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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
五章 The girl who fights lonely

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78話 企図

 中央塔の司令室はクロエの仕事場である。クロエの仕事は様々なものがあるが、主となっているのは出撃した部隊の管理である。

 現在は莉乃の率いる第一部隊が出撃していた。クロエの指示の下、莉乃たちは的確にイーターを葬っていた。

 今回の出撃も問題ないだろう。クロエは戦況を見てそう判断した。イーターの数はもう残り僅かで、それも犬型や鳥型くらいである。

「残りのイーターは犬型二体と鳥型が二体だ」

『了解。残党は紬に任せて、私はゲートを破壊するわ』

「分かった。紬、聞こえるか?」

『うん、聞こえてる。大丈夫』

「ああ、残党を頼んだぞ」

『了解』

 クロエは第一部隊の副隊長である辻本紬つじもとつむぎに通信を入れると、後は司令室の中心にある大きなスクリーンでその経過を観察する。紬の指示の下に隊員たちが動き、イーターを取り囲んで倒した。

『全部、倒した。問題なし』

『ゲートも破壊したわ。これで片づいたみたいね』

「みたいだな。お疲れさま、そのまま帰還してくれ」

『了解』

 クロエは通信を切ると、ふうっと息を吐いた。時刻は午後五時。おそらく、今日はもう終わりだろう。

 クロエは体をぐっと伸ばすと、席を立とうとする。しかし、その前に司令室のドアが開いた。

「管理室より伝令! 新たにゲートが出現した模様。座標を表示します!」

 職員が端末を操作すると、スクリーンに位置情報が表示された。

「結構遠いみたいだな。勢力はどれくらいだ?」

「レベルスフォーと思われます!」

 ゲートの勢力は大まかに五段階に分かれている。レベルワンは犬型や鳥型が数体程度。レベルツーは数が数十程度。レベルスリーになるとそこに蜘蛛型や蟷螂型が加わってくる。

 レベルフォー以上のゲートとなるとなかなか現れない。それほどの勢力が相手になると数も多く強力なイーターばかりであるため、これまでは舞姫に頼らざるを得なかった。

 現在では、レベルフォーのゲートに対抗できるのは舞姫と唯くらいである。沙耶の率いる第二部隊や有希でも戦えなくはないが、まだ危険も多いためあまり推奨できなかった。

「昨日は有希と舞姫が出撃したからな。となると、唯か……」

 クロエとしては、あまり唯を出撃させたくなかった。唯の戦い方は攻撃的すぎる。自身の身を省みない戦い方は、クロエには唯が自暴自棄なっているように見えた。

 クロエは有希に一花について語って以降、機装少女たちの変化についていろいろと考えていた。

 有希の存在は大きい。それは、適応率テストの時に既に感じていたことだ。有希は己の心構えのみで適応率を引き上げて見せた。その在り方は一花のようで、皆に力を与えていた。

 予想外だったのは、有希が舞姫を解放したことだった。解放といっても、まだ一花を助けていないため、舞姫が戦いをやめるわけでもなければ、その怒りが静まったわけでもない。完全な解放に至るにはやはり、一花を助けるしか他にないだろう。

 しかし、有希と接することで舞姫の心に余裕が出来た。戦いの際も憎悪に身を委ねたりせず、冷静に戦うようになっていた。そのおかげか、頭痛の頻度もかなり減っている。

 有希との出会いによって、舞姫はより強くなったように思えた。

 しかし、唯はそうはいかなかった。まだ思い悩んでいた時期の有希は、唯の期待を裏切ってしまった。その結果、唯は以前の舞姫のような状態になってしまっている。

 誰に頼もうか。いろいろ考えつつ、クロエはとりあえず司令室を出ることにした。

 この時間帯は職員たちが慌ただしく働いている。彼らは自分の仕事で手一杯なのだが、クロエとすれ違うときにはしっかりと挨拶をしてくれた。

(そういえば、今日は会議があったか)

 クロエは会議のことを思い出す。定期会議ではないため、クロエは第一部隊のサポートに回っていた。会議室に行けば、舞姫もいることだろう。余裕があるようなら、唯が落ち着くまでは舞姫に頼もうとクロエは思っていた。

 会議室のドアを開けると、ちょうど会議の最中だった。

「おう、クロエ。サポートはどうした?」

「思ったより早く終わってな」

「そうか。問題がなくて何よりだ」

 高城は安堵の表情を浮かべた。ここ最近はイーターの動きに特に気を使っているため、高城の気苦労は相当のものだった。

「それがだな……」

「ん、何かあったのか?」

 クロエは高城を見て、申し訳なさそうに言う。

「ついさっき、新しくゲートが発生したんだ」

「同じ日に二回とは、珍しいな」

「とりあえず、スクリーンに情報を映し出すぞ」

 クロエは手元の端末から先ほど職員から受け取った情報を送信する。スクリーンに映し出された情報を見て、高城は驚く。

「かなり近いな。それにレベルフォー……あまり良い予感はしないな」

「ああ……どうする?」

 クロエの言うどうするとは、誰に行かせるかである。その決定権は高城にあった。

 高城は会議室内にいる人物を見回す。この場にいるならば説明も容易であるため、早いうちに出撃が可能だ。

 この場にいたのは舞姫と沙耶と唯の三人である。非戦闘要員も含むならば鈴木もいる。

 有希は舞姫と同じ部隊という扱いになっているため、代表として舞姫がいるので出席してはいなかった。遥も同様の理由である。

「あたしが行く。いいだろ?」

 挙手をしたのは唯だった。実力的にも相応だろうと思い高城は頷こうとするが、それを舞姫が止めた。

「私が行くわ。有希と二人なら、レベルフォーでも問題ないわ」

「しかし、二人は昨日出撃したばかりだろう?」

「問題ないわ。唯を一人で出撃させるよりは、よっぽど安全じゃないかしら?」

「ふざけんじゃねーよ! なんでお前に取られなくちゃいけねーんだよ」

 唯は舞姫に食ってかかる。レベルフォーのゲートは珍しく、なかなか発生するものではない。それだけの相手がいれば、ストレスを発散するには十分だと唯は考えていた。

 しかし、舞姫は譲らない。

「あなたは確かに強い。それは認めるわ。けれど、レベルフォーのゲートが相手だと、今のあなたじゃ万能機装クロウギアの負荷に耐えられないのよ」

「は? あたしはそんな弱くねーよ。お前と一緒にするなよ」

「いいえ、あなたは一人では無理よ。個の力なんて、所詮は個の力に過ぎないのだから」

 それは舞姫が痛感したことだった。一花と出会ったときも、有希と出会ったときもそうだった。今まで抱えていた辛さが吹き飛んだようで、一人で悩んでいたのが嘘だったかのように心が晴れた。

 個の力は所詮は個の力。しかし、人と関わることで力はどこまでも膨れ上がる。それが、舞姫の考えだった。

 しかし、その言葉は同時に唯の在り方の否定でもあった。己の在り方を否定されて、唯が黙っていられるわけがなかった。

「そりゃあそうだろうな。あれだけ悩んでいたのに簡単に靡くような奴には、そんな考え方しかできねーよ」

「そう。口で言っても分からないようね」

 激昂する唯に、舞姫は酷く冷たい視線をぶつける。その視線は以前の人との関わりを拒絶していた頃よりも鋭く、冷酷さを孕んでいた。

「二人とも、そこまでにしないかな?」

 間に割って入ったのは鈴木だった。二人から発せられる殺気は苛烈で、沙耶だけでなく高城やクロエも止めに入るのを躊躇するくらいだったが、鈴木は涼しげな表情でそれを流していた。

「まあ、昨日も舞姫は出撃してたみたいだし。今日は譲っても良いんじゃないかな?」

 鈴木の唯の肩を持つような発言に舞姫が不愉快そうに視線を向けるが、鈴木はそれにウインクで返した。鈴木は考えがあってやっているのだと伝えたかったのだが、舞姫は不快感を覚えただけだった。

 困った舞姫が高城に視線を向けると、高城は唯が気付かない程度に小さく頷いて見せた。それを見て、何か考えでもあるのだろうと思い、舞姫は引き下がることにした。鈴木だけ無駄に好感度が下がっていた。

「今回のゲートは唯に任せる。異論はないな?」

 全員の意見を確認した上で、唯に任せることにした。

「サポートはクロエに任せる。以上だ」

 高城がそう締めると、唯はすぐに会議室を出ていった。少しでも早くイーターと戦いたかった。サポートをするためにクロエも出ていった。

 部屋に残ったのは高城と鈴木、舞姫と沙耶の四人である。

「それで、どんな考えがあるのかしら?」

 舞姫は高城に尋ねる。唯の万能機装クロウギアは明らかに強化されすぎており、舞姫の殲滅機装バーストギアよりは負荷は軽いものの、扱いづらいものだった。

 舞姫は過剰な強化による危険性をよく理解している。十年もの間それと向き合い続けてきたのだから、唯がどの程度までの負荷に耐えられるかもおおよそ把握していた。

 しかし、高城はその舞姫の意見を受け入れなかった。舞姫の考えを理解した上で、それを断ったのだ。その理由が、舞姫には分からなかった。

「私も、あまり良い判断ではないかと……」

 沙耶も高城の判断に疑問を抱いていた。舞姫の考えは的確で、もし沙耶に決定権があったならば、確実に舞姫を出撃させていただろう。

 頭の良い沙耶でも、高城の意図することが分からなかった。

 そんな二人の様子を見て、高城はニヤリと笑みを浮かべた。

「お前たちは、唯の現状をどう思っている?」

「好ましくはないわね」

「あの戦い方は危険だと思います」

「そうだろう。それを改善する必要がある」

 そう言って、高城は鈴木に視線を向けた。

「これから始まるのは荒療治だよ」

 鈴木は眼鏡をカチャリと掛け直した。その言葉に、二人はまだその意図が分からない。そんな二人に、鈴木は分かりやすく説明をする。

「簡単なことさ。唯には一度、失敗して貰う」

 ニヤリと笑みを浮かべた鈴木は、台詞と容姿が相まって見事な悪役を演じていた。

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