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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
七章 Encounter with the cause

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92話 開戦

 翌朝。地下シェルターの上層には高城を始め、機装部隊ギアフォースの面々が集っていた。これから始まるであろう戦いに緊張した面持ちだったが、そこに恐怖はない。

 高城は舞姫の方を見る。

「頼む」

「分かっているわ」

 短いやりとりだが、これで十分だった。お互いが、自分の成すべきことを理解している。

「有希、唯。行くわよ」

「うん」

「ああ」

 二人は頷く。そこに迷いはない。ただ、目の前の戦いに集中するだけだ。

 三人は装甲車に乗り込む。その足取りはしっかりしていた。その勇ましさは、地下シェルターに残って戦う隊員たちに勇気を与えていた。

 エレベーターで地上へ出て行く三人を見送ると、高城は隊員たちに向き直る。そこには沙耶や遥もいる。自分の隣にはクロエと遠藤もいる。恐れる要素など、一つもなかった。

 高城は腕を組んで瞑目し、静かに戦いの時を待つ。その間も、己の感覚を研ぎ澄ませることを忘れない。

 自分の後ろには東條と鈴木が作り上げた強化機装パワードギアがある。練習は大して出来なかったが、動作の確認くらいは完了している。扱う上での問題はない。

 やがて、高城は静かに目蓋を持ち上げた。

「来たか」

 呟いたのと、警報が鳴り始めたのは同時だった。地下シェルターの周辺には、既に大量のイーターがいた。

 高城は強化機装パワードギアを装着すると、声を上げた。

「これより、戦いを始める! 補給班は上層で待機、攻撃部隊は俺に続けぇッ!」

 その声に隊員たちが声を張り上げて答えた。志気は最大にまで高まっていた。

 高城は沙耶と遥、他隊員たちを率いて地上へのエレベーターに乗った。地上で待っていたのは、黒一色に染まった世界だった。犬型や鳥型、蜘蛛型や蟷螂型。蜻蛉型に獅子型もいた。それどころか、他にも見たことのないイーターで溢れていた。

 ゲートで言えば、レベルフォーよりも遥かに多い数だった。その戦力は計り知れない。しかし、高城たちは臆することなく向かっていく。

「うぉぉおおおおおおおッ!」

 高城が先陣を切った。巨大な強化機装パワードギアを装着しているにも関わらず、その動きは俊敏だ。手始めに、一番近い位置にいた蜘蛛型に攻撃を仕掛けた。

 スコーピオン壱型は、巨大なブレードの付いた銃である。高城の強化機装パワードギアに合わせて作られたそれは、蜘蛛型の硬さをものともしない。

 その威力に、思わず口元が緩んでしまう。しかし、それも一瞬のことで、高城は即座に表情を真剣なものに切り替える。

 近くにいたイーターを力任せに薙ぎ払うと、さらに光弾を乱射して仕留めていく。前方にいるのは敵だけである。躊躇う必要はなかった。

 高城に続くように、沙耶と遥も攻撃を開始した。

 沙耶の機装は強襲機装アサルトギアだ。ややデザインは変わったものの、戦い方に関して大幅な変更はない。それ故に、武器が手に馴染んでいた。

 沙耶がイーターに切り込んでいくと、それに遥が続いた。遥の機装は鉄壁機装ウォールギアだ。右手に持った銃でイーターを倒しつつ、左手に持った大盾で沙耶を守る。

 辺り一面が黒一色の中で、純白の機装に身を包んだ二人は非常に目立っていた。その分イーターの視線も集まりやすいが、それを相手に出来るだけの力が二人にはあった。二人だからこそあった。

 沙耶と遥の相性は完璧である。機装の相性だけでなく、二人の仲も良い。幼い頃から共にいた二人だからこその強さがあった。

 機装部隊ギアフォースの隊員たちもイーターと戦う。機装少女たちは量産型機装イミテートを駆使して戦い、男性隊員たちは高城のものより少しサイズのコンパクトな強化機装パワードギアを身につけて戦っていた。

 その努力もあって、波のように襲い来るイーターを相手にどうにか戦えていた。しかし、その状況は徐々に悪化していく。

「怪我人は下がれッ! 空いた穴には補給班が埋めろ!」

 目まぐるしく変わっていく戦況に、徐々に高城たちは押されていく。そもそも、数の差がありすぎた。高城たちは約五十人ほどなのに対して、イーターは軽く見積もっても五桁はあるだろう。

「クロエ、聞こえるか?」

『ああ、聞こえてるぞ』

「戦線を下げる。体勢を整えなければ、押しつぶされてしまいそうだ」

 高城はこの事態を想定していた。地上で延々と戦い続けるのは厳しいかもしれない。そのために、上層で戦うことも出来る用意をしてあった。

『分かった。こっちの方で準備をしておく。状況を見て離脱してくれ』

「了解だ」

 高城は通信を切ると、沙耶と遥に合図を送る。二人は頷くと、隊員たちの離脱を援護する。

「うおッ……らぁあああああッ!」

 その間に高城はほとんどの敵を引き受ける必要があった。そうでもしなければ、離脱する暇などなかった。

 振り下ろされた蟷螂型の鎌を受け止め、弾き返す。その隙を狙って現れた蜻蛉型を鷲掴みにし、地面に叩きつけた。

 しかし、それで終わるわけではない。イーターは幾らでもいるのだ。波のように押し寄せるイーターを相手に、高城はその猛攻を凌いでいた。

「高城隊長!」

 沙耶に呼ばれ、高城は後ろに大きく飛んだ。そのままエレベーターに乗り込むと、急いでドアを閉めた。鈍い音と共にドアがひしゃげるも、どうにか離脱に成功する。

 エレベーターの中で、高城は冷や汗を流していた。もしもう少し遅ければ、自分は死んでいたかもしれない。

 だが、安心するにはまだ早い。地上には大量のイーターがいて、いつ上層の天井を突き破ってくるか分からないからだ。

「沙耶、怪我人はどうだ?」

「重傷者二人、軽傷者七人です。死者は出ていません」

「分かった。遥、お前には怪我人の手当を任せる」

「わ、わかりました」

「動けるやつには引き続き戦ってもらう。機装の損傷が激しいやつは固定砲台を使ってくれ。他の奴らは、固定砲台と中層へのエレベーターの護衛だ。いいな?」

 高城の言葉に、機装部隊ギアフォースの隊員たちが頷いた。

 上層に到着すると、高城は補給班と合流する。高城の表情には余裕がなかったが、しかし、恐れはなかった。

「総員、配置に付け!」

 高城の号令で、隊員たちがそれぞれの定位置に付いた。固定砲台は中層へのエレベーター付近にあるため、地上の時と同様にエレベーターを背に戦うことになる。

 少しして、天井にひびが入った。そこに向けて、固定砲台の標準が定められる。遥も怪我人の治療を終え、沙耶と共に銃を構えていた。

 高城はスコーピオン壱型を構える。僅かな静寂の後に、天井が崩壊した。

「総員、攻撃開始ッ!」

 その号令と共に、荒々しく流れ落ちる滝のようにイーターが降り注ぐ。

 休む間もなく、再び戦いは始まった。先ほどとは違い、体にも精神にも疲労が溜まっている。

 高城たちはじわじわと追い詰められていた。

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