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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
五章 The girl who fights lonely

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71話 相談

 戦闘訓練を終えると、もう時刻は六時だった。有希は寮に戻ると、フィットネスルームに向かう。

 戦闘訓練では機装を扱うため、肉体的疲労よりは精神的疲労の方が大きい。そのため、有希は毎回、戦闘訓練の後にはフィットネスルームでランニングをしていた。

 最初は遅めのペースで始め、徐々に速度を上げていく。時速を十二キロまで上げたあたりで、有希は沙耶の言葉を頭に浮かべた。

『戦うための明確な理由を見つければ、きっと強くなれますよ』

 戦うための明確な理由。有希にはそれが分からなかった。

 一花のようになりたい。有希はその一心でこれまで戦い続けてきた。そのためにひたすら努力を重ね、訓練もしてきたつもりである。

 それでは足りないのだろうか。有希は悩む。この目標が有希にとっての強さの根源であり、これがあったからこそオリジナルの機装を扱えたのだと有希は考えている。

 しかし、現に沙耶はそれによって驚異的な成長を見せていた。

 有希は特異個体の蜘蛛型に負けて以来、ずっと訓練に励んでいた。今では蜘蛛型や蟷螂型のような相手が来ても、一体までなら確実に倒すことが出来るくらいだ。

 それに対して、沙耶はどうか。有希がやっと一体を倒せる蜘蛛型を、沙耶は何体現れようが難無く倒している。その実力は、オリジナルの機装を付けているはずの有希よりも上だった。

 銃剣機装マルチ・イミテートはあくまで量産型機装イミテートである。オリジナルの機装を能力を下げる代わりに扱いやすくした、数を重視したものだ。当然のことながら、両者にはかなりの差があるはずだった。

 その関係を覆すだけの力。それが、戦うための明確な理由だった。

 有希はランニングを終えると、休憩をすることにした。フィットネスルームの横にあるリラクゼーションルームは、運動後の休憩に丁度良い。

 リラクゼーションルームに入ると、マッサージチェアに見覚えのある人物が腰掛けていた。絹のようになめらかな長い髪に、女性的なプロポーション。

 機装少女の最年長である第一部隊の部隊長、篠山莉乃しのやまりのがいた。

 莉乃はマッサージチェアに腰掛けていたので、有希は歩み寄る。

「莉乃さん、こんばんわ」

「あら、有希じゃない。トレーニングの後?」

「そうだよ」

 莉乃はマッサージチェアから立ち上がった。二人は部屋の隅にあるソファーへと移動する。

「はい、これ。喉渇いてるでしょ?」

 莉乃は有希にジュースを渡す。

「ありがとう」

「といっても、そこのカウンターでならタダなんだけどね」

 おどけるような口調で、莉乃が言った。

 莉乃は機装少女の中でもずば抜けて高く、量産型機装イミテートを扱っているというのに、その実力は舞姫に次ぐ、地下シェルターで二番目に強い機装少女だった。能力面は唯と同等くらいだが、経験による差が出ている。

 ふと何かに気付いたのか、莉乃は有希の顔をのぞき込む。有希はきょとんとして莉乃を見つめ返した。

「何か悩みでもあるの?」

「えっ? なんでわかったの?」

「見たら分かるわ。有希、難しそうな顔をしているじゃない」

 莉乃はそう言ってから、優しく微笑む。

「お姉さんに相談してみない? 何かアドバイス出来るかもしれないしね」

 有希はこくりと頷いて、莉乃にこれまでのことを話す。

 一花に憧れて機装部隊ギアフォースに入隊したは良いものの、そこから先があまり上手くいっていないこと。

 初めての出撃の際に特異個体の蜘蛛型に負けてしまい、唯との仲が上手くいっていないこと。

 沙耶に言われた、戦うための明確な理由がよく分からないこと。

 沢山の悩みを背負って、有希はこれまで戦い続けてきた。失敗続きで思うようにいかない日々は、有希にとって思っていた以上の負担となっていたらしく、ついには涙があふれてしまった。

 無力な自分が悔しかった。この状況を解決出来ない自分が情けなかった。有希は莉乃に頭を撫でられながら、自分の悩みを語った。

 莉乃は有希の悩みを聞き終えると、難しい表情で考え込んだ。少しして、莉乃は口を開いた。

「有希は一花に憧れて機装部隊に入ったのよね?」

「うん」

「なら、先ずは一花について知っている人に、話を聞きに行ったらいいんじゃない?」

 莉乃の言う解決策はこうだった。有希は一花に憧れて機装部隊ギアフォースに入隊した。その際に適応率をオリジナルの機装が扱える段階まで引き上げることに成功した。

 それはもはや、奇跡と言っていいレベルのことである。そうそう出来ることではないだろうし、有希の思いは本物である。

 ならば、それを高めるために一花について調べてみてはどうだろうか。

 今の有希の戦う理由は一花のようになりたい、である。それを更に明確にするためには、一花についてもっと知るべきだ。これが、莉乃の考えであった。

「とはいっても、私が機装部隊ギアフォースに入隊したのは六年前なのよね。だから私は一花のことはあまり知らないのよ」

 莉乃はそう言って、腕を組む。

「うーん、それよりも前となると……高城隊長とか、クロエとかなら知ってるんじゃない? 舞姫とかも知ってるだろうけど、あれに聞くのはちょっと難しいかもね」

 莉乃は苦笑しながらそう言った。舞姫が地下シェルターが出来るよりも前から戦っているのは知っているが、今の舞姫を見ると、とても話を聞けるような様子ではなかった。

「まあ、今やるべきことはこんなところじゃない?」

「うん、莉乃さんありがとう」

 アドバイスを貰った有希は、明日にでも高城やクロエのもとを訪ねてみることに決めた。

 そして叶うならば、舞姫にも一花について聞いてみようと思った。

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