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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
五章 The girl who fights lonely

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73話 自己

 地下シェルターに帰還した有希は高城の元へ報告に向かう。唯は地下シェルターに戻るなりフィットネスルームへ行っているため、報告は有希一人だ。

 報告は有希と唯のどちらでも良いと言われているため、戦闘面であまり役に立てていない有希がその役を担っていた。

 中央塔の六十二階。最上階であるその場所には、高城の部屋があった。基本的にはここでほとんどの仕事をこなしているため、高城はここにいることが多かった。

 有希がドアをノックすると、ドアの奥から入って良いぞと声が聞こえた。

「失礼します」

 有希は室内に入ると、高城と遠藤が出迎えた。遠藤は高城の仕事をいつも手伝っているため、外出の用事がなければ大抵は高城の横にいる。

「今回はどうだった?」

 高城に尋ねられ、有希は早速報告をする。有希の報告内容は遠藤が資料にまとめる。

 報告を聞き終えると、高城は頷いた。

「よくやった。次の出撃は未定だから、ゆっくり体を休ませるといい」

「ねえ、高城隊長。このあと時間ある?」

「ん? 急がしいってほどではないが……どうした?」

 有希が報告を終えても帰らないので、高城は首を傾げる。仕事はまだかなりの量が残っているのだが、訓練をしてほしいなどといった頼みならば歓迎しようと思っていた。

 だが、有希の目を見て、高城は訓練に関してではないのだと察する。有希の目は、いつも以上に真剣なものだった。

「一花ちゃんについて、私に教えて」

「……一花について、か?」

「うん」

 その頼みは、高城も想定していなかった。訓練か、機装の強化か。そのあたりの相談だと思っていた高城は呆気にとられる。しかし、その表情を見る限りでは、有希が興味本位で一花のことを知りたいと言っているようには思えなかった。

 有希が一花に憧れているのは高城も知っていた。その憧れが有希の原点であることも知っていた。ならば、有希が一花について知りたがっているのは、今よりも上の領域へ到達したい、という感情なのだろう。

「いいだろう。俺が知る限りの一花を教えてやる」

 高城はニヤリと笑みを浮かべた。有希の心構えを気に入ったからだ。一花について知りたいと願う有希に、高城は時間を惜しまずに教えようと思った。

「遠藤」

「分かってる。剛毅は剛毅の仕事をしてね」

「すまないな」

「いいのよ」

 そんな高城の考えを遠藤は察していた。幼馴染みである二人は、互いの考えをよく理解していた。

 遠藤は机に散らばっていた資料を纏めると、それを持って退室した。

「有希、一花について何を聞きたいんだ? といっても、俺に話せるのは一花の戦い振りくらいか」

 高城は一花の姿を思い浮かべる。同じ神速機装アクセルギアの使い手である有希が一花について知りたがっているのだから、自分はそれに応えなければならない。

 高城は十年前を思い出しながら、懐かしそうに語り出した。

「一花と初めて出会ったのは、まだあいつが二回目の戦闘の時だったか。お前も知っている七海と二人で戦っていた頃だ」

 高城はその時のことを思い出す。ちょうど蜘蛛型と戦う前の、犬型や鳥型と戦っていたときだ。苦戦している七海を見つけて駆け寄り、戦い方を教えたことを覚えていた。

「あいつはほとんど戦いの経験がないだろうに、二回目の戦闘で既に神速機装アクセルギアを上手く扱えていたんだ」

 平均的な能力を持っていた七海は、二回目の戦いでもまだ破壊機装ブレイクギアの扱いに手こずっていた。対して一花は、その時には既に空中戦で鳥型を圧倒していたのだ。

「とにかくあいつは強かった。一目見て、あれが天涯だと思い知った。同じ装備を与えられても、俺はあいつに勝てる気がしない」

 それほどに、一花は常軌を逸した強さを誇っていた。高城は断言する。

「その後、俺たちは蜘蛛型と戦った。お前も戦っただろうが、特異個体の蜘蛛型だ」

 特異個体と聞いて、有希はあの日の戦いを思い出す。あれは、そう簡単に倒せるものではないと有希はその身をもって実感していた。

「特に、あの時の蜘蛛型は厄介だった。特異個体にも個体差はあるが、あいつはその中でも最上位だろう」

 もしかすれば獅子型に並ぶくらい厄介なのではないか。高城はその時の蜘蛛型をそう評価していた。犬型ほどのサイズの小さな蜘蛛型を何十匹と使役していたりと、あの場の状況はかなり危機的だった。

 そして、一花はそれを打ち倒して見せた。高城と七海が小蜘蛛型に手こずっている間に、一人で蜘蛛型の相手をしていたのだ。

「あいつは戦えば戦うほど強くなる。蜘蛛型にも最初はほとんどダメージを与えられていなかったが、最後には蜘蛛型の硬さをものともしなかった」

 そう聞いて一花が思い出したのは、唯の姿である。蜘蛛型を相手に力任せに叩きつけた一撃は、その硬さをものともしなかった。

 有希は手首に付けた神速機装アクセルギアを見つめる。唯と同じようなことが、自分でも出来るのだろうか。そんなイメージは全く浮かばなかった。

 一花はそれをやってのけたのに、自分には出来ないのだろうか。有希は難しい表情で神速機装アクセルギアを見つめる。

 高城はそんな有希を見て、高城は尋ねる。

「有希、お前は一花ほどの才能はないかもしれない。だが、お前とて、一花に負けないものを持っているだろう?」

「私が、一花ちゃんに負けないもの?」

「ああ。お前は、一花よりも強い精神を持っている」

 それが、有希の強さだ。高城は断言する。もう何十年と戦い続けている高城だからこそ、それを見出していた。

 精神も戦闘能力と等しく重要であると高城は考えていた。一花には片方しかなかったため、霧型に屈してしまったからだ。

 そもそも、一花は戦闘経験が少なすぎた。僅かな期間の間に何度も戦い、戦闘能力を飛躍的に高めることは出来た。しかし、それだけの期間では、十四歳の少女が精神を養うには少なすぎた。

 もし、あのとき一花が霧型に飲み込まれていなければ。十年という時が、一花に十分な精神を与えただろう。

 戦闘能力と精神。もし一花に両者が揃っていたら。高城はそこまで考えて、その考えを頭から追い出した。今は、一花はいない。

「そういうわけだ。お前は一花と自分を比べて悩んでいるみたいだが、少しは自分も見てやるといい」

「自分を見る……」

 有希は高城の言葉を反芻する。言われてみれば、確かに一花に憧れているばかりで自分のことを考えていなかった。空を眺めるだけでは、前へは進めない。

「とまあ、俺から言えることはこんなところだ。あまり一花について詳しく教えられなかったが、まあ、あいつの性格とかはクロエや七海にでも聞いてくれ」

「うん、ありがとう」

 有希は高城に感謝を告げた。一花について知るだけでなく、しっかりと自分に向き合うこと。これもまた、重要なことだった。

 自分の戦う理由について知りたい。ならば、一花についてよく知るだけでなく、そこから自分について改めて考えることも必要だろう。

 有希は高城に再度感謝を告げると、次はクロエのもとに向かった。

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