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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
二章 The girl who denies fate

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33/99

33話 現実

 薄暗い部屋の中。白いベッドの上で少女が眠っていた。服は何も着ておらず、白い布が少女の体を隠すようにかけられている。

 鉄の天井、鉄の壁、鉄の床。どこか冷たさを感じさせる造りであった。パイプや配線が剥き出しで配置されており、実用性のみを求めたような部屋だった。

 部屋の中で眠る少女が目を覚ます。

「んぅ……?」

 少女――七海が目を覚ますと、そこには見慣れない天井があった。不思議に思って右に顔を向けてみるが、やはり記憶になかった。

 ここはどこだろう。そう思い体を起こそうとすると――。

「いぎッ……うァあアああッ!」

 急に体に激痛が走った。何がどう痛いのか分からないほどに様々な痛みが入り交じっていた。骨が折れているのか、肉が裂けているのか、内臓が潰れているのか。その全てかもしれない。

 痛みに体を反射的に動かすと、次の痛みに繋がっていく。

「うぁッ……ぐ……」

 想像を絶する痛みにのたうちまわる。そのせいで白い布が床に落ちてしまうが、七海はそれに気付かない。

 じんわりと汗が滲んできた。涙も溢れてきた。なぜこんな痛みがあるのか、七海は考えようとするが、痛みでそれもままならなかった。

 七海は体が動いてしまうのを無理矢理に抑えると、痛みが引くのを待った。ゆっくりとだが確実に痛みが引いていくのが分かり、七海は安堵する。

「ッ……はあ……はあ」

 少しして痛みが引いた。涙で顔がグシャグシャになってしまっていたが、七海はそれを気にせずに波のことを思い出す。

(確か、私は一花を霧型から守って……)

 痛みの原因を思い出すと、七海は少し嬉しくなった。自分が一花を助けたのだ、この怪我はその証拠なのだと。しかし、七海の記憶はそこで途絶えており、その後はどうなったのか思い出せなかった。

(まあ、一花のことだからどうにかしてくれたよね)

 七海は楽観的にそう結論付けた。体がこんな状況では、悲観的なことは考えたくなかったのかもしれない。意識せずとも、思考は楽観的な方向へ向かう。

(なら、ここはどこだろう)

 再び、思考は冒頭に戻る。どこか冷たさを感じさせるこの部屋は、一人でいるには心細い。そんな中、入り口がノックされた。

「入るわよ」

 そう言って入ってきたのは舞姫だった。舞姫は部屋に入ると、七海を見て少し驚く。

「目を覚ましたのね」

 七海は返事をしようとするが、舞姫がそれを止める。

「まだ喋らない方が良いわ。貴女はまだ治ってないんだから」

 そう言いながら舞姫は白い布を拾うと七海にかけた。

 七海は舞姫に聞きたいことがたくさんあったが、喋ろうとすると腹部に酷い痛みが走るために諦めた。舞姫はその様子を見て、少し迷う。

「今から話すことはあまり良い話じゃないのだけれど……それでも聞くの?」

 七海は痛みを堪えながら首を小さく縦に振った。舞姫はそれを見て頷く。

「私たちは負けたわ」

 急な宣告だった。勝ったと思いこんでいた七海にとって、それは想定外のことだった。どういうことなのか聞きたそうにしている七海を見て、舞姫は話を続ける。

「貴女が気を失った後、貴女と一花の友達が霧型に取り込まれた」

 それを聞いて七海が目を見開く。真剣な表情でその時の状況を語る舞姫を見ても、千尋が霧型に取り込まれてしまったという話を信じられなかった。信じたくなかった。

「それと、巨大な霧型がいたでしょう? あれに一花が取り込まれたわ」

「い、一花が……うぁッ!?」

 舞姫の言葉に思わず体が動いてしまい、体に激痛が走る。歯を食いしばって痛みを耐える。

 痛みが引くと、涙が溢れていることに気が付いた。これは痛みのせいなのか、一花を失ったせいなのか。溢れ出る涙の量は、先ほどよりも多かった。

 信じられなかった。何故、一花が霧型に取り込まれてしまったのか。あれだけ強かった一花が負ける姿など思い浮かばない。

「目の前で友達が取り込まれていくところを見ちゃったのよ。それで、一花の心が折れた」

 千尋が泣き叫びながら助けを乞う光景が脳裏に浮かぶ。助けてと何度も声を上げ、必死の形相で手を伸ばしてくる。ゆっくりと、だが確実に体が蝕まれていく。自分という存在が失われていく。

 そんな光景を一花は目の前で見せられたのだ。それが見知らぬ人ならば耐えられたかもしれない。しかし相手は千尋である。七海も自分が一花の立場だったら耐えられないだろうと思った。

 戦闘において圧倒的なセンスを誇る一花。しかし、年齢相応かそれ以下の精神を持つ一花にとって、その光景は心を折るには十分すぎた。

 そして、もう戦えないと思った一花は、最後にアクセルギアを舞姫に投げ渡して取り込まれた。その時の一花の心は一切の不純物も無い、純粋な絶望に満たされていたことだろう。

 急な話で七海は錯乱していた。しばらくはまともに話すことは難しそうで、呼びかけても「うぁ……」と呻くような声しか返ってこなかった。

 七海は絶望に囚われてしまっている。そして、それを救えるのは自分しかいない。だが、今は無理だろうと判断し、舞姫は部屋を出た。

(正気に戻ったときに、七海は現実に耐えられない。私が、それを……)

 七海の怪我が治ったらまた見舞いに行こうと舞姫は決心した。


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