第13話 ゲスの極み
本日完結です。
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8月からここまでほぼ毎日更新できました。30万字超続けられたのもみなさんのおかげです。
ググル熱の流行を期に始まったリーグラード王国内の内乱は、仕掛けた大国東西リーグラードの敗北と自滅という形で終結した。
それぞれ結んだ講和条約によって、東西リーグラードの王は退位。勝利したノースサンドリアの領主ケント・アルテッツア・リーグラード元第3王子が両国を併合することで決着した。
元々、リーグラード王国の次期国王の最有力候補であったケントが、実力によってその地位を取り戻したのだ。
国を4分割にして有力候補であったケントを追放した宰相のケンジントン公は病に倒れ、競争相手であった兄2人は愚かな王妃のせいもあって、その地位を追われたのであった。
新生リーグラード王国の樹立。
ノースサンドリアから東リーグラードの首都クロービスへ移ったケントは、王都の住民から大歓迎を受けた。
ケントは道々で歓迎を受けながら、以前、みすぼらしい荷馬車に吉音と2人でノースサンドリアに向かったときとの違いを思った。
今は豪華な馬車に同じく侍従の吉音と近々結婚するニケが隣に座っている。
思えばこの嫁になるニケとの出会いで自分の運命は変わった。
今は金髪をなびかせ、トパーズ色の目で景色を眺めている美しいニケであるが、最初の出会いは衝撃的であった。
『絶対無垢の神衣』と言われる全身を覆うスーツアーマーで顔すら見ることもできず、まるでデーモンの騎士のようなデザインの鎧に腰を抜かさんばかりであった。
追放され引きこもりになったケントが、この押し付けられた婚約者との結婚を回避するために奮闘した結果、リーグラードの王に返り咲くことができたのだ。
ニケはケントにとって恩人であり、そして離れてはいけない勝利の女神でもあった。
戦争はケントの先見の明と銃の発明。バステト族、アヌビス族の勇敢な戦士ったちのおかげでもあったが、それだけでは防衛しかできなかった。
大国東リーグラードが市民の放棄や軍の反乱で滅びる原因になったのは、ググル熱で苦しむ東リーグラードの住民を救ったニケの行動のおかげである。
それがなければ、統一はもっと後の話であろう。
馬車が王城についた。
リーグラード中の貴族が出迎える。
そしてケントが取り立てたノースサンドリアの官僚たちも出迎えた。
レイチェル官房長官はこれから樹立するリーグラード王国の宰相になる。初の女性で平民出身の宰相である。
外務大臣は彼女と結婚する予定のリヒャルト・ワーグナー。ケンジントン公の一族でありながら、レイチェルを追って与えられた地位を捨てて、ケントの元に来た。戦争では人脈を駆使した巧みな外交で、各国を動かして同盟国のカリフや自国への支持と協力を取り付けた。
ついでにレイチェルのハートも射止めたのだ。
ノースサンドリアで農業水産大臣をしていたブラッドは、そのまま能力を生かしてNSD株式会社のCEO及びノースサンドリア行政長官として、ノースサンドリアの発展に力を尽くしてもらう予定だ。
「ケント国王陛下及びニケ王妃陛下の御成り~」
そう告げたのは新しく近衛兵隊の指揮官になったバッジョ大佐。西リーグラードの連隊長から抜擢した。ケントとは戦友でこの王都に潜入した時に力を貸してくれた友だ。
「国王陛下、我々貴族議員は陛下のお出ましを首を長くしてお待ちしておりました」
そう言って平伏したのはケンジントン公の長男で後を継いだリチャード・ケンジントン公爵である。
彼は父親の死後、その遺言に従って貴族たちをまとめてケントに忠誠を誓った。彼がいなければ未だにメイソン派や旧ケンジントン公派の貴族が内乱を起こしただろう。彼の功績も大きい。
それに敵の親玉であったケンジントン家を許して、国の重鎮に据えるのはケントの度量とこれまで敵対した貴族たちに安心感を与えた。
ケントが国王に復帰するにあたって、過去に裏切ったことを復讐されるとだれもが思ったからだ。
リチャードが立法府の重要なポジションである貴族議員議長に任命されることで、誰もが復讐はないと安心したのであった。
ケントとニケが玉座まで続く絨毯を進む。ケントは正装。そしてニケはウェディングドレスだ。今日は建国式典と結婚式を兼ねているのだ。
「お兄さま、おめでとうございます」
玉座に座ったケントにまず話しかけて来たのは妹のトリッシュ。戦争が始まる前に留学先のエルグランド王国に帰っていたのであるが、その時に重要な任務を受けていた。それはニケの出自に関するもの。
その報告である。そしてその報告がニケの出自を確実にするものであることをケントはトリッシュの横にいる人物をみて確信した。
来賓としてエルグランド王国の現国王、ラージャ・イグザレルト3世が招かれていたのだ。
「これはイグザレルト陛下、遠いところをよくいらっしゃいました」
ケントは30半ばの隣国の王に感謝の言葉を述べた。
「ケント陛下には国王への即位、おめでとうございます。そして我が妹ニケをよろしくお願いします」
そう隣国の王はお祝いの言葉を述べた。
彼は自分に腹違いの妹がいることを知った。母はズー教の巫女でかつての王族であったバロア家の出身。
前国王はズー教の聖女であったニケの母親を見染め、彼女と子供をもうけた。生まれたのは双子の女の子であった。
「それを知った母の王妃は激怒してな。アスガルド教とズー教の争いに乗じて、ニケの母を追放したそうだ」
そうエルグランドの王は説明した。それを知ったのは父と母が次々と亡くなって王に即位してから。
それからいなくなった妹を捜していたという。ニケは母親に連れられてバステト族に身を寄せたが、もう一人の姫は王妃の手に落ちた。
さすがにあどけない赤ん坊を殺すことをためらった王妃は、この赤ちゃんを暗殺組織に預けたというのだ。
「ニケにお姉さんが……そして暗殺組織だと……」
ケントには思い当たる人物があった。
「やっぱり、私のお姉ちゃんだったの……」
髪の色は違うが後はほとんどニケと一緒の顔をしている女がいる。
新生リーグラード王国で魔法兵団師団長を務めるリィである。
「リィがニケの姉でエルグランド王国の王女だと……」
「トリッシュに聞けば、そのリィという娘。絶対無垢の神衣を着用できたという。それは間違いなくエルグランド王家の血を受け継いだ王女であるという証」
そうエルグランドの王は断言した。
召し出したリィにそのことを告げる。
リィも驚いたようだ。
そしてニケとの抱擁。
リィの希望でエルグランド王国には帰らず、このままリーグラードに残ると言う。ケントは何だか嫌な気がした。
リィは自分の王妃になると公言していた。王妃は妹のニケになったから、それは言わなくなった。しかし、兄であるエルグランド王や妹のニケとなにやら相談しているところをみると、彼女は彼女なりに今後の身の振り方を考えているようだ。
エルグランドの王女ならば、これから嫁ぎ先には困らないだろう。どこかの王家や大貴族の令夫人になれる。
本人は暗殺組織で暗殺者をやっていたから、そんなところの奥様で満足しないだろうが、王女と分かったからにはそれなりの処遇が必要だろう。
式典や結婚式は1週間も続き、ケントもニケも二人きりになる時間がなかった。しかし、それも今日で終わりである。
ケントはうきうきと寝室へと向かっている。
明日も忙しくなるが、今晩は楽しみだ。
何しろ、大好きなニケと初夜である。
天使なニケとベッドを共にできる。
(やべえ……もう今晩は猛獣になりそうだ)
「主様、気持ちは分かるズラが、ニケ様は初めてズラ。初めての女性に猛獣になって襲い掛かるのはゲス野郎ズラ」
そう吉音が忠告する。
「わ、わかっている。俺はニケを大切にすると誓った。そんな己の欲に溺れるようなことはしない」
「本当ズラ?」
吉音はそう念を押すが顔を見るとまったく信用していない感じだ。ケントはそんな吉音をからかってやろうとこんなことを言った。
「そういうお前も随分とローランドと仲がよいじゃないか。そのうち、お前を嫁にくれとあいつが言ってきそうだな」
これは本当だ。ローランドのところに吉音を派遣したことがあるが、それから頻繁にローランドから吉音あてに手紙が来ている。この式典の最中もやたらと吉音の傍でローランドを目撃している。ケントの指摘に吉音は少し慌てようだ。
「急に何を言いだすズラか。ローランド王子はカリフの領主様ズラ。キツネ族の娘を嫁にするわけがないズラ」
「だが、お前、ローランドと結構会っているのだろう。この前、カリフに行った時にローランドの奴がお前にご執心なのは聞いているのだがな」
「大きなお世話ズラ」
「それにお前は俺の侍従だ。身分は悪くない。それにあいつはキツネ族とか生まれを気にする奴じゃないだろう」
ケントは吉音の顔を見る。うつむく吉音の顔が赤い。
どうやら相当仲は進んでいそうだ。
「ローランドの奴がお前を嫁にくれとか言った来たら、俺はこう答えよう。お前みたいな若造に娘はやらん!」
「馬鹿ことを想像するなズラ」
吉音はもう知らないという表情でそっぽを向いたが、この3年後。それは現実となった。無論、ケントが反対するまでもなく吉音は、ケントの侍従からカリフ公爵夫人へと転身する。
部屋のドアが開く。
ベッドにはナイトドレスを着たニケがちょこんと座っている。
ケントは心臓がバクバクするのを抑えられない。
感激で足が震えるがそれでもニケの隣に座る。
「何だか恥ずかしいですね」
しばらく沈黙した後、ニケがそう言った。
「ケント様は以前、女は第1が顔で第2がプロポーション。第3が抱き心地とか言っておられましたが……明日の朝、抱き心地については感想を聞きましょうね」
ケントは確かにそんなゲス発言をしていた。自分の馬鹿さを反省する。
今のニケは顔もプロポーションも天使だ。
そして性格も天使。
きっと抱き心地も最高だろう。
しかし、そんなことではない。
「ニケ、前言は撤回する。第1がニケで第2がニケで第3もニケだ。つまり、お前なら何でもいい」
(くすくす……)
ニケは笑った。その顔があまりにも可愛らしい。
(ニケ~っ、やっぱり天使~)
もうケントの野生は制御できない。
ニケを押し倒す。
「ニケ!」
「ケント様、優しくしてください」
「わ、わかっている!」
ケントは夢中でニケを抱きしめた。
分かっているとか口にしたが、野生は理性を凌駕した。
扉の外で吉音はため息をついた。
「はあ……。やっぱり主様はゲスずら」
「どうやら計画どおりじゃな……」
吉音にそう話しかけた人物に吉音は頷いた。
*
朝になった。
ケントは目を開けた。
もう腰ががくがくで動けない。
(ああ~やっちまった……。初めてのニケに……1,2,3……4……8回もやってしまった……ああ……これは獣といわれても仕方がない……)
ケントは恐る恐る左隣を見る。金髪の美しい女が疲れ果てて深い眠りについている。
一晩中ケントの相手で疲れているようだ。
「やべえ……寝顔も天使だ」
ここでケントは右隣に気配を感じた。誰かが寝ている。
ケントは飛び起きた。朝から心臓が止まるくらいの驚きだ。
「な、なんでお前がここにいるのだ?」
右に寝ているのは銀髪の女。ニケと同じ顔をした女だ。
「あれ……ケント……おはよう……昨晩は激しかったな」
「な、な、な……」
「お前、ニケと交互に我にも挑みよって。4回もされて我の腰はがくがくじゃ」
リィはそんなことを告白する。
「うそ、どうして、そんなことあるか!」
「途中でニケと入れ替わったのだ。姉妹で交代して、ゲス野郎の相手をしたわけだ」
「ば……馬鹿な」
リィはにんまりする。ニケやエルグランドの王と相談していたのはこのことだ。
「責任は取ってもらうぞ。何しろ、エルグランドの王女にこんなことをしたのだ。捨てれば外交問題だな」
「う、うそだ~」
「ケント様……」
リィと話している声でニケも起きたようだ。
「ケント様。そういうことですから、お姉さまも妃にしてください」
「おい、それでいいのか。それで……」
いくら正妃であるニケが了承してもこれは聞こえが悪い。
姉妹を自分の妃にするとは、ゲス国王とかげで言われても仕方がない。
「いいです。それにケント様。ゲスはゲスでもよいゲス王になってください」
「よいゲス王だと……」
そんな王がいるものかとケントは思ったが、人の悪口は甘んじて受けても結果を出せば黙らせることはできる。
「そうか、ニケもリィも幸せにすれば誰にも文句を言われない!」
「素敵ですケント様」
「さすが我の惚れた男だ」
ニケとリィがケントにすり寄る。
にへへへ……とケントは笑った。
第一王妃と第二王妃の誕生である。
扉の外で作戦が成功したことを知った吉音はつぶやいた。
「2人の王妃様がそれでよいと言うのなら、別にウチがとやかく言うことではないズラが……あえて言って〆るズラ」
吉音は腕を組んだ。どうにも自分には納得できない。
「主様はゲス王子からゲス王に進化したズラ!」
吉音はそう言ったが、ケントは2人の王妃と力を合わせて豊かな国づくりに努めた。
そのおかげもあって、新生リーグラード王国は人々が平和に暮らす素晴らしい国になったのであった。
(完)
また年末を目標に新作をぼちぼち投稿します。
これからも応援よろしくお願いします。




