99話 未来
原因体を倒すと、この世界にいる全てのイーターが消失した。静寂に包まれた世界で、唯一、地下シェルターは音があった。
有希たちは帰還すると、その惨状に目を見開いた。上層、中層共に壊滅状態で、見慣れた景色がこのような有り様になっているのは辛いものがあった。
高城たちに迎えられ、その結果を報告する。
今回の戦いでは奇跡的に死人は出なかった。地下シェルターの被害は甚大だったが、命が失われなかったことを考えると悪い結果ではなかった。
だが、皆の表情は喜びよりも悲しみの方が強かった。勝利はしたが、後ろを振り返ってみるとあまりにも失ったものが多すぎた。
機装部隊の隊員は有希が入った後だけでも百五十名は死亡していた。それ以前の戦いでもさらに多くの隊員が命を落とした。失われた命を考えると、安心はすれど喜ぶことは出来なかった。
特に、莉乃や紬の死は有希たちの心に大きな傷を与えていた。見知った人の死を受け入れるには、少女たちはまだ幼すぎた。
そんな様子に、高城が口を開いた。
「戦いは終わった。俺たちの勝利で。俺はこの時を、どれだけ待ちわびたことか」
皆の視線を受けながら、高城は続ける。
「この戦いで失ったものは多い。俺は百人、千人もの人間と出会い、そのほとんどが戦死をしてしまった」
そこで、高城は舞姫に視線を向けた。
「俺がなぜ、立ち止まらなかったか分かるか?」
「原因体への復讐を遂げるため、かしら?」
その答えに高城は首を横に振った。
「それもあるが、違う。唯、分かるか?」
「皆を守るためってのは、なんか違うよな」
「ああ。それもあるが、違う。有希、分かるか?」
有希は少し考えるそぶりをした後、口を開く。
「平和な世界のために、戦ったんだよね?」
「ああ、そうだ。俺はそれを待ち望んでいた。それのために、立ち止まらなかった」
「高城さんはヒーローなんだね」
有希が嬉しそうに笑う。だが、高城は首を横に振った。
「俺だけじゃない。皆が諦めなかったからこそ、この勝利が掴めた。ならば、皆がヒーローだろう?」
そう言って高城はニヤリと笑った。
「話を戻す。俺たちは平和な世界を待ち望んでいた。笑顔で過ごせるような世界をな。ならば、今は悲しむよりも喜ぶべきだ。そうでなければ、これのために死んでいった奴らが報われないだろう?」
高城の言葉に皆がはっとなった。自分が悲しそうな表情をしていることに気が付き、無理矢理に笑みを作って見せた。
ぎこちない様子の皆を見て、クロエが有希に声をかける。
「有希、喜べ! 世界は平和だぞ!」
「え、あ、えっと……わーい?」
「なんで疑問形なんだよっ!」
クロエがツッコミを入れる。すると、七海がくすりと笑った。それに釣られるように皆が笑う。そこにぎこちなさは残っていなかった。
皆が自然な表情になったのを見ると、高城は頷いた。
「よし、今日は宴だ! 勝利を祝って、笑ってやろうじゃないか!」
高城の言葉に、皆が歓声を上げた。もうそこに、悲しみはなかった。
有希は嬉しさのあまり、隣にいる唯に抱きついた。唯は顔を赤らめて視線を逸らすが、その先で沙耶と遥が喜びを分かち合っているのを見て、慌てて視線を逸らした。
その先では高城と遠藤が熱いキスをしているのを見てしまい、唯は顔を紅潮させて有希に視線を戻した。
有希が嬉しそうに笑っているのを見て、唯は微笑んだ。
「有希、ありがとな」
「うん!」
機装少女たちの戦いは終わり、世界に平和が訪れた。未来への期待で皆の胸が高鳴っていた。
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