであった。


 あいつは魔法が苦手だったが、何か新しく覚えたのかと、二人は思ったが違った。


 土の槍は、ロイの右手に当たった瞬間に、何事なかったかのように、その場から完全に姿を消した。


「ふっ、ゼラ姉、四年前から大して成長してないな。交尾にうつつを抜かして、鍛えてこなかったみたいだな。思ったより簡単に収納できたよ」


「わ、わたしの、魔法が賢者である私の魔法を、あなたは、魔法が使えない愚図だったはず、一体何をしたの?」


 無能でお荷物持ちしか取柄がなかった荷運びの従者が、賢者の放つ魔法さえも防ぐ事実に狼狽するゼラの様を楽しむかのように、ロイは答える。


「何って、お前らの知っている荷運びの加護だよ。さっきの槍も収納空間に入れただけだ。ただ、それだけだよ。まあ飛んでくる物体を収納するのに随分と苦労したが。まあそれは、どうでも良いことだ。今日は、君達に大事なことを伝えに来た」 


 そう言うロイは大きく息を吸い、広場中に聞こえるように叫ぶ。


「我々は、二週間後に、この王都を襲撃し陥落させる! 降伏など一切認めない。貴様ら全員に、生きてきたことを後悔するほどの苦痛を与えてやる!」


 広場中に、威勢の良いロイの言葉は響いたが、その言葉を聞いた者達の心の内は失笑を禁じ得ないであった。


 確かに派手な登場で、こちらの警備をくぐり抜けて見事奇襲に成功したのは認めてやっても良いが、まさか、正面からの全面対決を向こうから宣言してくるとは気が狂ったか?と言うのが、この場にいた全ての者の共通認識である。


「なるほど、なるほど、なるほどね」


 そのような空気の中、シオンは、ロイの強気の原因を思い付き、一歩前に出る。


「どうやら、ロイ君。君は、愚かな地方貴族共と手を組んだようだね。まあそれなら、君が強きなのも、連中が強きなのも頷ける。しかし、君は我々の力を知らないのか?王都には、騎士団や宮廷魔法師団がいる。君が多少強くなったところで、不可能だ。そして、今の君の発言に、我々は笑いを堪えるのも一苦労だよ」


 シオンと同じように、落ち着きを取り戻したゼラやキャリアやマリアリア、そして広場にいる王都民のほとんどが笑いをこらえているのが伺える。それほどに、ロイの言ったことは無謀極まることなどだ。


 だが、そんな、シオン達を見ても、ロイは冷静のままである。そして、シオン達にお前らは勘違いしていると告げ、北の空を指さし叫んだ。


「見ろ! あれがお前達を終わらせるものだ」


 ロイが指さす、北方の空に、この場にいる全ての者達が目を向ける。すると、空の彼方から、こちらの方にだんだんと黒い何かが近づいてくるのが分かった。


 最初は鳥だと、ほとんどの者が思った。しかし、こちらに近づきその正体をはっきりと理解できた時、広場中がパニック状態に陥い、逃げ出そうと多くの者達が下敷きになった。


 あらゆることに、楽観的な王都民でも、流石に通常の魔物とは比較にならないサイズを誇る、最強の魔物である黒いドラゴンには恐怖を覚えたのだ。


「理解できたか? この黒いドラゴン、サラスこそが真の魔王。そして、新魔王の元、我々は新魔王軍を組織した。全てはお前達達の時代を終わらせるために……」


 黒いドラゴンは、広場を越え、高台に近づく。すると、ロイを始め、今まで彼の後方に控えていた六人が一斉に高台から飛び立ち、黒いドラゴンの背に乗る。


 同時に、六人はフードを投げ捨て、自分達の正体がリザードマンやコボルト、つまりは魔物であることを見せつける。


「もう一度言う。二週間後に、我々は、人間の支配の象徴である王都を陥落させる。精々、無駄に足掻く準備でもしているといい」


 最後に、ロイは手にしていた至高の王冠をシオンの目の前に投げつける。勢いよく、地面に叩きつけられた支配者の証である至高の王冠は、粉々砕かれ、見るも無残な姿となった。


 そして、黒いドラゴンに乗ったまま、ロイと魔物達は悠々と王都から逃げ出した。






 黒いドラゴンが飛び立った後、王都は大混乱。


 即位式は中止。各地で催されていた全ての宴も中止となり、王都の市街は、今までのお祭り騒ぎが、嘘のように静まり返った。


 しかし、政治の中枢である王城だけは違う。


 乱入してきたロイによって、宰相と全ての大臣が殺され、内政機能は麻痺し、前国王アーサー八世も、聖女のキャリアのおかげで一命をとりとめ両手も戻ったが、両手を失ったショックでとても政務ができる精神状態ではなかったからだ。


 そのため、政治に関する全ての実権が暫定国王のシオンの手に委ねられた。


 シオンはこれ幸いと、自分のとって都合の良い貴族の友人達を大臣に指名し、事態打開のための対策会議の場にて新大臣達の前で、自身の考えた案を披露した。


「全ての地方貴族に告げよ。二週間後に、愚かにも王都に魔王軍の残党が攻めてくる。それを返り討ちにして、武勲を挙げた地方貴族には徴税権を返却するとな」


 会議に出席している新大臣は、その案を聞き掛値なしに絶賛する。


「それは、素晴らしい。幸いにも地方貴族達は戦の用意が整っておる」


「シオン様を始め、騎士団や宮廷魔法師団だけでも、魔王軍なぞ、こちらが本気を出せば、どうということではないが。それでも、あの黒いドラゴンと戦えば、それなりに犠牲が出るの確か。ならば、その犠牲を、愚かな下民共に肩代わりしてもらうわけですな」


「報酬として、武勲を挙げた一つや二つの貴族なら徴税権を返してやっても我々の懐も痛まない上、チャンスやって掴めなかった地方貴族は領民の信任を失って反乱どころではなくなるな」


「シオン様はすでに、王! 四年前とは違い、最前線で戦うなどあってはならない。ここは、我々に盾突く愚かな、たくさんの下民共の血で、王都の危機を救ってもらおうじゃないか!」

 

 会議に参加した大臣達は、魔王軍も地方貴族軍も同時に戦力が削れて一石二鳥だと、大喜びでシオンの意見に賛同し、シオンを絶賛し褒めたたえる。


 しかし、待望の即位式を潰されたどころか、至高の王冠を修復不可能なほど破壊されたシオンの心の中は、大臣達の声など耳に入らないくらいに、怒りで我を忘れる寸前であった。


(他はいい。好きにくれてやる。だが、ロイ! 貴様だけは私の手で捕らえてやる。そして、四年前とは比較にならないほどの絶望を味あわせてやった後に、殺してくれと懇願する奴を殺してくれる)






 それからというもの、王都周辺には、シオンの発した宣言に応じ、王国中から地方貴族軍が続々と姿を現す。


 強大な戦力を有する王都軍と戦うのは勝ち目がないので嫌だが、人間共通の敵である魔王軍相手なら何ら問題ないからだ。多くの地方貴族とその兵士である下民達は、新魔王軍を討ち、武勲を上げ、徴税権を返してもらおうと気合を入れている。


 その数、凡そ二十万。王都内に待機する騎士団と宮廷魔法師団の一万を加え、総数約二十一万。これで、現時点で王国に存在する職業軍人の八割以上が王都に集結したことになる。


 そして、その全員が、この戦は楽に勝てるだろうと楽観視していた。王都は、元々堅牢な要塞でもあり、地の利はこちらにある。


 さらにそれを守る総数二十万強の大軍。四年前は、約五万の魔王軍を相手に王国軍も五万前後で対応し、圧勝したのだ。今回はその四倍以上がいて、前回同様に、魔王を討った国王にして勇者のシオンとその従者も後方で控えている。


 魔王軍が壊滅したのは僅か四年前、しかも奴らの拠点は不毛な北の大地。この短期間の内に戦力を回復するはずがない。よって、敵の取れる戦法は、魔王である黒いドラゴンが単騎で攻め、混乱したところを小規模な魔物の軍勢が突撃するくらいであろう。


 なので、これから戦場になると分かっているのに、王都から逃げ出す者など皆無。一部の貴族に至っては、大金をはたいて、王都の城壁の上の一区画を借り、闘技場の客席感覚で下民と魔物の戦いを観戦しようという者まで多数いた。


 それが、王国側の認識であった。とりあえず、こちらの勝ちは確定。後は、どうやって他者を出し抜いて武勲を上げるか、それしか考えていない。だからこそ、魔物側の戦力が人間を上回っていると予測している者は一人もいなかった。


 約束の二週間後、それは、何もない王都の東側の平原地帯に突如として姿を現す。王国最大の都市である王都よりも一回り巨大な城砦都市、収納魔法都市が、ついにその姿を現したのだ。


 その余りに巨大な威容に度肝を抜かれる人間達の有様を見ながら、収納魔法都市の中央部に建てられた高い塔の上から黒髪の少女は、不敵な笑みを浮かべる。


「わざわざ、宣戦布告した甲斐があったのお。王国軍のほとんどの戦力が集まっておるわ。この場で、こやつら全て皆殺しにすれば、人間共は戦力のほとんどを喪失し、我々に歯向かう力を失う。ふっ、余の予測通りに、この一戦でこの戦争の勝敗が決まりそうじゃのう。さてと、第一軍のアレックス将軍に連絡。作戦発動! 皆の者、楽しい、楽しい、フルボッコタイムの始まりじゃ」


いつも応援ありがとうございます。

それから、皆さまからのご意見やご指摘、本当にありがとうございます。

物語も後半です。今後もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 猿の家族が完全にクズでよかった。 [一言] 王都のど真ん中の上空で収納魔法都市を落としたらどうなるのやらw
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