魔王の真実
サラスと三人の従者の戦いが終わったとの知らせを受けた俺は、彼女達が戦っていた居住区画に足を運ぶ。
伝令の兵士からは、サラスが勝ったことしか知らされていない。とりあえず、勝てたことに喜ぶが、それでも相手は戦闘に特化した能力を持つ三人の従者で連携も良い。
苦戦して、ボロボロかもしれない。そんな不安を抱きながら、一人で目的地に辿りつくと、そこには、地面に座りながら、何かを食べていたサラスがいた。
「おう来たか! こっちは終わったぞ。そっちも無事に終わったようで何よりじゃ」
鳥か、それとも豚か牛は、よく分からないが、どうやらサラスは串焼きのようなものを食べながら、笑顔でブイサインをする。
「そ、そうか、勝てたのか……で、あいつらは?」
「おう、あそこじゃ!」
サラスが、指した方には、三人の女性が意識を失った状態で倒れていた。三人ともボロボロで、体中傷だらけで、服はあちこち破れていたが、五体満足で命に別状はないようだ。
「……その様子だと、どうやら圧勝したようだな」
「おう! と言うかこいつら、スゲー弱かったぞ! きっと毎日、遊び呆けてこの四年間碌に戦闘していなかったんだろうな」
そんなはずはない。彼女らは、北門で、三人と戦ったへザリア軍の兵士達は、キャリア達は四年のブランクを感じさせないほどの活躍で、王国軍を守りながらこちらの軍にかなりの損害を与えたという報告をしてきたからだ。
しかし、流石は魔王。勇者がいなかったとはいえ人間側、二番手くらいの強さを持つ従者達をあっさりと倒すとは。俺如きが心配するような奴じゃなかったな。
「さて、それで、この後どうする?」
「例の魔力封じの首輪をその女共につけたからな、これで取りあえず魔法は使えないはずじゃ。加護も魔力無しでは大して威力を発揮しないじゃろうから、これで大丈夫じゃろう」
よく見ると、キャリア達三人の首に、赤色の首輪が掛けられていた。
この首輪は、サラスお手製のもので、本人曰く、対象の魔力を常に吸収し続けると同時に、吸収した魔力を用いて首輪そのものを硬化させる魔法道具らしい。
一見するとアリアンロッドと似たような代物に見えるが、首輪サイズまでに小型化するのに大分苦労したそうで、魔王兵装を作るよりも大変だったらしく、四十年かけても五、六個しか作れなったそうだが、この通り一度嵌めてしまえば、もう、そいつは魔力を体内で貯められなくなるので、魔法が使えなくなるという優れものだ。
他にはない能力故か、俺と猿の加護は、魔力無しでも使用できるが、こいつらの持つ加護は、どれも強化魔法や回復魔法、付与魔法と言った既存の魔法を限界以上に強化した能力だったため、少量ではあるが魔力が必要であると言うことは昔から知っていた。
「まあ、魔力がなければ、こやつらは、ただの雌猿じゃ。煮るなり焼くなり、ロイの好きにすればいいのじゃ。余はこいつらには興味がないからのう。まあ、勇者を倒した者の報酬として貰っておくのはどうじゃ? お主のものになるのなら、他の者も手出しせんぞ」
「いや、いらねぇ。と言いたいが、貰っておこう。生まれたことを後悔させてやるから、一応貰っておくが、あくまでこいつらに恨みを持っている奴らがいた場合、勝手に殺さないようにするためだからな」
かつては、大好きだった女達だが、今の彼女達は、猿の手垢がついて子供まで生んだ他人だ。悪の血を引く子供共々、とっとあの世に送った方が世のためだが、俺が受けた痛みを返す日までは、面倒を見るしかない。
「ふふっ、まあ好きにするがよい。さてと……では、勝鬨を上げにいくかのう?」
勇者は消え、従者は無力化され、それ以外の王国軍は文字通り全滅した。いや、まだ猿達、北側から攻めてきた部隊の生き残りが、撤退し王都の防衛についたそうだが、今さら何ができる。
「そうだな。では取りあえず、雌猿共の服を引ん剝いて、磔にしたのを見せつけて、王都の連中に降伏勧告でもするか?」
「……一国の王妃達が裸で磔か、普通なら心が折れるな。では、それで行くか」
サラスの賛同も得られたことだし、早速行動に移そう。そう思い、ぐったりと意識を失って倒れているキャリア達の方を見る。すると、先ほどまでと様子が違った。
「キャリア?」
「おかしいのう? 数時間は意識が戻らないと思ったのだが、聖女の力でも使ったかのう? でも魔力はないはずだしのう?」
何故か、キャリアだけが、意識を取り戻したようで、その場で立ってこちらの方を見ていた。
あいつの加護は回復能力だ。もしかしたら、そのおかげで、予想よりも早く目が覚めたのかもしれない。でも、だからどうしたと言うのだ。俺たちに勝てると思っているのか?
「キャリア、久しぶりだな」
思えば、宣戦布告した時、ゼラとは少し話したが、キャリアとは話をしていない。あいつは、猿がどうなったのかも知らないので、折角なので、教えて反応を見るか。
「おい、キャリア。お前の大好きな猿王は、もういないぞ。あいつは俺に負けて二度と帰ってこれない場所に行ったんだ。どうだ! 感想の一つでも言ってもみろ!」
何て返してくるかな? やはり、一番はそんなはずはないかな。次は、荷運び風情が何寝ぼけたことをかな。
俺は、猿が負けたことについて、キャリアがどう返してくるかを頭の中で予想した。い~や、何も知らない奴に真実を教えてやった時の反応を見るのは楽しいな。
そんな事を考えていたが、キャリアはそんな俺の想像を完全に裏切った。
「ええ、知っています。見ていましたから」
? 何をバカなことを言っている。お前はサラスと戦い、そして負けて気絶していたではないか?
変な強がりは止せと言ってやろうかと思ったが、俺はキャリアの顔の表情を見て、違和感を覚えた。
「ロイ。余はちいとやりすぎたかも。頭を強く打って、おかしくなったかもしない」
どうやら、サラスは気が付いていない。俺が感じた違和感を教えてやりたいが、口では上手く説明できない。それでも一言で言うと、別人がキャリアの体を支配している、そんな感じがした。
「お前、キャリア………ではないな」
「!? ロイ、それは一体どういう?」
俺の発言にサラスは驚き、問い詰めるがそれよりも先に、キャリアは両手を叩いて拍手した。
「お見事! そうワタクシは、あなたが知るキャリアという女性ではありません」
そして、キャリアの体に乗り移った何者かは、自身の正体を明かした。
「ワタクシの名前は、イリオン。あなた達が女神と呼ぶ者です」
イリオン。
キャリアは、自らを女神イリオンと名乗った。何故か、誰もその名前は知らない女神の名を。
「えっ? 女神? じゃあ、キャリアと言うこの女は、猫かぶって演技して今まで、自分が女神だったことを秘密にしていたのか?」
突然、キャリアが自分を女神だと言うことに驚くサラス。
正体を偽っていたというサラスの考えは理解できなくはないが、多分それは違うと思う。
「それは違いますよ。サラスさん。ワタクシの本体、本当の体はこの世界にある天界と呼ばれる場所にあって、そこから精神、意識だけを飛ばして、この体に乗り移っているのです。正確には、あなた達には知らせていない聖女の加護の能力なのですが……」
女神曰く、女神は、この世界を見守る者であるため、この世界に基本的には干渉できないそうだ。
しかし、いくつか例外もある。その例外の一つが、聖女の加護の隠された能力である聖女の従者の精神を女神が乗っ取り、一時的に女神が聖女の従者の体を支配して、下界に短時間であるが干渉するという方法だ。
「最も、これは一度しか使えない禁じ手。乗り移っても聖女が持つ力しか使えないのでとても弱い上、とてつもない負荷がかかるので、できれば使いたくなかったのですが、これで最後ですし、いいでしょう」
ん、最後? 何だか凄く不安になってきた。
「その女神様が、禁じ手まで使って一体何しに来たのじゃ?」
よく見ると、少しだけサラスが怒っているようにも見えるが、無理もない。女神が人間に魔法と勇者の加護を授けたことで、今日まで魔物は苦しんできたのだ。
言うなれば、女神は俺達にとっての最後にして最大の敵とも言える。
俺も、サラスと共に、戦闘体勢に入る。今の自分には戦闘能力はない自分で言っているが、相手は神。油断はできない。
しかし、俺達の出す殺気に気付いたのか、女神は慌てて静止を促す。
「少し待って下さい。ワタクシはあなた達と戦うために来たのではありません」
「では何故このタイミングで来たのじゃ? 我らが勝利した思った瞬間を狙って潰しにきたのではないのか?」
「いいえ、それは違います。このタイミングで来たのは、このままではワタクシが、あなた達と会話できる手段である聖女の体をボロボロに甚振ることが目に見えていたからです。あっいえ。別に甚振るのをやめなさいと言いに来たのではありませんよ。この者達はワタクシの目から見ても、ゴミにしか見えませんから。でも甚振られて辱めを受けた体であなた達とお会いするのは、少し嫌な気分になるので、そうなる前に出てきました」
とうとう女神にまでゴミ扱い。キャリア達はやっぱり本当にクズであった。
「今回ワタクシが来た理由は二つ。あなた達にあることを教えることと、戦いに勝ったあなた達の処遇です」
「教える?何をじゃ?」
「これは、サラスさん。主に、あなたに対する質問です。ロイさんでは残念ながら、理解できない可能性もありますが一緒に聞いてください。では、話す前に一つ問題です。現在、この世界には大きく分けて、二つの人知を超えた力がありますが、それが何か分かりますか?」
人知を超えた力? 恐らく、一つは加護のことだろう。俺は答えの一つを言おうとしたが、サラスに先を越された。
「人知を超えた力、つまりは我々では自力では習得できないほどの強大な力か。そんなもの、決まっているお前が人間に与えた魔法と加護じゃろう」
なるほど、確かにそうだ。しかし、女神を首を横に振る。
「人知を超えた力が、自力で習得できない力と言う解釈は正しいですが、魔法と加護ではありません。魔法と加護は、厳密には少し異なるのですが、両方ともワタクシが人間与えたもの。つまりは同一のものと考ええてください……まだ、分かりませんか? もう一つあるではないですか? 神にも等しい力が」
「「!?」」
そこまで言われ、俺とサラスは同時に、女神の言うもう一つの力の正体に気が付いた。
「まさか……」
「ええ、そのまさかです。あなた達がずっと疑問に思っていた魔王の力。その正体をお教えしましょう」
「では、順を追ってご説明しますが、その前に、また問題です。生物の最大の目的とはなんですか?」
生物の目的? また意味の分からない問題を出しやがった。しかし、俺が考える間もなくサラスが即答する。
「子孫を残すこと、つまり繁殖だ」
そして、その答えは今度は正解であったようだ。
「そうです。まあ諸説ありますが、百人に聞いたら、九十九人くらいはそう答えるでしょうから正解と言っておきましょう。さて、話を戻しますが、繁殖し子孫を残し種全体を繁栄させる。これは、あらゆる生命が行っていることです。人間だろうが、ドラゴンだろうが、動植物だろうが、みんな同じです………神も含めて」
「!? 神も含めてじゃと?」
「ええ、そうです。我々神もまた、あなた達、下界の生物と同じく数を増やし繁栄を目指しています。しかし、あなた達みたいに雌雄で交わっても神は生まれません」
二人の会話は難しくてついていけてないが、それでも俺は懸命に話を聞いた。
「どうやって神が誕生するのか? 先に答えを教えましょう。
世界に住む全ての心を持つ知的生命体が、種の枠組みを越え、自分達では解決できないほどの問題を解決したいと願った時に救世主が現れます。その救世主が奇跡を起こし、問題を解決し、やがて生物としての死を迎えた時に、次元を超え、新たな世界を生み出すほどの力を持った神と言う高次元生命体へと進化します。これが神の正体で、神が誕生する方法です。
ワタクシも新たな神を誕生させようと、他の神々と同じように、無からこの世界を作り、生物を誕生させました。そして、その生物達が進化し、悲しみと喜びを知り、心を持ち、救世主を生み出すその時が来ることを信じて、今まで、ずっと世界を見守っていました」
ん? ほとんど意味不明だが、願いと言う単語は、どこかで聞き覚えがあるぞ。
そうだ! あれは確か、王都を脱出した時にサラスが言っていた魔王はこういう存在だったらいいなと言う願望であったはず。
俺は、隣にいる当人の様子を伺う。すると、驚いたことにサラスは、声を詰まらせながら泣いていた。
「ぐす……そ、そうか。そういうことじゃったのか」
「あらゆる問題を解決するためにか、あなたの知能はこの世界の知的生命体の中では群を抜いて高いです。ですので、少しヒントを与えれば気が付くと思いましたが、思ったよりも早かったですね」
「ああ、これでようやく自分の正体に気が付いた……じゃが、そうなると余は未完成の上、失敗作と言うことじゃな」
今のサラスの発言で、俺もサラスの正体に気が付いた。
やたらと高いサラスの頭脳と戦闘力、新たな魔法を作る力。女神が人間に与えた魔法と同じく、与えた魔物の子孫にも継がせられる〈アルス・マグナ〉。
魔王だから、それも当然かと思って深くは考えてこなかった。しかし、心の片隅では、常にいくら何でも、サラスは異常過ぎると思っていたのだが、今の女神とサラスの会話で得心がいった。
女神の言葉を信じるのならば、彼女は神なのだ。正確には、神になる前の存在である救世主だが。それでも神になる前の存在であれば、あれだけ好き放題できたのにも頷ける。
俺は、魔王の正体が女神と同質のものと知って驚いた。
でも、何で、サラスが自分の事を未完成の上、失敗作と言ったのかまでは分からない。だから、俺はサラスに尋ねる。
「ああ、ロイも気がついたのか。じゃが、何故、余が失敗作なのかは分からんのか。ロイ、もう一度よく考えてみよ。あの女神はさっき何と言った?」
俺は頭の中で、先程の女神の言葉を思い返す。そして、すぐに答えにたどり着いた。
「全ての生命……」
「そうじゃ。世界に住む全ての心を持つ知的生命体が、種の枠組みを越え、自分達では解決できないほどの問題を解決したいと願った時に救世主が現れ、やがて神となる。余は、確かに多くの種族の願いによって生まれた。しかし、その中には、ある種族だけが入っていない」
「……人間か」
ここで、女神が口を開き補足した。
「その通りです。あなたは人間によって、この世界で虐げられた数多の種族が、その圧政に立ち向かう力が欲しいと願った結果、誕生した存在。いや、今の表現は不完全ですね。正確には、あなただけではなく、過去に人間族に立ち向かった者達。そう魔王こそが、この世界が生んだ新たな神となり得る存在である救世主なのです」
つまり以前述べていた、魔王は女神の劣化版のような存在であるというサラスの願望はある意味で事実だったのだ。だが、人間に対する魔物の憎しみから生まれたサラスでは、女神が待ち望んでいる本当の神には至らないのだろう。女神も残念そうな顔をし、サラスは悔しそうな顔をしていた。
「では、間違った生まれ方をした魔王を殺すために、お主は勇者の加護を人間に与え、魔王退治を企んだのか?」
「サラスさん、この件をお話しする前に、あなた達には過去についてお教えしなければなりません」
女神が語る千年と数百年前の出来事。
世界誕生から一万年が経った今から千年前と数百年前、女神は神の誕生まで後一歩だと感じていた。当時世界には、現在も生き残っているリザードマン、ゴブリンなどの魔物以外にも多くの種族が存在し、お互いに激しく争っていた。
この段階までくれば、後は、戦いに疲れた者達が平和を望み、やがてそれが大きな輪となり救世主が誕生する。女神は過去の経験からそう読んでいた。
しかし、事態は女神の想像を超える。
辛うじて拮抗を保っていた種族間の戦力バランスがいきなり崩壊した。
崩壊させた者は一体のドラゴンだった。そのドラゴンは救世主でもなければ、女神から力を貰った存在でもなかったのだが、そのドラゴンは驚くべきことに自力で、神が介入しなければ対処できないほどの凄まじいほどの戦闘力を獲得し、同族のドラゴンを含め、全ての生物に牙を剥いた。
さらに、そのドラゴンの血には、生命力を奪い魔力の結晶にさせるという力も備わっていた。そのドラゴンはこれを利用して、自分の血を大地の奥深くに埋め、土地の生命力を奪い不毛の土地まで作り出し、多くの種族の生活基盤すら壊した。それが、北の大陸が不毛な土地である理由だ。
ともかくそのドラゴンは、たった一体で、世界の半分と多くの種族を滅ぼしたらしい。
女神は最初こそは、このドラゴンが生み出す脅威によって、同族である他のドラゴンを含め全種族が団結し、救世主の発生を促せると思ったが、ドラゴンの駆逐速度が余りにも早すぎて、このままでは、救世主が誕生するよりも先に全てが滅びると恐怖したそうだ。
そして、女神はこの問題を解決するために、ある苦渋の決断をする。
世界に直接干渉できないルールをギリギリで回避する手段を思い付いた女神は己の力の一部を切り離し、子孫にも引き継がれる魔法という武器を当時、地理的関係で他の種族よりは比較的そのドラゴンの被害を受けていなく、数が多かった人間族に与えた。
その後、人間族は、女神の予想通りに多大な犠牲の果てに、魔法を使い見事ドラゴン討伐を成し遂げる。ここまでは、良かった。女神も一安心したそうだ。
だが、喜びもつかの間、今度は、魔法を手にした一部の人間族が、ドラゴンの代わりに他種族の弾圧を始めた。大変な事態なはずなのだが、ドラゴンを倒してくれたお礼と、全てを滅ぼそうとしていたドラゴンとは違い、人間族は他種族を奴隷扱いするにとどまっていたので、女神はしばらくの間、静観した。
だが、女神の怠慢のせいで、魔物達の人間族への恨みと憎しみが増長し、やがて魔王と呼ばれる不完全な救世主の誕生させた。
どの世界でも同じらしいが、救世主は、同時に複数出現することはないというルールがあるそうだ。
不完全であるがゆえに、救世主である魔王は、仮に人間を滅ぼし、奇跡を起こし死んだとしても神になることはない。だが、複数同時に誕生しないと言うルールのせいで、魔王がいる限り真の救世主も出現しない。
流石の女神も、こうなった以上、原因を作った人間族ではなく、不完全な救世主である魔王を早急に始末するしかなかった。
しかし、相手は不完全とは言え、ドラゴンとは違い、本質的には自分と同格な存在になり得るほどの力を秘めた魔王だ。魔法だけでは人間では対処できない可能性があった。
そこで、女神は、魔法とは違うやり方で、残った自分の力をさらに放棄して作ったのが、
「勇者とそれを補佐する四人の従者からなる勇者システムです。ワタクシは五人の人間に加護を与え、魔王を討てと与える際に告げました。そのおかげで、戦いそのものは勇者が勝ちました。しかし、魔物が苦しめられている状況が改善しないため、何度倒しても魔王は蘇ります。
ワタクシは、王族であり、権力者である勇者にだけは、魔王を倒した後、魔物を迫害しないでくださいと、毎回、加護を与える際に告げていたのですが、増長した王族には意味がなかったようでした。」
一度でも下に見た者を対等な存在とは思わないだろう。特にあの王族は。ここまで話してくれれば、俺にだってほとんど理解できる。
「つまり、魔王と勇者の戦いの原因は、過去にあんたが犯した失敗というわけだな」
「ええ、その通りです」
本当に、女神が全ての元凶であった。俺も強気に出る。
ドラゴンの出現、人間族の過ち。想定外の出来後があったとは言え、きちんと管理できなかった女神にも責任の一端があるのは確かだ。
「この落とし前、どうつけるつもりじゃ? 我々に話した以上、何か考えているのじゃろう? でなければわざわざ、話す必要はないはずじゃ」
サラスも睨みながら、女神に問いかける。女神の方は、顔はキャリアだが、申し訳なさそうに答える。
「ええ、それがワタクシがここに来たもう一つの目的、戦いに勝利したあなた達の処遇についてです」
「「処遇?」」
「処遇と言う言い方は失礼でしたね。勝ったのは、あなた達の方ですのに」
女神は、ぺこりと謝ると、大きく息を吐き言う。
「ワタクシは、この世界から手を引きます」
!? つまり神が世界を見捨てるだと! これから一体どうなるのか?
「それは一体……」
「言葉にすると難しいのですが、一言でいえば、採算が合わなくなってきたからです。
捨てたワタクシの力の塊である勇者システムの加護そのものはいくらでも使いまわせるのですが、加護を人間に与える際に、どうしても神通力と言う限りある資源を消費しなければなりません。
一回、二回くらいであれば、この神通力を勇者や従者に加護を付与しても、残りの容量には問題ないのですが、何度も何度も加護を与えられるほど、神通力は無限ではありません。
しかし、一万年近くに渡って、時間を掛けてきた以上、そう簡単に手放す決意ができませんでした。ですので、魔物側が一度でも人間に勝てれば、この世界から手を引くと決めました。
未完成とは言え救世主である魔王が、ワタクシの加護を受けた人間達に勝てるのであれば、一人立ちしたと認めてあげようと思ったからです。
それまでは、世界を作った責任を負うため、他の神々に頭を下げ、赤字を垂れ流しながらで、勇者システムを運用してきましたが、あなた達が勝った以上、それももうお終いです。本音を言えば、魔物の手だけで、勇者を倒して欲しかったのですが、欲を言えるような状況ではないので、諦めます。
以上のことから、ワタクシはこの世界に関わるのを止め、この世界を捨てて新しい世界を作って新たな救世主を一から作ります」
なるほど、難しいことを言っているが、大体理解できた。それに俺も、この世界で真の救世主を生み出すのはほぼ不可能であると言うのは分かる。
今回の戦いに勝った魔物側は復讐とばかりに人間への弾圧を進めるだろうし、俺もそのつもりだ。なので、真の救世主が誕生する条件である全種族の融和など遥か先の未来。いや、来ない可能性の方が高い。
おまけに、現魔王のサラスは多分当分死なないだろう。初めて会った時から、四十年以上は生きてるだろうが、こいつの外見はほとんど変化がない。体は、まるで成長していないのだ。後、千年くらいは軽く生きそうである。
サラスが死ななければ新たな救世主は生まれない。サラスが死んでも、人間と魔物が仲良くならなければ真の救世主は誕生しない。
この上、新しい勇者を用意するのに、毎回苦労しているのなら、もうこの世界は捨てた方がいいだろう。しかし、一つだけ疑問がある。
「管理者であるあなたが消えたらこの世界はどうなるのですか?」
「まず、魔王は恐らく、魔物が人間を憎む限り、永遠に誕生しつ続けるでしょう。そして、魔王はワタクシがいない以上、新たな勇者も生まれないため、この世界を好き勝手できますが、魔王は不完全な救世主でおまけに未完成です。死んだ後に、神のように、次元を超えて別の世界に行く能力や無から世界や生命を生み出す力を得ることはありません。
それでも、魔王が贔屓している勢力がこの世界の覇者になるのは間違いないでしょうが。
それ以外は特に何かが変わるということはありませんが、強いていえば、千年前のあのドラゴンのように、神であるワタクシでなければ対処できないイレギュラーが発生した場合、あなた達は神に頼らずに自らの力で解決しなければなりません。でもあれだけのイレギュラーが再度発生するとは思えませんし……」
まあ、それはそうだ。管理者である神が消えれば、不完全とは言え次に力を持つ救世主である魔王の時代だ。それと何かあった時、俺たちは神に頼らずに、自分達の力でのみ対処するしかないが、それでいいと思った。支配者になるのだから、それぐらいはやって当然だろう。
サラスも同意見のようで、小さく頷いた。こいつは多分、こんなミスばかりの神にこの世界の運命を託すのは嫌だから納得しただろうが。
神に見捨てられるというのに、思ったよりも被害が少なくて安心した矢先、女神を思い出したように口を開いた。
「あっ、忘れていました。新しい世界を作るのに、大きな力がいります。ですので、ワタクシがあげたものをできるだけ回収させて頂きます」
女神は、目をつぶり何かを唱え始めた。そして、それが終わった時、女神を言う。
「今、あなた達を含め全ての人間からワタクシが与えた魔法を回収しました。勇者システムの加護は、少し特殊なやり方で作ったので、今の勇者や従者が死なない限り回収できませんが、人間に与えた魔法ならこの場ですぐにでも回収できます。本当ならもっと早くやるべきだったかもしれませんが。魔王に対処するには少しでも戦力が欲しかったのできませんでした」
さらりと、恐ろしいことを言いやがった。魔法を回収しただと!
「ファイアーボール!」
「マグマ・ヒート!!」
俺とサラスはお互いに魔法を唱えるが何も反応がない。どうやら本当に魔法が消えたようだ。何てことしてくれたんだと俺達は揃って女神を睨んだが、女神は笑い返した。
「そんなに怒らないでください。サラスさんの、魔王の力は、不完全とは言え、ワタクシとは異なる神の力です。ですので、これにはワタクシは一切干渉できません。なので、あなたが生み出した魔法や、ロイさんや魔物に施した〈アルス・マグナ〉は問題なく使用できますよ」
そういえば、そうだ。未完成とは言えサラスは救世主として神に近い力を持つ。なので、女神でも違う神の力には干渉できないのか……。
あれっ?では人間は本当に終わったのでは?
人間は戦争に負けたばかりか、魔法まで失った。対して戦争に勝った魔物の方にはサラスが付与した〈アルス・マグナ〉がある。
戦力的にも立場が完全に逆転したが、それだけではない。
王国が九割近くの税を持っていっても反乱が今まで起きなかったのは、王都軍が強大だったのもあるが、それ以上に、下民でも魔法が使えたのが影響していた。
人間なら誰でも使える魔法を使用すれば、天候不順で雨が降らなくても、水魔法を使い、水を用意できるし、大人であれば戦闘用の中級魔法が一つくらいは使える。それを使って山に入って野生動物を簡単に狩ることができたので、税金が重くても、飢えだけなかった。しかし、魔法が消えた。これまで通りには食料確保ができなくなる。そして、命の危機に瀕すれば下民達は武器を取らざるおえなくなるかもしれない。幸いにも今の王都軍は壊滅状態なので、下民でも余裕で勝てる。
王都の方にも、魔法消滅の影響はある。王都は選ばれた者しか住めないという掟があるせいで、肉体労働すら、王都に住む上流階級の人達が自分達で行っていた。だが、幸いにも王都は魔法教育が最も進んでいる場所でもある。あのアホ猿は習得していなかったが、難易度が高い身体強化魔法を、小売店の店員ですら取得しているほど普及していたおかげで、下民を労働者として使う必要がなかった。なので、今日まで、王都は上流階級達だけが住む楽園を維持できたが、魔法が消えれば、肉体労働者が必要になるはず。つまり、王都は下民を受け入れなければ機能しなくなる。
王国いや、人間全体がこれから、今まで魔法を使ってきたツケを払うわけだ。大変な事になった。
でも、俺には関係ないな。何故なら、これから、俺たち魔王軍は王国を滅ぼすために、全軍で討って出るのだから。
いや、こちらから出向く必要もないかもしれない。食料不足や王都の軍事力低下で、勝手に自滅する可能性さえある。魔法がなくなれば、数に勝る下民の方が強いのだから。
今後どうするべきか、しっかりと考えないとなと思った矢先、キャリアの体に乗り移った女神が突然ふらついた。
「心配ありません。この体にいられる限界が来ただけです」
女神は大丈夫だと言うと、サラスの方を見据える。
「不完全とは言え救世主であるサラスさん。虫の良い話ですが、自分が別世界の人間族から生まれた故に最後まで、この世界の人間族を贔屓してしまった不甲斐ない神であるワタクシの最後のお願いを聞いてくれませんか?」
その後、サラスにとあるお願いをしたキャリアの中にいた女神は俺達に別れの言葉を告げると、糸が切れた人形のように、キャリアの体はその場で倒れた。どうやら女神は天界、もしくはこのまま別の世界に旅立ったかもしれない。
色々と複雑な話であった。俺とサラスは、今後の事を考えるあまり、お互いに顔を伏せ無言となったが、その空気を壊すかのように陽気な声が聞こえてきた。
「ハァハァハァ、サラス様~ 持ってきました!」
振り向くと、明らかに場違いな一人のハーピィの少女が手提げ袋を持ってこちらに走ってきた。
「おお、ルルン。良い所に来たのお!」
「おい、サラス。戦闘が終わったとはいえ、何でこんな場所に子供がいるんだ?」
「ああ、こやつは、先ほど目に余る大失態をしてのう。色々を罰を与えるつもりじゃった。で、手始めに、余は腹が空いたので、この居住区にある自分の家で何か食べ物を作ってこいと命じてのう。この焼き鳥も、こやつがさっき作って持ってきたものじゃ」
サラスは今までずっと手に持っていた串を見せつける。まあ、良く分からないが、サラスの機嫌がいいようだから、悪い話ではないみたいだ。
その後、ルルンというハーピィが作って持ってきたサンドイッチを食べながら、俺は、魔法がなくなった人間達と未だに地面に倒れているキャリア達を、今後どうするかを頭の中で考えた。
いつも応援ありがとうございます。
一部加筆しました。誤字脱字のご報告ありがとうございます、すみません。




