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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
五章 The girl who fights lonely

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70話 助言

 出撃から帰還すると、有希は疲労のあまり、部屋に戻るなりすぐにベッドに倒れ込んだ。ぽふりと顔を枕に押し付けて、有希はため息を吐いた。

 時刻は午後三時を過ぎたところである。軽く仮眠を取ってから、戦闘訓練をしようと有希は考えた。

 有希は最近悩んでいた。以前は、唯もなんだかんだで会話をしてくれていた。多少の距離感はあったものの、嫌われているわけではないというのは伝わってきていた。

 しかし、初陣の後からそれが変わってしまった。唯はまるで舞姫になってしまったかのように、周囲の人間と関わるのをやめてしまったのだ。

 もちろん、話しかければ返事をしてくれるのだが、それはあくまで出撃に関する内容のみである。雑談とかをしようとしても、唯は凍えるような視線で有希を見つめる、もとい睨んでくるだけだった。

 何がいけなかったのか。有希は考えずとも見当は付いていた。自分があの蜘蛛型に負けてしまったことが、何か唯に嫌われることに繋がってしまったのだろう。

 だが、その何かが有希には分からなかった。ただ弱いからという理由では、切り捨てられるとは思えなかった。有希が弱かったほかに、唯を刺激するような何かがあったはずだ。

 考えても、分からなかった。だから先ずは、既に分かっている要素を取り除く。戦闘訓練を重ねることで、少しでも強くなることだった。

 遠藤から貰った一花の動画は、同じ神速機装アクセルギアを扱う有希にとってこれ以上ないほどの教材だった。

 体の動かし方や立ち回り、息遣い。槍をどのように扱うか。一花の動きは全てが洗練された、もはや一つの武術体系になっていると言っても過言ではなかった。

 あらゆる動きに学ぶところがあり、有希はそれ全てを己のものにしようと動画を何度も見返した。その結果、体の動かし方は以前よりも格段に良くなっている。

 余談だが、舞姫も同じ動画を持っていたりする。模擬神速機装アクセルギアをやるために、舞姫は有希以上に一花の動画を見ていた。

 有希の動きは格段に良くなってはいるのだが、一つだけ問題があった。神速機装アクセルギアの扱いについてである。

 有希は適応率も高く、オリジナルの機装を扱うには何の問題もない。しかしなぜだか、舞姫や唯と比べるとその能力を上手く引き出せていなかった。そこには、二人と唯の心構えの差があった。

 舞姫は、一花を助けるという明確な信念があった。己のみを省みずに、殲滅機装バーストギアの能力を引き出している。

 唯は、自分が一人でも戦えるということを証明するために戦っていた。その強力な信念は、しっかりと結果の伴ったものである。

 対して、有希の場合は違った。憧れから適応率を引き上げたものの、神速機装アクセルギアを扱い切れていない。一花に憧れて神速機装アクセルギアを扱うまでは良い。その先、戦場において必要な信念が有希には欠けていた。

 有希は、そのことに気付かない。故に、能力を引き出しきれなかった。今の有希に出来ることは、ひたすら戦い続けることだけであった。

 仮眠を取った後、有希は戦闘訓練場へ向かった。

「あ、有希さん。こんにちは」

「やっほー有希っち!」

 そこには沙耶と遥がいた。二人はこれから戦闘訓練をするところだった。

「よろしければ、有希さんも一緒にどうですか?」

「いいの?」

「もちろんですよ」

「有希っちなら大歓迎だよ!」

「ありがとう」

 有希は二人と共に訓練をすることになった。自分と同様に、強さについて悩む二人と共に。

 戦闘訓練での沙耶は強かった。部隊長用に強化を施されているにしても、元々は量産型機装イミテートである。オリジナルの機装をもとにどうにか作り上げて量産したため、能力はオリジナルには及ばない。

 しかし、沙耶は量産型機装イミテートであろうと関係ない、と言わんばかりの戦い振りを見せた。沙耶は銃剣機装マルチ・イミテートを扱い、有希が苦戦する蜘蛛型を容易く葬っていく。

 沙耶は既に、自分の信念を見出していた。自分は役に立ちたい。強くなって、地下シェルターの皆を守りたい。単純ではあるが、だからこそ重要だった。明確な信念は、確実に力になる。

 そんな沙耶の変化を、常に隣にいる遥は気付いていた。最初は僅かな違和感程度だったものが、今ではこうして明確な差となっている。

 遥の機装は救護機装エイド・イミテートである。耐久力と速さを重視したもので、装備も銃型のため、援護に回ることが主だ。

 速さを主としているのに、遥よりも沙耶の方が早かった。蟷螂型の鎌を銃剣で受け止めるなど、防御も優れている。

 同じ量産型機装イミテートでも、大きな差が出ていた。もはや、沙耶の実力は量産型機装イミテートを越え、オリジナルの機装に近かった。

 訓練を終えると、三人は待合室で休憩する。

「ねえ、沙耶っち」

「なんですか?」

「最近沙耶っち変わったよね。なんか、堂々としてるというか、なんというか」

「分かりますか?」

「もちろん! 年中どこでも沙耶っちの隣にいる私は、沙耶っちの全てを把握しているのだ!」

「……はあ」

 沙耶がため息を吐いた。

「ちなみに有希っち」

「ん、なに?」

「去年の間に沙耶っちのバストは三センどふぁ!?」

「やめてください」

 沙耶が顔を赤くしながら遥の頭を叩いた。遥は大げさにリアクションを取った。

 しかし、遥はめげずに再度アタックを仕掛ける。

「だってほら、この手に伝わる感触は確実に大きくなってるよね? うん、柔らかどふぁ!?」

 沙耶が顔を真っ赤にしながら再び遥の頭を叩いた。遥は大げさにリアクションを取りつつも、沙耶の胸から手を離さないあたりはさすがである。

「話を戻すけどさ」

「話を戻す前に手を戻してください」

「ちぇー」

 唇を尖らせながら、遥は渋々といった様子で手を戻した。

「沙耶っち、最近強くなったよね。何かあったの?」

「そうですね……何かあったというよりは、心構えが変わったくらいですね」

「心構え?」

 遥と有希は顔を見合わせて首を傾げた。二人は戦闘訓練は行っているものの、心構えに関してはほとんど考えてこなかった。

 そんな二人に、沙耶は尋ねる。

「二人には、戦う理由はありますか?」

「戦う理由? うーん、なんだろう。分からないや」

 遥は考えるも、すぐには浮かばなかった。

「私は、なんで戦ってるんだろう……」

 有希もまた、答えが出てこなかった。

 あれこれと悩む二人に、沙耶は自分がクロエからアドバイスされたことを教える。

「戦うための明確な理由を見つければ、きっと強くなれますよ。とだけ、言っておきますね」

 沙耶はそう言って微笑んだ。

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