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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
五章 The girl who fights lonely

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76話 好転

 戦闘訓練室には、二人の人物がいた。一人は、大きな槍を必死に振り回しながらイーターを薙ぎ払う少女――有希だ。有希は犬型や鳥型を相手に、戦う練習をしていた。

 神速機装アクセルギアの能力は今までよりも格段に引き出せていた。槍を大きく薙ぎ払えば大気が震え、周囲にいるイーターは跡形もなく消し飛ぶ。蜘蛛型を相手にしても、その硬さをものともせず貫くことが出来ていた。

 有希は戦うための理由が明確になったことで、イーターを倒すイメージが浮かびやすくなっていた。それが神速機装アクセルギアの能力を引き出し、今までよりも遥かに戦いやすくなっていた。

 今の有希は、速かった。かつて蜘蛛型と戦ったときの一花と同程度か、それ以上の速さだった。並のイーターを相手にするには十分な強さで、有希は唯に追いついてきていた。

 しかし、有希はまだ満足していない。これから先の戦いを考えると、もっと強くならなければならない。

 有希は神速機装アクセルギアの能力は引き出せていた。しかし、その能力を扱え切れていなかった。有希には戦いのセンスはなく、その動きはまだぎこちないものだった。

「後ろから来るわよ!」

「うん!」

 有希は声をかけられると、振り向きざまに槍を振るう。背後から迫っていた蟷螂型は、有希の槍の速さに反応できなかった。鎌を盾にするもそれごと頭部を切り落とされ、そのまま崩れ落ちた。

 有希は神速機装アクセルギアの能力を引き出せている。そこに戦闘技術を叩き込むのが舞姫の役割だ。長年の経験から的確なアドバイスを出し、有希に戦い方を教えていく。

 有希の能力を上げていく上で最初の目標としたのは、一花の戦い方を身につけることだった。一花の戦い方は神速機装アクセルギアを扱うのに最も適した戦い方である。どこで身に付けたのか、一つの槍術として完成されていた。

 それを身に付ければ、有希の戦闘能力は格段に上がることだろう。有希に足りないのは適応率でもなければ心構えでもない。戦闘技術である。戦うことに関しては平凡な有希だが、それでも致命的にセンスがないわけではない。ならば、自分で考えさせるよりも元から完成されている戦い方を身に付けた方が良いとの判断だった。

 それ故に、舞姫は一花ならこう戦うだろう、ということを有希に教えていた。有希が技術を身に付けていくにつれて、それに比例するように神速機装アクセルギアの能力も引き出せるようになってきていた。

 そして、その成果は確実に出ていた。

「はあああああッ!」

 有希の槍がイーターを捉える。相手のイーターはつい最近、その能力の解析が終わって訓練プログラムに追加された蜻蛉型である。その速さは舞姫を以てしても追い付けない相手だ。

 しかし、有希は舞姫との訓練のおかげで、その蜻蛉型を相手に速さで圧倒することが可能となっていた。まだ実力では舞姫に少し劣るものの、共に戦える程度には強くなっていた。

 舞姫は有希の手を取った日の翌日に高城の元を訪れた。そして、有希を自分と組ませてほしいと頼み込んだのだ。その方が、今のままよりも有希の実力を高められる。

 高城はそれを歓迎した。有希の実力に関して不安があったことと、舞姫が自ら有希と関わろうとしていること。この二点だけで、二人を組ませるには十分だった。

 だが、その代わりに唯は現在一人で戦っている。もともと一人で戦っているようなものだったため、問題ないだろうとの判断だ。唯もそれに了承している。

 有希はそれから舞姫と組んで行動をしていた。だが、唯と離れたわけではない。さすがに寮の部屋割りの変更まではないため、唯と顔を合わせることも少なくなかった。

 舞姫と組んで二ヶ月が経過していた。有希はその間毎日のように舞姫に訓練を見てもらい、結果はこの通り、しっかりと出ていた。

 そして、舞姫の方も変化が出ていた。有希と行動を共にし始めてから、頭痛に悩まされることが少なくなっていた。心に余裕が出来た為に、過剰な攻撃をすることもなくなっていた。

 有希が蜻蛉型を倒すと、舞姫が声をかける。

「今日はそろそろ終わりにするわよ」

「うん、わかったよ」

 有希は変身を解除すると、額の汗を拭った。

「はい、有希」

「ありがとう!」

 舞姫からよく冷えたスポーツドリンクを手渡され、有希はそれを一気に飲み干した。

 二人は戦闘訓練場を後にする。寮までの帰り道の間、二人は他愛もない話をして時間をつぶした。

 寮に入ると、ちょうど沙耶がエレベーターから降りてくるところだった。

「あ、沙耶ちゃん」

「有希さん、舞姫さん。訓練の後ですか?」

「ええ、そうよ」

 舞姫は沙耶に微笑んだ。

 以前の殺気立った舞姫はいつの間にか姿を消して、最近では他の機装部隊ギアフォースの隊員とも会話を交わすようになっていた。その橋渡しをしたのは有希である。

 舞姫はふと、何かに気がついたように沙耶の顔をまじまじと見つめる。沙耶は舞姫の顔が急に近づいてきたため、顔を赤くしながらあたふたとする。

「あ、あの。顔に何かついているんでしょうか?」

 そう尋ねるも、舞姫は沙耶の顔を見つめたままである。舞姫に見つめられ、沙耶はそのまま固まることしかできなかった。

 少しして、舞姫が口を開いた。

「……沙耶。適応率を計測してきなさい」

「適応率、ですか?」

「ええ。今のあなたなら、九十は超えてるんじゃないかしら?」

 そう言われて、沙耶は手首に付けた量産型機装イミテートを見つめる。言われてみれば、今日の戦闘訓練はいつもと感覚が違った気がした。

 ここ最近は戦うための明確な理由を見つけたため、沙耶の能力は飛躍的に伸びていた。そして今日は、いつもよりも感覚が鋭くなっていた気がしていた。

「分かりました。夕食の後に行ってきます」

 時刻は午後六時。寮の食事も美味しいが、久々に外食をしようと沙耶は思っていた。

 楽しそうな沙耶の表情を見て、舞姫が尋ねる。

「待ち合わせかしら?」

「はい。遥さんと食事に」

「そう。行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 沙耶はぺこりとお辞儀をすると、外へ出ていった。沙耶を見送ると、二人は自室へ帰っていった。

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