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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
三章 The world where hope was lost

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45話 上層

 東條の研究室を後にした有希たちは、鈴木に案内されて上層へ向かう。上層へのエレベーターは中層の北部にある。研究区域は中央にあり、凱旋道を通ることで一直線に向かうことが出来る。

 他愛のない雑談で暇を潰しながら、有希たちは歩いていく。

「おい、クロネコ」

「クロネコって呼ぶな! まったく、俺にはクロエってちゃんとした名前があるんだぞ」

 唯の言葉にクロエが反論する。

「はあ? めんどくせーな。クロネコだろうがクロエだろうが大して変わらねーだろ」

「いや、全然違うからな!?」

「ちっ」

「舌打ちすんな!」

「わかったわかった。クロエって呼べばいいんだろ?」

「はあ、やっと分かってくれたか……」

 クロエは肩を落として脱力する。ここ最近は落ち着いて過ごしていたのだが、適応者である有希と唯が現れてからはツッコミに復帰せざるを得なかった。

「……で、結局なんの用なんだ?」

「そこに串焼き屋があるだろ? 小腹が減ったし、ちょっと奢ってくれよ」

「あ、私も食べたいな!」

「じゃあ僕も頼むよ」

 唯の言葉に有希と鈴木が賛同した。クロエは鈴木にだけ嫌そうな視線を向ける。

「確かに、もう昼だしな。ついでに他にもなんか買ってくか」

「ありがとうクロエ!」

「便利なクロネコだな」

「便利って言うな! そんなこと言ってると奢らないぞ?」

「あー、悪かったよクロエ。ほら、これで良いだろ?」

「……はあ」

 クロエは大きく溜め息を吐いて出店の方へ向かう。だが、ネコであるクロエでは持ちきれないため、鈴木を連れて行く。

 クロエたちが離れたのを確認すると、唯は有希に視線を移す。

「なあ、お前さ」

「なに?」

 唯は真剣な表情で有希を見つめる。

「なんでお前は、機装部隊ギアフォースを目指したんだ?」

「うーん、カッコいいから?」

「なんで疑問形なんだよ……」

 有希の返答に唯はペースを乱されつつも話を続ける。

「さっきだって、ずっと動かなかった神速機装を起動させただろ? あんなこと、生半可な心構えじゃ出来ねーよ」

 唯は有希に詰め寄る。有希は唯の剣幕に後退する。

「ほ、本当にそれだけだよ? カッコいいなあって思って、私も機装を使って戦いたいなあって」

 有希が手を忙しく動かしながら唯に説明する。唯は有希が言っているのは本当のことなのだろうと感じ、追求は止めた。

 唯はふうっと息を吐き出す。

「お前は、単純でいいな」

 そう呟いた唯の表情の陰に有希は気付かなかった。

 二人の話が途切れた辺りで、クロエと鈴木が戻ってきた。鈴木の両手には大量の袋が握られている。中には串焼きや飴などいろいろな食べ物が入っていた。

「く、クロエ、これは重すぎるよ。か、買いすぎじゃないかい?」

「いや、お前が貧弱すぎるんだろ。高城を見習えって」

「高城さんは尊敬するけれど、僕のやるべきことは研究だからね。あんなに筋肉があっても意味がないのさ」

「そんな必死な顔で言われてもな……」

 ぷるぷると筋肉を震わせながら鈴木が強がるが、無理をしていることは一目瞭然だった。

「鈴木さん、私が一つ持つよ?」

「あ、ありがとう」

 鈴木は有希にお礼を言いながら袋を一つ手渡した。その様子をクロエと唯はジト目で見ていた。

「さあ、行こうか諸君!」

 袋を一つ有希に渡したことで余裕が出来た鈴木は意気揚々と先頭を進む。

 そして、エレベーター乗り場に到着した。エレベーターの数は二つしかないが、その分一つの規模が大きい。非常時では上層での戦闘を想定しているため、一度に大量の戦力を送り込めるようにするためである。

 三人とクロエはエレベーターに乗り込む。唯はエレベーターに乗るのは初めてなため、緊張していた。

「お、おい、クロネコ。この部屋が動くって本当か?」

「クロネコじゃなくてクロエ。部屋じゃなくてエレベーターな。もちろん動くぞ?」

「そ、そうか……」

 唯の緊張した様子を見て、クロエはニヤリと笑みを浮かべる。

「もしかして、怖いのか?」

「こ、怖くなんかねーよ! むしろ好きなくらいだっての!」

「そうかそうか。なら、そこにガラスの窓から景色を見たらもっと楽しいぞ?」

「うぐ……」

 唯はその言葉に怯むも、窓の方に向かう。

「ほ、ほら……これでいいか?」

「ああ、そろそろ動くからしっかり掴まってろよ」

 そう言われ、唯は近くにあった手すりを両手でぎゅっと掴んだ。よほど緊張しているようだった。

 少しして、ガクンと部屋が揺れる。そしてゆっくりと上がり始めた。

「うあっ!? な、なんなんだよこの部屋は!?」

 エレベーターで上がっていく感覚が始めてである唯は混乱していた。部屋が揺れたかと思うと体に重力がかかってきたからだ。

「おい、クロネコ! あたしを殺す気か!?」

「いや、死にもしないし俺はクロエだ」

「ふざけてる場合じゃねーって! なんか体が変なんだよ!」

「それは大変だな。外の景色を見るとよくなるぞ」

「そうなのか!」

 混乱していた唯はクロエが嘘を言っているとも分からずに窓の外を見る。すると、見る見る内にその顔が青ざめていった。

「な、なんなんだよ……なんで地面が離れていくんだよ……」

「そりゃあ、上層に行くんだから上がるしかないだろ」

「お、落ちないよな?」

「たまに落ちるらしいぞ?」

「ひっ!」

 そこで力尽きてしまい、唯は気絶してしまった。言葉遣いとは反対に中身は臆病なようだった。

 唯の横では有希が窓の外を楽しそうに眺めていた。

「そういや、有希は大丈夫なのか?」

「うん、慣れてるからね」

「ああ、そうだったな……」

 よく上層に忍び込んでいたという発言を思い出してクロエは苦笑いした。その時は冗談かと思って軽く流していたが、有希の様子を見るに事実らしかった。

 少しして、上層に到着する。それと同時に唯が目を覚ました。クロエはニヤニヤしながら唯に近付く。

「どうだ? 初めてのエレベーターは」

「わ、悪くねーな」

 強がりなのがバレバレだった。

「そうか、それはよかった。これからはほぼ毎日エレベーターを使うことになるからな」

「なっ!?」

 唯の絶望した表情をクロエはニヤニヤと笑みを浮かべながら見つめる。よほどクロネコと呼ばれたのが気にくわなかったのだろう。

 エレベーターから出ると、そこには広い空間があった。一面が金属で覆われた巨大な箱のような空間で、いくつか建物がある以外は何も無かった。

 その空間の中に、六十人の人間が集まっていた。銃剣機装マルチ・イミテートが四人、救護機装エイド・イミテートが四人、工作機装クラフト・イミテートが二人。そして、歩兵が五十人。この構成は地下シェルターにおける一つの部隊である。

 その内の一人が前に立つ。眼鏡を掛けた真面目そうな少女だ。その機装は銃剣機装だが、他と違い二つの銃剣を装備しており、装甲にも装飾が施されていた。部隊長格となる者には他の隊員よりも強力なものが与えられる。その分、高い適応率とそれを扱うだけの技量が求められるため、生半可な能力では部隊長に選ばれることはない。

 眼鏡を掛けた少女は先頭に立つと、隊員の方に向き直る。少女は号令を掛けて整列させると、様々な陣形を取らせていく。

 有希たちはその様子を離れた位置から眺めていた。

「いつ見てもカッコいいなあ……むぐむぐ」

 有希が串焼きを頬張りながら呟く。今までに何度も忍び込んでいた有希には特に新鮮なものはなかったが、それでも何度見ても格好良い思えた。特に陣形を次々に切り替えていく訓練は有希のお気に入りだった。

 同じ攻めの陣形においても、大きな壁を作るように横に広がりながら慎重に進んでいく攻め方もあれば、量産型機装イミテートを先頭に置いて槍のように一直線に突き進む攻め方もある。守りにおいても前方からの攻撃の備えて扇形に展開する守り方もあれば、円形に展開して四方からの攻撃に備える守り方もある。

 これらの陣形の選択は部隊長が担当する。その場その場で臨機応変に切り替えていく能力も部隊長には必要であった。部隊長の少女はあらゆる状況を想定しつつ陣形を素早く切り替えていく。日頃の訓練の成果か、一切の無駄も無くスムーズに陣形を切り替えていく様は圧巻だった。

 しばらくすると、部隊長の少女が小休止を入れた。離れた位置で見学をしていたクロエたちは、少女が機装を外すように指示を出したあたりでタイミングを見計らって部隊長に話しかける。

「お疲れさん。今日も頑張ってるな」

「はい。しっかりやらないと、いざというときに動けないですからね。……その方たちは?」

 少女は機装を外すと、有希と唯を見て首を傾げる。が、二人の手首に装着された機装を見て、即座に姿勢を正した。

「これは失礼しました。報告にあった適応者の方々ですね」

 少女はおさげを揺らしながらぺこりとお辞儀をする。

「私は機装部隊ギアフォース第二部隊長、柚木沙耶ゆずきさやです」

「沙耶ちゃんだね! 私は識世有希しるせゆきだよ!」

「あたしは陣内唯じんないゆいだ」

「有希さんと唯さんですね。よろしくお願いします」

 自己紹介が済むと、クロエが口を開く。

「沙耶。今日は有希と唯に訓練の様子を見せようと思ってるんだ。鈴木を付けるから、適当に案内してやってくれ」

「え、鈴木さんもですか……」

「露骨に嫌そうな顔をしないでくれるかな!?」

「あ、ごめんなさい。つい本音が出てしまいました」

「そろそろ心が折れそうだよ……」

 ぺこりと頭を下げる沙耶を見て、鈴木ががっくりとうなだれた。そんな二人のやりとりを見て苦笑いしつつ、クロエは沙耶に話しかける。

「それじゃあ、後は任せたぞ」

「クロエさんはどこへ行かれるんですか?」

「ちょっと野暮用がな」

「そうですか。分かりました」

 具体的なことを言わないクロエに沙耶は首を傾げるが、なにか事情でもあるのだろうと思い追求はしなかった。クロエはエレベーターの方に歩いていった。それを見送ってから、沙耶が有希と唯に向き直る。

「それでは、案内させていただきますね。といっても、陣形訓練が終わったので、後は戦闘訓練だけなんですけれどね」

「戦闘訓練!」

 有希が目を輝かせた。

「戦闘なんてどこでやるんだ? こんなところでやったら危ねーだろ?」

 唯が首を傾げる。辺りを見回してみるが、それらしきスペースは見あたらなかった。いくら一面が金属張りの上層とはいえ、機装を使って訓練するには頼りなく思えたのだ。

 しかし、沙耶が首を振る。

「安全に戦闘訓練が行える場所があるんですよ。ほら、あちらに見える建物がそうです」

 沙耶の視線の先には大きめの建物があった。といっても、外見は普通の建物で、中で戦闘訓練でもしようものならすぐに壊れてしまいそうだった。

「大丈夫ですよ。安全性に関しては東條さんが保証していますからね」

 そう言われて二人はさらに不安になる。先ほどの東條の様子を考えると、二人にその言葉を掛けるのはむしろ逆効果だった。

 不安を抱きつつも、有希たちは戦闘訓練場に向かう。

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