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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
五章 The girl who fights lonely

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80話 計画

 同日。有希はその日の出撃はないため、いつものように戦闘訓練を行っていた。少しでも強くなるために、有希は時間を惜しまなかった。

 戦闘訓練をするにしても、有希にはあまりセンスがない。なにをやれば上達するのかがいまいち理解できていなかった。そんな有希のために、舞姫は様々なプログラムを組んでいた。

 現在は動作の確認中である。槍をどのように動かすかを、細部まで意識しながら繰り返す。反復練習は技術の習得に適している。

 それからしばらく反復練習を続ける。一通りの確認を終えると、次は戦闘訓練である。

 その前に休憩しようと、有希は待合室の椅子に腰掛ける。スポーツドリンクを飲んで一息つくと、自分のタブレット端末がちかちかと点滅していることに気が付いた。

「あ、高城さんからメッセージが届いてる」

 内容を見ると、有希は目を見開いた。そして、慌てて戦闘訓練所を後にした。目指す場所は地上へのエレベーターである。

 有希に届いたメッセージの内容はこうだ。

『唯が危ない。位置は通信でクロエが案内するから、急いで出撃してくれ』

 詳しい事情は理解できていなかったが、唯が危ないという言葉を見れば、有希は迷うことなく助けに向かうだろう。

 その姿を陰から覗く人物がいた。沙耶である。沙耶は有希がエレベーターに乗ったところを確認すると、高城に通信を入れる。

「高城隊長。有希さんが出撃しました」

『了解。沙耶はそのまま有希の後に続いてくれ。気付かれないように頼むぞ』

「了解」

 沙耶は頷くと、地上へのエレベーターに乗り込んだ。




「簡単なことさ。唯には一度、失敗して貰う」

 ニヤリと笑みを浮かべながら鈴木が言った。その発言に、高城以外の皆が驚いていた。

 部屋の中にいるのは高城と鈴木、舞姫、沙耶の四人である。唯は出撃中で、クロエはそのサポートをしているためいない。

「失敗をして貰うとは、どういうことでしょうか?」

 鈴木の真意が分からないといった様子で沙耶が尋ねた。舞姫も同様の疑問を抱いているらしく、鈴木に訝しげな視線を送っていた。

 その疑問に答えたのは高城だった。

「舞姫。天川千佳を覚えているか?」

「天川千佳……ええ、覚えているわ。機装部隊ギアフォース初期の頃の部隊長でしょう?」

「ああ、そうだ。なら、あいつがどうやって死んだか覚えているか?」

「ええと……ごめんなさい、覚えてないわ」

 舞姫もそのころは一花を失って間もない頃である。特に荒れていた時期だったため、他の人物への関心はほとんどなかった。

「そうか、まあいい」

 高城は当時の舞姫を思いだして、それもそうかと思った。あのころの舞姫はそれほど酷い有り様だった。

「天川千佳は自分の部下の身代わりになってイーターに殺られたんだ。ミスを庇う形でね。とても、立派な最後だった」

「身を挺してあいつは部下を守った。それは立派なことだろう。あいつの皆を守りたいという思いは、誰よりも強かった……!」

 鈴木と高城は天川との交流も多かった。当時は今ほど体勢も整っていなかったため、情報伝達にもいちいち出向いていたということもあるが、天川はそれを除いても人とよく関わっていた。

 だからこそ、そんな天川を失ったことが堪えていた。

「……話を戻すぞ。あいつは立派な生き方をしていたが、一つだけミスがあった。あいつには、家族がいた」

「家族、ですか?」

「ああ。といっても血が繋がってるわけではないんだが。それが唯だ」

 高城は唯を助け出したときのことを二人に話した。瓦礫の下に埋もれていたところを救助したこと。唯を天川が引き取ったこと。唯が天川と暮らしている内に明るさを取り戻したこと。そして、天川を失ったときのこと。

「唯はその時に、一人で生きていけると言ったらしい。唯がああなってしまったのは、十中八九そのことが原因だろう」

 それ以来、唯は頑なに一人で生きていこうとしていた。誰にも頼らずに、たった一人で生きていこうとした。

「だが、俺はそれを許すことは出来ない。唯がどれだけのことを考えてそうしているかは理解しているつもりだ。その上で、唯には個の力の限界を知って貰う」

「それで、失敗して貰うということなんですね」

「ああ。だが、それには幾つか問題がある」

 高城は難しい表情で唸る。

「一つ目は舞姫、お前に頼みたい」

「唯が死なないように見守る、ということかしら?」

「ああ、そうだ。こんな強引な治療法だからな。安全はしっかり確保しておきたい」

「分かったわ。任せて」

 舞姫が頷く。

「そしてもう一つだが、こっちが重要だ。失敗する上に、もう一押ししたい」

「もう一押しですか?」

「ああ。有希に、唯を助け出して貰う」

 窮地に陥り、個の無力さを自覚した唯。そこに有希が颯爽と現れ、唯を助け出す。そこで有希が何か一押しをすることで、唯が考えを改める。

 これが高城の描いていたストーリーである。しかし、そこにはいくつか問題があった。

「だが、有希にはそんな演技は出来ないだろう。だから、唯が危ないということだけを伝えて出撃させる」

 有希では事情を知った上で演技するのは難しいだろう。とはいえ、演技が出来る人を送り込んだとして、関わりの薄い人に助けて貰ったとしても唯は考えを改めないだろうと高城は考えていた。

 高城は有希の純粋さに賭けていた。心構えのみで適応率を跳ね上げ、その上、舞姫まで助けている。唯との関わりも、有希がもっとも深かった。

 有希ならば、唯を解放できると確信していた。かつて一花に期待していたように、高城は有希に期待していた。

「とはいえ、ゲートはレベルフォーだ。あまり余裕はないだろう」

 下手をすれば、唯が死ぬ可能性だってあるのだ。この作戦は今後のことを考えると重要だが、相応の危険も伴っていた。

「最優先は唯の命だ。舞姫、少しでもマズいと思ったら、唯が考えを改める前でも助けに行ってくれ」

「分かったわ」

「それと、沙耶は有希の様子を監視してほしい。何かあったら、すぐに報告してくれ」

「了解」

「唯が考えを改めたら、二人も戦いに加わってくれ。任せたぞ」

「僕はどうします?」

「鈴木は……特にないな。待機しててくれ」

「そんなあ……」

 鈴木は残念そうに肩を落とした。戦う力のない彼には、ここから先の役割はなかった。

 有希と唯、クロエの知らないところで、高城たちも動き始めていた。

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