9話 決意
翌日、早朝。まだ日が昇って間もない時間ではあったが、クロエは目を覚ます。眠い目を擦りながら、枕元に置いておいた端末を手に取った。
「あと、一時間か……」
クロエは端末に羅列された情報を見ながら、ぐっと体を伸ばした。
未来では、今日の朝五時半頃に二回目の波が来た。そのため、今回も同じ時間帯に現れるかもしれないと思ったクロエは、2人よりも早めに起きて待機をしていた。
クロエは寒さに震える身に鞭を打ってベッドから出ると、一花たちの方を見る。二人は仲良く身を寄せ合って寒さをしのいでいた。すーすーと寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている。
(まだ、寝かせといてやるか……)
気持ちよさそうに眠る二人を起こす気にはなれず、クロエはそっとしておくことを選んだ。
クロエは端末に視線を戻す。端末内で検索をかけると、羅列された情報の中から必要なものを探し出した。
端末に表示されたのは、未来で起きたイーターの襲撃――波についてまとめたものだった。一回の波毎に詳しく情報が並んでいるが、それも五回目からは日時と僅かなしか表示されていない。敵の攻撃が激化したために、情報を得ることは出来なかったのだ。
一時間後に起きる波は前回と同様に犬型のイーターのみと表示されている。しかし、数は前回に比べて遙かに多く、前回のような甘いものではなかった。未来では、前回の波は地球の戦力を測るための様子見との見解だった。
もし前回の波が様子見だった場合、次の波が未来で起きたものと異なってくる可能性がある。こちらの戦力に応じて相手がどう反応するかにもよるが、イーターがどのような思考回路を持つかも分からない以上、予想の域を出ない。
クロエは結論に至らず、ため息を吐いた。
「あと三十分か……そろそろ起こした方が良いな」
クロエは二人の方に行くと、まずは一花の肩を揺らす。
「おーい、一花。朝だぞー」
「うーん……」
肩を揺らされても一花に起きる様子はなかった。
クロエはため息を吐き、今度は七海の方へいく。
「おーい、七海。起きろー」
「すー、すー」
肩を揺らしてみるが、一花よりも反応が薄かった。
「おーい、二人とも。起きてくれー」
しかし、クロエの努力も空しく、二人は起きなかった。クロエはため息を吐く。
「仕方ないな……」
そう言うと、クロエは大きく息を吸い込み、口を開いた。
「起きろおおおおお!」
「「うわあっ!」」
二人は耳元でいきなり大きな声を出され、飛び起きた。特に、一花は驚きのあまり、ベッドから転がり落ちてしまっていた。
「やっと起きたか……」
「ん、朝か……おはよう」
眠い目をこすりながら七海が言う。
ちなみに、一花はというと「つ、冷たい! 床が氷みたいに冷たいよ!」と体を震わせながらベッドに戻っていく。
「はあ、あったかい……すやすや」
「寝るなー! というか、すやすやって自分で言ってどうする!」
朝からツッコミ役はフル稼働をさせられていた。
一花をどうにか起こすと、クロエは説明を始める。
「こんな朝早くに起こした理由は他でもない。後少しで波が来るからだ」
その言葉を聞いて二人は震える。一花のソレは武者震いの類だが、七海のソレは恐怖から来ている。
前回の波で余裕のあった一花はゲームをやっているのに近い感覚でやっていたのだが、七海のこともあってその恐ろしさを知り、真面目に、しかし怯えずに構える。
対して、前回の波で命の危険があった七海は、波が来ると聞いて怯える。だが、自分はブレイクギアという力を持っている。その力に対する責任感から七海は恐怖を無理やり抑え、戦うことを決意する。
前回の波と比べて、二人の目から強い意志が感じ取れた。波の後に自問自答を繰り返した末の決意は、クロエに伝わる。
それがクロエには嬉しくもあり、申し訳なくも思った。もう少し未来で研究を進めることが出来れば、適正などを関係なくギアを装備させることが出来ただろう。事実、後一ヶ月あればその機能は完成していた。そしてもう一ヶ月あればギアを量産化出来た。
そうすれば、二人のような少女に頼まずとも、軍隊に配備すれば波も容易に退けられるし、二人に背負わせることもなかっただろう。
そんなクロエの心情を察したのか、一花はクロエの目を見つめて頷く。そしてリュックからバナナを取り出すと、クロエに差し出した。
クロエはバナナを受け取り、首を傾げる。意志が通じ合ったと思っていたクロエだったが、突然バナナを差し出されてきょとんとする。
「おなか減ってるんだよね?」
一花の言葉にクロエがひっくり返る。そんなクロエには目もくれず、一花は内心で(クロエの心の中を読みとっちゃう私すごい!)とはしゃいでいる。
「はあ、まあ良いか。そろそろ行くぞ」
二人とクロエは準備を終えると、町へ向かう。




