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エピローグ

「母上、母上!」


 その日、母が死んだ。突然住んでいた魔物の村に攻め込んできた王国兵達の手によって。




 彼らは、魔物の素材欲しさに、何も罪もない村を襲撃して多くの女子供を虐殺し、その体を牛か魚を扱うかのように容赦なく捌き、必要な部位だけを剥ぎ取り、残った体は食用にされる者もいれば、不要とされゴミのように捨てられた者もいた。


「アルムちゃん、ゴース君、キタラちゃん……ミランダおばさん」


 近所に住み、よく遊んでいたハーピィのアルムちゃんは羽の付いた両腕ごと持っていかれ、残った体は食べ物として村の中央の焚火で焼かれ、村のガキ大将であったリザードマンのゴース君は、鱗を綺麗に削ぎ落され、お隣に住んでいたコボルトのキタラちゃんとミランダおばさんはそのフサフサとした体毛だけを刈られた後、無惨に殺された。


「ぐす、ぐす、酷い、酷いよ!」


 この村に住んでいた人達はみんないい人達であった。魔物の子を産んだ人間である母と、そのハーフである私を匿ってくれたのだから。


 いくら、魔王の子とその母と言えど、魔物にとって狩猟者である人間達と一緒に暮らし、さらに仲良くしてくれるなんて普通は考えられない。幼い私でもこの村の人達がどれほど優しかったのか理解できていた。


 そんな、いい人達をよくも、よくも!!


 同じ言葉を躱せるのに、家畜のように人間達は狩る。こいつらは、悪魔だ!


 きっと、母以外の人間は全員、神か何かに唆されたか、洗脳されて、会話できる対等な存在であるはずの魔物を家畜のようにしか見れなくなったんだ。そうだ! そうじゃなきゃ、いくら何でもこんな酷いできるはずがない!


 でも、理由はどうあれ、こんなことをした人間は許さない!


「おい! こっちに人間がいるぞ!」


 その時、兵士達の人間を見つけたという声が聞こえてきた。この村で人間と呼べる容姿を持つのは、体の弱い母と私しかいない。幸いと言っていいのか分からないが、火と煙によって視界が悪かったおかげで、私はまだ兵士達に気付かれていない。


 だから、走った。行って何ができるか分からなったけど、それでも母の元に行きたかった。足場が悪く、何度も転倒するも声のした方へたどり着いた。そして、


「おい! 何も殺すことはないだろう! 結構な美人だったのに……」

「いやね。殺す相手、魔物ばっかじゃん。前から一度、できれば人間も殺したかったんだよ」

「でも、それにしたって、殺す前にお楽しみをさせてくれてもいいじゃないか?」

「馬鹿言え、いい体をしているけど、どうせ、ゴブリンか、何かの苗床として扱われていたに違いない。お前そんな女を抱きたいのか?」


 着いた時、すでに、母は殺されていた。


「あっ、あっ、あっああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 全てを失ったことを悟り、私は絶叫した。だが思えばこの時覚醒したのだろう。


 これ以後、身体能力が大幅に向上すると同時に、体の成長速度は遅くなり、魔王の力を不安定ながら行使できるようになったのだから、


「何だ?人間のガキか?」

「何でこんな所に?」

「おい、見ろ! あのガキ、尻尾が生えてるぞ!」

「珍しいな。商人に売れば高く買い取ってくれるかもしれない」


 でも、この瞬間では、自分の力が目覚めたことにまだ、気がついていなかった。だから、この場で捕まってしまうはずだった。でも、


「ん? 何だ?」

「おい! 逃げろ。ドラゴンだ!! 白い大きなドラゴンがこっちに来るぞ!」


 偶然か、必然か、偶々近くを飛行していた父、魔王サタナスが、近くで魔王の力が覚醒するのを感じ急行してくれたおかげ、私は生き延びることができた。





 その後、父サタナスは私を北の大地を掌握するための道具として扱い、一度も娘としては見てくれなかった。何故、人間である母と子を成したのかは最後まで分からなかったが、恐らく、半分は憎むべき人間の血が入っていた私を嫌悪していたのだろう。


 魔王の力に目覚めたばかりの私では、父には遠く及ばなかったので、おとなしく従い、魔王軍の幹部の強化に努め、その裏で自身の力を高め、一人立ちする機会を伺うしかなかった。

 

 やがて、運命の日が来た。


 勇者と王国軍によって魔王軍は壊滅し、勇者パーティは本拠地である北の最果てにある魔王城まで攻めてきた。父は歴代魔王と同様に勇者に討たれることで、魔王であることを偽っていた自身を本当の魔王として歴史に刻もうと玉砕して果てたが、私自身はそれに付き合うつもりは毛頭ない。


 むしろ、チャンスだと感じた。ここを乗り切れば、私に敵う魔物はいなくなるのだから、


 そのために、どうするべきか?


 まだ、空も飛べないので、自力で逃げることは不可能だろう。だから、私は一世一代の賭けに出た。


 四人の従者の中で、荷運びの従者だけは、戦闘能力がないためか、歴代の荷運びの従者のほとんどが勇者や他の従者から迫害を受けているのも、今回の荷運びの従者も同様に同じ目に合っていることも魔王城にいた私は掴んでいた。


 なので、上手く懐柔、もしくは取引を持ち掛け、荷運びの従者の収納空間に匿ってもらえるかもしれないと考えた。


 勿論、分が悪い賭けであることは重々承知しているが、従者の一人を寝返らせれば、今後の戦いで大きな力になるかもしれない。


 私は、荷運びの従者が一人になったところを伺って勝負に出る。


 最悪の場合は殺すしかない。でも、荷運びの従者の発したその一言で私の中の考えが変わった。


「はぁ~ 正直、人間も魔物も同じようにしか見えないんだがな」


 荒れ果てた荒野に一陣の風が吹いた気がした。


 まさか、母以外にも、女神とやらの悪意に振り回されずに、魔物を対等な存在と見てくれる人間がいるとは思っていなかったからだ。


 もしかしたら、この人となら、共に歩めるのではないか?


 人生最初で最後のチャンスだ。この人を逃したら、きっと後悔する。


 でも、実年齢はともかく私の外見は少女だ。馬鹿にされないだろうか?


 だから、できるだけ大人びた言動をして、自分を大きくみせてみることにした。


「ほう~、それは凄いな。お主、自力で女神の洗脳を解きつつあるな」


 それが、妾と彼との出会いじゃった。








「学院長、学院長! 起きてください! 歴史的な一場面ですよ」

「う~、随分と懐かしい夢を見ておった。おお、すまんな。ルルス、どうも妾は、政治と言う奴はテレビで見ていても眠くなるのでのお」


 私の名前はルルス。ここアルス・マグナ魔術学院に通うピチピチの十七歳です。


 ドジ踏んで、魔術の実験中に、学院長の大切に育てていた花壇を吹き飛ばした罰で、この度、一か月間、学院長の身の回りのお世話をすることになりました。


 同級生達からは、大物政治家や大企業の社長とコネができて羨ましいと言われていますが、そんなラッキーなイベントなんてありません。それどころか、学院長のお世話で、自由時間はおろか授業すら受けられず、勉強時間もほとんどないので、来月のテストがピンチです。


 私は将来、実家の花屋を継ぐので、為政者のコネなんていりません。だから、誰か変わってください。本当に、


「ふああ~~~良く寝たのお」

「まだ、昼前ですよ。そんな年寄り臭いこと言わないでください」


 でも、この人の傍に仕えること自体は名誉な事だと思います。


 先ほどまで、机に伏していたまま、爆睡していた学院長はゆっくりと起き上がります。寝ぼけているのか、髪がボサボサではありますが、長きに渡って魔族中を魅了してきたと言われるその美貌は全く失われてはいません。


 今はボサボサだけど、艶やかな漆黒の長い髪に頭部から生えた二本の黒い角。二十代後半の容姿に、豊満な胸と完璧なボディーライン。そして、リザードマンよりも美しく強靭な尻尾。


 人間からかけ離れた外見を持つリザードマンやコボルトには理解できない部分はあるようですが、ドラゴンと人間のハーフのため、人間としての部分が大きい学院長ですが、それはハーピィである私も同じ、むしろ人間に近い体付きである私から見れば学院長ほど美しい女性はいないと思います。


 そして、この人以上の偉人はこの世界には存在しないです。


 大昔に、魔王として人間との戦争に勝っただの、魔術の基礎と言われる〈アルス・マグナ〉を生み出し、多くの魔族に伝授して、現代の生活を支える様々な魔導具を開発したと言う都市伝説のような噂や武勇伝は数多くありますが、この人が、世界最高峰の魔術士の育成・研究機関であるアルス・マグナ魔術学院を創設したのは歴史書に記されている紛れもない事実です。


 今は観光名所になっていますが、千年前に、人間達が地上の支配者であった時代に彼らが暮らしていたオウトと呼ばれる遺跡群のすぐ近くにある巨大都市の敷地全部がアルス・マグナ魔術学院です。


 三百年前に起きたコボルト族とリザードマン族の戦争。歴史上最後になった種族間戦争後に、学院長サラス・ギバルデスは、廃棄されていた収納魔法都市と呼ばれていた古い都市に魔術学院を設立して、以来人間族を除く、多種多様の魔族を生徒や研究者として受け入れ、魔術のみならず、様々な学問を学び研究できる世界最高峰の学院にしました。


「テレビに映っている人達、あれ、みんな学院長の教え子って本当ですか?」

「うん~、ああ、九割くらいはそうじゃな」

「いや、国政に関わる政治家のほとんどが学院長の教え子じゃ、あなたが実質的に国のトップではないですか!」


 イリオン共和国最高国民会議。


 魔術学院と同時期に建国された全種族を統一し、大陸全土を領土にしている世界で唯一の国家であるイリオン共和国。学院長室に置かれているテレビに映っているのは、北の最果てにある共和国首都の議事堂内の様子ですが、そこで、論戦を繰り広げている政治家のほとんどは、学院長の手駒のようなものだそうです。


 どうやら、うちの学院長は、首相の首も簡単に挿げ替えるという噂は本当のようです。この人を怒らせると私の実家の花屋なんか多分、簡単に消されそうなので注意しようと肝に命じます。


『え~では、賛成多数で、人間族地位向上法は可決されました』


 テレビでは、近頃話題になってきていた、この世で最も迫害されてきた人間族の地位を向上させるための法案が議会で可決されたことを報道しています。


「それにしても、よくこの法案が可決されましたね。人間族の参政権もそうですが、それ以上に、合法的に低賃金で雇える労働者がいなくなるからって与党や財界が猛反対していましたけど……」


 私はジト目で学院長を見つめた。絶対に通らない法案を通せる人がこの世界にいるとすれば、多分その人は私のすぐ近くにいる。すると、私の視線に気が付いたのか、学院長は小さく笑みを溢した。


「まあ、あの女神の、人間を滅ぼさなければどれだけ苦しめてもいいから千年苦しめたら解放してあげてくださいと言うお願いがあったからのう。聞いてやる義理はなかったのじゃが、妾も半分は人間じゃし、これで、許してやるとするかのう」


 女神と言う聞き慣れない単語はありますが、影の支配者みたいな学院長にも色々と複雑な過去があるようです。


 と、ここで私はある事に気が付きました。どうやら学院長は気分がいいようです。なので、もしかしたら、あのことを聞けるかもしれない。


「学院長、あそこに飾っている肖像画。二人描かれていますが、一人は大分若いですが学院長ですよね?で、もう一人は誰ですか?」


 これこそ、学院設立から、今日までずっと学院長室に飾られている肖像画の謎です。その肖像画には、何百年前かは知りませんが、十代前半頃の容姿の学院長と思われる少女と、もう一人、二十代後半頃の人間の男性が描かれているのですが、学院長の人間嫌いは有名です。にも関わらず、学院長室には人間が描かれた肖像画がずっと大事そうに飾られています。


 この人間族の男性は果たして何者なのでしょうか? 肖像画に描かれた男性の正体を考察するためだけの本が出版されているほど、これは有名な話です。


 現に、三百年間、多くの教え子達、今テレビに映っているゴブリン族の首相でさえ、在学中、終ぞ知ることは叶わなかった学院最大の謎ですが、今ならいけるかもしれない。そう思って一斉一代の大勝負に出てみましたが、あっけないほど簡単に答えが返ってきました。


「ん? ああ、あれか……まあ、千年経ったし、もういいか。あの絵に映っているのは妾の旦那であるロイ・ギバルデスと言う男じゃ。しかし、残念なことに子供はできなかった……それだけが今でも心残りではあるがのお」


 へえ~旦那さんですか。十歳以上は歳が離れているから、顔は似ていないけど兄弟と言う線が一番オッズが高かったんですけど、まさか、旦那さんとは、うんうん。うん?


「えええええええええええええええええ!!!!!!!」


 今まで生きてきて一番驚きました。そして、すぐに怒られました。


「うるさいぞ!それにしても、あの料理だけは上手かった口の軽いハーピィに似ていたからお主を世話係にしたのじゃが、もしかしたら、お主、本当にあ奴の子孫かもしれんな」


 誰の事でしょうか? 学院長は私のご先祖様と面識があるのでしょうか? 確かにお婆さんは昔、議員をやっていましたので、交流があったのかもしれませんが、


 今はそんなことはどうでもいい!


「学院長結婚していたんですか! 嫌っているはずの人間と! しかも、この絵を見る限り、どう見ても犯罪ですよ、これ!ギリギリ親子にも見えるくらい歳が離れていますよ!」


 私は、学院長の机に身を乗り出して尋ねた。それほど、衝撃的だったからだ。でもおかげで、私の勢いに押され、学院長は根負けした。


「ハァ~分かった。落ち着くのじゃ。じゃあ千年ぶりに話してやるとするかのお、ロイと言う私の生涯ただ一人の相棒の話をのう。……これから話すのは、まだ北の大地が汚染されていて、魔族が魔物と蔑まれていた、今から千年前の出来事の話じゃ」



 ~完結~

初めての作品でこれほど多くの方々から温かい応援を頂けるとは思ってもいませんでした。

執筆中辛かったこともありましたが、皆様からの感想や評価に励まされ何とか最後まで書くことができました。

これまで本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
ラストは良かったです…瞼に浮かびますよ…そんなシーンが。
[良い点] とても良かった。人族と魔物の和解の道もあったのにあれだけシオンがやらかしたら立場逆転されたときこの扱いも納得する。人族を滅ぼさず存続させ、さらに1000年後に待遇改善させる温情措置は想像し…
[気になる点] 面白かったけど、魔王の力で寿命伸ばせなかったのかな。1000年の区切りまでは見届けて欲しかったような。
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