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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
四章 The girl has no talent of combat

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67話 治療

 ぱちり、と擬音が聞こえてきそうな様子で有希が目を覚ました。視界に映ったのは見慣れた、金属が剥き出しになった天井だった。それだけで、自分が地下シェルターに帰ってこられたことを察する。

 それを理解すると、今度は別の疑問が湧いた。なぜ、自分はこんなところで寝転がっているのだろうか。

「んぅ……ふぁ……」

 腕を上げて、ぐっと伸びをする。酷く眠かった。なぜだか体には疲労が溜まっており、起き上がるのは億劫だった。

 ふと、腕に違和感を感じた。伸びをしたときに、何かが腕に引っ付いているような気がしたのだ。視線を向けてみると、そこには電極が引っ付いていた。コードを視線で追うと、心電図に繋がっていた。

 両手首と、胸元に電極が付いていた。それを引っ剥がすとピーと電子音が鳴り響き、有希は顔をしかめる。その機械が何かまでは、有希は知らなかった。

 ここはどこだろうか。その疑問を解消するべく、有希は起き上がった。どうやら服を着ていないようで、起き上がると大きな白い布がするりとずり落ちた。

 体が鉛のように重く感じた。酷い倦怠感に苛まれつつ、有希は白い布を羽織る。

 そして辺りを見回してようやく、ここが医療施設なのだと有希は気づいた。続いて現れるのは、なぜ自分が医療施設にいるのかという疑問だった。

 自分が直前に何をしていたのかを思い出そうと、有希は寝起きの寝ぼけた頭で考える。初めての出撃、イーター、特異個体。

 そこまで思い出すと、有希は慌てて自分の足を確認した。有希の心配していたようなことにはならず、そこにはしっかりと自分の足があった。喰い千切られた後も残っておらず、本当に何もなかったかのようだった。

 あの戦いは夢だったのだろうか。そんな考えが浮かぶが、すぐに神速機装アクセルギアの治癒能力のことを思い出した。

「あぁ……うああ……」

 足が喰い千切られた光景を思い出して、有希は恐怖で身を震わせる。一歩間違えれば自分は死んでいただろう。死を間近に感じたことで、有希は改めて戦いの厳しさを思い知る。

 有希が震えていると、部屋のドアが勢い良く開かれた。慌ただしく部屋に入ってきたのは遠藤と、他に白衣を着た人間が五人ほどだった。

 遠藤は部屋に入ってくると有希の方を見て、ほっとため息を吐いた。

「無事みたいですので、皆さんはお戻り下さい。後は私が」

「分かりました。お願いします」

 白衣を着た人たちが退室していく。部屋に残った遠藤は有希のもとに歩み寄った。

「体はもう大丈夫?」

「うん。あ、なんかすごく疲れてるよ」

「ああ、それは機装ギアの治癒能力のせいね」

「治癒能力を使うと疲れちゃうの?」

「そうよ。あれは人間の自然治癒を限界以上に高めているらしいの。だから、相応の疲労があるってわけなのよ」

「そうなんだ」

 謎の倦怠感の正体を知り、有希は納得した。

 そこで、有希は違和感に気づく。

「あれ? 遠藤さん、なんかこの前会ったときと雰囲気ちがうよね?」

 有希は首を傾げた。有希が遠藤と会ったのは適応率テストの日である。東條の研究所へ向かう際に案内をしてもらったのだ。研究区域を歩いている最中に色々と教えてもらったのを有希は覚えていた。

 だが、記憶の中の遠藤と目の前の遠藤は少し雰囲気が違うような気がしたのだ。どちらかというと、以前よりも今の方が有希としては話しやすかった。

「ああ、これね。普段は敬語で喋ってるんだけど、今は二人だけだし、この方が良いかなって思ったの」

 遠藤はそう言って優しく微笑んだ。その砕けた口調と優しさに有希は安心感を抱く。

 遠藤は今回、有希のメンタルケアを任されていた。初めての出撃で酷い怪我を負ってしまったのだから、戦いに対して相当の恐怖を感じるようになってしまっているかもしれない。その恐怖を解したりすることも、遠藤の目的の一つだった。

 とはいえ、そんな事務的な目的がメインではない。どちらかというと、遠藤が個人的に有希と会話をしたかったという思いが強く、高城に有希のメンタルケアを買って出たのだ。

「私ね、蜘蛛型に負けちゃったんだ……」

 落ち込んだ様子で有希が呟いた。逆境に置かれてこそ一花のように強くなれると思ったが、そう上手くはいかなかった。その判断は端から見れば無謀としか言いようがないだろう。

 有希は恐怖を抱いているというよりは、落ち込んでいるだけだった。威勢良く蜘蛛型に向かっていったはいいものの、結果は惨敗である。有希は自分の結果に落ち込んでいた。

 そんな有希に、遠藤は質問を投げかける。

「有希は、なんで機装部隊ギアフォースに入りたいと思ったの?」

 遠藤はこれまで、多くの少女にこの質問を投げかけてきた。ある少女は皆の役に立ちたいと答え、ある少女はイーターを許せないからと答えた。様々な答えがあったが、それらには一貫して戦うことへの明確な目的が存在していた。

「私は、憧れかな」

「憧れ?」

「うん。一花ちゃんみたいな、かっこいい人になりたいんだ」

「一花への憧れ、ね……」

 しかし、有希だけは違った。一花への憧れから神速機装アクセルギアを手にした有希には、その時点である程度の目的を果たしてしまっている。一花のように変身して戦うことが出来るからだ。

 機装部隊ギアフォースに入隊した後も続くような目的が有希にはあまりなかった。

 遠藤は考える。確かに有希は神速機装アクセルギアを扱えるし、量産型機装イミテートを使う機装少女たちと比べれば能力は上である。

 とはいえ、部隊長クラスと比べてしまうと見劣りし、オリジナルの機装ギアを扱うにしては期待していたほどの実力ではなかった。

「ねえ、有希。良いものを見せて上げる」

 取り出したのは、タブレット端末である。近くで見せようとベッドに腰掛け、映像を映し出す。映し出されたのは十年前の、蜘蛛型と一花の戦いである。

 一花は非常に強かった。今の舞姫が全力を尽くして、ようやくまともな戦いになるだろう。神速機装アクセルギアの力を最大限に活かしたその動きは、戦いの経験がない十四歳の少女とは思えないほどに洗練されていた。

 しかも、戦いの中でその速さはどんどん増していくのだから驚きである。最終的に目で追える速度ではなくなってしまい、一花が凄まじい速度で駆け抜ける度に、蜘蛛型の足が吹き飛んでいた。攻撃力も動画の最初の方より遥に上がっているようだった。

「すごい。これが、一花ちゃんの戦い……」

 有希は一花に憧れているとはいえ、映像までは見たことがなかった。七海が授業で語った戦いは聞いたが、一花の戦いを実際に目にするのは初めてである。

 有希は動画を見終えると、ふうっと息を吐いた。

「ねえ、他にはないの?」

「あるわ。一花の戦いに関しては、本来はあまり外に出さないんだけれど……有希に全部見せて上げる」

「ほんと!?」

「もちろん。有希の端末に転送しておくから、後で見てね」

「うん、遠藤さんありがとう!」

「どういたしまして」

 遠藤は優しく微笑むと、立ち上がった。

「じゃあ、私はそろそろ帰るわ。今はゆっくり体を休めてね」

「うん、またね」

 遠藤は退室する。この分なら、有希は戦いに恐怖はあまり抱いていないだろう。戦いに復帰することも問題はなさそうだった。

 後は、有希が一花の動画を見てどう変われるかである。

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