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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
七章 Encounter with the cause

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89話 決断

 中央塔の司令室で、高城は腕を組んで瞑目していた。表面上は冷静を装っているものの、内面では何か恐ろしいことが起きているような気がして恐ろしくなっていた。

 その予感は、果たして合っているのだろうか。少なくとも、高城は自分の直感に絶対の自信を持っていた。これまでの戦いを切り抜けられたのは、間違いなく自分の直感を信じてきたからだ。

 その直感が、何か恐ろしいものの存在を訴えかけてくるのだ。それは、十年前と同じ。原因体が姿を現したときの感覚に近かった。

 時刻は午前零時。緊急事態ということもあり、夜遅いにも関わらず有希や唯にも招集がかかっていた。

 それぞれが不安そうな表情をしていた。舞姫ですら、これから起こるであろう事態に不安を抱いているようだった。強く握り締められた手は、微かに震えていた。

 やがて、有希と唯が到着した。眠っていたところを急に起こされて眠そうではあったが、緊急招集ということもあり真剣な面もちだった。

 現在、司令室にはクロエを始め、高城、遠藤、東條、鈴木、舞姫、沙耶、遥、有希、唯の計九人と一匹が集まっていた。全員が集まったことを確認すると、高城は口を開いた。

「それで、一体何が起きた?」

「映像があります。これを見て下さい」

 職員がスクリーンに映像を映し出す。それを見て、有希と唯、遥の三人が顔を青くした。三人はまだ、紬に起きたことを知らされてはいなかった。

 紬の体はクロエが最後に見たときよりも浸食が進んでいた。もう後一割しか、人間の部分は残っていなかった。

 紬は廃墟をふらふらとした足取りで移動していた。時折現れるイーターを倒しつつ、どこかへ歩いていく。

 その姿が酷く痛ましくて、唯は目を逸らしそうになる。それでもどうにか逸らさずにいられたのは、隣に有希がいたからだった。

 やがて、紬は立ち止まる。視線の先には数え切れないほどのイーターがいた。紬を視認したイーターは襲いかかるが、紬はその悉くを倒して進んでいく。

 その戦闘能力は紬の元々の能力を遥かに上回っていた。手に持った小型の銃は、東條が開発時に予想した最大出力を容易く超えていた。

 それだけではない。拳が、足が、頭が。体の全てが武器となり、イーターを打ち倒していく。そうしている間にも、浸食が進んでいく。

 そして、紬は辿り着く。異様なまでに大きなゲートの前に。

「なんだこのゲートは!?」

 クロエは思わず声を上げた。それは、今まで見てきたゲートとは全く別物だった。

 赤黒い瘴気が渦巻いていた。よく見れば、ゲートの奥にはガラスのような足場が沢山あった。明らかに、そのゲートは異質だった。

 紬はその中へ入っていく。そこで、反応が消失した。

「このゲートは、一体何なんだ……?」

 高城が唸る。すると、東條が職員に尋ねる。

「紬の救護機装エイド・イミテートにアクセス出来ないか?」

「先ほど試してみましたが、駄目でした。通信機能が辛うじて生きている状態です」

「そうか……ならば、スクリーンに視覚映像を映せないか? 最悪、音声だけでも構わん」

「分かりました、やってみます」

 紬の機装ギアにアクセスは出来なくとも、通信機能は生きているかもしれない。量産型機装イミテートの通信機能は位置情報とは別で、後付けで作られた機械を取り付けただけである。

「映像、映します!」

 職員がスクリーンに紬の視覚情報を映し出す。

 最初に移ったのはゲートの内部の景色だった。どれほどの速さで移動しているのか、景色は凄まじい速度で変化していく。

「音声も生きています!」

 視覚情報に音声データが合わせられると、どんな状況なのかを理解できた。紬は高速で動き回っているのではない。何者かの攻撃を受けて弾き飛ばされていた。

 鈍い音が響く。腕が消し飛び、脚がひしゃげる。だというのに、紬は呻き声一つ上げなかった。その視界には、景色が映るばかりである。

 その光景に、遥が思わず目を閉じてしまう。友人が悲惨な目に遭っているのを見ていられなかった。沙耶は震える遥の頭を優しく撫でる。

 紬は地面に叩きつけられる。本来ならばもう立てないだろうに、紬はよろめきつつも立ち上がった。紬は体勢を立て直すと、敵に向き直る。

 そして、紬の視界にソレが映った。

原因体マザーイーターか!」

 クロエが声を上げた。五メートルほどの巨大な人型。胸元で怪しく光る赤黒い水晶。その中で眠る一花の姿。十年前の姿と同じ。原因体の姿がそこにあった。

 原因体マザーイーターは紬に一気に迫るとその頭を掴み上げる。

「一花……?」

 ゆっくりと上がっていく視界。その最中に、胸元の赤黒い水晶の前を通過した。その中には、確かに一花がいた。十年前と全く変わらぬ姿だった。

 そして、スクリーンには原因体マザーイーターの顔が大きく映し出された。他のイーターと違い、何か生き物をモチーフにした形ではない。人に恐怖を与える、おぞましい容貌をしていた。

 スクリーンに映し出された原因体マザーイーターの目が怪しく光る。その恐ろしさに、その場にいた職員たちは気を失うか、腰を抜かすか。まともに立っていられる者はいなかった。

 立っているのは、有希たちだけだった。だが、その有希たちですら、顔面が蒼白になっていた。今の一瞬で、気付いてしまったのだ。

 ――原因体マザーイーターは、地下シェルターに気付いてしまった。

 確証はないが、皆が直感的に分かっていた。あの赤く輝く目は紬を見ているのではない。自分たちを見ているのだ。

 そして、スクリーンが暗転した。紬はもう、助からない。

 指令室内が重い沈黙に包まれる。誰もが、これから起こるであろう惨劇に恐怖していた。地下シェルターはもはや、安住の地ではない。

「戦おうよ」

 沈黙を破ったのは有希だった。その目には、強い意志が宿っていた。

「確かに、相手がこっちの場所に気付いたのは拙いかもしれないわ。けれど、こっちもまた、相手の場所を知ることが出来た。そうでしょう?」

 有希に続くように、舞姫が口を開いた。舞姫に恐怖はない。あるのは、再び原因体マザーイーターと戦うことが出来ることへの歓喜だけだった。

 それに映像を見れば、一花はまだ生きているように見えた。一花を助けることも出来るかもしれない。

「なんだ、ビビってんのかよ?」

 それに続くように、唯が一歩踏み出した。本当は怖くて仕方なかったが、恐怖を押し殺して前へ進む。

 有希だけに戦わせてはならない。自分には、立ち向かうだけの力がある。

「私も、戦います」

「私も!」

 沙耶と遥が互いの顔を見つめ、頷いた。二人一緒ならば、出来ないことなど無いように思えた。

 地下シェルターを守るには、自分たちの力が必要だ。

 高城は有希たちを驚いたように見つめる。これまで沢山の戦場に赴いてきた彼だったが、少女たちに後れを取るとは思わなかった。

「ああ、やってやる。やってやろうじゃないかァッ!」

 高城は腕を天に突き上げて雄叫びを上げる。その選択に、一切の後悔もなかった。あるのは、心地良い高揚感だけだった。

 よく考えれば、これはピンチであるのと同時にチャンスでもあった。舞姫の言う通り、原因体マザーイーターの居場所を知ることが出来たのだ。これを利用しない手はないだろう。

 高城はクロエに視線を向ける。クロエは真剣な眼差しで頷いた。もしかすれば、この戦いは最後の戦いになるかもしれない。

 クロエは期待していた。このタイミングで、これだけの戦力が集まっている。十年前とは違い、戦力の不足はなかった。

 クロエは高城に視線で意思を伝える。戦いが始まるんだ。士気を鼓舞させるためにも、何か上手いことでも言ってくれ。

 高城は頷く。

「これより我々は原因体マザーイーターとの戦闘に入る。この戦いは正直、かなり厳しい戦いになるだろう」

 高城の言葉に皆が耳を傾けていた。そこにあるのは不安ではない。

「だが、しかし。これはチャンスでもある。原因体マザーイーターを倒せば、この長きに渡る戦いに決着を付けられる!」

 高城と同様に、皆が高揚していた。不安などない。あるのは平和な世界への期待だけだ。

 前向きに、明るい未来を見据えていた。しかし、そこに辿り付くには一つ壁を乗り越える必要があった。

「なればこそ、戦おう! 俺は、この先の平和の為ならば、命を捨てる覚悟も出来ている!」

「ねえ、高城隊長」

「この先の自由のため……ん、どうした有希」

 急に演説を遮られ、高城は首を傾げた。有希は強い意志を込めて、高城の目を見つめる。

「命を捨てたら駄目だよ。みんな、生きて帰らないと」

「……ああ、そうだな」

 高城はなるほどと頷いた。この戦いで誰かが命を落としてしまえば、この先の平和を笑顔で迎えることは出来ない。ただでさえ沢山の命を失っているのだ。これ以上、失ってはならなかった。

「よし、分かった。全員、決して命を落とすな! 笑顔で平和を迎えてやろうじゃないか!」

 高城の言葉に皆が頷いた。誰一人として欠けてはならない。この先の平和を、笑顔で迎えるために。

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