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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
三章 The world where hope was lost

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46話 新手

 建物の中に入ると、そこは二つの部屋に分かれていた。一つ目が入ってすぐの待合室である。ソファーがいくつも置いてあり、戦闘訓練場を使うための順番待ちが出来る。

 部屋の端にはカウンターがあり、そこでスポーツドリンクを受け取ることも出来る。食事は持ち込み制のため、予め用意する必要がある。

 待合室にはちらほらと人がいたが、皆が帰る準備をしていた。

「沙耶ちゃん、あの人たちはもうやらないの?」

「そうですね。訓練場は一つしかないので、四つの部隊で時間毎に交代しているんですよ」

「沙耶ちゃんの部隊はいつやるの?」

「ちょうど今の時間帯ですね。今日は有希さんたちに案内するので、部隊の人たちは休憩ですね」

「なるほどね」

「ちなみに、今いるのは第三部隊ですね」

 有希と唯が沙耶の説明を受けていると、前から少女が近づいてきた。ゆっくりと歩み寄ってきたかと思うと、急に勢いを付けて飛びかかってきた。

「やっほー沙耶っち!」

「わわっ!?」

 少女は沙耶の後ろに素早く回り込むと、がしっと抱き締めた。すうっと大きく息を吸い込むと、うっとりと溜め息を漏らした。

「はあ、相変わらず沙耶っちは良い匂いじゃのう」

「どこの年寄りですか……」

 沙耶もその少女の行動に慣れているのか、ツッコミを入れつつ軽く流した。

「ここか? ここがええんやろ?」

「ひゃっ!?」

 急におっさん口調に変えた少女に胸を鷲掴みにされて、思わず沙耶が声を上げる。はっとなって顔を赤く染めるも、ずれた眼鏡をくいっと直してから少女の手を払う。

「冗談はやめてください、はるかさん」

「にひひ、ごめんごめん」

 少女――遥はニヤニヤしながら反省する素振りも見せず謝る。沙耶はその様子に呆れる。

「沙耶ちゃん。この人は?」

 有希が首を傾げたので、沙耶は自分に任された役割を全うすべく紹介する。

「この人は機装部隊ギアフォース第三部隊長、遠崎遥とおさきはるかさんです」

「にひひ、よろしくお二人さん!」

「よろしくね、遥ちゃん!」

「……ああ」

 元気に返事をする有希と違い、唯は少し距離を置いていた。有希と出会ったときと同じく、拒むわけでもないがある程度距離を置いているようだった。

 有希と唯が自己紹介をすると、遥が興味津々といった様子で二人に詰め寄ってきた。

「それでそれで、二人はどんな関係なの?」

「関係? 友達だよ!」

「友達になった覚えはねーっての」

「あれあれ? もしかしてツンデレなのかな? なのかな?」

「……こいつマジうざってー」

「遥さん。そうじゃないでしょう?」

「そうだ、質問を間違えてたよ!」

 にひひ、と悪びれずに言う遥だが、その笑顔にどこか憎めないものがあり、二人も嫌な気分にはならなかった。

「二人はどうしてここに来たの? もしかして新人さん?」

「そうです。有希さんは神速機装アクセルギアの、唯さんは万能機装クロウギアの適応者です」

「へーなるほどね。……ってオリジナルだよそれ!」

 遥がノリノリでツッコミを入れるが、三人は至って真面目な表情をしていたため、遥は首を傾げて一瞬思考停止する。

「あれれ? オリジナルの適応者って、ガチな話?」

「そうですよ。今朝適応率テストがあったのは遥さんもご存知でしょう?」

「そうだけど、そうなんだけどもね。結果に関する情報が私に届いてないんだよね。沙耶っちは届いてたの?」

「勿論ですよ」

「がーん!」

 遥はがっくりと肩を落として、大袈裟にうなだれる。

「うう、私はショックだよ。部隊長やってるのに信頼されてないなんて……」

 そして、目薬をさしてから有希の方を見る。女優に勝るとも劣らない泣きの演技で、有希の同情心を誘う。

「うわあん、有希っちー!」

 胸に飛び込んできた遥の頭を有希が優しく撫でる。

「大丈夫だよ。遥ちゃんは部隊長なんださら、信頼されてるよ」

「ありがと、有希っちは優しいね」

 遥がめぐすりを拭って笑顔を見せた。有希も嬉しくなって笑顔を返す。

「ごほん」

 沙耶の咳払いで二人が姿勢を正す。

「そろそろ、本題に入ります。あちらを見てください」

 沙耶の指さした方向を見ると、そこには大きな扉があった。

「あの奥の部屋で戦闘訓練を行うことが出来ます。東條さんが作った特殊な部屋で、イーターとの戦いを擬似的に再現します」

「イーターが出るの?」

「いえ、正確にはイーターに似た無害なデータを、あの部屋の中でだけ再現するんです」

「よくわからないんだけど、凄いんだね」

「ええ。こちらがイーターの攻撃を受けても、痛みは無いですからね。吹き飛ばされたりはしますけれど、命の危険はありません」

「なるほどね」

 有希が納得する。

「ちなみに、この訓練はエンドレス制と選択制の二つがあります。エンドレス制はリタイアするまでひたすら戦い続けることが出来ます。一人でも大勢でも参加出来るので、良い練習になりますよ」

「選択制は?」

「選択制は様々なタイプのイーターの中から選んで戦うことが出来ます。ただ、これまでに私たちが遭遇してきたイーターのデータしか再現していないので、それ以外のものは作れませんが」

 沙耶の説明を聞いて、二人は訓練場の内容を理解した。

「ちなみに、あちらにあるモニターで中の様子が分かります。先ずは私が手本を見せるので、見ていてください」

「うん、分かったよ!」

 有希が頷く。

「それじゃ、有希っちと唯っちと一緒に見ていようかな」

「遥さんは自分の部隊の陣形訓練がありますよ?」

「がーん! すっかり忘れていたよ!」

 にひひ、と笑いながら遥が言う。それを見て、唯は確かに適応率テストの結果が届かないわけだと納得した。部隊長としての強さや指揮能力はあるのかもしれないが、一人の人間と考えるとあまり頼りにならないように思えた。

「残念だけど、仕方ないよね。じゃあみんな、まったねー!」

「またねー!」

 遥にひらひらと手を振る有希を見て、あの二人は意外と相性が良いのかもしれないと唯は思った。

「それでは、行ってきます」

 沙耶は二人にぺこりと頭を下げると、奥の部屋に入っていった。

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