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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
五章 The girl who fights lonely

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74話 理由

「ん、一花についてか?」

 クロエは首を傾げた。有希が訪ねてきたかと思えば、急にそんなことを言い出したからだ。

「お願い、クロエ。私に一花ちゃんについて教えて」

 真剣な表情で頼み込む有希に、クロエは何かあるのだろうと思った。

 ここ最近、有希は考え事をしていることが多かった。戦いのとき以外はいつも何か考え事をしており、クロエはそれが悩み事であることも察していた。唯との関係や戦いに関してなど、有希の悩みは多い。

 だからこそ、一花について聞きたいというのは良い意味で想定外だった。有希はクロエが思っていたよりも、ずっと先の地点まで到達していた。

 電子音が鳴った。その音源はクロエの携帯端末である。クロエはそれを取り出すと、受信したメッセージを見た。

『有希に一花について尋ねられたら、時間を惜しまずに教えてやってほしい』

 メッセージは高城からだった。短いメッセージではあったが、クロエはこれだけで高城の意図を全て察する。

「分かった。俺の知ってることでよければ、力になるぞ」

「ありがとう!」

 クロエが頷くと、有希は嬉しそうに微笑んだ。

 高城はもう既に、有希に一花について教えたのだろう。メッセージの内容を見て、クロエはそう思った。

 高城が一花について語るならば、戦いに関してだろう。ならば、自分は何を話すべきか。有希に何を話すかは、かなり重要なことだろう。

 クロエは頭の中で一花の姿を思い浮かべる。蜘蛛型や蟷螂型の特異個体を圧倒するほどの存在。見た目は幼い少女であるが、そこに秘められた力はそこが見えない。

 一花はヒーローに憧れていた。その想いだけで、一花は神速機装アクセルギアを最大限に引き出してみせたのである。

 クロエは有希に問いかける。

「なあ、有希。お前はなんで一花に憧れているんだ?」

「格好いいから、かな」

 クロエの質問に、有希はそう答えた。幼い頃から一花について七海に色々と教えてもらい、その格好良さに憧れたのである。

「じゃあ、一花のどんなところが格好いいと思うんだ?」

「どんなところ? うーん」

 クロエの質問に、有希は腕を組んで唸る。一花という存在に憧れていたが、具体的にどんなところかと問われれば、漠然としたイメージしか浮かばなかった。

 うんうんと唸る有希を見て、クロエはやはりかと思った。有希がこの質問で答えに詰まってしまうだろうとクロエは予想していた。

 なぜ憧れているのか。それをしっかりと答えられるかどうか。その差が、有希と一花の差なのだろうとクロエは思った。

 一花はヒーローへの憧れを明確に語ることが出来ていた。ヒーローについて語る一花は、黒水晶のような瞳をきらきらと輝かせながら、よくクロエに熱弁していた。

 しかし有希には、なぜ一花に憧れているのか漠然としたイメージしか浮かばなかった。一花のように、なぜ憧れているかを明確にすることが出来ない。

 戦うための明確な理由。それは心構えとしてだけではなく、機装ギアを扱う上でも重要なことである。機装ギアを扱うにはイメージが必要であり、イメージの強さがそのまま戦闘力へと繋がる。

 その点において、一花は非常に優れていた。生まれながらの才能だけでなく、戦うための明確な理由も持ち合わせていた。戦闘力において、一花に比する者は誰一人として存在しないだろう。

 そんな一花の強さの根源であるヒーローへの憧れについて、クロエは以前に尋ねたことがあった。

「前に一花が言っていたんだ。ヒーローになんで憧れるかをな」

 クロエはその時のことを思い出す。何気なく聞いてみたクロエだったが、一花の返答を聞いたとき、その強さに納得したものだった。

「ヒーローは人々を守るために、絶対に挫けない。そんな姿が、格好いいってな」

 ヒーローはなぜ戦うのか。なぜ挫けないのか。一花はいつも疑問に思っていた。どれだけ怪人に追い詰められても、ヒーローは必ず立ち上がる。決して挫けなかった。

 人々を守りたい。そんな信念を持って戦い続けるヒーローの在り方に一花は憧れたのだ。人々を守るために、決して挫けない。そんな理想のヒーロー像を体現するべく、一花は戦い続けた。

「そんな姿が、格好いい……」

 有希はその言葉を反芻する。ならば、自分が一花に憧れるのも同じではないか。人々を守るために戦った一花の姿に憧れたのではないか。

 有希は神速機装アクセルギアを見つめる。これは、絶望に呑まれ屈してしまった一花から託された大切なものだった。

 初めて神速機装アクセルギアを手にしたとき、有希は一花に試された。これから先、辛い戦いを耐えられるかどうか。押し寄せる絶望を耐え凌いだ有希は、遂に一花の認められた。

 そして有希は、一花と対面した。僅かな時間ではあったが、有希はそこで一花と会話をした。

 一花は、有希なら大丈夫だと言った。有希ならば、自分のように挫けることはない。有希は一花からそんな想いを伝えれた。

 それを思い出して、有希ははっとなる。自分は神速機装アクセルギアを託されただけではない。一花の想いも託されたのだ。有希には、自分のように挫けることのない本物のヒーローになってほしいのだと。

 有希の戦うための理由は定まった。とても単純で、明解な理由。人々を守るために戦う。何があっても、絶対に挫けない。

 自分はヒーローになるのだと、有希は神速機装(一花)に強く誓った。

「ありがとう、クロエ。私、分かったよ」

 有希はクロエに感謝を伝えると、部屋を出ていく。その後ろ姿を見送る際に一花を幻視し、クロエははっとなった。

 有希は先ほどまでとは全く違う雰囲気を放っていた。覇気に満ちたその姿は、一花にとても似ていた。

 戦うための明確な理由を得た有希は、次の目的地へと向かう。それは、舞姫のところであった。

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